男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第10層 ユーノ先生の時間外講義Ⅰ

 

 パーティ加入の課題を果たしたとの報告を受けたユーノ先生の反応はかんばしいものではなかった。

 数日前に訪れたときと同じく気だるい静けさに沈む放課後の職員室にて、授業で使うプリントの作成をしていた先生はきなくさい表情で言ったものである。

 

「ふーん、あの子らのパーティか……あんた、ハナから長居するつもりないでしょ」

 

 ───バレてる。見透かされた気まずさから、つい目を逸らしそうになるのをなんとかこらえてオーリは訊き返した。

 

「先生、彼らのことをご存知だったんですか」

「アタシをなんだと思ってんの。仮にも教師ってんだから成績や素行も含めて生徒のチェックは欠かさないもんよ」

 

 マジかよ、見る目変わるな。さらっと流されるプロ意識にフェアリーくんがうめいた。

 

「イヤな言い方しちゃうと“腐ったみかん・良いみかん”は早い段階で見分けて分別したいってのもあるから。あ、これオフレコね」

「つくづく世知辛えっす」

「現実の職員室にゃ金八先生なんざ生えてねーんだよ」

 

 身も蓋もなさすぎる話に、まだまだピュアが残る少年たちは言葉もなかったという。

 先生は一旦休憩とばかりに肩を叩いて眼鏡の位置を直し、クソガキ二匹もといバカタレ学徒ふたりへと体を向けた。

 

「それで、まさかとは思うけどこれで課題クリアとかナメたこと考えてるんじゃないでしょうね」

 

 声色こそ平穏なものだが現役を退いたとはいえそこは熟練の冒険者、ものすごい目つきで睨みつけられたオーリたちは胃の腑が縮こまる思いである。

 

「なるほど私ゃ確かにパーティならどこでもいいとはいったけどそれにも限度はあるのよ。明らかその場しのぎで長続きしない解決策なんて持ってこられても首は横にしか振れないわ」

「そこまでツラの皮が厚いことは申しませんや、ウチらなりの考えあってこそですよ。まあ、ここはひとつ聞いてくれませんか」

「ふうん、そこまで言うなら聞くだけ聞いたげる。ただし……ちょっとでもふざけたことを抜かしやがったら、そんときはひどいからね」

 

 わかってますて。みぞおちの辺りが重くなるのを感じつつ、先生の目をまっすぐに見据えたオーリは右隣のフェアリーくんを指差し、

 

「本命の考えとしては、彼を相方にしてコンビを組もうと思ってるんです」

「それをパーティ結成の代わりに?」

「ちゃいますて。それを基本に、あちこちのパーティを助っ人として渡り歩こうってことで」

 

 オーリの考えとしてはこうだ。

 仮にどこかのパーティに所属したところでその関係がいつまでも続くとは限らない。卒業しちまえば(あるいは在学中でさえ)縁が切れることもままあろうし、忍耐や考えの足りない思春期に特有の些細なズレをきっかけに関係が消えることもある。

 最悪の場合だと探索における不慮の事故でパーティが『解散』してしまうことだっていくらもありえる。くどいようだが冒険者稼業は命がけなのだ。

 

 どうせどこにいようがゼロからやり直しなリスクは付いて回るわけで。そんくらいならいっそフリーランスの助っ人として様々なパーティに出入りし、後々で高く売り込めるスキルや人間関係の構築はじめとした各種営業経験とその技術でも積んでたがよかろうというのがオーリなりの戦略だった。

 

 ……なお、いかにもボクは考えてますよみたいな風情のクソガキが語ったこれらの内容、ほとんどが例のぼんくら連中ンとこへツラ出すちょい前にうすぼんやりと思いつき職員室へ来る前に軽い修正を加えただけの、宿題放置して夏休み終了を迎えたアホ小学生ばりにエエカゲンな代物である。

 

 

「とはいえ件の『彼ら』がちゃんと学業に励むタイプだったら、俺らもこんなこと考えずに済みましたよ」

「ふん、大まかなところはわかった。多少なりともツッコミどころはあるけど、アンタらなりに考えた末の結論がそれなら言うこたないわ」

「納得いただけたようでなによりです。ただ、これをやるにもいくつか問題がありまして……」

「その先はみなまで言わんでも判る、どんなパーティでもやっていける技術か需要がある人材になりたいってことね。そこを手前勝手な判断だけで決めず、まず相談から入るってとこだけは評価したげる」

「あざーす。ちゅうわけでぜひにとも、先達(せんだつ)の経験とお知恵にすがらせてもらってよかですか」

「構わんよ、それが教師のメシの種。ちょっと長くなるけど精々、腰据えて聞くんだね」

 

 ひとまず、最初の関門は突破できたらしい。オーリはこっそり安堵の息を吐いた。

 

   ◇

 

「そうだね、まず第一歩として転科から始める必要があるんだけど……オーリ、あんた希望の職種とかはあるのかしら?」

「特にはありません。ただ、せっかく魔術士学科でマスターレベル行けたんで引き続き魔法系の学科を受けようと思ってます」

「そこは私も妥当なとこだとは思うけど、それならなおのこと学科選択は慎重にならないと後悔するわよ」

 

 言葉を切った先生はこれ見よがしに肩をすくめてみせ、

 

「なんせ今日び、専業の魔法使いにゃ需要なんかないからね」

 

 予想もしなかったその一言に、オーリは思わず敬語を忘れて訊き返した。

 

