狂信者+ダンジョン=農家栽培   作:ストマフィリア

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6話 *サラサラ**フワフワ*で気持ちいい事

 

 オラリオの冒険者としてのあなたは割かし普通な部類に当てはまる。

 6ヶ月前からオラリオにやってきたレベル1の冒険者。ついでに農民。それがオラリオでのあなたの評価だ。

 

 あなたは誰かとパーティーを組んでダンジョンに潜らない。

 というか組めない。あなたが誘おうとも皆してあなたの要望を蹴り飛ばすのだ。

 一応過去に2,3回だけパーティーを組んだことはあるのだが、それを区切りにあなたへのパーティの誘いは収まってしまった。確か頭がおかしいという謂れもない呼び名もこの辺で流行ったはずである。

 

 おかしい。確かに3度目に組んだパーティーで一つ事件はあったが、あなたはそこまでの事はしなかったはずだ。

 

 ただ怪物進呈(パス・パレード)を押し付けられたあなたは満面の笑みでモンスターを駆逐しつくし、パス・パレードしてきたパーティーに仕返しをしたいという仲間の要望を聞き届けただけだというのに。

 

 それに仕返しの内容も、みねうち付きの全力攻撃を数回ぶち込んだ程度だ。顔がぐちゃぐちゃになりながら泣いて謝っていた光景が頭の隅に残っているが、別に死んでいないのだからあなたにしては優しい仕返しだろう。有情が溢れてる。これで頭がおかしいと言われるのはどうも気に食わない。

 

 ……とにかく、あなたはオラリオでは普通な冒険者だ。

 今はソロで時たま頭がおかしいなどと揶揄われてはいるが、立派な冒険者なのである。

 

「……私はお前の愚痴を聞きに来たんじゃないんだけど」

 

 そう言い切ったあなたの正面に見えるは鉄製の兜を被った一人の女性が呆れたように答える。

 ヒトの体を持ちながら、化け物と自負する蜘蛛の身体を持つ人蜘蛛。偶然出会ったラーニェが立っていた。

 

 そう偶然である。今日のラーニェは拠点の移動で20層に向かうらしい。今はその休息中だとか。

 対してあなたはダンジョンの帰り道に偶然ラーニェの姿を見かけた。それだけだ。知り合いを見かけたから話しかけ、話が進んで雑談がてらあなたとラーニェは森林の中、適当な木に背中を預け最近の冒険者事情を話していたのである。

 

 ついでにここだけの話、あなたはラーニェと結構遭遇していた。

 偶然とはかくも怖いもので、月に1度2度のペースで遭遇したりしている。まあ彼女から近づくとかは無く、あなたが自分から話に行くのが大半だが。

 

「大体、普通見かけても私に近寄る? 他の冒険者がいたら最悪お前はギルドっていうのに報告されるでしょうに」

 

 呆れながら告げるラーニェだがその辺は心配いらない。幸いここは中層、大樹の迷宮と呼ばれる森林地帯だ。多くの木々ではあなたとラーニェの姿はさぞかし見えずらいだろう。

 例え誰かが近づいてきたとしてもあなたの探知スキルはレーダーよりも敏感だ。周囲に人がいればすぐに気づく。

 

 それに人に見つかってもどうもしない。報告するなら報告するで、そいつを捕まえてから記憶を失うまで頭部を殴り続けるだけだ。あなたとしてもギルドに要注意人物だと警戒されたくはないのだから。

 

 そう伝えるとラーニェはあなたの傍から少し離れた。ドン引きであった。

 

「……相変わらずぶっ飛んでる倫理観ね……。本当に頭がおかしいとしか思わないわ」

 

 率直な感想だといわんばかりに顔を歪めるラーニェ。

 兜によって覆い隠したその中身は神すら羨む白髪と白肌、そして緋色の瞳があることだろう。人前で出れば美人と評されること間違いない。

 今みたいに淀んだ瞳じゃなければだが。

 

