小悪魔ドS探偵女が俺を怪奇事件から逃がしてくれない   作:夜永リア

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第六話

 

 鶴羽農村地区の住民はどこか活気があった。

 無人販売所の前では井戸端会議が行われていたり、小売りの商店では子供たちが走り回る。

 煌々と照る太陽の光を田畑が浴びながら人々は生活しているようだった。

 

 こういうのを原風景、なんて呼ぶんだろうか。

 田舎町の割には瀟洒なアクセサリーを付ける人も良く見られる。農村地帯では畑仕事の邪魔になるために日常生活で装飾品を付ける人はと聞いていたが、そうでもないらしい。

 

 ただ、その割に誰一人として鶴羽染めを持っていないことは気になった。

 地元の観光地には逆に行ったことがない、なんて人も多いらしいからそんなものなのかも知れない。

 

「賑やかですね」

 

「あぁ、なんていうか……いいな、こういうの」

 

「全国の過疎地がこうであれば、社会問題にはなってないでしょうにね」

 

「…………」

 

 別に社会問題なんて気にもしていない癖に、識はそう言う。

 しかし、実際ここは地域創生に成功した稀有な例なんだろう。住民の活気の割に建物は寂れた外観をしているのは、人口の増加がここ数年の事だからだろうか。

 

 この増えた人口も、鶴羽染めが影響なんだろう。

 

 ────でも、材料は"人"なんだよな

 

「うっ……」

 

 さっき川で見た臓器を思い出し、思わずエヅく。

 

「……まだ気分は優れませんか?」

 

「ちょっとだけ。……それより続きを書こう」

 

「……はい。では、十字路の北西にニ棟。田畑を挟んでもう一棟あります」

 

 川に行った後、すっかり参ってしまった俺の気分転換を兼ねて俺たちは鶴羽農村地区の視察に来ていた。

 村の案内地図、なんて易しいものはないので自分達で何が有るのかを把握するため。

 

 識の指示に従って調査用にマップを作る。すると、大きな違和感があった。

 

「あれ、地区の建物ってこれが全部だよな……?」

 

「えぇ、流石に山中までは確認出来ませんが。概ねこの数です」

 

「20棟しかない」

 

「そうですね。多くとも25世帯、100人程度でしょうか」

 

 ここに来たばかりでは"これくらいかな"で済んでいたかもしれないが先ほどまでの活気ある商店を見た後ではどうにも不自然さが目立つような気がした。

 

 思案しているとソッと影が差した。

 パッと後ろを振り向く。識が日傘を俺に向けてくれていた。

 時刻はもう昼に差し掛かる頃、炎天下の日差しが照っている。

 今朝からなんだか優しいような気がする。ここに来て俺の事件に向き合う姿勢を認めてくれたのか。

 不良が猫を拾ったのを見るってきっとこんな気分なんだろう。一段と識が優しく見えた。

 

「そんなに考えていては、無い頭が湯立ってしまいますよ?」

 

「一言多いわ!!」

 

「あら、沸騰してしまいました」

 

 およよ、なんてわざとらしく口許に手を当てる。涙まで浮かべると、こんな性悪でも哀れなお嬢様に見えてくるから質が悪い。

 内心評価を改めていたのが悔しい。

 

「折角、ご要望のお弁当を用意したのですが」

 

「わん」

 

 俺は人権を捨てた。

 誰だって旨い飯には抗えないのである。悲しいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

「いい眺めだな」

 

 昼食の場に俺たちが選んだのは農村地区に隣接する小高い丘。

 高層の建物なんか1つもない和やかな田畑の一望は、心まで穏やかにしてくれる。

 木陰に入り込む風が気持ち良く、選んだのは大正解だと言える。

 といっても俺たちがここを選んだのは地区を一望出来るから、とロマンの欠片もないような実用的な理由だが。

 

 俺が背負わされてきたレジャーシートを引き、俺が背負わされてきたティーセットに俺が背負わされてきた魔法瓶からお湯を注ぐ。熱湯を注いだ後、すぐにもう1つ持ってきた水筒から冷水を入れブレーキをかける。アイスティーの完成だ。