「マジで」

「マジよ。今のあんたが踏破できる程度の地下道なら魔法使いだって重要な戦力だけど、そこ過ぎるとイマイチ決め手に欠けちゃうの。そんでもってさらにその『次』に行くと補助や回復が文字通りの命綱になる。もちろん、有効な属性を考えた上での攻撃魔法なら十分に役に立つけど基本はレベルを上げて装備でぶん殴るのが強いんだな、これが」

 

 私が現役の頃でさえ、魔法バカ一代よりあれもこれも出来るやつのが需要あったわねと、先生は語った。引退したとはいえ熟練の冒険者の言葉は重い。

 

「ちょい前にすげーヒットした漫画のキャラみたく“一つのことを極めぬけ”じゃダメなんすか?」

「ムリムリ、それやって許されるのは『その一芸だけでメシが食える』やつだけよ。似たようなことうそぶいてたアホはいくらもいてたけど、少なくとも私が現役の頃からこっち、実際にやれてたやつなんか一人もいなかったわねー」

 

 どいつもこいつもそんなもんが不勉強の言い訳になると思い込んでやがるんだ。まつわるなにがしかを思い出したのだろうか、先生は忌々しげな風情で眉をしかめてみせた。

 

「やれることを増やそうとしないやつって、少しでも環境に変化があったらあっさり切り捨てられるか落ちこぼれるんだがね。それに言っちゃ悪いんだけどあんたやあたしみたくな、ヒューマンの魔法職適性も考えたらダメージソースとしてそこまで期待できないってのもあるし。だから直接に攻撃する魔法は相棒に任せとくんだね」

「戦力として微妙なら他にやれることを増やして仲間の力を上手く活用できるポジションに回れってことですか」

「そういうこと。ただし、ただ手数を増やすのではなくその習熟も並行しないと無駄に終わるよ。不必要な場面で無用な行動を取るバカタレなんてどんなトコでも爪弾きなんだから」

 

 

 求められるのは置かれた状況において有効な技や術を、必要な場面で適切に扱える“技術者”ってわけだ。

 そもそも健康な身体さえありゃ誰でもウェルカム、脳ミソより筋肉バンザイな時代はともかく、今日びの冒険者はアホじゃあとても務まらない。

 長く続けてる連中は軒並み探索に必要な体力・技術はもとより、得られたアイテムに関する知識やそれら卸先の開拓に営業、果ては各地の相場動向だのにまで気を配るという一人親方か個人事業主なわけで。これらができなきゃ腕っぷしくらいしか取り柄のないチンピラ予備軍の扱いだ。

 

「今のあんたじゃ手の届かない話だけど、カリキュラムの後期に潜るような地下道はガチでシャレにならんからね。当然、その頃には他の学徒連中だって相応にレベルアップしてるから見極めと立回りだいじ」

 

 かく言うアタシにしてからが、卒業のチョイ前くらいになったらティルトレイくらいじゃ沈まない体質になってたし。なんでもない事のようにとんでもない事を言う先生に、うさんくさそうな目をフェアリーくんが向けた。

 

「マジで」

「マジよ。疑うってんなら今度の戦術講習のときにでも時間とってあげるから、あんたらが思いつくかぎりの魔法をあたしへ叩き込んでごらん。かすり傷以上を負わせられたら上級カリキュラムまでの試験を免除したげる」

 

 どうやらハッタリではないらしいのを悟り、それ以上は食い下がることなく引き下がったフェアリーくんに代わってオーリが手を上げる。

 

「手数で勝負ってことは……〈超術士〉あたりが次の転科先ってことですか?」

 

 超術士(サイキッカー)とは、一般に〈超能力〉と呼称される術を扱う魔法系上級学科のことだ。超能力ってのは魔法とかの範囲でええんか? ムーとかMMRの専門分野ちゃうんか? と思われるかもだが、細けぇこたいんだよそういうもんだよと割り切るのも大事なことである。

 

 習得できる魔法はパーティメンバーの反応速度や攻撃耐性等の向上から、真逆にエネミーの行動阻害などの支援的なもの(バフ・デバフ)を多く扱うが、攻撃や回復に関する魔法にも中々のものが揃っているのもウリだ。

 またマインドシーカー的な超能力を自分の体にアレしてコレすることで、並の魔法使いでは装備さえ難儀する重量級の武器や防具を扱うことを可能としており、立ち回り次第では攻・防・守の全てに対応する魔法戦士として活躍できるのも魅力である。

 

 ……もっとも魔法に関しては結局のところ専門職に大きく劣るし、長所だって逆に言うなら装備やレベル次第では何もかもが半端なへっぽこになるリスクの裏返しなわけで。そのこともあって今のところポテンシャルの割に専攻する学徒があまりいない微妙学科の不名誉をほしいままにしているのだが。オーリがやや渋そうな顔をしてるのはそこらに起因する。

 

「まあ正解。もっと言うならそこはあくまでも中継地点で、最終地点は〈僧侶学科(プリースト)〉よ」

 

 そう語る先生に失礼とは思いつつ、今度こそ困惑と不審のごった煮めいた視線をオーリは向けた。

 

「僧侶? そりゃ確かに回復魔法はどこでも歓迎はされるでしょうけど、それなら相方で間に合ってますよ。彼と違って鑑定ができるでもない、あんまし強そうなイメージもない基礎学科じゃ足元見られるのとちゃいますか」

「言うと思ったよ。賢しらぶってもまだまだ勉強が足らんわクソガキめ」

「ひでえ」

「じゃあそこらの認識の矯正も兼ねて、復習のお時間といこうか。しっかり聞かないと教科書を音読させながら地下道耐久マラソンやらすからね」

 

 先生はデスクに放置されたマグカップを手にし、すっかりぬるくなったコーヒーをすすった。

 

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