 というか、ラーニェの方からあなたの冒険者事情を聴かせろと言っておいてなんて言い草だ。

 あなたはジト目でラーニェを見ながら文句を一言述べた。

 

「む、悪かったわ。でも正直な感想よ。私から見てもお前は異質な人間だって思うし」

 

 それについては自覚がある。何せあなたはこの世界の住人ではないからだ。

 ノースティリスとオラリオの基準が大きく違っていることはこの6ヶ月強で思い知らされている。あなたも常識の違いに何度も驚いた。

 

 しかし、あなたはそれに順応するため頑張っている。この6ヶ月間、オラリオにて一つの犯罪も残していないのがいい証拠だ。核すら使用していないとあなたの友人達に言えば大層驚かれること間違いないだろう。

 なお、残していないだけで()()()()()()()訳ではない。大きなものではないにしろ小さな犯罪はしている。家の無断拡張だったり、路地裏で悪徳冒険者から絡まれた際にボコした事とか。

 

「……そういう所がおかしいと言っているんだが」

 

 何を言う。犯罪はバレなきゃセーフなのである。

 バレなきゃ窃盗しようが咎められないし、衛兵(ガード)の前で殺人しなければお縄になんてつかない。それはつまり、ギルドと治安ファミリアにバレなければ何をしたっていいのだ。カルマも下がらない。万々歳だ。

 

 あなたは悠々とそう語った。

 

「…………ハァ……お前には何を言っても無駄な気がしてきた」

 

 兜を被っているにも関わらず、あなたにはラーニェが向けるジト目の視線が見えた気がした。

 

 


 

 

 丁度体内時計で昼時を確認した頃。

 そういえば、とあなたはラーニェに一つ懐からあるものを差し出した。

 

「っ! それは!?」

 

 目を見開いて手渡したものを凝視するラーニェ。

 

 そう。ラーニェご所望、じゃが丸くんプレーン味である。

 先ほどまで4次元ポケットに入れていたのもあってか殆ど出来たてホカホカだ。

 ダンジョンで会ったついでだし、昼時で腹も空いているだろう。あなたは保存食用にストックしてあったじゃが丸くんをラーニェに渡した。

 

「いいのか!?」

 

 大声を上げて問うラーニェに首を縦に振ると、ラーニェは分厚い兜を外してじゃが丸くんを一口かじる。ついで二口、三口と頬張っていく。

 

 初めて人肉以外の絶品を食べたような幸せそうな笑みを浮かべるラーニェを、あなたは微笑ましい目で見ていた。

 

 

 

 ……アレはいつだったか。

 数ヶ月前、あなたがラーニェとダンジョンで遭遇した時の事だったか。

 昼時、つまりはご飯時の時間帯。あなたは軽食がてらにじゃが丸くんを取り出したのである。

 

 黙々と食するあなただったが、ふと横から凝視する視線。

 誰かと思えばもちろんラーニェだったわけで、彼女はじゃが丸くんを気になるように見ていた。

 何をそんなに気になっているのかと聞けば、彼女は人間が外で作る料理に興味があると言った。

 

 何でも、彼女のような自我のあるモンスター達は食に疎いのだという。

 

 食うといえば魔石だったり、彼女達が拠点で作るマズイ食い物だったりと、彼女は料理という概念が浸透していないとあなたに語った。

 まあ、ダンジョンという箱入り娘で外の事を知らないとなれば妥当だとは思うが。

 

 だからか。

 ホカホカのじゃが丸くんという魅惑の塊な食べ物を前にしたラーニェはあまりにも欲に純粋だったわけで。

 

『だからその……なんだ。気になっただけだ! 欲しいだなんて思ってないぞ!』

 

 ふいっと無理をして顔を背けるラーニェに、あなたはニヤリと邪悪な笑みを浮かべてじゃが丸くんを押し付けた。

 香ばしい匂いに負けた彼女がどんな反応をしたかなどはあえて言うまい。

 

