男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第16層 迷宮のしたたり

 

 パルタクス学園における各部活に委員会活動というやつは、一般的な学校のそれとは大幅に(おもむき)(こと)にする。

 まあそらそうだ。しつこいようだがここは冒険者育成学校。年がら年中を得体のしれないダンジョンにて、得体のしれない珍生物とのドつき合いに終始する尋常ではない学園の諸活動もこれまた尋常なものには収まらないのだ。

 

 それら並ではない諸活動の中でも〈保健委員会〉が請け負う業務は非常な多岐にわたると同時に重要度の高いものとして知られている。

 

 例えば普段の授業や訓練、モンスター相手による怪我の治療なんてのはまだ序の口。

 探索中に負った毒や呪いの除去から死亡者の蘇生・復活、場合によっては迷宮で遭難したバカタレ(高確率でZ級ゴア映画の死体)の定期巡回班による回収ないし現場での蘇生措置等々……他にも数え上げたらキリがないほどの業務を請け負っている。

 

 お陰で他の委員会より優先して潤沢な予算と人員を得ているにも関わらず、その内情は万年人手不足と超激務によってお寒いかぎり。

 ついでに関係者の胃薬と頭痛薬の使用回数もうなぎのぼり。魔法で治さないのは他人に使っちまってるので魔力に余裕がないせいだ。

 

 

 今回、オーリ達が引き受けた〈クエスト〉はそんな多忙を極める保健委員会が常時募集している補助業務のひとつであった。

 

   ◇

 

 放課後になった。

 

 冒険者育成学校といえども授業を終えた後の光景は普通の学校のそれとあまり変わらない。

 

 教室ではクラスメイト達が友達に声をかけあったり今日の予定を訊いたりする姿が、窓の外ではだだっ広い校庭のあちこちに体育会系の部活動や自主練をこなす面々が走り込みやストレッチをしている姿が見られ、校庭のすみっこに目をやれば発声練習に喉を枯らすやつもいる。

 

 一般の学園と違うところがあるとするなら精々がとこ、体動かしてる奴らをよく見りゃ軒並み全身鎧だの甲冑だのに身を包んでいたりとか、発声練習も別にコーラス部に所属してるとかではなく魔法系学科の連中による滑舌法や高速詠唱の練習(隅っこにいるのは万が一、魔法を暴発させても被害を出さないため)だったりだし、先のクラスメイトにしても雑談や遊びへのお誘いではなく今日はどこの地下道でどこまで探索するだの何のクエストを受けるかの相談でしかない程度なもんだ。

 

 そんなすっとんきょう青春模様どもを横目に、オーリとフェアリーくんがクエストの依頼元から指定された場所───いつもの地下道侵入用ポータル脇に設営されてる出張保健室───に向かうと、そこでは保健委員会の腕章を付けた少女がパイプ椅子に腰掛け読書をしながら待っていた。

 

 明るいブラウンの髪をセミロングにしたその少女は『魔法の豚足』なる書籍から目を離し、オーリ達にかすかな笑みをくれた。

 

「───あら、誰が来るのかと思ったらオーリじゃない。今日はお手伝いを受けてくれてありがとう」

 

 少女の閉じた書籍が“ぱたん”という音を立てた。

 歳に似合わぬ落ち着きを感じさせる声音(こわね)と、いつでも絶やさぬ柔らかな笑顔が印象に残る彼女の名はユマ。

 僧侶学科に籍を置くオーリ達の2つほど歳上の先輩であり、同学年において一、二を争う回復のエキスパートとして知られている。彼女にはオーリ達も何度となくお世話になったものだ。

 

「ユマ先輩、こんちゃーす。お手伝い言うたところで主に回収と、Lv7長転移(マハロール)やこないだ覚えたばっかのLv5跳躍(マロー)使っての運搬くらいすけどね」

「同じく。ようやっとLv7までの聖術が使えるようになったんで、小遣い稼ぎついでの実験と効果検証です」

 

 後輩2匹の申告に、ユマ先輩は本を懐に仕舞いながら「ふふっ」と笑みをこぼした。

 

