男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第17層 仄暗い迷宮の底から

 地下道から出たオーリ達は出張保健室に向かい、常駐の保健委員へ回収したアホ連中(死体)が詰まった袋を任せてからポータルへとUターンした。

 途中、少し前に昼寝(失神)に使った空き地が目に入ったので、なんとはなしにそこに置かれている石像を眺める。

 

 ───また数が少し増えてら。ユマ先輩が言ってた『この時期は無理するやつが多い』ってこういうことか

 

 なんとも言いにくい視線の先で野ざらしにされてる数多くのトンチキ二宮尊徳像というやつ、実はどいつもこいつも地下道内で罠に引っかかったりモンスターの特殊攻撃(ブレス)にやられて石化したアホの成れの果てだったりする。石になっちまっただけで命に別条はないということで、解呪の順番が回ってくるまであそこに放ったらかしにされているのだ。

 

 それはさすがに人としてどうよと思われそうだが、保健委員の数や労力・魔力も無限ではないのだから仕方がない。もっと重篤(じゅうとく)な連中への対処で毎日がいっぱいいっぱいなのだ。

 

「前にユマ先輩が言ってたんだけどさ、あの石像の中にゃ数百年ものの浦島太郎がまぎれてるらしいぜ。治療の順番間違いとかなんとか」

「マジかよ、おっかねーな。ぼくらもそうならないように気をつけんと」

 

 まったくね。言いながらオーリはポータルの手前でスッ転がってる、探索から逃げ帰ったばかりなのであろう半死人のバカタレどもを(前にも見たような絵面だ)邪魔にならない場所へと蹴り転がした。

 

   ◇

 

 そうして再度、地下道を探索する二人だったがここで思いもよらぬ足留めを食う羽目になった。

 

「うぬー……見つからないね、どこに行っちゃったんだか」

 

 残りの遭難者がどこを探しても見つからないのだ。

 スレッドに存在する区画を、文字通りのしらみつぶしに周ったのだが影も形もないときた。

 

 もしかしたら全滅は免れて生存者が自力で仲間を回収したか、あるいは運良く別口のパーティか保険委員にでも回収されたのだろうか? そう考えたオーリは一縷(いちる)の望みを託してフェアリーくんに探査をしてもらったのだが、結果は先と同じくCスレッドに放置されたままとのことだった。

 

「まさかとは思うけど、カケラも残さずモンスターの胃袋なんてオチじゃあるまいな」

 

 人の不安なんぞ知ったことではないモンスター連中も元気いっぱいに探索の邪魔をしてきやがるので、腹いせとばかりにオーリはグループの最先頭にいたデブガエル───人間を丸呑みできるサイズの超デカいカエル───の頭を戦鎚でカチ割った。そんな相方をなだめるようにフェアリーくんが魔法の援護射撃と一緒にフォローを入れる。

 

「───魔術 Lv6 グループ 土撃(マローク)

 それなら心配はいらねーよ。履歴によれば死んじまってるのは間違いないけど〈灰〉や〈蘇生不可〉は免れてるらしいから。どんな形かはともかく必ず見つかるさ」 

 

 ならいいんだけど。半ば自分に言い聞かせるようにつぶやいたオーリは得物を握り直し、魔法によって半壊状態となったモンスターのグループに突入して当たるを幸いとばかりにそれをぶん回した。

 

 …………

 

 そんな調子でスレッドをさらに探索すること数十分。

 

 目当ての相手は見つからぬまま、数えるのも億劫(おっくう)なほどのモンスターの妨害を受けては返り討ちを繰り返し、いい加減、疲労を覚えた二人は休憩を取ることにした。

 今となってはこのスレッドも湧いて出てくるモンスターも苦戦するようなものではなくなったにせよ、本来の目的を達成できぬままひたすら歩き詰めというのは体より先に心が参ってくるものだ。

 

