狂信者+ダンジョン=農家栽培 作:ストマフィリア
あなたは農民である。
正確に言えば、あなたの本職が農民である。エウダーナな農民である。
友人からはお前みたいな狂人ヤロウが農民?ははっ寝言は寝て言えワロスワロスなどとよく揶揄われるがあなたは農民だ。
かつてのノースティリスにおいて、そしてここオラリオでも変わっていない。
あなたの中で冒険家業はあくまで副業という名の気分転換だ。魔石収穫とダンジョンの探索。ついでに少しのこづかい稼ぎ目的で冒険家業は気が乗った時に進めていた。
もちろんあなたならばそれで収入を稼げなくもないのだが、本業である農家行商の方が割と楽しく、そっちに注力しているだけであった。
そんな訳でオラリオに降り立って早6ヶ月、農家として個人起業してからは5ヶ月の時間が経った。
「おじちゃん山菜三本ちょーだい!」
「あ、おれもおれも! かーちゃんが買ってきてってさ」
「順番抜かししてずりーぞおれが先だからな!」
それだけの時間があればオラリオでの地位を確立することは難しくない。
あなたは今では皆に親しまれる農家であった。オラリオから外の都市に至るまで。特にこの区画、ダイダロス通りに住んでいる住民にはよく親しまれている。
この区画に住む者は大体が貧民層であり、手ごろな値段で行商をしているあなたの評判は良いの一点張りなのだ。
いい評価を得るというのは悪くない感覚だ。あなたが行商にハマっている理由の一端である。
一部ではあなたの事を頭のおかしい農家だと評されることもあるが、子供に寄り集まられているあなたの現状を見るに恐らくごく僅かな評価なのだろう。そうあなたは信じたかった。信じたい。
クミロミとジュアにも満点を貰った笑みを浮かべ、あなたは荷車から山菜などの商品を取り出して仕事を始めた。
それと、あなたはおじちゃんではない。これでも肉体年齢は青年程度に留めてある。
精神年齢はさもいわん。ノースティリスの民とはそういうものだ。
農民としてあなたがこなす仕事は主に2つ。
言わずもがな栽培と行商である。
栽培はあなたの家で常に行っていた。
しかしあなたは突然来訪してきた異端者。家など当然無かったがそこは地道が取り柄のノースティリスの民。冒険家業を少々頑張り、魔石換金によって貯めた
栽培用に設置した畑はノースティリスで買えるモノより小さくはあるが、今はそこでせこせことこの世界の山菜などを育てている。
なお、あなたは家の中にシェルターを設置しその中でも栽培をしていた。
こちらは行商とは別に、神に捧げる作物を育てる用の畑だ。因みに広さは実にメインストリート1つ分に相当する。
もちろんシェルター内なので栽培に特化した土など在るはずない。農業を本業とする者からしてみれば鼻で笑われること間違いない。……しかしここはノースティリスでの定石がモノを言う。
曰く――畑がねぇなら家で育てりゃいいだろ理論であった。
畑が無いなら家で、家が埋まったならシェルターで、シェルターが埋まったらダンジョンで。ダンジョンが埋まれば道端で栽培をする。どんな所でも種を植える。コンクリートの上だろうが植える。そして栽培し収穫する。それがノースティリスの農民である。
閑話休題
ともかく商品も揃ったことで起業したあなたは早速行商を開始。
道中、権利だとかギルドからの認証だとか税金のあれこれだとかの多々な壁が立ちはだかった事で
それにしても、この世界にも税金という概念があるとは解せないものである。
何せノースティリスの毎月税金回収地獄から抜けたと思ったらこれだ。額こそそう大したモノでもないが、オラリオ来たてのあなたではそれなりの負担になる。本当いい加減にしてくれとあなたは唾を吐き捨てギルドに中指を突き立てた。
行商の話に戻るが、前述の通りあなたはオラリオから外の都市に至るまでの範囲を対象に行商を進めている。時に庶民用の荷車売りを、また時には飲食店やら八百屋に売ったりと、主に直接販売をベースに生計を立てていた。
行商の範囲はオラリオ全般というだけでも広大な広さになるが、ただ歩くだけで参るような足腰をあなたは持ち合わせてはいない。むしろ生ぬるいとすら感じている。道中でモンスターに絡まれたり妹に迫られたりしなくていいのだから。楽で仕方ない。
まあ、生ぬるいと感じたあなたは結局、行動範囲をオラリオの都市外まで広げることにしたわけだが。
とにかくだ。
そんなこんなで行商を進める事5か月弱。あなたは知る人ぞ知る農家へ地位を確立したのである。
こうしてこの世界における食い扶持を手に入れたあなた。
そんなあなたは今日も今日とて、とある酒場にて商品を納品していた。
「……はい! これで納品ですね!」
手に持った大量の木箱を下ろし、あなたは飲食店への納品を終える。
目の前で笑みを浮かべ薄鈍色の髪を揺らす彼女はもはや見慣れたものだ。
「農家さん! 今週もいい野菜を届けてくれてありがとうございます!」