「おっけ、おっけー。それでも十二分に助かるよ。この時期は追い込みで無理をしがちな子が多い上に、うちら(保健委員)も自前の勉強に忙しくなるからさ、借りられるなら猫の手でもヒゲでも尻尾でもありがたいんだ」

「あー、言われてみりゃ定期考査も近いですもんね」

「そういうことね。ところで君達は大丈夫なのかな? お勉強、ちゃんとしてる?」

「そこらはまあ……ぼちぼちです。相方は元から優秀ですし、俺もレベルだけは無駄に足りてるおかげか、最近は一夜漬けの効率も上がってるもんで」

 

 オーリの語ったことは嘘ではない。

 前にも述べたが〈地下道〉で得られる経験、それに伴うレベルアップという現象による能力の向上は体力のみならず知力においても外界におけるそれと一線を画する。

 具体的には学園に入学した直後は読み書きもやや怪しかったぼんくらが、数回ほどのレベルアップを経ただけで魔法使いとかいう頭脳労働系のテンプレ学科に転科できたとかがいい例だ。

 

「ふぅーん……個人的にはしっかり身に付かないタイプの勉強法はあんまり感心しないんだけど、依頼とはいえお手伝いしてもらう私が言えた義理でもないわね」

「うっす。もうちょい余裕ができたらそんときゃキチンと予習復習も心がけますんで、今回ばかりはおめこぼしくだせぇ」

「ん、よろしい───じゃあ世間話はここまでにして、今回の〈依頼〉についてざっと説明させてもらうわね」

 

   ◇

 

 ユマ先輩からクエストに関する説明と指示を受けてから数分後、オーリ達は〈パルタクス地下道〉に姿を現した。

 

 全階層数(スレッド)は3。基本的な罠やモンスター、内部構造の難易度こそホルデア登山道やトレーン地下道と大差はないものの、ときたま不意打ちのように強力な個体が紛れてくることもあり、多少はこなれたパーティでも油断をすれば保健室送りは免れない。

 つまりは初心者から中級者にいたるステップアップとしての意味合いが強い地下道である。

 

 今回、彼らが請け負ったのは保健委員があちらこちらの地下道で行っている巡回業務の補助だった。

 

 主たるところでは前もって申告された時刻を過ぎても帰還しないパーティの出迎え(全滅してるならその死体回収)、並行して地下道内部で立ち往生してたり遭難しそうなパーティを発見したら状況と程度に合わせた助力(自力脱出ができるなら回復魔法をかけてやり、ダメそうならポータルまで送る)等がある。

 オーリ達はまだ1回生な上にこうした依頼を受けるのも初めてということもあり、今回は遭難者の救出だけを頼まれている。ユマ先輩いわく、「多分だけど、みんな死んじゃってる。あなた達みたいに慣れてない一年生じゃ死体回収だけでもキッツいから余計な仕事はさせらんないわ」とのことだ。

 

「しかし、隅から隅まで探すのはさすがに骨だなあ……丸一日は潰れちゃうね」

 

 費やされる手間と時間を想像して暗い気分を隠さぬ相方をどう思ったのか、陰鬱そうなツラの横まで”ふわり”と浮かび上がったフェアリーくんがその肩を叩いた。

 

「それなら問題ねーよ。聖術の中にゃターミナルを操作して各スレッドの活動履歴(ログ)を閲覧する魔法てのがあるんだ───今まで何に使えばいいのかサッパリ判らん代物だったけど───これなら遭難したアホがいるスレッドくらい特定できるぜ」

 

 それを聞いたオーリは現金なほどに表情を変えた。

 

「まじすか。そんな便利なもんあるなら早速おなしゃす」

 

 あいよ。短く応えたフェアリーくんが件の呪文と補助魔法を唱え、並行してオーリも使えるかぎりの補助魔法を唱える。

 〆にフェアリーくんが視界確保用のLv3大明(ミルモア)(以前使ったLv1小明(ミルワン)と違い地下道出るまで効果が続く)を唱えて準備完了───クエスト開始である。

 

 道具袋からメモ帳と地図を取り出してクエストの内容と現在位置を確認するオーリに、フェアリーくんが探査結果を告げた。

 