 

 やっとこさ一息つくと、俺は木陰で優雅に座っている人使いの荒い悪魔に声をかける。

 

「ほら、淹れたぞ」

 

「あら、ありがとうございます。……アールグレイですか」

 

 識はカップを持ち上げ、"ふふ"と笑うといつものように"70点です"と人に淹れさせておいて辛口評価をする。

 

「うるせ。アイスティーといえば、みたいなところあるからな」

 

「アールグレイはフレーバーティーですからね」

 

「フレーバーティー?」

 

「知らずに淹れたんですか。あなたにしては皮肉が効いていると関心したんですが」

 

「お前は紅茶にまで嫌味を仕込むのか???」

 

「あら、そんなことはしません。淹れるのはあなたの仕事ですからね」

 

「淹れることそのものを否定されるとは思ってなかったよ……」

 

 ぶつくさと言いながら、識が用意してくれたバスケットの蓋を開ける。丁寧に作られたであろう形の綺麗なサンドイッチが並んでいた。

 香ばしい焼いたパンと具材の入り混じった、なんとも食欲をそそる香りが漂う。

 

「お、美味そう」

「サンドウィッチは変な具さえ挟まなければ大抵美味しいですよ」

 

 謙遜なのか知らないがそんなことを言う識。大人しく受け取っておけばいいものを、可愛げのない奴。まあ、間違っているとは言わないが。

 

 具材は卵、ハム、レタス、トマトなんかの定番に加えて、照り焼きなんかもある。全体的にボリュームがあり、多分これは結構大食いな方の俺に気を使ってくれたんだろう。

 

「いやいや、本当美味そうだって。……いただきます」

「どうぞ」

 

 んじゃあ、このサンドから。

 

 識のオリジナルなのか、味付けは塩以外にもなんかのハーブっぽいのが混ぜられていて、滅茶苦茶美味い。

 ……普段俺に家事をさせている癖に、やると俺より上手くやるのがちょっとした腹立ちポイントだ。

 

「美味い。普段からやればいいのに」

 

「ふふ」

 

 持て囃してみると、識は満更でもない顔をして、自分もサンドイッチに手を伸ばす。

 白磁のように白い頬が、うっすらと赤く染まっている。照れ……てるのか……? いや、きっと暑さにやられているだけだろう。

 

「ほら、たくさん作ってきましたから、食べて下さい。私一人じゃ到底片付きませんから」

 

「んじゃ、改めていただきます」

 

 どれも美味しく、バクバクと俺は旺盛な食欲を発揮する。

 かなりの量があったが、識の分まで食べてしまいそうな勢いだ。ちなみに、その識はというと、三切れくらい食べて、それ以降は紅茶ばかり飲んでいた。

 

 一応、半分食った時点でお伺いを立てたのだが、もう識自身は食べないらしく、残りはどうぞと言われた。

 んで、これ幸いにと、俺は残りの攻略にかかるついでにさっきの話の続きを促す。

 

「そういえば、さっきアールグレイが皮肉って言ってたけどどういう意味なんだ?」

 

「正確にはフレーバーティー全般を指しますが」

 

「んじゃ、それ」

 

「もぅ……私はあなたの暇潰し道具ではないんですが……ふふ、良いでしょう。お話します」

 

 識はバクバクと頬張る俺を見ながら意地悪な笑みを浮かべた。ミスったかもしれない。絶対に食事時に聞くべきではない話だ。

 

「フレーバーティーとは着紅茶と呼ばれる紅茶や緑茶に香料で香りを後付けしたものです」

 

「うげ」

 

 言いたい事がなんとなく分かった。

 染料で後から色染めした鶴羽染めと香料で香り付けしたフレーバーティーをかけているんだろう。

 

「さらに加えると、着紅茶の歴史は略奪の歴史です。当時インドを植民地にした大英帝国が、鹵獲した茶葉を飲みやすく加工したものですから」

 

