男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第19層 彼と彼女の懐事情

 冒険者の食い扶持といえばやはり迷宮を探索してのモンスターいびり、アイテム拾いに宝箱漁りを定番とするが、それ以外にも稼ぎ方は───相応の工夫と技術必須だが───色々とあったりする。

 

 例えば地下道帰りの連中を目当てに辻回復を行う〈回復屋〉、パーティで不要となった各種アイテムを取引・交換する〈買い取り屋〉、オーリがよくお世話になってるディアボロス先輩のような錬金術を駆使しての〈合成屋〉などがそれだ。

 また初夏を迎えた今の時期からだと、魔法使える連中の作るかき氷アイスキャンディかち割り氷などが季節の風物詩として知られている。

 

 それら即席商人達が声を枯らすポータル前広場に到着したオーリは一旦、フェアリーくんと分かれ、近くにあったベンチに腰掛けて道具袋から一抱え程度のミニサイズ黒板(図書室で廃棄される予定だったのを譲ってもらった)を取り出しチョークで書き込みをした。

 

 

  *ヤーロン あり〼*

 

 

 それを脇から覗き込んだエルフちゃんが小首を傾げた。それにしてもこの少女はいつまでついて回るつもりなのだろうか。

 

「なあに、その『ヤーロン』って。漫画に出てくるブタかお茶の名前?」

「〈超術〉のLv7魔法だよ。ま、どんなもんかはごろうじろ」

 

 書き終わった黒板をベンチに立てかけしばしの間エルフちゃんとの雑談で時間を潰していると、新たにポータルから出てきたパーティの内のひとつがこちらに気付き足早に近づいてきた。

 

「なあ、ちょっといいか。『それ』はまだ間に合うかい?」

 

 声をかけてきたのは背丈こそ小さいが厚みと重みに裏打ちされた力強さを感じさせる体格に、その全身をくまなく覆う体毛と獣の名残を色濃く残した風貌が特徴的な少年だった。

 ドワーフという種族の───襟章からすると上級生であるらしい───少年に、オーリは気楽な口調で対応した。

 

「らっしゃーせー。まだ“売り切れ”てはいないっすよ。ちなみにお値段こんくらいになります」

「う……やっぱし高いな」

 

 提示された金額にドワーフ先輩は言葉をつまらせた。なにせ一般的なパーティが装備をフル更新した後に、学食大路で豪遊してなお釣りがくる額だ。

 とはいえ心変わりをされてもたまらないので、オーリは一応のフォローを入れた。

 

「そうはおっしゃいますが、これでも勉強させていただいてるんですよ。こいつをアイテムで賄おうと思ったらどんだけの労力とリスク、ついでにお金が必要かは俺よりもむしろ先輩の方がご存知でしょうに」

 

「ん───ああ、それくらいはこっちも承知してるし、これだけの条件でさらに値切るなんてバカなことはしないから安心してくれ。ただ見ての通り地下道から帰ってきたばかりなもんで、アイテムを金に変えるまで少し待ってほしいんだが……」

「即金が無理なら現物支払いでも可。もちろん、相応の品になりますけどよろしいか」

「本当か!? じゃあ値段の半分はそっちで頼むよ」

 

 表情を明るくしたドワーフ先輩とそのパーティは少しの相談の後に、共有らしい道具袋からいくつかのアイテムを取り出した。

 

「これは?」

「ほとんどは中古の品だが、どれもACで(マイナス)4相当の防具だよ。長く役に立つはずさ」

 

 AC(アーマークラス)───これは防具の質に関わる数字だと思ってくれればいい。

 アイテムレベルに対応して数字がマイナスに下がっていき、マイナス幅が大きいほど良質の品とされる。つまり-1よりも-2、-3の防具の方が質が良いという仕様である。聞いた話じゃAC-10レベルの防具ともなればそれこそ伝説にのみ語られる無敵の機動兵器こと〈シャーマン戦車〉にすら匹敵する守りを得るとかなんとか。

 なお「マイナスに行くほど良い品ってなんかおかしくね?」とか言われても困るし聞く耳は持たない。しょーがねーだろ、千古の昔からそうなってんだから。

 

