転生したら敵組織の最高幹部の一員だったんだけど?   作:偽ポンキッキ

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2.集う騎士

 

 

 

 

 おれが転生した世界──『血染と贖罪の(サクリファイス・)輪舞曲(ロンド)』に登場する敵組織。

 それが〈教会〉である。

 魔なるものと契約を結ぶことで邪悪を極めた〈悪魔憑き(デモンズ)〉を徹底的に殲滅し、この世界に神聖なる神の法理を取り戻すという、なんだかいろいろと胡散臭い目的の元に行動している連中には、聖餐騎士団と呼ばれる最高戦力が存在する。

 

 神が定めた法理に背く異端者を狩るために、神より賜った十二本の神式剣装を携えることが許された、〈教会〉の中でも最強の力を持った十二人の騎士達。

 

 ……まあ、肩書きは凄そうだし、実際に劇中でも主人公達の壁となって何度も立ちはだかってくる。

 くるのだが。

 壁とはいつだって乗り越えられるためにあるもので、物語が後半を迎えた頃だと騎士団はそれほどの脅威ではなくなってしまうのだ。

 具体的な例をあげると、序盤はそりゃもう何シーンと通して猛威を振るっていたメンバーの半分が、最終強化を経た主人公が相手だと数文で消し飛ばされてしまうぐらい。

 それでも上位勢はまだなんとかインフレについていけるっちゃいけるのだが……戦いについていけることと、最後まで生き残ることができるかはまた別の話だ。

 そんな感じで、強さは確かだし出番も割とあるが最終的にはちょっと蚊帳の外な扱いにとどまるという、よくある敵幹部集団な聖餐騎士団は、メンバー全員がビジュアルの良い女キャラで構成されている特徴もあってか、プレイヤーからの人気は意外と高い。

 うん。

 男混じってるじゃねーかボケッ! と思った人は正しい。

 

 そうなのだ。おれ──ソーガ・グレイアスというキャラは、本来なら聖餐騎士団にいないはずなのだ。

 

 おれの記憶力がポンチなだけかもしれないが、そもそもソーガ・グレイアスというキャラなんて『血染と贖罪の輪舞曲』にいなかった気がする。

 まァ、仮にいたとしても、戦いに巻き込まれてすぐ死ぬモブか、初回版の特典についてくる設定資料集の隅っこにさりげなく記述されているぐらいの扱いだろう。

 おれが制作陣ならそうする。

 何故ならそういう顔だから。

 

「……」

「なに凹んでんのよ」

 

 長く広い廊下。

 そこには設置されている大きな窓。そのガラスを飛び越えた場所に見える、聖都の街並みの穏やかさとは正反対の悲しみを覚えていると、隣をちょこちょこと歩いていたリリスが話しかけてきた。

 無視しようかと思ったが、したらしたでまた面倒くさいことになりそうだ。

 おれは渋々答えた。

 

「なんでもねーよ」

「そんな顔しておいてなんでもないわけないでしょ!

 いーから話してみなさいよっ。話すだけでも楽になれるって言うし。

 それに、あんたの不景気なツラ見てると、こっちの気まで滅入ってきちゃうんから」

「……」

 

 こいつマジで口悪いな……。 

 とおれは思ったが、リリス・ジャガーノートとはそういうヤツなのだ。

 性格は真っ直ぐだが、口が悪く、手が早く、割と細かいことを引きずる上に結構ワガママ。

 けれど親しい相手が困っているのを見過ごせないぐらいにはお節介──もちろん、敵対者である〈悪魔憑き(デモンズ)〉を除いてではあるが。

 しかし、まさか馬鹿正直に自分の顔が地味だから落ち込んでいたと言うわけにはいかない。こいつは間違いなく爆笑してくるだろうから。優しいくせに意地悪ってなに? ちんちん亭?