「履歴によると今回の依頼で回収する遭難者連中、全員がCスレッドで消息を絶ったとさ」

「うぅん、全員だって? 〈イカロフォース〉にでもカチ合ったのかな」

 

 Cスレッドを徘徊する、大昔に存在したとされる超古代文明───ウソかホントか知らないが地下道を築いた張本人とかなんとか───の置き土産ともいうべき、無駄に強力で死ぬほど(ガチで)迷惑な自律兵器群のことを思い浮かべたオーリは顔をしかめずにはいられない。

 

「さぁてね、戦闘ログまで閲覧できるわけじゃねえからなんとも。ひとまずCスレッドまで跳ぶか?」

「うんにゃ、歩いて行こう。幸いここは23番スレッドだ。以前の探索で隔壁は片っ端から開けてあるし、ちょっと移動すればポータルに着くよ」

 

 不思議なもので地下道というものは各スレッドの端っこにあたる区画(グリッド)に『壁』が存在しない場合、そこを一歩でも踏み出すとなぜか当該座標軸で真逆の地点に出てしまう。つまり東西軸を座標的に区切って合計30区画で構成されたスレッドの場合、最東端の30区画目から東に進むと最西端の1区画に出るというわけだ。

 

 一説には空間が歪んでるとか地下道におけるポータルの変形版だとか、はたまたスレッド制作者がめんどくさくなって手を抜いたんじゃねえのとか好き放題に語られているが、真相はいまだ不明なままである。冒険者達は地下道の移動に際してこの珍現象を利用することで魔法に頼らずとも大幅な時短、ないし魔力の節約を可能とするのだ。

 

 ついでにここらの説明に関する授業をサボったり教科書を読み飛ばしたりするバカタレが、気が付かぬままに延々と地下道をループしたりそのまま遭難したりもするのだ。

 

   ◇

 

 X軸(南北)で1つ、Y軸(東西)で3つ分の区画を移動した先にあるポータルを使いCスレッドに到着した彼らだったが、着いて早々モンスターに取り囲まれてしまった。

 しかも隊伍は4、それぞれ4~6匹の大所帯なので逃げ出すのも難しそうときたもんだ。

 

「……こんなときほどアホみたいにモンスターと出くわす地下道の、いやさ世の不条理と不思議よ」

 

 今は経験値いらねーんだけどなあ。口を尖らせてちょい前に手に入れたばかりの銅槌(コッパーメイス)を構えるオーリを制するように、フェアリーくんの小さな体が前に出る。うんざり顔の相方とは対象的にその口の端は好戦的に吊り上がっていた。

 

「まあいいじゃねーか、ここは任せとけ」言うが早いかフェアリーくんの朱唇が幽かに動き、金鈴(きんれい)を打つような妖しい音色が鳴り響く。彼ら種族に固有の処理能力と敏捷性を駆使した超高速詠唱だ。

 

「───魔術 Lv7 全域 核撃(ティルトレイ)

 

 オーリのそれとは比べ物にならない精度と速度で編み上げた大魔術がモンスターをなぎ払う。

 いや、『消し』飛ばした。

 

 同じ魔法でもここまで威力が違うものか、オーリが使ったときには体や手足を吹き飛ばすのが精々だった光の矢は、モンスター達に吸い込まれるやその体を霞のごとく『消滅』させていく。

 もはやオーバーキルというも愚かしい蹂躙を見届けたフェアリーくんは満足げに息を吐いた。

 

「うひー……やっぱLv7魔法の威力すげーなあ。クセになっちゃいそうだわ」

「気持ちは判るけど、あんましバカスカは撃たんでくれや。どんな状況でも俺かきみのどっちかが、1回分の魔力(離脱用)を残しておきたいからね」

「わーってるよ。なんぼなんでもそこまでトリガーハッピーにゃならねぇや」

 

 フェアリーくんは“べえっ”と舌を出した。こんな小憎たらしい仕草すら目もくらむほど魅力的に映るのだから美少年───ただし度外れた───というのは得なものだ。そのお得感も台無しにして余りあるのだから性格というのは大事なものだ。

 

 ちなみに今までにも度々出てきた『呪文のレベル』というのは冒険者や学科ごとに設けられた個々人のレベルとはまた別腹の、魔法のランクとカテゴリーを合わせたようなものである。