 現在のオーリ達が使ってる防具のACが最高でも-2なのを考えれば、目の前に出されたそれは破格と言ってもいいだろう。迷いを見せる下級生へダメ押しをするように、ドワーフ先輩が蝶々の羽のように繊細な彫琢が施された木製のバングルを見せてきた。

 

「特にこいつなんて限界まで強化を入れてるし、装備しただけで常時〈浮遊〉状態を付与するからな。安全に先を目指したいなら必須だぜ」

 

 先輩が語るところによれば、カリキュラムも末期となれば魔法禁止区域と即死水域が組み合わさったゲスマップ(つまり浮遊状態に油断してのこのこ入ったら中和されて溺れ死ぬ)なんてもんが当たり前のように存在するのだそうな。悪意に満ちまくったその地形を想像し、オーリは嘆息した。

 

「地獄みてぇな話ですこと」

 

「ああ、まったくさ。地下道てのは甘くない。当然だけど俺もパーティの皆も少なからず痛い目に遭った。自分もそうだけど目の前で仲間が死んじまうのって嫌なものだよ。お前もそうだろ」

 

 その地獄マップに関する情報も込みの取引ってことか。

 頭の中でそろばんを弾き、提示されたアイテムと情報の価値、さらに先程までドークス先生が語っていた費用対効果とやらを計算したオーリは首を縦に振った。

 

「よござんす。では、施術を行いますんで対象者の方を」

 

 頷いたドワーフ先輩は後ろで控えていたクラッズの少年に声をかけた。装備からすると盗賊か野伏職であるらしい彼が施術対象のようだ。

 

「あい、それじゃあ───超術 Lv7 ソロ 活性(ヤーロン)

 

 呪文を詠唱するやオーリの視聴覚とはまた別領域における感覚に、どの様に表現すればいいのかもあやふやな形状と色彩の物体───強いて言うなら蠢き絡み合う螺旋だろうか───の姿が浮かんできた。

 意識を集中して螺旋の表面をよく『診る』と、あちこちに(ひび)というか亀裂のようなものが入っているのが判る。オーリは呪文によって励起・接続された地下道の処理能力を介して欠損した部分の解析と補充に必要な情報を割り出し、それを『亀裂』に注ぎ、満たすように埋めるように流し込んでいった。

 

 今、彼がしているのは俗に〈生命点(スタミナ)〉と呼ばれる、『魂の活力』とでも云うべき存在の修復だ。

 

 実は〈死亡〉ないし〈灰〉状態からの蘇生というやつは完全ノーリスクではなかったりする。死亡する毎に生命点は少しずつ喪われ、しかも点数が下がれば下がるほど応じて蘇生の確率も下がっていくのだ。一般的には点数が初期値の半分で危険域、3割を下回れば余程の豪運者でもないかぎり蘇生の見込みはないとされる。

 つまり冒険者にとって無視できない資本を回復するための手段のひとつ、それが〈ヤーロン〉というわけだ。

 

 体感時間にして10数分、実時間は数秒の後に施術は完了した。

 

「───あい、終了っす。お加減はいかがですか」

 

 オーリは非施術者の少年に具合を訊ねた。ちなみにこの魔法も〈マハンマハン〉と同じく地下道の権能を応用して行われるので、効いてないだのやってもいない施術をしたなどとウソこいたところでログを漁れば即バレである。

 クラッズの少年は小さく頷くことで問題なしの意を伝えた。

 

「それは重畳。では、報酬をいただきます」

 

 これでしばらくの間は、探索や仕送り等に余裕も出るというもんだ。いい気分で対価のアイテムとお金を受け取るオーリに、ドワーフ先輩が遠慮がちに訊ねた。

 

「助かったよ。それよりも『次の』予約はできるかな? こいつ以外にも使ってほしいやつがいるんだけど……」

 

「すんません、それについては次の使用可能時期がいつになるかを確約できないので早いもん勝ちにさせてもらっとります」

「それもそうだな、つまらんことを言っちまって悪かった」

「お気になさらず。御縁があれば、またのお越しをお待ちしております」

 

 “ぺこり”と頭を下げるオーリに軽く手を上げて返し、ドワーフ先輩達は去っていった。

 

   ◇

 

「ふーん、魔法ってこうやってお金にできるんだね。わたしには無理そうだけど」

 

