狂信者+ダンジョン=農家栽培 作:ストマフィリア
ようやく本編加入
あなたの家はオラリオの第7区、冒険者通りと呼ばれる北西側と一般市民が多く住まう西側の間にある。
メインストリートから少し離れたあなたの家の所在地は、意外にも人気が少なく住民が住むには大分物静かだ。
あなたがそんな物静かな場所に自宅を建てようと思った理由だが、バッサリ言うと特にない。
しいて言うなら物静かで人気が無い分、多めに土地を確保できるといった点か。現にあなたの家はそこら辺にある住宅よりも広く土地を取れていた。やはり家というのは狭いよりかはそこそこ広い方が良い。
余談だが、あなたが普段から使う《帰還の魔法》だがこの家を建ててから少し仕様に変化が起こった。
帰還の魔法は詠唱すると文字通り次元の裂け目を作り、あなたの家へと帰ることができる魔法である。ノースティリスにおいては常識的な魔法の一種であり、店では一般人でも使える巻物として売られているくらいには使用頻度が高い魔法だ。
あなたが家を購入して試した結果分かったのだが、どうにも帰還の魔法の仕様が少々変化しているようで、帰還の魔法を使うとあなたがオラリオで建てた家へと直通してしまうようになってしまったのだ。
帰還の魔法の移転先を変えるには、基本的にノースティリスで売られている《家の権利書》を購入し使用しなければいけない。
しかし、あなたはこの家を建てた際に権利書を使用していない。にもかかわらず、移転先が強制的にこの土地に変更となってしまった。
その点についてあなたは別に不便という訳ではないと思っているが、もしも家を建てる前に帰還の魔法を使用していたらどうなってしまうのだろうと考えていた。ノースティリスに建てている家に戻るのか、はたまたオラリオに居続けるのか、シンプルに起動しないのか。
些末なことだが気になっていた。それだけである。
――ついでにもう一つだけ、仕様の変更があった。
帰還の魔法は本来、ノースティリスにあるレシマスとすくつと呼ばれる
要するにすくつの100層まで踏破したなら、帰還を使って再び100層から進めるということができるわけだ。
さて本題の新たに発覚した仕様変更だが、そのネフィア判定が
つまりは、あなたが現在進行しているオラリオの
そして余談だがあなたはギルドに黙って、人知れず迷宮の50層辺りまで潜っている。
五体満足で帰ってくるあなたを見て、ギルドの職員は浅い階層に潜っているのだろうとしか考えもしないが、残念ながらあなたは第一級冒険者も絶句する階層まで潜っていた。
ギルドへの報告義務として事実を告げようかとあなたも思ったが、あなたのレベルでは到底たどり着かないような階層と思われているのは当然の心理と考え、あなたは事実に口をつぐむことにした。どうせ言っても笑い話か酒の肴にされるだけだろう。
あなたは元々ノースティリスの冒険者。オラリオの基準で測ろうというのが無理のある話であった。
ともかく、こうしてこの世界の拠点を確保したあなた。
やることは変わらず今日も今日とて農民としての仕事だ。オラリオは広い。1日で多くの土地を回らなければいけないあなたの朝は早く、まずはと家の庭で仕事に使う荷車の用意を進めていた。
「あ、農家さん! おはようございます!」
そんなあなたのもとに一人の少年が現れた。
ラーニェのように煌びやかとした白髪と緋色の瞳を持った彼があなたに向ける満面の笑顔は、まさに少年の純粋さを表しているようだ。
あなたはその少年に微笑みを込めて挨拶を返す。
「はい! 農家さんはこれからお仕事ですか?」
元気よく返してくる言葉にあなたは首を縦に振って肯定の意を示した。
そういう少年は今日もダンジョンに向かうのだろうか。
「もちろんです! ……けど、僕がせいぜい潜るのは上層までですよ。この前エイナさんに潜り過ぎだって注意されてしまって」
あはは、と彼――ベル・クラネルは不甲斐なさそうに苦笑を浮かべる。
挨拶を交わしておいて今更だが、あなたと少年の関係は一言で言うと隣人だ。
オラリオの第7区、北西側と西側の間にお互い住んでいる間柄。ベルがここ最近に住み始めて、挨拶回りをされた時からの付き合いである。
一目見てわかる幼さとは裏腹に、礼儀正しい彼に対してあなたは非常に好感を持っていた。
それにベルという名も良い。
足が速い事から
因みに彼の住居はとある廃教会にあるらしい。
あなたも一応確認しに行ったところ、その場所には確かに石材たちが崩壊し散らかった廃教会があった。雨風をしのぐのは大変そうだと思ったが、中を覗き見たところどうやら地下があるようで苦労しているのは確かではあるものの人並みの生活をしているのだろうと感じた。
一般的に見れば酷い環境だと思うが、人並みの生活が出来ているだけマシだろう。あなたは家無し金無し食糧無し犯罪者認定による不清潔人肉生活の辛さを知っている。