 区分けとしてLv1~7までがあり、レベルに対応した数が増えるほど強力な魔法だと思ってくれればいい。

 

 ひとつのレベルごとにそれぞれ扱えるのは4種類まで、使用回数はLv全部通して最大9回となっている。つまり同一レベル(カテゴリー)内の魔法ならどの種類を使おうと9回で打ち止めということだ。これはどんだけ冒険者としてのレベルを上げようが変わらないし、やっぱりというか理由は不明。

 魔法系の学科においてはLv7までの魔法をどこまで扱えるか、次にその使用回数を最大(9回)まで増やせるかが一つの基準となっており、その意味でこの二人は異例の成果を出したとも云える。

 

 もっとも、前にも述べた通り傍目には身の安全が二の次三の次なヤバキチの類なので、同級生はおろか教員連中からの評価もちと厳しかったりするのだが。

 

 自分達を取り巻くこれらの扱いにフェアリーくんなどは「結果はちゃんと出てるんだからいいじゃねーか」などとぶーたれるのだが、オーリに言わせればそれもまたしゃあなしだった。

 なにせ彼らはどちらも魔法系の学科、つまり本来なら後衛で戦況の推移を測りつつ適切な魔法で援護するのがメインのお仕事な上、特にオーリは他者との連携どころかパーティを組むことすら放棄してソロ探索を繰り返していた身である。協調性に疑問符をつけられたところで文句のあろうはずもなく。

 本来なら求められてもいない能力ばかり育ち、自分の役割を果たすこと(ロールプレイ)が満足にできないというのは冒険者、もしくは共同作業者としては歓迎はしにくいってことだ。

 

 なにより、実情はさておくにしても己の身をも考えないようなのは他人すら容易く危険にさらすのだから、そんな輩に背中なんぞ任せちゃもらえないのもある。寡聞(かぶん)にしてオーリは世の中にオメガファイターや式神の城みたいな、超危険行為で点数の上がる仕組みが実装されたという話を聞いたことがない。

 

「……ゆえに、今までに出した成果を担保としてコツコツ信用力を上げていくっちゅーのも、俺らがクエストをこなす理由でもあるわけやんな───あ、死体袋開けてくんね」

 

 邪魔者を始末してから少し歩いた先で発見したパーティの死体をかついだオーリに乞われ、フェアリーくんが『保健委員会』のロゴがでかでか記された死体回収用袋の口を開けた。

 オーリは小さく礼を言い、バカタレどもの死体を次々と袋詰めにしていく。

 

 死体を回収し終わったら次に当該区画を徹底的に探り、パーティ連中の装備や持ち物(後で蘇生するのであえて『遺品』などとは言わぬ)も回収してからようやっと作業終了となる。オーリ達は大きく息を吐き、難儀そうに肩や腰のあたりを叩いた。

 

「はー……考えてたよりキッツいなあ」

 

 なるほどユマ先輩が言ってたのはこういうことか。肉体的には大した作業ではないのだが、それでも人の死体というやつは精神的にクるものだ。

 こんな愉快ともやりがいとも果てしなく縁遠いお仕事を、毎日のように行ってくれてる保健委員会のメンツにはつくづく頭が下がる。

 

 その頭が下がる先輩からの指示だと、生きてるか状態異常による行動不能程度なら現場の状況と判断で回復措置を、死亡してるなら遺体の回収だけして蘇生は保健委員に任せろとのことだった。

 なので、後はこのバカチンの袋詰めを地下道の外で待機してる保健委員に渡すだけであるのだが、フェアリーくんはやや残念そうにつぶやいた。

 

「パイセンも意地悪だね。せっかく覚えたLv5蘇生(ドルトレイ)Lv7復活(マドルト)を試せる機会だって思ったのにさ」

「そらしゃーなしやで。きみの技量を疑うわけじゃないが、もし失敗したら当事者や任せた側にケチが付くんや。それを俺らにおっ被せないための温情なんだぜ」

「なに言ってやがるかな、蘇生の魔法にゃ術者の腕前なんて関係ねーよ。成功するしないはあくまでもそれを受ける側のコンディションと運次第だっつーの。教科書にも載ってるだろ」