 見学した施術の説明を受けたエルフちゃんは、受け取ったアイテムの検品をするオーリをうらやましげに眺めつつ感心した。

 

「とはいえ何度もやれたり定期的に稼げる手段でもないから、そうそうアテにはできない稼ぎ方なんよ」

 

 Lv7魔法というのは他のカテゴリーに属するものとは一線を画する効果を誇るが、それだけに習得や使用に際しての難易度がキツいものが多い。

 ヤーロンも例外ではなく、一度使っちまうと『次のレベルアップまで使用不可』という代償を支払う羽目になるのだ。さっきのドワーフ先輩が言ってた『次の予約』てのはレベルアップしたらまた自分らに使わせてくれという意味なわけだ。

 

「しかもマスターレベルに到達したらまた転科せにゃならんもんで、これで稼げるのはあと10回あるかないかときたもんだ───ちょいと惜しくはあるけどね」

「ちょっと疑問なんだけどさあ、そんなに便利な魔法が使えるなら自前のパーティで、その超術師っていうのを育てりゃいんじゃね。そっちのがお金も使わずに済むじゃん」

「ごもっとも、しかしそりゃあ無理なの」

 

 オーリは疲れたように首を横に振った。

 

 攻守両面において多彩な手数をその特長とする超術師だが、その運用には彼も頭を悩ましているのが現状だ。

 有用な魔法やスキルは確かにある、それを起点にした手札や戦術も幅が拡がった。しかしそれでもなお純粋な魔法職として見るとこれが中々、厳しいところがある。パーティの補助的運用がメインの学科であるのを考慮してもだ。

 

「なってみて判ったんだけどさ、実は超術師学科ってスキルとごく一部の有用な魔法だけが本体みたいなとこがあるんだよね。特に習得できる攻撃魔法が属性ランダムで発動するものばかりなもんで、ここぞというときアテにならねぇことならねぇこと……」

 

 貴重な魔力を浪費して魔法を撃ったらスカ属性を引き、ミソッカスな効果しか得られずモンスターに反撃されて袋叩きに遭うなどという経験をアホほど積み重ねたオーリは、この学科で習得する攻撃魔法に関してはまったく期待も信用もしなくなっている。

 

「つまりこの学科を魔法職として安定運用したいなら、俺みたく魔術師学科を経由するのが絶対の条件ってわけやんな」

 

 だがそれはパーティの枠を一つ消費し、経験値を割り振って回り道の育成した後にその全てを一時的にとはいえ無駄にするということに他ならない(転科するとレベルは初期値にリセットされてしまう)。

 しかも転科によるレベルダウンがもたらす一時的な戦力低下もさることながら、フェアリーくん達司祭学科(ビショップ)ほどではないにせよ超術師も成長が遅い部類に入るので再度育成の手間は相応にかかってしまう。そこまでしてなお常駐させようとするだけの余裕があるパーティというのは稀だろう。

 

 前にも述べたがオーリがやらかしたような、戦士職による介護もなしに魔法系の学科がぼっち探索で超速レベルアップを図るなどというのは机上の空論をも逸脱した自殺行為でしかないのだ。

 

 となれば後はリソースを外部からの供給に頼るのは必然というべき流れだったのだが……しかしここでもまた問題が発生した。

 先に述べたような育成の手間を嫌う者達は他所のパーティから引き抜き、あるいは施術を欲したがるのだが、それをやられた側にしてみれば膨大な手間暇と貴重な経験値を注ぎ込んで育てた虎の子をトンビにふんだくられるのも同然なわけで、そこから生じた人間関係のこじれ、騒動、流血、刃傷沙汰にまでエスカレートした例は枚挙に暇がない(思うに超術師学科を選択する者が少ないのも、そこらの軋轢を回避するためではなかろうか)。

 

「それゆえに俺みたいな辻魔法売りが重宝されるってこと。各パーティの負担や問題を棚上げして必要な魔法を享受できるってわけね」

 

「ふーん」 

 

 エルフちゃんは心ここにあらずの体で例の浮遊効果があるとかいうバングルを勝手に装着していた。

 

「……このアマ聞いちゃいねえ。今まで俺がしてた説明はやべー輩の独り言かい」

 

 イヤな顔をするオーリのことなど気にも留めぬ様子で、エルフちゃんは抜けるように白い腕へ可憐な彩りを添えるバングルに熱のこもった視線を注いでいる。

 