 そこまで言うと、俺に向かってウィンクしながら囁く。

 

「……つまり、鶴羽染めと同じく、生産に人の血が流れたんです」

 

 ゴクリ、俺はサンドイッチの飲み込む。

 素早く右手で識の頬を掴むと、力を入れる。

 

「食欲無くなるだろうが!!」

 

「あにゃたがわふいんれすよ」

 

 頬をムニムニとしながら糾弾する。すっかりサンドイッチは食べ終わったが、食後の紅茶をなんとなく飲みづらくなってしまったではないか。

 俺は識から手を離すと、一気にアイスティーを飲み干す。

 

「しっかり食べきってるじゃないですか」

 

「作って貰ったもんを残したくないからな。……ご馳走様。旨かったよ」

 

「いい心がけです。お粗末様でした」

 

 識は丁寧に頭を下げる。いちいちこんな動きまで絵になる人だ。内面さえこうじゃなければなぁ。

 "それはそれとして"識が呟く。

 

 ────私の頬を掴んだ罰は、与えなければなりませんね

 

 俺は少し調子に乗り過ぎてしまったらしい。

 お昼休憩はどうやらご機嫌取りになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 午後からはいよいよ解体現場を探しに行くことにした。

 休憩場所に丘を選んだのは見晴らしがいいこともあるが、それと同じくらい、上流に位置することが理由だ。

 川を遡ると山に突き当たる。どうやら水源はこの山中らしい。

 

 連天山、ここに鶴羽染めの原料精製場、つまり遺体の解体現場があるのだろうか。

 解体現場が山中とはいかにもな雰囲気が漂っている。

 

「……にしてもここまで来ても川が濁ってないな」

 

「血抜きが完璧なんでしょう。牛のレバーも下処理が完璧なら金網に血はつかないでしょう?」

 

「生々しいから焼き肉で例えないでくれ……」

 

 まだチクチクしてくる識の例えは悪趣味だが確かに分かりやすくもある。まぁ、そんな高級品を口にすることはあまりないのだが。

 育ちの良さ特有のジョークを受け流していると、嫌な予感がした。

 

 

 

 カランカランカランカランッッツ!!! 

 

 その音は突如鳴り響いた。咄嗟に識を横抱きに抱えて離脱する。

 閑散とした山の中でその音は響き渡り、バサバサと鳥が羽ばたいていった。

 

「鳴子!? いつの時代だよっ!!」

 

「きゃっ、乱暴ですっ」

 

「言ってる場合かよ!? 舌噛むぞ!」

 

 すると周囲からズラッと仮面を被った男達が現れる。

 手には鎌や鍬を持っており、走って追いかけてくる。

 五人ほどだろうか。彼らは終始話すことなく俺たちを目掛けて一直線のようだ。

 顔に取り付けられた仮面は、ひょっとこや狐、岡目八目と多種多様で統一感がない。

 目的はわからないにしろ、この場所は彼らにとっても随分見られたくないものらしい。

 

 咄嗟に側に落ちていた石を振り向き様に蹴っ飛ばし、ぶち当てる。

 

 いくら俺が鍛えているとはいえ、女の子一人担いで走るのと武器を構えて走るのでは、どうしても距離が縮まる。

 少しでも速度が落ちてくれれば御の字だったが、反撃された事が意外だったのか思ったより動揺してくれた。

 

 チャンスと見て坂道を利用して加速する。慣れない土の感触に歯噛みする。走りづらくて仕方がなかった。

 

「あいつらなんなんだ!!」

 

「……まだ断定は出来ません」

 

 識がこういうってことはまだ情報が足りていないんだろう。俺も少し考えたが、後ろに見える仮面達が最優先と切り替え対処法を考えながら走る。

 

 幸い踏み慣れる道を歩いて来たこともあり、識を枝にぶつけてしまう心配はしなくても良さそうだ。

 

 不意に風切り音。

 

 サッと頭を下げると通りすぎていく鎌が視界に入った。

 

 ────ここまでするか。

 

