「───魔術 Lv3 グループ
妖精が打ち鳴らす鈴のような声とともに放たれた光の矢は狙いあやまたずモンスターたちに吸い込まれ、内包した熱の因子をもってその生命を刈った。
“ばたばた”と斃れていくそれらに構うことなく、残った異形の群れに別の影が突っ込み手にした長剣を一閃、モンスターを叩き伏せていく。
何匹目かのモンスターの頭をカチ割り、オーリは憮然としたツラでこぼした。
「あーあ、判っちゃいたけどやっぱし俺は
人斬り包丁というのは遮二無二振り回せばいいってものではない。斬る際の適切な力加減に角度、狙い所をしっかり身に付けないと威力を十全に発揮できないどころか勢い余って刃先があらぬ方へ滑ったり、最悪、自分の手足を斬っちまったりするのだ。
これが他のクラスメイト、特に真っ当な戦士職としての経験を積んだ連中なら骨や甲殻等の硬い部分を避け、腹・血管・関節などの比較的に柔らかかったり当たれば行動に支障をきたす部分を『斬る』のだろうが、所詮は門外漢の悲しさよ。とにかく当てられそうな場所めがけて力任せにブン回すのが関の山だ。これでは刃物というより鈍器の扱いである。
「いい武器が手に入ったから試してはみたものの、今まで通り棍棒を振り回してたがマシだな、こりゃあ」
そう結論づけたところで最後の一体───多分シャークだろうけど確認するのも億劫だった───に頬っぺたをぶん殴られた。
「痛ったいなあ!」
地下道に入りたての頃ならちょいとした致命傷もしくは軽く瀕死か普通に死体となっただろうそれも、今のオーリにとっては悪罵で流す程度のものでしかない。間髪入れず相手の顔面へ左手に装備したバックラーを叩きつけ、怯んだところへヤクザ蹴り。すっ転がったところを踏んづけ逃げられなくしてから無防備などてっ腹へ長剣ブチ込んでやる。
仕上げに先程ボコったモンスターの、まだ息がある連中(死体が消えてないなら生きてる証)にとどめを刺して回ってから戦闘終了。
さして上がってもいない息を整えるその隣へ、魔法をブッパした後に天井付近まで退避していたフェアリーくんが音もなく降りてきた。
「なんだ、もう使わねえのか、それ。もったいねえ」
「俺みたいなへっぽこが持ち腐れてるのがよっぽどもったいねえし。売っぱらって活動資金に回しちまうがよかろ。上手く扱えるやつなら高く買ってくれるさ」
「まあそりゃそうだがよ、せっかく
「無理言うない。俺も転科の後でちょっと時間が余ったからお試しで二刀流とクリティカルの講義に混ぜてもらったんだけど、これがもうサッパリでさ。必要な動きや技術を頭では理解できても、身体が全然ついてこないんだよね」
やっぱ向きじゃないの、お餅屋さんはお餅だけ売ってりゃいいの。言わずもがなのことをオーリは口にした。
レベリングとて万能ではない。無駄に上がったレベルの恩恵で、今や体力だけならそこらの前衛職にも劣らないオーリだが、それを活かすための技術に関しては専門のカリキュラムを受けた連中の足元にも及ばないのが現実だ。大体、先程の戦闘にしてからがろくな回避も防御もせぬまま剣を振り回し、殴られたらそっちに殴り返すというアホみたいな立ち回りだったりするし。
「ま、そんなことよりさっさとアイテム拾って次に行こうや。多分だけどここの狩り場を周ったくらいでまたレベルアップするはずだよ」
「おーう」
相方をうながし用済みとなった長剣を道具袋へ仕舞う───その前に、オーリは先程まで酷使していた刀身“しげしげ”と眺めた。
血糊ひとつない新品同様のまっさらだ。あれだけ雑な扱いをしたからには多少なりとも歪みなり刃こぼれなり生じてしかるべきなのだが。
───ま、これも地下道の不思議よな
考えてもしょうがないことなぞ、冒険者の界隈ではアホほどあるのだ。
◇
悩み多きバカタレ二匹、もといアホ二人ことオーリとフェアリーくんのコンビが進路指導を受けてから早、3週間が過ぎようとしていた。
転科とそれに伴う科目選択に単位確認、基礎カリキュラムの受講と習得魔法の更新等々───諸々の手続きに数日ほどを要したが、以降は授業にも出ず地下道へ引きこもってモンスターを狩りまくり殺りまくり、暴れるだけ暴れて限界がきたら速攻トンヅラ、寮に戻ってフェアリーくんに傷を直してもらい魔力だけは回復するが体力も気力も戻らない休憩を入れてまた探索……というサイクルを繰り返した結果、なんとこいつら揃いも揃って準マスターレベル(Lv7魔法使用可)までこぎつけやがったものである。
空より青い尻っぺたに卵の殻が引っ付いた駆け出し1年坊としては上々を越えた成果だが、クラスメイトの大半は呆れるかドン引きであったという。