「もしかして、それ気に入ったの?」

 

「うん」短く応えたエルフちゃんはいつになく真摯(しんし)な眼差しでオーリに向き直った。

 

「ねえオーリくん、わたしにこれちょーだい」

「いいよ」

「ホント!? ありがとうね、これをオーリくんだと思ってずっと大事にするよ」

「そんなに喜んでもらえて嬉しいよ───じゃあ、ハイ」

 

 お天道さまの下で咲き誇るヒマワリのごとき華やかな笑顔へつられたかのようにオーリは右手を差し出し、エルフちゃんは小首を傾げつつもそれを両手で包み込み“ぎゅっ”と握った。

 信じられないほどに柔らかくなめらかで、ほのかにひんやりとしたその感触に優しく微笑みを返してオーリは言った。

 

「誰が手ぇ握れ言うた。お金を払えちゅーとるんじゃ」

「えぇー、払わなきゃいけないの? わたし美少女なんすけど……」

「美少女云々に関しては嫌気が差すくらいに知っとるがな。それはともかく払うもんは払わんかい、バカタレ」

「あのね、わたし前からオーリくんのことカッコいいなあって思ってたんだあ」

「ふふっありがと、清々しいくらい心に響かねえ。この期に及んでなお頑として払う気ねえって凄いなこいつ、ちょっと感心しちゃうよ」

 

 手を振りほどかれ、ひったくるようにしてバングルを取り返されたエルフちゃんは悲しげにため息をついた。

 

「男子たるもの女の子にこんくらいのアイテムを気軽に貢げるくらいの甲斐性がほしいんだあ」

「まったくだよ、その甲斐性を得るために地下道巡りを円滑に行えるアイテムが必須ってことやんな」

 

 あー、お金ほしいなあ金、金、金! 切実な独り言をこぼしながら道具袋に戦利品を突っ込むオーリに、なおも未練がましい視線を向けながらエルフちゃんが訊いた。

 

「オーリくんが冒険者になるのはお金のためなんだ?」

「そらそうやんな、俺ぁ出稼ぎ組だもん。珍しくもなかろうが、お(ぜぜ)が動機の子なんてさ」

 

 ド田舎の、さして裕福でもない家のさして取り柄もなくさして頭もよろしくない末っ子のガキが稼げる手段なんてそうはありゃしないわけでもあるし。むしろ学校に通わせてもらうなんて、とんでもない幸運だったとこっちに来てからオーリは身に沁みている。まったく、自分というやつはここぞというとこで運を拾う。

 

「そーゆーきみはどうなんだい? まさかとは思うけど、故郷に(にしき)を飾るためとか言わんよね」

「ご名答、よく判ったじゃん」

 

「マジすか」オーリは秘境に棲まう珍奇な生物を目の当たりにしたようなツラで隣の美少女をまじまじと眺め、

「ウソっす」黙ってさえいれば深窓の令嬢がごとき美少女はぬけぬけと言ってのけた。

 

「わたしの生家(せいか)ってば結構な歴史のあるおウチでさあ、そこの風習つーか“しきたり”に『一定の歳になったら外に出てお金を稼いできなさい』てのがあったりするんだよ。ここに来たのは、わたしみたくな頭悪くて腕力くらいしか取り柄のない子でも就けるお仕事なんてそうはないからってだけ」

「エルフってのは体力の代わりに知力・魔力が優れるてのが売り文句じゃなかったのか」

「だから言ったじゃん『はみだしものはどこにもいる』って」

 

 なお規定の額が稼げなきゃいつまで経っても一人前扱いされず、相続に関するアレコレからも除外されちまうんだそうな。なんか大変ね。

 それにしても先程から漏れ聞くお家事情から察するに、もしかしてこいつ言行こそアレでも結構な良家のお嬢様だったりするのだろうか? オーリは訝しさもあらわに訊ねてみた。

 

「だとしたらどーするの?」

「ダメ元で、逆玉を狙ってみようかなって」

「わたしに沢山貢いでくれるくらいのお金持ちになったらいつでもいいよ」

「そーかい、じゃあいっぱい出世してめちゃ稼げるようになるわ」

 

