狂信者+ダンジョン=農家栽培   作:ストマフィリア

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ここからオリ展開が増えていく


36話 サンドバッグは君に決めた

「え、なんですか、コレ」

 

 早朝、とある廃教会の中。

 突然すまないといった感じで訪れた推定ベル・クラネル宅で、あなたはその宿主にどっさりと箱いっぱいに詰まった植物の数々を手渡した。

 

 早朝という事でベルの神であるヘスティアも居るのかと思っていたが、どうやら仕事の都合によって入れ違いになってしまったらしい。オラリオを出る前に挨拶をと思っていたが、少し足が遅かったようだ。

 

「……え、なんですかコレ」 

 

 なぜか同じ質問を繰り返すベル。

 

 先程と違うのはムーンゲートも真っ青な顔色をしている事だろう。いやな予感がする、と箱の中身が一体何かを既に察しているらしい。

 察しが良いというのも考えものだ。かくいうあなたもこんなものが届けられた時は思わず発狂しかねない。

 

「オラリオを不在にしている間の『ハーブ1ヶ月分』らしいぞ」

「や、やっぱりぃ!?」

 

 あなたの代わりに質問に答えたラーニェ。

 

 存じていると思うが、ハーブは対象の潜在能力を上昇させる食べ物だ。

 あなたがオラリオを離れることは日頃の鍛錬の合間にベルには既に伝えており、不在間の鍛錬の代わりとしてこのハーブ各種をたんまりと用意した訳である。

 

 あなたの手によって戦闘の経験を積ませることはできないが、まあベルも冒険者の端くれだ。ダンジョンに潜ったりして勝手に実戦経験を重ねてきてくれるだろう。

 

 慟哭が響く泣き目のベルに心底同情するあなたではあるが、それとこれは別。師であるあなたは不在の間でもベルの強化のためにハーブを食わせるつもりだ。

 

 ちなみに種類としてモージア、スペンスウィード、ストマフィリアの三種を選別している。

 左から非常に不味い、非常に不味い、マジ無理吐くゲロまずおろrrr、の順だ。

 もっと詳しく言うと前者2つはちゃんと不味いだけだが、ストマフィリアは本当にこの世の不純物を一種に詰めたかのようにゲロクッソ不味いし腹持ちが無駄に良い。ので、ベルにはここ1ヶ月の食生活で地獄を見る羽目になる事だろう。

 

 死にたくなるかもしれないが、まあ死ぬ気で耐えて貰うとして。

 

「そのなんだ、頑張れ、ベル。私も少し食べてみたから分かるが、うん。がんばれ」

「ら、ラーニェさぁん……」

 

 助けを求めるようにラーニェに声をかけるもそれは届かない。何故ならあなたが帰った時にハーブが余りでもしていたら、全て倍にした上に無理やり食わせると明言しているためだ。

 

 なお、ラーニェも試しに食べてみたことがあるのだが、その時は吐きかけた上に結膜が異端児(ゼノス)特有の黒色にまで変色していた。

 世界が違えど、ハーブは気の持ち様的に戦闘態勢でないと食せないと証明された瞬間である。

 

「うぅ……分かりました。とりあえず1日に3種類ですよね?」

 

 覚悟を決めたベルがあなたに確認を取り、あなたはそれで問題ないと頷きを返す。

 ハーブは形状でしか種別を判断できないが、ベルはすでに判別できるくらいにはハーブの常食者となってしまっている。

 あなたが予め教えなくても種類を分けて食べられるだろう。

 

「あまりに不名誉すぎる……あんな食い物の常食者になんて誰だってなりたくないだろうに」

「あ、あはは……しょうがないですよ、強くなるためですし。まあ辛いのはどうしようもないんですけど……なんだったらいつもの鍛錬よりも別の方面でキツイですし……うぅ」

「おい、今更だが本当にベルの安全は保障出来てるんだろうな? 今にも気絶しそうだぞ!?」

 

 本当に今更である。

 肉体的な部分は大丈夫だが精神的な面についてはどうしようもない。あなたも通った道だ、これも精神修行だと思って励んでほしい。

 

 

 


 

 

 

 荷造りが終わり、多方面への挨拶が終わればとうとう飛び出すだけだ。

 

 およそ3か月ぶりに通るオラリオの外壁に空いた正門はいつもと変わらず堂々と開いており、外から来た者や内側から外へ厄介になる者によって、早朝にもかかわらず少しの人だかりを見せていた。

 