 結論から述べると、それがじゃが丸愛食者を生んだ瞬間であった。 

 

 

 

 以降、あなたはラーニェと遭遇した際に備えて4次元ポケットにじゃが丸くんをストックする習慣をつけた。

 理由はもちろんラーニェにじゃが丸くんを恵むためであった。ペットの餌付けともいえなくないが、とにかくあなたはじゃが丸くんをラーニェに頬張ってもらいたい気分になった。

 

「はむ……ん~!」

 

 リス食いをしながら幸せそうに食する美人を目の前で見れるとなってそうしない理由があるだろうか? いやない。あろうはずがないと、あなたは首を横に振る。

 

 にしても、こうして兜を外したラーニェを見ていると本当にもったいないとあなたは思う。

 きらびやかな白髪も透けるような白肌も、人前に自信を持って出せるくらいには綺麗だというのに。彼女は何の意地だかわからないが、四六時中兜を被っているのだ。

 この場にジュアがいたならば即刻あの兜を取り外し、着せ替え人形行きになることは間違いないだろう。それほどまでに整ったスタイルなのである。

 

「……な、なんだ。そんなじろじろ見るな。バカ人間」

 

 じゃが丸くんを食べ終えた後、あなたの視線を察知したのか、頬を少しだけ上気させ片手で表情を隠すラーニェ。

 美味しいモノに夢中になり過ぎた照れ隠しだろうか。ラーニェにしては珍しい反応を見てあなたは思わず揶揄いたくなった。

 

 言い換えればもとい、あなたはペットをわしゃわしゃしたくなる気分になった。

 

「んっ!? な、何をする!?」

 

 あなたは笑みを浮かべながらラーニェの頭を撫でた。

 ペットの妖精を褒めるかのように、うりうりと頭を撫でた。ノースティリスではよくやっていたペットの甘やかし方である。

 白髪があなたの手によって思うがままに踊らされる。揺れ動くそれはまるで清水のように滑らかだった。

 *サラサラ*で*フワフワ*で心地よい。そんな感覚があなたの右手に伝わってきた。

 

「んっ、ふぅ……! ちょ、お前……!?」

 

 目を瞑って身震いをするラーニェは戸惑っている。しかし嫌悪などの雰囲気は漂わせていない。

 さては誰かに撫でられた経験が少ないのだろうか。ビクンッとむず痒そうにしながらも実に気持ちよさそうにしている彼女の様子をあなたは観察していた。

 

 しかし、いい加減にしろと言わんばかりにラーニェがあなたを睨んで言った。

 

「は、離せぇ! その手を離せ!」

 

 不満満載に大声で叫んだその文句に対し、あなたはシンプルにいやだなぁと返す。

 

「触り心地が良さそうだったからつい? じゃない!いいから離せ!なんかあれだ、変な感じがする!」

 

 満面の笑みで撫でていたあなただったが、拒絶の反応を見せたラーニェに応え手を離す。

 *サラサラ**フワフワ*でとてもいい感じだったのでもっと触っていたいあなたではあったが、本気で嫌がっているなら仕方ない。あなたは友人の嫌がることは進んでしたくない精神なのであった。

 

「はぁ、はぁ……頭が溶けそうだった。誰かに頭部を撫でられるのはあんなにも狂気的な感覚なのか……知らなかった」

 

 ブルリと体を両腕で擦ったラーニェは奇妙な感覚に震えているようだ。

 

 触り終わって思えば、こうして誰かの頭髪を撫でるのは久しぶりだった。確かペットの妖精を宥めた以来か。

 ペットを甘やかし慣れたあなたは、撫でることに関しては友人の【廃人】達ですら右に出る者はいない。あなたの神であるジュアとクミロミも舌鼓を打つレベルなのである。

 