「それでも逆恨みの感情まではいかんともしがたいってことやんな。……ま、確かに死んだら普通にあの世逝きのところを、条件付きとは云え黄泉返りのチャンスがあるだけありがてぇと思えかたじけねぇと感謝しろって話だけどさ、割り切れないのも人情じゃん」

 

 〈聖術〉なんて御大層な名前を掲げようと所詮は人の操る技術、万能全能とは程遠いってわけだ。

 それに大昔と比べりゃ、これでもかなり改善されてるだけマシではある。オーリが聞くところによれば回復や蘇生に関連する各種技術や魔法が聖術の総本山であるところの〈教会〉による独占状態だった頃はとにかくひどいものだったらしいから。

 

 確実に成功するわけでもないないのにべらぼうな金銭を要求され、失敗しても返金は受け付けてもらえないなんて当たり前。

 挙げ句にお金が足りなきゃ「けちな はいきょうしゃめ でていけ!」と罵倒されたりもしたのだそうな。

 

 それを聞いたフェアリーくんの秀麗な(おもて)に嫌悪に近い表情が浮かんだ。口も悪けりゃ態度も最悪な相方が、こういうところで妙に潔癖な部分を出すのをオーリだけが知っている。

 

「坊主の分際で心底ろくでもねえ連中だ」

「言うてやるな、昔の話やぞ」

 

 その後、時代の推移とともに回復魔法とそれに付随する各種技術・知識の広範化がなされ、現在ではちょっとした怪我を治すくらいの魔法ならどこの町や村でも必ず遣い手が常駐する程度の普及をみせるにいたったのだが……。

 

「へー、よくもまあ一般公開する気になったもんよな。金づるを自分で手放したようなもんだろ」

「そこらの経緯は教会内部における派閥闘争のゴタゴタに既得権益を嫌った連中による故意の流出、後はときの権力者による圧力・買収・切り崩し等々……まあ諸説あるんだけど、少なくとも俺ら冒険者が使ってる回復魔法に関しては『教会とは無縁に地下道で発掘された別口の技術じゃなかろうか』って迷宮史学の先生が言ってた。便宜上、聖術って名前が付いてるだけで」

「どちらにしても聖職者としての良心による流出とかじゃねえのがまた泣けてくる」

 

 

 ちなみに教会に伝わっていた回復魔法、ひいては聖術そのものが実は信仰とか神様とかに全然関係なしの、過去に迷宮を探索した教会関係者によって発見されたもので、自らの権威付けのためにそれを秘匿し利益を貪っていたという説もあったりするのだが、さすがにこれはひねくれ過ぎというか陰謀論の同類じゃねえかなとオーリは思っている。

 

 そうこうする内にも探索を続け、スレッドの半分ほど消化したあたりでフェアリーくんが声をかけてきた。

 

「お、どうやら次の回収対象だ」

 

 夜露と月光を糧に咲く花のような繊指がさした先には数名分の死体が転がっている。それらへ近寄りながら死体の数と状態を確認したオーリは陰鬱につぶやいた。

 

「うわ、かなり食い荒らされてんなー」

「パイセンが言ってた〈灰状態(アッシュ)〉ってやつか。これじゃせっかく集めたアイテムも散失しちまってるかもな、かわいそうに───おい、前ンときみたく途中でゲロ吐いたりするんじゃねーぞ」

「わーってるよ。俺だってあれからレベルも重ねてんだ、今さらこんくらい屁とも思わん……とまでは言わんけど、割と平気だよ」

 

 言いながらオーリが回収袋と一緒に作業用の防水グローブを取り出すその傍ら、地面に降りたフェアリーくんが柳眉を寄せて死体を足でつついた。

 

「しっかしモンスターってのもわかんねーな。あいつらキャンプ張ってるときは何もしてこないくせに、死んだ途端“こう”だもんな」

「蹴るな蹴るな、化けて出てもしらねーぞ」

 