 少し並んで前に進めば、門番であろう妙齢の男性が大型の木製荷車を引くあなたと隣を歩くラーニェを引き留める。

 

「生産ファミリアの行商ね。はいはい、許可証も確認しますよっと」

 

 用件を告げ、七めんどくさい書類を通して得た許可証を見せれば正門前で拘束される時間も少ないものだ。

 ラーニェが地団駄を踏む前にはすぐに終わりそうである。

 そんな冗談をつぶやいた途端、げしげしと彼女の肘打ちがあなたの脇腹を襲う。

 

「そんなせっかちじゃないっての」

「ははは、お連れさんも一緒ね。ハイ確認したんで通ってどうぞー。最近は物騒だから気をつけてな」

 

 冗談だというのに。反射的に軽い暴力が出てしまうあたり彼女の性格が垣間見える。

 雑談めいた会話をしながら通行の許可と共に荷車を引いてあなたとラーニェはオラリオを出た。

 

 

 

 ちゅん、ちゅんと。

 

 小さな鳥が上空を舞うその真下、多少の舗装が施された地道をあなたとラーニェは歩いている。

 柔らかな晴天の日差しと吹き抜ける涼やかな風がとても心地よい。

 

 こうも静かだと思わず終末を起こしたくなってしまうのはノースティリス民の性だろうか、今にも★《終末の剣(ラグナロク)》を引き抜きたくなる衝動をあなたは舌を噛み切って抑えている。

 思えばもう1年以上、核も終末もジェノサイドパーティーもしていない。

 いい加減、いつ末期症状が起こってもおかしくないなとあなたは自嘲気味に吐き捨てながら荷車の取っ手を引いていた。

 

 驚くほど何も存在しない、地道が地続きに浮いている一本道。

 オラリオの喧騒とは遠く離れた静寂の空間で、隣歩くラーニェが突然ぼそりと呟いた。

 

「平和だなぁ……」

 

 実に能天気質な台詞である。

 

 呟きに反応して横目で眺めれば、麦わら帽子を押さえつつぼんやりと上空を眺めるラーニェの横顔がよく見えた。

 晴天の中で不意に空を見上げる彼女は、思わず絵にしたくなるような儚さと美しさが重なりまるで芸術のようである。☆《自称病弱系色白美女》という概念はこのような状況によく似合うものだな、とあなたは軽くからかった。

 

「勝手に新しい属性をつけないでよ。それに自称もしてないし……ほら、オラリオの街中って朝でもそれなりに人声で活発だろ? だからつい」

 

 むっと頬を少し膨らまらせるラーニェに対し、そういえば周囲が静かな状況など家にいる夜中の時間しかなかった気がするとあなたは思い返した。

 あなたの仕事柄、朝には住宅街や商業地区へ早々に出向くため、人の会話等が常に耳に入ってくる。

 

 それに、日頃をダンジョンという危険地帯で過ごしてきた彼女には少々この静けさは違和感を感じざるを得ないか。

 

「こうも無警戒でただ歩くってなると、平和だーなんて呟きたくもなるでしょ?」

 

 鼻で息を抜いて、ラーニェはこの環境を浸透させるように大きく伸びをした。

 ふむ、この平和が続けばいいのだが。

 

 

 

 


 

 

 

 

「オラぁ!! 金目のモン全部寄越すんだなぁ!!」

「ふへへ、女もいるぜ。それもめっぽう美人じゃねぇか!」

「五体満足でいたいんなら……分かってるよなぁ……げへへ」

 

「…………」 

 

 正面に明らか外道真っ盛りな盗賊の姿を見据えながら、どんどん濁っていくラーニェの瞳。

 

 オラリオを出発し1時間と少しと経ち、地平線の向こうにどっしりと構えていた『ベオル山脈』なる地に入ったあなた。

 平らな平原と地平線で広がっていた景色は、いつの間にか露出した土壁と岩の数々でおおわれていた。ダンジョンほどではないが、モンスターもそれなりに出没しているという情報も聞いたため道中で遭遇すると思っていたのだが……まさか最初に遭遇するのが盗賊とは、運の悪い事である。

 

 とりあえずあなたが笑って*フラグ回収乙*と彼女に伝えると、睨みながらあなたの脛をつま先で蹴った。言葉の意味はまるで分かってないだろうが、なんとなく不愉快な言葉の羅列だと察したのかもしれない。

 ちなみに、今はあなたが荷車を持っているので蹴りの加減はしてくれている。

 

 まあ、旅に異常事態はつきものだ。

 