冒険者なり立てであったあなたのかつての経験談だ。何度も埋まろうと思ったほどに辛かった経験を思い出し、あなたはついほろっとなってしまった。
「そういえば、あなたも冒険者なんですよね」
思い出したようにベルが貴方にそう聞いてきた。
そうだ。一応副業ではあるが、彼の問いは間違いではない。
「えっと……知ってたらでいいんですけど。アイズ・ヴァレンシュタインって名前に聞き覚えはないですか?」
続けて出された問いにあなたは少し眉を顰めた。
その名前はオラリオの冒険者ならだれもが知っているだろう第一級冒険者の名前だった。
まさかいきなりそんな大物の名前が出てくるとは、ベルはそんなに気になるのだろうか。あの金髪の少女の事が。
「い、いえ! 別に気になるとかじゃ……って、金髪?」
あなたが放った言葉にわたわたと動揺し、同時に疑問を持ったベルに対しあなたはその問いに応え、一応知っているとだけ返す。
ほんの一時の時間だけだったが、あなたはあの少女と話す機会があったのだ。なので一応あなたは彼女の事を知っている。
「ほ、本当ですか!?」
驚くベルにあなたは首を縦に振った。
しかし話したと言っても、あなたがいつも通りじゃが丸くんを買いに来たところで同じように買いに来た彼女と遭遇しただけである。
彼女は重度のじゃが丸くん愛食者であり、同じくまあまあな愛食者であるあなたと気が合った。それだけの事だ。出会いにしては一時的過ぎるし、関係という関係は出来上がっていない。
期待に沿えずすまないが、あなたは彼女の事をじゃが丸くん好きの少女くらいにしか覚えていないのだ。
「じゃ、じゃが丸くんですか……。あの人にそんな一面があるんですね……」
ベルは意外な一面を持っている彼女に対して驚いていた。
第一級冒険者ということもあって、至って真面目というイメージが強かったのだろうか。一応実力は持っているものの彼女もいたいけな少女のはずだが。
とにかく、彼女をストーキングするならじゃが丸くんが売っている店を徹底的に張ったらいい。そうすればいずれ会えるだろうと、あなたは真面目な顔をしてベルにそう語った。
「し、しませんよ!? 僕を何だと思ってるんですか!?」
なんだ、しないのか?
てっきりあなたはベルがその少女の事を好いてるものかと。
「好……!? ち、違います!ただちょっと、昨日あの人に助けられたので……その、感謝を伝えたいなと」
真っ赤な顔してもじもじと照れ隠しをするベルは、彼女への好意を全く隠しきれていない。
おお、なんと初々しい事か。あなたの神であるジュアが彼を見たらその初々しさに思わず抱き着いてしまうかもしれない。
白髪と赤い瞳が相まって、あなたはベルの事が小さなウサギに見えてきた。
白いウサギはノースティリスだと見ない生物でオラリオで初めて見た生物だが、こうしてみると中々可愛らしい所がある。ふむ悪くない。
「な、なんで笑うんですかぁ!?」
揶揄っていると思ったのか不満をあらわにするベル。
あなたはそんなベルの事をますます気に入りつつあった。
こうして隣人の雑談にしては長い会話を交わしたあなたとベル。
雑談は雑談で楽しいのだが、あなたには農家としての仕事がある。そろそろ家を出たいものだ。
「あ、ごめんなさい。僕のせいで時間取らせちゃって」
問題ない、最低限の時間は守っている。
あなたは申し訳なさそうにしているベルにそう言うと、荷車に商品を乗せた。
お互い、今日も頑張って行こうではないか。
《ヘスティア・ファミリア》というファミリアの一員として冒険者の活動をしているベルにあなたもそう返す。
まだ年端も行かず幼いだろうに、頑張っているようで何よりである。
「あはは……昨日ミノタウロスに襲われて逃げ回ってただけなんですけどね」
いきなりの衝撃発言。
冒険初心者には劇的すぎる経験をしたベルにあなたは詳細を聞いてみた。
なんでも昨日のベルは運悪く上層に出現したミノタウロスと生死をかけた追いかけっこをしたばかりらしい。憔悴した様子は猫妹との追いかけっこよりも過酷なモノだったことをあなたに分からせた。
結局、ベルは最後にはミノタウロスに捕まってしまったらしいが運よくアイズ・ヴァレンシュタインに助けられたという。先の会話で感謝を伝えたいというベルの言葉はこの件からきているようだ。
襲われたり助けられたり、ベルは運がいいのやら悪いのやら。
彼はその容姿通りに幼い。
冒険のぼの字も知らない少年には酷な経験だとは思うが、まあ死を味わうにはいい経験だ。人間何度も死にかければそのうち慣れる。恐怖にも物理的な痛みにも。因みにソースはあなた自身だ。
スライムに骨ごと溶かされる痛みという何とも形容しがたい激痛を始めに、死に続けたあなたの体験は説得力抜群だろう。
ベル程の歳で死にそうな目にあえるとは将来有望だ。
あなたはその調子でどんどん死にそうな経験をしながら冒険を続けていってほしいと、笑いながらベルに告げた。
「嫌ですよ!? ていうか、そんな日頃から死にそうな目にあったら命がいくつあっても足りませんって!!」