 だがフェアリーくんが言うこととてもっともだ。

 不思議なもので〈地下道〉を徘徊するモンスターは座標としての“区画(グリッド)間を移動する者”しか襲わない。

 なので内部でうろついてるモンスターを駆除するか探索中に出くわさなかった区画であれば、一歩でも出ないかぎりその『区画だけは』ぜったいあんぜん空間となる。長期探索でのキャンプや地下道内での休憩が、特に警戒されることもなく行われる理由だ。

 

 ところが区画内において侵入者が何かの拍子に命を落とした場合、放置しておくとその死体はこれこの通り、高確率で食い荒らされてしまうのだ。屍肉漁りは肉食動物の行動としておかしかないが、それなら前述した行動への矛盾が生えてくる。

 何よりもあいつら(モンスター)の中には口がどこにあるのかも不明なら、そもそも食事が必要なのかすら怪しい風体のやつも紛れてるのが疑問に拍車をかけるのだ。

 

 過去にはこれら謎に満ち満ちたモンスターの生態を調べるための学問も立ち上がったらしいのだが───

 

「でも爆速で廃れたんだと」

「何でだよ。研究が進めば冒険者連中の探索だってはかどるだろうに」

 

 地面いっぱいに散らばる胃袋だか腸だかよくわからないブツを袋詰めにして語るオーリに、こちらは手指や眼球や頭髪などの細々したパーツを拾い集めているフェアリーくんが訊き返した。いまさらだけど冒険とかクエストというより撮影が終わったスプラッターホラーの後片付けでもしてるような光景である。

 

 

「だってモンスターって死んだらいつの間にか消えちまうんだもの、腑分けのサンプル確保もままならないじゃどーにもならんよ」

「なら生け捕りにでもすりゃいいじゃねーか」

「そっちも失敗してんだ。ただでさえこっちを殺る気満々で襲いかかってくるようなのを検体として扱える範囲で確保するのは一苦労だし、そこまでしてとっ捕まえても地下道を出たらこれまたやっぱりいつの間にか消えちゃうんだもんな」

「……じゃあ地下道に必要機材持ち込んで実験するとか」

「それができりゃ苦労しないって───持ち込みだけでなくメンテとかもあるし───それでなくとも相手は死ぬまで殺る気スイッチをファミコンロッキーばりの超連打なやつらだぜ」

 

 でもって死んだら死体は消える。

 ならせめて行動観察から生態を予測しようにも、あいつら侵入者を確認次第、速攻で襲いかかってくるもんだからそれもままならないときた。

 そしてなにより地下道の探索は冒険者の独壇場、彼らにとっちゃモンスターなんざあれこれ考える間もなくブン殴る蹴っ飛ばす殺っちまう対象以外にならないわけで。

 

 

「───だもんでよ、結局は過去の冒険者達が積み上げてきた弱点や有効属性、行動特性から導かれる対抗策くらいしかモンスターの研究は進んどらんのな」

「研究というよりはただの冒険者知識だな。やくにたたねー」

「言うてくれるな。とはいえそういう認識をされるからますます投資も遠のいちゃってね、今じゃ物好きなアマチュア学者による個人的蒐集に留まってるんだってさ」

「なーる。しかしおまえも妙なことに詳しいね」

「さっきの聖術豆知識もだけど先生からの受け売りなんよ。興味があるなら今度、一緒に受講してみない? きみなら余裕だろ」

「もうちょい落ち着いたらな」言葉を切ったフェアリーくんは立ち上がり、辺りを見回した。「よっしゃ、これであらかた回収できたな───ポータルまでの輸送たのむ」

「あいよ───超術 Lv5 パーティ 跳躍」

 

 請われたオーリはスレッド内限定の瞬間移動の魔法を使った。ここからポータルを通って次のスレッドに渡り、その近くに設置されているターミナルから外に出るのだ。

 

 ターミナルのある座標まで直に行ける長転移やフェアリーくんが使える送還の魔法の存在を考えると二度手間なような気もするが、準マスターになりたての彼はまだLv7の呪文を3回までしか唱えられないし、いざというときの備えとして虎の子の高Lv魔法は温存しておきたいからしゃあなしである。

 

 

 それ貧乏性とかラストエリクサー症候群の亜流ちゃうんか言われりゃそれまでだが。

 




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