 逃げるのもここらが限界になるだろう。それに、この地区の調査をするにあたってこれからも命を狙われることになる。

 

 ────痛い目を見せてやらなきゃな

 

 それだけは避けねばならない。

 24時間狙われ続けるとなると、俺は兎も角、識が危険だ。

 

「識、借りるぞ」

 

「えぇ。是非私を守ってくださいな」

 

 相変わらず守りがいがない。可愛くない返しをしてくる識に苦笑いを浮かべながら俺は意識を集中する。

 

 ────あった。

 

 識の内腿のホルダー。そこに肌身離さず持っている『覚の木片』を感じる。俺は、それに"波長"を合わせた。

 

 しっかりと"波長を掴んだ"ことを確認すると、識を下ろす。

 俺は向かってくる仮面の集団に向き合った。

 

 

 

 

 

 

 /木に巻かれたビニールテープ/=腐木の注意喚起

 /後方7m、鳥/=種、ヤマガラ

 /前方から、人。鎌、手の震え。少量の息切れ/=40代と推定

 /風なし、茂みの揺れ/=生物の痕跡

 

 膨大な情報が脳に直接叩き込まれる。

 頭上から振り下ろされる"だろう"鎌を予測する。

 数瞬早く回避し、右から飛び出てくる"はずだった"男の顎に拳を叩きこむ。

 

 ────2cm下だ

 

 ドゴッ

 

 瞬間、重い音が鳴る。

 的確に顎の少し下を掠めた拳は、意識を刈り取るには十分だったようだ。

 

 地面を蹴る。再び鎌を投げる"予定"の男の元に滑り込んでフックを入れる。

 仮面の男がたたらを踏みよろけたところにもう一歩踏み出し意識を刈り取る。

 

 後三人。

 

「よくもぉおおおおおおお!!!!」

 

 飛びかかってきた二人に姿勢を落として前に飛ぶ。

 スウェイの要領で鍬を避けると、正面にあるビニールテープを巻かれた木を思い切り殴り付ける。

 

 メキメキメキメキッッ

 

 異音を立てて崩れ落ちる腐りかけの木を倒し、背後の男二人を押し潰す。

 

 後一人。

 

「ボクシング!? な、なんなんだあんたはっッ!」

 

 戦意喪失したのか怯えた顔で固まる一人。だが、ここで無力化しておかなければ後が怖い。それに、1つ訂正しなければならないことがある。

 

「失礼な。バリツさ」

 

 ドコッ

 

 背後に隠れていたで"あろう"もう一人を振り向き様に殴り飛ばし、今度こそ本当に固まってしまった最後の男の意識も刈り取る。

 

 流石に疲れた。

 肩で息をしながら振り返ると、識が言った。

 

「服が汚れてしまいました」 

 

 ……はぁ。

 

 つくづく守りがいのない女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 "バリツ"、それはシャーロック・ホームズが使ったとされる武術。原型はボクシングだとか柔道だとか色々な解釈がある。

 現在それを使う人間は誰一人としていない。なぜなら正体が分かっていないからだ。

 

 ────俺を除いて

 

 識は、バリツとはシャーロック・ホームズ以外に使い手がいない、いや、使えなかったんじゃないかと言う予測を立てた。

 つまり彼しか持っていなかったもの、卓越した推理力が鍵だと。

 

 もちろん俺にそんな推理力はない。

 だが、俺には特異な体質があった。

 

『遺物感応体質』

 

 識にそう呼ばれる体質は、遺物に強く共鳴しその持ち主の力を借りられる。

 識の場合は『覚』の能力発動の核となる識の知識、推理演算能力の一部を再現するというもの。

 

 こうして一時的に借りる推理力をもって敵を制圧する、俺なりの"バリツ"が完成したのだった。

 

 始めから鍛えて自分で戦えばいいのに!!!! 