「……こういう事、よくあるのか?」

 

 盗賊との遭遇についてだろうか? それはあるとも。

 行商も楽ではない、商品の仕入れや販売はもちろんの事、目的地への道中で商品に目を眩ませた盗賊などに襲われるリスクも存在する。

 

「それ、普通は対策に護衛とか……ああいらないなお前の場合」

 

 対策についてを述べようと思ったのだが、先にラーニェに言われてしまった。

 まあ撃退できるほどの実力を持っている人物ならば当然いらない。あなたくらいのレベルであるなら尚更だ。

 

 しかし冒険者初心者となればそうはいかない。

 護衛(パーティ)もそう簡単に頼めないし、撃退に見合うほどの強さも無い。そして死亡というのが一連の流れである。

 

 ノースティリスで冒険者になりたてな新人が死亡するランキング堂々の6位に位置する行為、それが行商であった。試しに買った品物が行商用アイテムのせいで襲われた冒険者が後を絶たないのだ。

 余談ではあるが3位が街を徘徊中のエイリアンによる攻撃、2位が突然の終末、1位が廃人が置いた核による爆死である。

 

「おいおい2人して内緒話とはつれねぇなぁ?」

「俺達も混ぜてくれよ、身ぐるみ全部はぎ取ったあとでな」

「色白美女ちゃ~ん、全身の隅々まで見せてもらうぜぇ~?」

 

「うわぁ、うっっわぁ……」

 

 荷車を中心に囲む盗賊共がナイフ片手に喋る度、どんどん濁りを増していくラーニェの瞳。

 周囲の下卑た視線もそうだろうが、まさにテンプレ染みた盗賊の集まりに呆れているに違いない。彼女の生まれであるダンジョンの中ですらこんなバカ共と出会ったことはないだろう。

 

 体の動きからどー見てもオラリオの冒険者には及ばない身体能力、あなた達を囲ってチームワークなるものを見せつけているつもりだろうが、あまりにも甘すぎる。少しつつけば彼らの連携など崩れ去るに違いない。

 

 いや、本当に運がないものである。

 遭遇してしまうあなたも、あなたをカモにしようとしているこの盗賊も。

 

「お、おい。待て、アイツって……」

 

 突然、あのハイテンションからやけに落ち着いた盗賊の一人があなたの顔を見て動揺を見せる。

 

「……おいまさか」

「いやまさか」

「……まてまて、まさかアイツ」

 

 一人の動揺が皮切りに、何やらどんどんあなたの事を知っているらしい人物に伝染していく。

 およそ全体の3割くらいが盛大に青ざめ始めたのを見てあなたはようやく思い出した。

 

「あ、頭のおかしい盗賊狩りだぁぁぅぐべぇ!?!?」

「アイボォォ!?!?」

 

 頭がおかしいは余計だ。食らえ石つぶて投擲。

 あなたは足元に落ちていた石ころを発言者の顔面に蹴り飛ばす。

 当たりが悪かったらしく汚い悲鳴を上げて吹き飛ぶ瞬間、前歯らしきものが飛び散った。

 

 何故かラーニェがうわあ、と呟いた。

 

「だ、大丈夫かおい!?」

「…………」

「……ダメだ、失神してやがる」

 

 ざわざわと広がる困惑と同様、盗賊の半数以上が状況の理解が追い付いていないのかその場で立ち止まっていた。

 彼らも思い出したのか、あなたの顔に見覚えがある者は全員表情を青ざめている。

 

「……お前、何かしただろ」

 

 そんな最中、訝し気に横顔を覗き込むラーニェにあなたは苦笑しながら頷いた。

 

 以前にもあったのだ。このように盗賊連中に襲われたことが。

 ラーニェと会う前くらい前の話だが、その時に襲ってきた人物が数名今回にも混じっていることが散見できた。

 

「ああなるほど……で、何かしたんだな?」

 

 まあ仕置きのようなことを少(・)々(・)だ。

 別に過度なことはしていない。命を脅かす行為など全く。神に誓って言えよう。

 現に地面に倒れてピクピク痙攣しているが、あなたが撃退した敵は今も元気に生きているだろう。

 

 肩を竦めてそんなことを主張すれば、やけに青ざめて震えだした盗賊がいきなり叫びだした。

 

「はぁ!? はあああぁぁ!? 何言ってんだテメェ!? おま、お前が俺たちにした仕打ち忘れたことねぇんだよ!! ていうか忘れられねぇんだよ!!」

「コレのどこが元気に見えんだ!! 鬼!悪魔!!人でなし!!!」

「神もドン引くわボケ!!」

「バーカ! バーカ!!」

 