 それはそれとして機会があればまた撫でたいものだ。

 ラーニェの髪は*サラサラ**フワフワ*で触りがいがある。いつの日か梳かしてみたい。

 

「やめろっ!? いいか!?二度と私の頭に触れるな!次触ったら問答無用で攻撃するからな!? 体が溶けるくらいの毒液吹きかけるからな!?」

 

 蜘蛛足を全速力で稼働させカササッとあなたから身を引くラーニェ。

 どうも先の感覚に慣れずじまいなのか、逃避感を覚えているようだ。

 なぁにそのうち慣れるとも。あなたのペットは撫でられることに快感を覚えられるようにすらなったのだから。

 

 そう語りながら迫ると蜘蛛足で吹き飛ばされる羽目になったあなたであった。

 

 

 


 

 

 

 20層のとある場所。異端児(ゼノス)が集う拠点(ホーム)

 冒険者の男と別れたラーニェは予定通りにその拠点に足を付け、リドを含む各メンバーたちとの合流を果たした。

 予定よりも遅い合流にラーニェは謝罪したもののその理由は語らなかった。

 他のメンバーも疑問を持ったものの緊急性は無いことからそれに追求しようとせず、話はとんとん拍子に進んでいった。

 

 そうしてラーニェの用事は済み、後は解散ということになったわけだが。

 

「ねえラーニェ。ちょっといいかしら? 聞きたいことがあるんだけど」

「どうした? レイもラウラも2人揃って」

 

 拠点を去ろうとするラーニェを異端児の二人が止めた。

 先っちょが青みがかった金髪と青い瞳。ラーニェに負けない美貌と、そして特徴的ともいえる大きな羽根を持つ彼女の名はレイ。

 半人半蛇の姿をしている彼女はラウラという。

 

 例に漏れず異端児である彼女達はどこか大人な雰囲気を醸し出しながら、ラーニェに問いを投げた。

 

「今日の合流、遅れたのはどうして?」

「……っ!」

 

 先ほど、メンバーから投げられた追及の続きだろう。

 リーダー格であるレイからの質問に、ラーニェは少しだけ表情を引き締めた。

 

「……それに関してはさほどの理由はないし、すまないと謝罪もした。もしかして理由を告げたほうが良かったか?」

「ううん、真面目なラーニェにしては珍しいと思って。さっきも言ったように私が個人的にちょっと気になっただけよ」

「そうか……」

 

 その解答にラーニェ自身、謎の安堵を覚えた。

 冷や汗と少しだけ高鳴った鼓動に違和感を覚えながら、被っている兜の下で嘆息をつく。

 

 実の所、6ヶ月前からずっとラーニェはあの冒険者の事を同胞たちに語っていない。

 言う機会が無いという訳ではないのだ。人間との会合などモノの見ようによっては大事件だ。異端児とされる者達なら特に。

 報告しようと思えばいつでも誰とでもできる。リドでも、レイでも、人間嫌いを同心としているグロスでも。

 

 しかし、ラーニェは何故かそこに手が届かなかった。

 たった一言「ある人間と遭遇した」と言えばそれで終わる話だ。

 その筈なのに、ラーニェはそんなたった一言が口に出せないでいた。

 

「……ねえラーニェ。もしかしてー、私達に隠していることとか無い? 例えばそう……私達には黙って、人知れず人間と会ってるとかー?」

「……!?」

「ラウラ、彼女に限ってそんな訳……」

 

 嘆息をついたことで、もしくはラーニェの放つ雰囲気を察したのか。

 ラウラは一つ、身も蓋もなく確証もないそんな問いを投げた。

 

 急に投げられた問いにラーニェは当然動揺する。

 

「……い、いやそんなことは」

「……! あるのね!?」

 

 だがラウラの驚いた反応に、しまったと舌打ちをするラーニェ。

 ラーニェはレイがあの冒険者との会合を見ているのではないかという衝撃から動揺をしてしまった。考え込んでいたことからもポーカーフェイスが崩れてしまったのかもしれない。