彼女の名前はシル・フローヴァ、この酒場「豊饒の女主人」のウェイトレス。
そしてあなたは酒場に商品を納品しに来た農家である。
「おミャー今日が納品日だったかにゃー。いつもご苦労さんだにゃー」
「アーニャ、彼に失礼ですよ」
猫耳女があなたを茶化しに来てそれを金髪のエレア……ではなくエルフの女が咎める。
やはり耳長な種族を見てエレアだと思ってしまうのはノースティリスでの弊害だろうか。それもこれもノースティリスにおけるエレアとこの世界のエルフの姿恰好が瓜二つなのが悪い。
彼女が緑髪じゃないだけマシにはなっているだろうが、もしもあなたが緑色の髪をしたエルフを見てしまえば思わず核を起爆してしまうだろう。思わず癖で。
緑髪のエレアは見つけ次第、核により爆発四散させるべし。
ノースティリスの上位冒険者共通の価値観である。あなたは助けてもらった直後人肉を食わされ発狂したことを忘れていないのだ。
あなたが衝動を押さえつけている間に、猫耳女と金髪のエルフはとっくにいなくなっていた。
ふと店の端を見ると、2人が見えあなたに一瞥して奥へ去っていった。
「あはは、すみません。アーニャはいつもあんな感じで……」
構わない。それがこの酒場の売りなのだろう。
酒場には盛り上げ役やら、ツッコミ役がいた方がいい。見たところ彼女はあの性格でツッコミ役だろう。場をどっと沸かせる役としては最適な人材だ。
「話が分かるようで助かります」
ほっとした様子で再び笑みを浮かべるシル。
恐らく先の例に乗っ取るなら、彼女はこの店の清楚枠――及び真面目枠だろうか。
何故か時々ボケとツッコミを両用できるハイブリット感を感じなくもないが、普段はそんな感じなのが見て取れる。
因みに彼女、あなたの見立てでは恐らく神だ。
漂う清浄な空気。平伏したくなるような存在感。何度も祈りをささげた神々の気配を忘れるはずもない。あなたの見立てはもはや確信の域に達していた。
しかし何故かかの女神――否、彼女はその神聖さを隠している。
もっと言えば、薄い。その一言に尽きる。彼女はまるでそこら辺にいる一般人の様だ。
理由は分からないが、あなたは彼女がお忍びで人の世に混じっているのだろうと察した。
なのであなたは目の前に立つ女神の意図をくみ取り、あえて言及はしないでおくことにした。
あなたはこれでも神に対しては真摯なのである。
それにしても流石、神が入り混じる迷宮都市オラリオ。
こうも気軽に神と遭遇でき、人間に扮して居るものまで存在するとはなんとも侮れない都市だ。あなたは喉を鳴らしそう思った。
「どうかしましたか?」
いや、何でもない。
考え込んだあなたを下から覗き見るシルにそう答える。
ふと覗きこまれた煌めく瞳にあなたは目が炎上する錯覚を覚えた。流石神。神々しさに眼球が負けたらしい。
とりあえず眼球は後で潰しておくとして、あなたは今日の納品はこれだけでいいのだろうかと。いつもよりは量の少ない木箱の数を見てからシルに問いかけた。
「ええ、これだけで大丈夫ですよ。ミアお母さんからのお達しでして。今日は休日なので冒険者の数も少ないんですよ」
だから酒場による者も少ないとシルは語った。
しかし、その続きに「でもですね」と始めてあなたに小声で耳打ちをするシル。
「……実はミアお母さん、あなたの納品だけ結構肩入れしてるんですよ? あなたが取ってくる食材、冒険者さん達に大変人気なので。だからミアお母さんったらあなたの納品は多めに取ってくれって」
ほう、それは嬉しい誤算だ。農民冥利に尽きる評価だ。
喜ぶべき事として受け取るがそれはそれとして早く離れてほしい。このままでは神の声色に耐えきれずあなたの耳が爆発してしまう。していいのだろうか。むしろしたい。
あっ、とあなたのいたたまれない様子を察したのかあなたから飛びのくシル。
「ふふ♪ すみませんちょっと近すぎましたね」
唇に人差し指を置いて何ともあざとい表情をするシルの姿は、納品を終えた後でもしばらくの間あなたの視界から離れなかった。
ふむ、やはり女神か。
というか事実、女神か。
とりあえずあなたはあの後路地裏に身を潜め。両目両耳を潰し切り落とし、回復魔法でまた作った。
かの女神には魅了か何かの能力でもあるのだろう。あなたの凶行は目と耳に焼き付いた彼女の魅了の痕跡を取っ払う行動であった。
生憎あなたの神は既に決まっている。一瞬なら許してくれるだろうが、一刻でもあなたの信仰にかの女神の痕跡を入れてしまえばクミロミとジュア神の気分を損ねてしまうだろう。
具体的には漏れなくジュアからは女神パンチが飛んでくることは間違いない。
なおクミロミは、大鎌片手にあなたの首を収穫する。どちらも問答無用だ。
あなたとしても気を損ねてそんな目になど合いたくないので仕方ない凶行なのである。そう仕方ない。目と耳を切除するくらいで丁度いい。これで彼女達も許してくれるはずだ。
《うみみゃぁ!!》
なぜか毒電波が飛んできた。
違うお前には聞いてない。