 はて、そこまでの事はしていないだろうとあなたは頭をひねった。

 前は荷台の荷物に手をつけようとしてきた不届き者を《サンドバック》に吊るしてから、そこら辺に落ちてた棒きれ(50.0s)で一人ずつ2,30回程度顔面フルスイングをかましただけだというのに。

 たったそれだけの諸行で鬼畜や悪魔などと罵られるいわれはない。そもそも盗みを働いたくせして後にのびのびと生きているだけ温情がある。

 なんなら耐久を上げてあげたのだからむしろ感謝してもらいたいものだ。

 

「本気で言ってんのかテメェ!? こちとらあの後トラウマになって1ヶ月以上寝込むやつが多発してんだぞ!?」

「満面の笑み浮かべながらする所業じゃねぇんだよ!」

「ああ古傷がッ、古傷がぁぁぁ!?!?」

 

 荒れ狂う暴言と悲鳴の数々。思わず耳を塞いでしまったあなたとラーニェである。

 この程度、悪だくみを働いた者へのちょっとした仕置きである。嘘は言っていない。

 

「……まあ聞いてる限りはコイツ等の自業自得だし? 私は何も言わないでやる。うん」

 

 盛大なトラウマを発症している盗賊たちを眺めるラーニェは何とも言えない表情のまま、そんなことを呟いていた。

 

「は、はは……けどな。今回はそうはいかねぇぞ。テメェ女連れてんだからなぁ!!」

「そうだ! ソイツを人質に取りゃぁ流石に手出しできやしねぇだろうよ!!」

「盗賊の意地舐めんなよボケナスがぁ! あんときの痛み倍にして返してやらぁ!!」

 

 焦燥に満ちていたはずの盗賊だったが、なんか急にモチベーションが上がっている。目に光も戻ってきた。

 あなたにボコられたことがトラウマになっているだろうに、それでもやり返そうとしてくる辺り彼らなりのプライドを昂らせているのか。どちらにせよあなた達を襲う気はあるのだろう。

 

 それはそうと、いきなり人質役として指名されたラーニェについては、えっ私? みたいな反応で困った声を出していた。

 

「おらおらそこの美人ちゃんよぉ! この得物は偽物じゃねぇぜぇ? 痛い目にあいたくなきゃ大人しくこっちに歩いてくるんだなぁ!」

「えー……」

 

 ペチペチと手のひらでナイフを叩いた周囲の盗賊のリーダーらしき人物を見て、再び反応に困るラーニェである。

 

 どうしよう、とあなたに視線を送る彼女であったが、あなたとしてはどう動いてくれたっていい。撃退するも殺すも拷問して遊ぶも好きにしてくれというのが本音だ。

 今のあなたは木製荷車の取っ手を掴んでいるので、あまり派手に動きたくはないのだ。だって中には商品やら荷物やらが詰まっているし。

 

 それに、この程度の相手に手間取るような彼女でもあるまい。

 

「はぁ……信頼されてるんだかどうなんだか……」

 

 もちろん信頼している。

 彼女はあなたの友人だ。それ以外に信頼に足る理由もない。

 

 荷車からあなたの手元へ、そしてラーニェの瞳へと視線を返せば彼女はその意図を察してくれたのか、とぼとぼと嘆息を吐きつつ盗賊の元へ歩いて行った。

 

 やけに不機嫌そうだったが、何か思う所があるのだろうか。

 

「おーうおう、聞き分けが良いな嬢ちゃん。ぐへへ、んじゃ早速身ぐるみ全んぐ――!?」

「…………いい加減、う・る・さ・い!!!」

 

 真正面に立ったラーニェがいざ盗賊に触れられようとする瞬間、彼女は指先から何やら白い粘液のようなものを放出した。

 放出された粘液は盗賊のリーダーらしき人物の口元を大きく塞ぎ、呼吸を封じている。それなりの粘度があるようにも見えた。

 

 

「あーもう、喋るな触るな黙ってろ!このポンコツ外道共がーッッッ!!」

 

 

 そして、そんな叫び声と同時に彼女の姿が掻き消えた。

 とはいえ見えなくなったのは盗賊たちの視界からだけだ。ただ彼女の身体能力による速度に、彼らの視力が追い付かなくなっただけで。あなたはもちろんその影を目で追っている。

 