 おれは、はあ、とため息を吐き、なんとかはぐらかそうと決めた。

 

「おまえみたいな……ツラがいいやつにはわかんない悩みだよ」

「えっ」

「……?」

 

 おれがそう言うと、リリスはぱっと目を見開き、それから前髪をくりくりと弄り始めた。そしてちらちらと横目でおれを何度も見てくる。

 トイレ行きたいのかな。

 

「……あ、あんた。そんなこと思ってたんだぁ。あたしのこと、顔が良いって」

「? まあ……」

「ふ、ふーん。そっか。ふーん。ふーーーん。ふーーーーーん」

 

 おれがはてなを浮かべつつも頷くと、リリスは眉を上げて口角を上げながらふんふんふん言いだした。足取りも心なしか軽くなっている気がしなくもない。

 漏らして精神が弾けちゃったのかな。

 奇行種と化した同僚をおれが若干ひきながら見守っていると、おれ達を引き連れるように前を歩いていたヴェドジャラク先生が笑った。

 

「ソーガくんは正直者ですね」

「はあ」

 

 正直者と言われても実感はない。おれが思う正直者は、秘蔵のコレクションを隠したりせず堂々と周囲に見せびらかせるヤツだ。

 いや……それは単なる変態か。

 上の空のまま返事を寄越すと、先生は顔だけを振り向かせてきて、

 

「誰に対しても、できる限り誠実であろうとする。それがあなたの数少ない美点ですよ」

「数少ないってなんスか先生! おれは人間の美点の塊みたいなもんでしょ!」

「うふふ」

 

 冗談は愛想笑いで流されるのが一番傷つくことを先生にはわかってほしい。

 おれはツッコミを求めてリリスを見た。リリスはまだふんふん言っている。

 もう嫌だ。

 早急にオリヴィエかマステマあたりのガチガチのツッコミ担当に来て欲しい。もしくはシャムザにメチャクチャに場をかき回して欲しい。だっておれボケ役なんだよ……!

 

 

 

 

 □ □ □

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、おれ達はひと際大きな扉の前に辿り着いた。

 足を止めた先生は、扉にノックをしてから、それほど大きくはないのにやけに腹の底に響く声をもって告げた。

 

「第四聖餐騎士、ヴェドジャラク・シュヴァリエ。

 第七聖餐騎士、リリス・ジャガーノート。

 第九聖餐騎士、ソーガ・グレイアス。

 只今到着いたしました」

「どうぞ~」

 

 厳格な先生の言葉とは裏腹に、扉の中から返ってきたのは、聞いてるこっちの気が抜けてしまいそうなほど緩い声である。

 しかし先生は気にすることなく、ゆっくりと扉を開いていく。

 徐々に視界が開けていくなか、目に映ったのは大きな円卓だった。

 机面は丹念に磨き抜かれているおかげか、天井がそっくりそのままそこに置いてあるように見えた。その周りには、背もたれに数字が書かれた椅子が十二個、それぞれの間の長さが均等になるよう置かれている。天井に吊り下げられたいくつかのシャンデリアを反射して、鈍い光沢が全体から放たれていた。場に満ちている空気さえも荘厳であるように思えてきて、どうにも息が詰まって仕方がない。

 息苦しさを感じて軍服の襟を緩めていると、扉を開けてくれたらしい相手が、ぱちぱちぱちと拍手しながら近寄ってきた。

 

「ヴェドちゃん、リリスちゃん、ソーガくん。ご到着~~~!」

 

 ウィンプルからはみ出すほど豊かな桃色の長髪を後ろに流し、身長と同等の長さの剣を背負ったシスターは、朗らかな笑顔でおれ達を出迎えてくれた。

 

 柔らかな雰囲気。

 ふくよかな胸。

 穏やかなタレ目。

 ふくよかな胸。

 和やかな声。

 ふくよかな胸。

 艶やかな身体。

 ふくよかな胸。

 

 それら全てを加味しても、おれは緊張を解くことができないでいた。

 なぜならば──彼女の名はテリオン・デッドロック。

 あのヴェドジャラク先生の上に立つ、第三聖餐騎士である。

 つまり聖餐騎士団のナンバースリーということになる。

 いや、胸のデカさの話ではなく。

 