 パルタクス地下道Cスレッドは水を湛えた区画が全域をお掘りのように囲む形で存在しているので、そこの端っこまで移動した二人は簡易キャンプを敷設した。言うてもいつ来てもチリひとつ落ちてない地べたへ防水シートを敷いただけだが。

 

 オーリは少し前の探索で拾った、どれだけ火にかけてもなぜか水が温まらない物質で作られた〈頑丈な鍋〉とかいう意味不明なアイテムに水を汲み、そこにフェアリーくんが使わずじまいで腐らせてた低レベル帯の火魔法を叩き込み沸かしたお湯でもってお茶を淹れた。

 

 これが外ならそんなところに溜まってる水なんて飲んでも大丈夫なのかと思われそうなもんだが、地下道に流れる『水』というやつはなぜか虫の一匹も湧くこともなく、しかも毒を流そうが汚物を投棄しようが汚染されることも無ければいくら汲み出そうが尽きることさえない不思議水なので無問題なのだ。この半ば不気味に足を突っ込んでさえいる不思議な特性ゆえ、地下道内の水場は長期探索時の補給所としても重宝されている。

 

 お茶の入ったカップと半分こにしたあんぱんの片割れを受け取ったフェアリーくんがふと思いついたことを口にした。

 

「そういやこのスレッドの中央部分にゃ〈即死水域〉がセットになった水場があったな。ひょっとしたらそこに足突っ込んで、どこかに流されちまったんじゃねーの?」

 

 即死水域───正確には〈深水域(ディープゾーン)〉という。

 

 見た目はちょっと深めに水がたたえられただけの区画なのだが、侵入したが最期(誤字にあらず)どういうわけだか泳ぎの達人だろうとカナヅチだろうと、片っ端から土左衛門となっちまうのでこのあだ名で呼ばれている。

 地下道に入りたての、まだ探索に慣れていない学徒連中が度々ウカツに足を踏み入れては、気がつきゃ保健室で天井のシミを数えてたという初心者殺しのひとつでもある。

 

 事程左様に危険な代物ではあるが、魔術師系学科の割と初期に習得できるLv2浮遊(レビフェイト)という魔法(対象者に謎の力場をかけて浮かす、らしい)をかけてさえおけば即死は免れるので回避そのものは難しくはない。また水に毒があるとか何か悪質な呪いや力が発生してるとかではないので、手を突っ込もうが水を飲もうがこれまた問題ない。あくまでも『定められた手順を踏まずに侵入すると死んじまう』というわけだ。

 

 オーリはうろんな目つきを相方にくれた。

 

「入学はじめの、1回2回の魔法にさえ難儀する頃ならともかく今の時期でそんなバカタレおらんだろ。うっかり魔法禁止区域に入って浮遊を中和されたとかならともかく、このスレッドにそんなん無かったじゃん」

「わからんぜ。別のスレッドの禁止区に入ったとか初手で唱えるの忘れたとか、最悪だと教科書も読み飛ばすくらいのアホだったりするかもだし」

 

 痛い目に遭わねーと憶えないやつってのは、どこにでもいるもんだ。フェアリーくんは肩をすくめた。オーリとしては納得しかねたが、しかしもう他に探せる場所もないではどうしようもない。結局、少しだけ考えた後に首を縦に振った。

 

「しゃあなしやで、休憩終わったら水路を回ってみよう」

「あいよ。ま、うまく見つかってくれるといいよな」

 

 気楽な風情でフェアリーくんはあんぱんにかじりついた。

 甘味にほころぶ天与の美貌からは、遭難者への心配や哀惜なぞ微塵も感じられなかったそうな。

 

  ◇

 

 そして二人が探索を再会して10数分後───

 

 

「……まさかホントにそんなんおるとは思わなんだ」

「ぼくもびっくりだよ。適当に言ってみたんだけどな」

 

 

 通常区画からの探索では死角となる水路にてワカメかクラゲよろしく“ぷかぷか”浮かぶバカタレどもを発見した二人のセリフがこれである。

 馬鹿にした表情を露骨にするフェアリーくんが手近な死体に近寄って蹴りを入れた。

 