 実際にはラーニェは正面に立つ盗賊の足元へ身をかがめ――

 

 そして真上へ、直線に、黒く染まった己の足を顎に目がけて蹴り上げた。

 

「ぐぶげぇー!?!?」

 

 ぱきょんと何かが割れる音と共にキリキリと舞い上がる盗賊の推定リーダー。

 おお、とあなたは見事な蹴りに感服した。アレは相当痛いだろう。ウラノスの下で同じのをあなたも食らったが、ちゃんと顎が割れたくらいの威力を誇っている。

 

 しかし外道は外道でも人間という事が枷なのか、どうやら殺すつもりは毛頭ないらしい。ちゃんと昏倒する程度で調整はしているようだ。

 

 どさりと投身が地面へ叩きつけられた音に遅れ、風の声色が数秒の静寂を埋めて。

 

「……え、お頭ぶっ飛ばされたけど、もしかして俺たち終わった?」

「またブッコロベイベーされんの俺達? また?」

「もーこんな役目バッカ。帰ろ帰ろやってらんねぇよバーカ!」

 

 今更己の状況に気づいたらしい盗賊共が絶望と悲観の声色に浸り始めた。

 どうやら本当に今吹っ飛ばされた人物はリーダーだったようだ。

 

 そりゃまあ、ラーニェは危険極まるダンジョンで生まれ、ダンジョンで戦闘経験を積んできた異端児(ゼノス)の一員である。

 それもレベル5相当のリドやグロス達を相手に健闘できるくらいというのだから、彼女の推定のレベルは4相当に匹敵するはず。人間の姿にまだまだ慣れつつある彼女では、本来のスペックを出し切れてはいないだろうが、力量技術ともに申し分はない。

 そもそもあなたにそれなりのダメージを入れられる地点で、一般人という枠組みからは遠く掛け離れているのは当然の事だ。

 

 で、そんな彼女が、こんな中途半端極まる盗賊連中に後れを取るわけも無く。

 

 問答無用で飛び掛かる火の粉を払うことに決めたラーニェが正面を見据えて一つ言葉を飛ばした。

 

「さて人間共、今、私は、最高に機嫌が悪いんだ。なんでか分かるか?」

「へ、へぇ。な、なぜですかねぇ」

「さあ、なんでだろうな?」

 

 麦わら帽子で見え辛いが、間違いなく額に青筋を立てているラーニェに盗賊たちはおずおずと一歩距離を取って返答を待っている。

 うふふと不気味に笑みを浮かべている彼女は、まさに暗黒微笑という言葉がよく似合う。

 誰かが嫁に詰められる夫の気持ちだ、と小さく口にしていたが、まさにそんな状況だ。

 

 怒っている彼女は何度も見たことがあるが、今回に限っては真面目にキレているのがよく分かる。理由は知らないが、何か気に障ったのだろう。

 

 因みに人間共、と衝動的に放ってしまった言葉について、盗賊たちはその真意を測れずにいるらしい。

 といっても、目の前の人物が元は化け物の姿でした、などと察するのは到底無理な話ではあるが。

 

「いやなに、さっきまでね? 私は初めて外の世界に出られた満悦感に浸ってたの。満天の快晴の中で外の空気を存分に堪能していたわけで、それからこうも早く不快な気分になるとは思っていなかったの。

 なあ、誰だって、そんなときに、お前たちみたくバカみたいな集まりから襲われたら不快な気分になるのはわかるな? 分かるよな? 分かるって言え!!」

 

 仁王立ちで息も吸わず高速で言い包める彼女に対し、全力で首を縦に振る盗賊連中。

 その表情にはもうやめてください、いじめないで、おうち帰るからと全力後退の意思が感じられる。

 

 やはり鬱憤が溜まりに溜まっていたのか、彼女の怒気は既に有頂天に達していたようだ。

 そういえば、彼女の夢は誰かと大空の下を歩くことであったか。

 そんな夢の最中に邪魔をされてはさぞ不快に気分にもなるだろう。あなたなら《サンドバッグ》に吊るして《混沌の渦》の魔法を連打しかねない。

 

 あなたですらそう思ったのだ。比喩的には彼女もまた同じ思いのはずだ。

 

 すなわち、あなたはこの後ラーニェがする行動について察していた。

 

 

「だからな? 今から鬱憤晴らしに問答無用でお前たちの事サンドバッグ代わりにするから。覚悟して蹴り殺される準備しておけ」

 

「お前らやっちまえぇぇ!!!」

「「おらあああ!!!」」

 