 ちなみに初めのほうにおれが言った、終盤の戦場にもついてくる聖餐騎士……そのうちのひとりが彼女だ。場合によっては最終戦にも出番がある。

 そのインフレ具合を知っているおれにとっては、彼女はまるで災害が意思を持って動いているようなものだった。

 要するに、なるべく関わり合いにはなりたくない。

 

「あら、あらあら?」 

 

 だが、そう簡単に物事はうまくいかないもの。

 なんとか気配を薄くしようと目論んでいるおれの元に、テリオン……さんは容赦なく近寄ってきた。そしておれの顔を覗き込んでくる。薄い琥珀色の眼差しが光っている。怖い。

 

「ソーガくん、ひょっとして緊張してるの~?」

「あ、うす」

「ふふ~! かわいい~~~っ!!」

 

 おれの返答のどこがお気に召したのか、テリオンさんは嬉しそうに笑うと、いきなり抱き着いてきた。

 ふにゃん、と胸が押し付けられる。

 果実のような甘い匂いがいっぱいに広がる。

 しかしおれの心臓は恐怖で張り裂けそうだった。腹を空かせたヒグマに身体を嗅がれているような気分である。いやヒグマのほうがまだマシかもしれない。

 

「テリオン。ソーガくんが怖がっていますよ」

「そ、そうですよっ! ちょっと近過ぎなんじゃないですかっ」

 

 硬直するおれを見かねたのか、扉を閉めた先生がテリオンさんに向かって苦言を呈した。先生の隣にいたリリスも、どこか不機嫌そうに続く。

 サンキュー先生! サンキューリリス! 後で食堂でなんか奢るよ!

 

「そーなの~?」

 

 それを聞いたテリオンさんは身体を離すと、おれの顔をまっすぐ見ながら問いかけてきた。

 余計なことしやがって先生! バカ野郎がよリリス! 後で食堂でなんか奢れよな!

 

「ぃ……」

 

 蛙を見つめる蛇のごとき眼差しに、おれは声をそれ以上声を出すことができなかった。だから小さく頷く。パシリでもなんでもするからこれ以上は勘弁してくださいという願いを込めて。

 テリオンさんはおれの返事を見届けると、なぜかにんまりとさらに笑みを深めた。

 嫌な予感がする。

 その予感は、見事に的中した。

 

「それじゃあ、もっと、もーっと、ソーガくんのことぎゅーってしちゃお~~~!」

「!」

 

 それ死ぬ! おれ死んじゃう!

 今までにないほど、命の危機を濃厚に感じた次の瞬間である。

 

「──失礼します」

 

 ゆっくりと開いた扉の奥から、静かにその声は響いた。

 光の束を重ねたような金色の髪に、誰もが一瞬息をのむ。

 一縷の乱れもない所作に、誰もが一瞬釘付けになる。

 盲目であるために伏せられた目の静謐さに、誰もが一瞬呼吸を忘れる。

 

「お待たせ致しました」

 

 ただそこに在るだけで、ありとあらゆる祈りを引きつける。

 ただそこに居るだけで、ありとあらゆる願いを呼び寄せる。

 ただそこに立つだけで、ありとあらゆる邪悪を跳ね除ける。

 不撓不屈。

 万夫不当。

 燦然と光り輝く、最強の騎士。

 

「第一聖餐騎士、アリス・アルマディア」

 

 

 ゆえに、その綽名は〈光輝〉。

 ゆえに──〈光輝〉のアリス。

 

 

「寝坊しました」

 

 そこ、本当に最強の騎士なの? とか言わない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ソーガ→男一人なので肩身が狭い。女子が怖い。
リリス→ツンデレツインテール。ちょろい。
ヴェドジャラク→おっとりメガネ先生。怖がられてるのを若干気にしてる。
テリオン→ゆるふわシスター。デカい。ソーガをおちょくるのが好き。
アリス→盲目。最強の騎士。寝坊した
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