 

 俺の悲鳴は聞かなかったことにされて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「こいつらどうする?」

 

「放っておきましょう。いつ援軍が来るかも分かりません」

 

「一旦帰るか?」

 

「いえ、彼らが今のうちに現場を探しましょう」

 

「……援軍が来るかもしれないんじゃなかったか?」

 

「えぇ。ですので手早く」

 

 ここまで言うってことは識にはどれくらいの時間でどれくらい来るのかが推測出来ているんだろうか。

 

 能力を解除し先に進む。

 俺も識の演算能力を借りてるうちに読めればいいのだが、そういう訳にもいかない。

 スーパーコンピューターを得たところで使い方が分からなければ何の意味もないのだ。俺が使えるのは精々ノウハウのある戦闘についての予測だけ。

 しかも、使い過ぎると"遺物"に引っ張られてしまう制限時間付き。あの頭が冴える感じは好きなんだけどなぁ。

 

「…………ケガはありませんか」

 

「? おう。無事だよ。心配してくれたのか?」

 

「いえ、まだ使えるな、と」

 

「俺の喜びを返せ……!」

 

「冗談です。私の大切な犬なんです。ケガでもされては悲しいじゃありませんか」

 

「誰が犬だ誰が」

 

「お弁当の時捨てたプライドは帰ってきたようで」

 

 識と冗談のやり取りをしていると気持ちも落ち着いてくる。確かに調査をするならここらがいいタイミングだろう。

 後日にして厳重な警備になってしまうのも不味い。今のうちに何か成果を上げたいところだ。

 

「にしても、あいつらはなんだったんだ?」

 

「確証となるものは、まだ」

 

「まだまだ地区の事は分からないってことか」

 

「えぇ。ですから、まずは情報を」

 

「了解。一応周り気を付けろよ」

 

 なんてやりとりをしながらも上流までの道のりを歩いていく。

 すると、一軒の水車小屋があった。

 

「水車……? まだあるもんなんだな」

 

「私も実物は初めて見ました」

 

「脱穀なんかに使うんだったか」

 

「えぇ。揚水、脱穀、製粉、機械を回す原動機。水で回る大きな歯車との認識でも問題ないでしょう」

 

「怪しいな」

 

「遺体をバラす機構には丁度良さそうですね」

 

「うへぇ……」

 

 識は意地悪に笑うと水車を見やる。

「私好みです」と、いつもの台詞を言わないあたり、多少の倫理観は弁えているのか。

 一応警戒し、先に周囲を調べてみることにする。

 

 周囲の川を見る。あちこちに散らばっていた骨や皮は鳴りを潜め

 、水車小屋以降、パタリと体のパーツはなくなっていた。

 

 十中八九、ここが現場と見ていいだろう。

 

「どうする?」

 

「入りましょう」

 

「……じゃあ、レディファーストで」

 

「レディファーストの語源は危険な箇所を地位の低い女性に安全確認させるというものですよ」

 

「まさに今ピッタリじゃん。って痛って!」

 

 識に傘の先で爪先を叩かれる。いやだって怖いじゃんか。今もこの中で人が解体されてるかもしれないのに!! 

 

「日本男児は率先して前に行くそうですよ?」

 

「古い価値観だ。断固反対。俺今日からイギリス人になる」

 

「ならジェントルマンを目指して下さいな」

 

「男女差別反対」

 

「…………私を守ってくださらないのですか?」

 

「…………行きます」

 

 うるうるとわざとらしく瞳を濡らして俺に行かせようとしてくる。流石にどれだけ怖くとも美少女にそんな顔をされては勝てないのが男の子という悲しい生き物。

 

 いざ。

 

 心意気だけはしっかりとして木の板で出来た簡素な扉をノックする。

 "開けろ! 警察だ! "と突入することも考えたのだが、中で何が行われているか分からない以上、不用意に刺激することは避けたかった。

 

 何かあっても"観光"で貫き通す為だ。最も、男達を叩きのめした段階でもう手遅れではある。

 誰かいれば、と思ったのだが、返答は存外早かった。

 

「なんだい、そんなに叩かなくても開いてるよ!」

 

 威勢がよく、ハツラツな声と共に20代前半くらいだろうか。若々しさと女性としての快活さを併せ持った女がそこにいた。




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