 しかしそれが、予想でしかない筈のレイが放った質問の答えを確定させてしまう。

 疑問は確信へ。ラーニェが同胞たちに黙って人間と会っていたことが発覚してしまった。

 

 これ以上の誤魔化しは効かない。一体どうするかと頭を回すラーニェが正面を見ると。

 

 目を開いて両翼をバタバタさせるレイが。

 蛇の尻尾を地面にペチペチと叩くラウラがいた。

 しかも、その様子は何故か――

 

「いいのよラーニェ。私は別に咎めようなんて思ってないから。むしろ嬉しいのよ! あんなに人間を嫌ってたラーニェが自分から人と接してるなんて……!」

「え゛」

 

 ……何故かやけに興奮しているように見えた。

 今から恋バナでもするんじゃないかと思うほどテンションが上がっていた。

 

「遂にラーニェにも春が来たって事ねー……。あぁ感慨深いわー。出会った当初はグロスと同じくらい頭が固いと思っていたのに……ううん、これも出会った誰かがあなたを変えたのかしら?」

「え、いや、あの」

「で? その彼ってどういう人なの? 真面目な貴方が約束の時間を不意にするくらい大切な人ということよねー?」

「いやだから」

「ラーニェ。詳しく聞かせて頂戴。私も気になって夜も眠れそうにないわ」

「ちょ……!」

 

 圧である。とにかく圧がすごい。

 リーダー格だとか歌人鳥(セイレーン)だとか関係なしに、言葉攻めの圧に押されているラーニェは片言でしか返答が出来なかった。

 

 これは、あれか。子供の成長を見届ける親のような目だろうか。

 確かにレイは異端児の中では最古参。ラーニェは後入りしてきた立ち位置である。

 それに、異端児という者達はその存在故、もはや家族ぐるみのような関係になっている。そういう視点から見れば、レイにとってラーニェは愛おしい子供のようなものだろう。

 

 ラウラに関しては知らん。ただただ揶揄いたいだけだろうか。

 

「もったいぶらずに教えてくれない? あなたの大事な彼の事、とても気になるの」

「いや別にもったいぶらずって訳じゃ……って彼ってなんだ!? 私とアレはそういうのじゃ無い!!」

 

 結局、詰めに詰められたラーニェが観念してあの冒険者の事を語ったのは数分先の事である。

 

 子は親に詰められたら逆らえない。世の家族事情の共通点であった。

 

 

 

「……そう。()()()に助けてもらったのが、貴方と出会った冒険者なのね」

「……ああ」

「事情は分かったわ。でも黙っていたのは感心しないわね。大事な事案なんだからせめてリドには言ってあげても……」

「こらレイ? それは野暮ってものよ?ラーニェにもプライベートってものはあるんだから」

「ラウラ……でも」

「こんなことがもしグロスとかに知られてみなさいよー? あの人間嫌いで頭でっかちの事だから、次の日にはラーニェを詰問しに行くに違いないわ。そんな事レイも望まないでしょー?」

「それはそうですが……」

 

「まあ、まさかあのラーニェが人間と会っているっていうのは結構予想外だったけどねぇ?」

「ぐ……」

 

 まるで揶揄っているように向けられる視線は、じっとりとラーニェを射す。

 

「すまないが、この件については――」

「ふふ、もちろん誰にも言わないわ」

「……私はまだ何も言ってないんだが」

「分かるわ。せっかくの出会いだもの。他に邪魔されたりしたら、貴方も気が気でないでしょ?」

「むぅ……」

 

 ラーニェが言いたいことが分かるといわんばかりに先の台詞に許諾するラウラ。

 手のひらを頬に当てて、微笑ましい笑みを浮かべる彼女を前にラーニェはどこか居たたまれない気分になっていた。

 