 

 その台詞を口火に、殺られる前にやっちまえと盗賊連中があなた達目がけて襲い掛かってきた。

 哀れ盗賊。この後の運命やいかに。

 

 

 それにしても、以前に加えてあなた以外にもサンドバッグにされるとは、この盗賊たちも懲りないものだ。

 この際《サンドバッグ》専用ペットとして四次元ポケットに収納しておくのもいいかもしれないと、あなたはそんなことを考えながらラーニェの戦闘を眺めることにした。

 

 

 


 

 

 

 それからどれほどの時間が経過しただろうか。

 襲い来る輩を蹴り飛ばし、なぎ倒し、時には彼女が放つ白い粘液によって束縛を繰り返し気づけば日暮れ時。

 大立ち回りを演じ疲れ切った彼女を荷台に乗せてあなたは山脈の道を進んでいた。

 

 荷台で引きずるように、あなたのロープで盗賊たちが全員まとめて縛り上げられ引きずられている。 

 結局、彼女は誰一人殺すことなく全員を昏倒させることを選んだらしい。その選択を別に良しも悪しも述べるつもりはないが、まあ彼女がそうしたかったのならとあなたは彼女の行動を尊重していた。

    

「あーもうつかれたぁぁ~~~」

 

 げっそりとやつれた彼女に、あなたはねぎらいの言葉をかけながら水の入った小瓶を投げ渡した。もちろん汚染されていない清潔な奴をだ。

 激しい激闘だった末、綺麗だった白のワンピースも所々が土で汚れている。水場を見つけて洗うかなどをする必要があるだろう。

 

「で、それどうする? こんなの引きずって歩き続けるわけにもいかないでしょ?」

 

 盗賊連中については道中で捨て置くか、どこかしらの街に着いたときに引き渡せばいいだろう。

 流石にあなたをしても制限重量のギリギリラインだし、普通に邪魔だ。

 

「いや今更だけど引きずれる方がすごい……ざっと30人はいただろう確か」

 

 ラーニェの言う通り、正確に数えてはいなかったが大体そのくらいの人数はいた気がする。

 しかもその誰も彼もがダンジョン上層階のモンスターと同じくらいの力量を持っていた。流石に盗みを生計にしているだけあって、ちゃんとした強さも持ち合わせていたらしい。

 

 まあ、その誰もラーニェには敵わないわけだが。圧倒的な力量差とは理不尽である。

 

「この姿になって初めて戦うのが、まさか盗賊のバカ人間どもとは思わなかったけどね。ただ思ったよりも人の身体で動けるようになってるのは、偶然の機会とはいえ知れてよかったわね」

 

 日常生活はともかく、戦いに関しては人蜘蛛であった時の感覚を基にしているらしく、彼女の戦い方は脚を多く使い、クモ糸を飛ばしたりして臨機応変に戦う戦術(スタイル)に定まっていたようだ。

 クモ糸は指先から出していたあの白い粘液のことである。化け物の身体であった時から、そのような能力は既にあった。あなたも彼女と関りを持った日から確認済みとはいえ、まさか人の姿のまま出せるとは思っていなかったが。

 

 とはいえ、今日はあなたも初めて見ることになる彼女主催の披露宴(パーティ)だった。

 演奏器材もなく食材すら無い質素なものであったが、なんにせよ大勢の前で舞っていた事実は変わらない。なのでパーティーだ。

 観客もバカの集まりとはいえ多くいたし、それなりに大成功ではないのだろうか。

 

「それ、褒めてるの?」

 

 もちろん褒めている。

 集団相手にきらびやかに舞うラーニェの姿はとても見惚れるものであった。

 着衣がワンピースではなく、それ相応のドレスなどであったのなら一国の王すら振り向かせられるに違いないだろう。

 

「……ばーか」

 

 あなたの素直な賞賛に呆れながらも軽い罵倒を返すラーニェであった。

 

 

 日が沈む夕暮れ時、引きずるゴミの音とガラゴロと鳴る荷車の音。

 その間に挟まる、疲れ切って寝てしまったラーニェの寝息を耳にしながらあなたはゆっくりと山脈を下っていった。

 

 

 




《モージア》《スペンスウィード》《ストマフィリア》
総じてハーブという食べ物に分類される。
総じて激マズの極みである。
しかし潜在力が向上するため常食する冒険者が多い食べ物だ。

ホントにゲロまずの為、食べる者の精神はどんどん疲弊していく。

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