命が一つしかないベルの絶叫は当然のモノであった。
揶揄っていて分かったが、ベルはなかなか良いリアクションをしてくれる。あなたは少しベルをいじるのが楽しくなってきた。
「ぼ、僕で遊ばないでくださいよぉ!」
あなたが揶揄うように頭をポンポンと叩くと、顔を赤くして怒るベルであった。
さて、午後も過ぎ夜も更ける時間帯である。
あなたは今日も農民としての仕事を終え、オラリオの町中を歩いていた。
オラリオの夜はノースティリスの王都である『パルミア』と似た雰囲気を感じる。誰も彼も活気付いており、町自体が鼓動を上げているような感覚。あなたも好きな雰囲気だ。
特にあなたが歩くこの西地区は宿屋や酒場が多くあることから人気がより多く感じた。
酒場、というワードが頭の中に浮かんだあなたはふと空腹感を覚えた。
朝と昼は抜いてはいなかったが、どうも仕事終わりということで空腹なようだ。餓死するほどではないがこのまま空腹のままでいるのはどうも忍びない。
仕事終わりでちょうどいい時間帯な故、あなたはここらで夜飯を食べていくのもいいだろうと考えた。
そうと決まれば酒場探しである。
あなたは周囲の観察を始め、人気のありそうな酒場を探し始め……。
「いらっしゃいませ! 一人ご案内です!」
結局、あなたの足がたどり着いた先は『豊穣の女主人』であった。
あなたが見る光景といつもと違うのは、夜によって人工的に照らされた明かりが多い事だが、普段仕事で見慣れた店内に少し苦笑する。
あなたがこの店を選んだのは少しだけ理由があった。
一つ目に、あなたは仕事で食材を納品する以外でこの酒場に足を運んでいなかったのだ。つまり今回が初見の来店ということになる。
二つ目に、あなたは自分で作った食材がどんな形で提供されるのか少し興味があった。あなたが普段納品している食材はこの世界のモノもあればノースティリスのモノもある。それがどんな風に調理されるのか。食材を作っている側としては当然の疑問だった。
何が出てくるだろうと高揚を内に秘めるあなた。
炒め物かシンプルなサラダか、さてはあなたの想像を超える料理が出てきたりするのだろうか。
人前に出してる店なだけあるなら、流石に腐ったモノや生ごみ同然なモノは出してこないと信じたい。一応食することはできるが。
と、そうこう考えている間に席に案内されるあなた。
「農家さんいらっしゃいませ。今日はお食事に?」
座ったとたん金髪のエレ――エルフのリュー・リオンに接客を受けたあなたは素直にうなずく。
……全く、いい加減慣れたはずなのだがどうにもエレアと勘違いしてしまうあなたの眼はどうかしたほうがいいのだろうか? 抉った方がいいだろうか。
いや、全てはあの緑髪が悪い。
初見人肉発狂祭りなどさせトラウマ種族として残るような真似をした
「どうかしましたか?」
ジッと視線を向けてしまったか、リューが首を傾げる。
いや、何でもない。少しあなたの常識とこちらの常識にまだ慣れずじまいなのを確認しただけである。
「はぁ。……それでご注文は?」
見た目通りクールかダウナーな性格なのか、あなたの言葉に彼女は冷ややかな返答をする。
人によっては不快だろうが、生憎あなたはその程度で沸点を上げるような感性を持っていないので平気だ。
そういうことで、あなたは冷静に注文を出す。
大人一人分にしては少し多い量を頼んでしまったかもしれないが、あなたはこの酒場への先行投資だということにしておいた。あの店主も少しは喜んでくれるだろう。
「承りました、少々お待ちください」
注文を受けたリューがペコリと会釈し、その場を去ってゆく。
……と、同時に。あなたは店の入り口から入ってくる一人の少年に目が向いた。
酒場に来るには少々ふさわしくないような風貌をした少年。あなたも見覚えのある白髪と紅の瞳を持つ少年だ。
あなたは一考したのちリューを引き留め、一つお願いをした。
「……なんでしょうか?」
いや、席の移動を頼みたい。
場所は先ほど入ってきた白髪の少年――ベルの所に。
あなたはそう伝えるとリューがベルの元へと歩き、一つ聞き入れた。
恐らくはあなたが相席したいという旨を話しに行ったのだろう。事情を知ったベルはいきなりの事に驚いたものの、遠くで手を振るあなたを見て頷いてくれた。
突拍子も無く相席しようと思った理由だが、隣人付き合いの続きだ。
あなたはベルに対して好感も持っていることもあり、こうして食を共にすることで友好を深めようというあなたの魂胆である。
それにベルはダンジョン初心者で手持ちの金も少ない事だろう。未熟な頃の冒険者の懐は物寂しいというのはどの世界も共通だ。無論、あなたも例外ではない。
私情が無いわけでもなし。あなたはここらでベルに飯を一つ奢って、恩を売っておくのも悪くないと思ったのだ。
ともかく、あなたは思惑ありきではあるもののベルと夕食を共にすることになったのだった。