 馴れ初めとまでは行かない、ここ数ヶ月の出会い。その全てを白状したラーニェはもはや灰になりかけ同然であった。主に羞恥で。

 一体何が悲しくてこんな目に合わなければいけないのか。

 とりあえず全てはアイツが悪いと投じ、ラーニェはあの冒険者を呪った。

 

「それで? 人間嫌いの貴方が初めて人と関わり合ってみてどう感じた?」

 

 数秒の静寂。

 そこから放たれる試すようなレイの問い。人間に好気的な感性を持つ彼女達の問いにラーニェはぶっきらぼうに返した。

 

「……悪くない。正直に言うとそんなところだ」

「あら、意外と正直ね。誤魔化すかと思ったのだけど」

「誤魔化しなんて入れても無駄だと悟ったからな……それに、アレは私達の存在を否定しない」

 

 だから、とラーニェはふいに視線を無骨な土色の天井に向ける。

 

 脳裏にあの冒険者の姿を思い出した。

 あの薄緑色の布をまとった冒険者。いくら離れようとも気軽に接してくるあの冒険者。

 この6ヶ月、ラーニェはアレと接してきて既に気づいている。あの冒険者との間に種族の壁など存在しないことを。

 

 言葉に偽りなどなく、ただ接したいから接する。

 それが神でも化け物だろうと関係ない。

 そんな歪な純粋さを持つ彼にラーニェは、認めたくないが少しずつ絆されていった。

 

「別に、人間の全てを信用したわけじゃないんだ。ただアイツなら……あの冒険者となら、私はやっていけると感じただけで……」

 

 そんな関係が居心地良かったと。少しだけそう思い始めていた。

 

「……大きな一歩だわ。ラーニェ、絶対その人間から離れちゃ駄目よ」

「レイの言うとおりね。私達の存在を拒絶しないようなおもしろ……良い人間なんて正直言ってそうはいないもの」

 

 レイとラウラは彼女の変化に良い兆しを感じつつあった。

 あれだけ人間を忌み嫌っていたラーニェが、これほど心を許す相手。

 ……話を聞いている限り、人間性は限りなくカスでどこか歪だというラーニェの証言だったが、それでも人と異端児が繋がる可能性の塊には違いない。

 

 故に、レイとラウラは遠い目をしているラーニェに助言をした。

 少なくとも、()()()そういう思想で語った。

 

 決して、決してだ。

 

 ――うぉ~! 人様の恋愛事情眺めるの楽しー! 絶対別れさせるわけにはいかねーやこれ!

 

 などというラウラの淫らな思想があるわけではない。

 決して、ラーニェが頭を撫でられたりじゃが丸くんで餌付けされている事情を知ったラウラがラーニェを揶揄っているわけではないのだ。

 

「そ、そうか?」

「そうよ。だからラーニェ。絶っ対にその彼から離れたらダメよー? いい距離を保って、もっといい経験をして。そして聞かせて、私ならいつでも時間空いてるから」

「ラウラ、貴方やけに押すわね……?」

 

 尾っぽをビタンビタン叩きながら笑顔で詰め寄るラウラにラーニェは若干引いていた。

 

 

 

 こうして、ラーニェがある冒険者と会っていたことは不問。その場限りの秘密となった。

 しかし後日、ラウラは口が堅いと信じる同胞達にラーニェの秘密を言いふらした。一応、しっかり口が堅いことが幸いしたか無駄に噂になることも無く内輪ノリで済むことになる。

 

 だが。

 

「ねえラーニェ! 外の食べ物を食べれたって聞いたけど!詳しく聞かせて!」

「ねえねえラーニェ、人間に頭を撫でられたってホント~!? どんな感じだった!?」

「ねえねえねえラーニェ! あなたとその冒険者ってどれだけ進んでるの!?」

 

「ラウラの奴……言いふらしたなッ!!」

 

 代わりに、異端児(ゼノス)の女性陣の中でラーニェが弄られる回数が明らかに増えた。

 

 

 





次から本編介入かも

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