「ったく、大人しく地べたでおっ死んでりゃあいいものを手間取らせやがってからに」

「ええい、だから蹴るなっちゅーとろーが。“こいつら”にだってなんぞ事情あってのことかもしれんのだ」

 

 一応はたしなめるオーリだったが、彼にしても理解できないものを見たような面持ちにならざるをえないのは仕方がない。

 何故というなら先にも述べた通り、水域はうかつに踏み込んだときのペナルティがキツいだけで回避そのものは難しいわけではないからだ。そもそも魔法やアイテム等の対処ができないならせめても近寄らなきゃいいだけの話なのだし。

 

 もっとも今は考えたとこでしゃあないことではある。後で訊くにしろそのまま忘れるにしろ、今はまずクエストを終わらせるのが先決だ。オーリはやや無理くりに気持ちを切り替え、道具袋から取り出した防水手袋を装着した。

 

「とにかく、まずはこいつらを引き揚げてやらにゃあな───装備品の回収はそっちに頼めるかい?」

「あいよ、頼まれた」

 

 相方と分かれたオーリは、近くで浮かんでたアホの両足首を引っ掴んで近くの床まで持っていき回収袋に詰めていった。

 溺死後からさほど経っていないせいか、表面がちょっとふやけてる程度なのはありがたい。これが本格的土左衛門なら(※ご飯がマズくなる表現につき割愛。どうしても気になる人はサンゲリアって映画でも観るとよいよ)だったろう。

 

 なお、どうして明らか水に沈みそうな構造や重さの代物がぷかぷか浮かんでんだよとか、そもそも入っただけで即死する水場に手ぇ突っ込んだのに無事ってどういうことだとか疑問に思うのはご法度である。そういうルールが適用されたとでも思って納得することだ。

 

 

 

 なにより、そんなもん気にするような輩は地下道になんぞ関わることさえすべきではない。

 

   ◇

 

 愉快とは無縁の作業を始めてから10分ほどの後、中身の詰まった死体回収袋が6つ、出来上がるのと時を同じくしてフェアリーくんの作業も終わったので、お互いに労いの言葉をかけあって二人は水域から離れた。

 後はこのバカチン連中を外まで送り届けりゃクエスト完了である。

 

 気色の悪そうな顔で防水手袋を外し、オーリは誰にともなくしみじみした口調で言った。

 

「ああ、疲れた……保健委員ってのは毎日こんなことしてんだな……ユマ先輩たちの苦労が偲ばれる」

 

 なにせ死体を拾ってくるだけのオーリ達と違い、地下道の隅々を巡回して(しかも場合によっては高難易度地下道!)アカン状態の連中への措置をせにゃならんわけである。体力・技量の双方を求められること疑いない。まったく足を向けては寝られぬ人々だ。

 

「そーだな、ぼくらもあんましパイセン達の手ぇ煩わせないようにしなきゃだな」

 

 回復と治療術に関係する講義をもうちょい入れっかな、などと語るフェアリーくんが拡げる道具袋に、オーリは次々とアホの袋詰めを突っ込んでいく。

 当然だが道具袋の中には彼らの使うアイテムや食料品なども入ってるのだが、どちらも気にしていない。この妙な図太さ、あるいはメンタルの強化も地下道の恩恵というやつなのだろうか? おそらくは十中の八ないし九、疲労によって人間性が摩滅してるだけなのだろうけど。

 

 数分ばかりをかけて全ての死体を収納してからフェアリーくんが訊ねてきた。

 

「───で、これからどーするよ。まだ時間と魔力にゃ余裕もあるし、夕食どきまでひと稼ぎしてくか?」

「悪くはないけど、今日のとこは大人しく引き上げよう。なんせホラ、俺らのコンディションは置いとくにしても死体が傷んじまうかもしれんしな」

 