まあそらそうだ。いくら低難易度の雑魚狩りメインとはいえパーティの体もなしてない魔法職による二匹編成、しかも前衛介護もなしに探索を続けるとか控えめに言っても狂気の沙汰である。
どこの世界に飛び込みの練習と称して
とはいえ先の生徒指導の際、ユーノ先生も語っていたように地下道巡りにおけるモチベーション維持にゃそれなりの問題があるわけで───
冒頭の手に汗握る(笑)へっぽこバトルから半刻ほど後、いくつかの狩り場を巡りいつものアイテム拾いを終えたところで、オーリは難儀そうに腰をたたきながら相方へ提案した。
「んー……今日はもう帰らんかね。お互いに体力がシャレにならんくなっとると思うんだが」
「そーだな。ぼくも頭がぼんやりしてきたし、いい加減ここらが切り上げ時だろうよ」
「異議なしやね───ほんじゃ疲れてるとこ悪いんだけど『帰りの魔法』たのむ」
「あいよ。じゃあ、こっちゃ来いや」
手招きされたオーリが横っちょに移動したのを確認し、いざ呪文を唱えようとしたところでフェアリーくんが何かに気づいた顔で“ぼそり”とつぶやいた。
「……なあ、もしかしないでも……ぼくら臭わね?」
「言うてはならんことを……」
とはいえお風呂にも入らず地下道巡りはやりすぎだった。オーリは肩の辺りに鼻を近づけ眉をしかめた。最後に風呂入ったのがどんだけ前だったかの記憶すら曖昧だ。
なんでそこまでやるかねと思われそうだが、通常の6人編成パーティでは得られない高効率の稼ぎと転科直後の超速レベルアップに浮かれポンチになって、お互い頭がパーになってたとしか言いようがない。あまり考えたくないけど、他の学徒連中のドン引きした態度のいくらかは“これ”も含まれているのだろう。
相棒の声が耳に入っているのかいないのかも判らない様子で、フェアリーくんも頭を“ぼりぼり”掻いている。
「あー……頭ちょー痒ぃー。一度気になりだすとダメだな」
「美少年がそういうのやめーや。他のやつが見たら幻滅すんぞ」
「うるっせーなあ。ツラの良し悪しがどうあれ中身は同じ人のそれでしかねーんだ、頭もかけば屁もこかぁな」
身も蓋もあったもんじゃねえ。積もりに積もった疲労と嘆きに顔面筋を引っ張られながら、オーリはふと思い出したことを口にした。
「そういえば知ってっか? 探索に夢中になりすぎた冒険者はさ、いつしかシャバに戻ることも考えられんくなってさ、延々と
「あー? 〈デーモンズ〉だっけか。誰に吹き込まれたのか知らんけどンな与太話を真に受けてんなよ、ばーか」
「与太はひどくね。これ先輩から聞いた話なんだぜ」
「だからなんだっつーの。大方、地下道入りたての連中が
───聖術 Lv7 パーティ
歌うように唱えられたフェアリーくんの呪文によってスレッドに設置されている〈ターミナル〉の脱出機能が遠隔起動され、二人の姿は一瞬にして地下道からかき消えた。
◇
地下道を出たオーリは飛び込んできたお天道様の御威光に目を細めた。
「お日様が目に染みる……」
明るさや位置からすると、今はお昼のちょい前くらいだろうか。その横で目をこすりつつフェアリーくんがいった。
「まったくな、こんないい天気に地下道籠もりなんて間違ってんぜ。なあ、せっかくだし寮戻る前にちょっくら日向ぼっこでもしていかねーか」
そいつは悪くない。オーリは二つ返事で頷いた。
フェアリーくんにしてみりゃなんの気なしに言ったのだろうが、ここしばらく地下道に籠もりきりだったせいで体内時計も狂ってるだろうからちょうどいい提案に思えたのだ。
まだ人影もまばらなポータル脇の受付で探索終了の手続きを済ませた二人は、塩ぶっかけられたナメクジより頼りない足取りと死にかけのガガンボみたいな飛び方で少し離れた場所にある、珍妙な石像がアホほど置かれた空き地に向かい腰を下ろした。
そして大の字になって倒れた。
長期の探索を終え緊張の糸が切れたせいだろうか、両人ともに今まで溜まっていた疲れが子泣きじじいのごとくのしかかってきたような気分だった。
「あぁ、なんじゃこりゃあ……情けねえがもう一歩も動けねぇ、つーか動きたくねえ」
「今まで気付けてなかっただけで、こんなに疲れてたんだね……俺も体が言うこと聞いてくれんし、もちっとだけここで休んどこうや。運が良けりゃ手の空いた保健委員さんが回復魔法をかけてくれるかもだし」
「そうだな、そうすっか……あと悪いんだけど、ちょっくら寝るからさ、もしおまえが先に起きたらぼくも起こしてくれねーか……じゃあ、おやすみ」
「わーったよ───おやすみ」
短く返し、オーリも後ろへ組んだ手を枕に目を閉じた。