「……あー、そういやそうだったな」

 

 忘れてたんかよ。(とが)めるような視線から、フェアリーくんはややバツが悪そうに目を逸らした。

 

「……いやスマンて、ぼくが悪かったよ。だからそんな顔すんなて。ホラ、こっちゃ来いや〈送還〉(ロールフェイト)使ってちゃっちゃと戻っちまうからさ」

 

 判ってくれてるならこれ以上ブチブチ言うわけにもいくまい。矛を収め、相方の言葉に大人しく従ったオーリが呪文の効果範囲に入るのと同時に送還魔法が発動し、二人は地下道を抜けた。

 

   ◇

 

 地下道から戻った二人が出張保健室に顔を出すと、そこでは一足先に仕事を終えたらしいユマ先輩がいた。

 

「あら、お帰りなさい。思ったよりてこずったみたいね」

「うっす、ただいまです」

「お疲れ様です。ご依頼のアホ……じゃねーや、遭難者全員の回収終わりましたぁー」

「あなた達もお疲れ様。報酬はここの受け付けに預けてるから、ちゃんと貰っておいてね」

「あざっす。先輩もこれでお仕事は“あがり”ですか?」

 

「ううん」先輩は首を静かに横へ振った。「私は休憩が終わったら、また地下道よ。まだいくつか周らなきゃいけないとこがあるんだ。今日は徹夜になっちゃうかもね」

 

 ちなみにソロでの地下道行脚(あんぎゃ)だそうな。オーリもぼっち探索を繰り返してはいたが、先輩のそれはケタ違いに難易度の高い地下道なのでその苦労と危険は比べることすらおこがましい。作業の大変さを想像したオーリはうめくような声を絞り出した。

 

「……さすがというか、タフですね先輩は」

「まあね。でも、私でなくともレベルアップを繰り返せばこんくらいにはなるよ。それ以外にだって───」

 

 いつもと変わらぬ柔らかな調子で言いながら先輩は頭の上で煌めく天使の輪っかのような姫冠(ティアラ)を指差し、足元で無造作に転がる戦鎚とも見紛うようなごつい錫杖をつま先で小突いた。他の装備品にしても、それそのものが光を放っているかのような逸品揃いに見てるだけで目が潰れそうだ。素人目にも強力な武装であるのが判るそれらは、秘めた力もお値段もオーリ達が手にしてきたものとは比べものにもなるまい。

 

「これこの通り、装備だって相応のものが手に入るわけだし。君達も励みなさい───怪我や瀕死や死んじゃうのはともかくロストしない程度でね」

「あの声で蜥蜴(とかげ)くらうか時鳥(ホトトギス)、おっとり口調で厳しいことをおっしゃる」

「何言ってるの。それくらいは承知の上で、みんなここにいるんじゃない。『死ななきゃ安い、死んだところで生き返るなら儲けもの』───1年生のはじめに習うことでしょ。こんなことも身に付かないんだから、やっぱり一夜漬けって悪だわ」

「なんかもう、色々とすんません」

 

「反省できてるならまあよろしい。これからはちゃんと身を入れて、予習復習も欠かさずに勉強するのよ」

 

 がんばれがんばれ。やっつけ気味な励ましを放り投げて会話と休憩を切り上げた先輩は地下道へと向かい、残された二人は複雑そうな面で言葉をかわした。

 

「信じられるか、あの人だけでなく他の保険委員の先輩たちも、今の俺らじゃ秒で死ぬような地下道をソロでうろつくんだぜ」

「超人ってのはいるもんだな。パイセンに言われた通りぼくらも精々、お勉強とレベルアップに励むとするか」

 

 せやな、と頷いてオーリは受け付けカウンターに向かい、係の子に遭難者(の入った袋)を引き渡して報酬を受け取った。

 




久しぶりにエクスを遊んだら、おそらくゲソ交易だろうけど最終転生をしてるやつが何匹かいた
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