 どちらも本気なのか冗談なのか判らぬ話であるが、少なくともエルフちゃんは愉快そうに笑ってみせた。

 

「頑張ってねー。でも無駄に歴史だけはあるおウチってだけで別にお金持ちとかじゃないんだよ。しきたりにしたって元を辿れば、ご先祖ちゃんがひどい借金持ちだったのを一族総出で返済したっていう小話が由来の奇習らしいから」

「冴木忍先生のラノベで見たような話だなあ」

「へー、オーリくんもそういうの読むんだ。教科書や参考書しか読まないんだと思ってた」

「きみは俺をなんだと思ってんだよ。そんなガリ勉くんだった記憶はねーや」

 

 なにせ地下道潜りの恩恵を受けるまでは読み書きもロクにできないくらいだったのだ。あんまし思い出したくないのだが、アホの子というより頭のアカン子でさえあったというのがオーリの自己診断である。レベルアップ時における能力向上が気を利かせてくれなきゃ、今だに低レベルのまま刃物ぶん回してたか、あるいはそれもままならずに地下道のこやしになっていたことだろう。

 

「それが今では学年で並ぶ者なき高レベル者、わからないもんだねえ」

 

 少なからずの羨望を込めたエルフちゃんの呟きにどう返してよいのかも判らず、オーリが笑いと云うにはやや足りない表情を浮かべていると少し離れたところから、

 

 

『ええー、そんな馬鹿なことってあるかよ!?』

 

 

 という声が聞こえてきた。

 目を向けると、少し離れたベンチで即席鑑定屋をやってるフェアリーくんにそのお客らしき同学年の少年が食ってかかっている光景が目に飛び込んできた。

 一体、何があったのやら。不審と心配に渋い顔をするオーリをよそに、フェアリーくんは白けたようなツラで声の主をあしらっている。

 

「馬鹿はオメーだろ、ゴネられたとこで結果は変わらねーよ。〈破れた手袋〉と〈錆びたダガー〉だ。普通のゴミより多少はマシなゴミでよかったな」

 

「いや、でもさあ、これを手に入れるのに俺達すげえ苦労したんだぜ!」

 

「……だからなんだっつーの。お前らの苦労なんてぼくの知ったことじゃねーよ。鑑定はあくまで内容を見分けるだけの作業であって、ぼくを怒鳴りつけようが凄もうが脅迫しようが結果は変わらねーんだ。今の時期に、まさか教科書も読めねえくらい頭の悪いボンクラを拝む羽目になるとは思わなかったぜ」

 

 どうやら件の少年くん、鑑定の結果に納得がいってないご様子らしいが、しかしまあ……。

 ホント何事も言い方ひとつだよねえ。エルフちゃんは皮肉げに唇の端をひん曲げオーリを肘で小突いた。

 

「やっぱバカは救いようがねえ。おい、なんなら腹いせに喧嘩でも吹っかけてみるか? ただしその場合、万が一にも勝とうが順当に負けようが手前みたいな面倒客の相手してくれる親切モンはいなくなるだろうけどな」

 

 半ば脅しつけるように言い含めながらフェアリーくんはそれと判らぬように、ゴネるアホとそのお仲間を油断なく見据えた。万が一、連中が妙な動きをしたら即座に空へ逃げて攻撃魔法を叩き込むつもりなのだ。見た目が非力なフェアリーと言えどもレベル30近い上級職は伊達ではない。手加減をしたところで連中には万に一つの勝機もなかろう。

 それを知ってか知らずか、少年は弱気な態度を見せた。

 

「う……そういうわけじゃないし、それくらいは判っちゃいるけどさぁ……」

「“それくらい”も判ってないから無用な騒ぎを起こすんじゃねーか。こちとら仕事はしたんだから話はこれで終い。愚痴はお仲間にでもぶち撒けることにでもして、とっとと払うもん払って消えてくれや。大体、文句を言いたいのはぼくの方だっつーの。鑑定の料金は任された品の質に比例すんだからな、こんなもんいくら鑑定したって飴ちゃんも買えやしねえ」

 

 身の毛もよだつような美貌の主に怖気をふるうほどの眼で睨みつけられ、少年たちはそれ以上何も言わずに規定の料金を払って退散した。

 それと入れ替わるようにしてオーリ達はフェアリーくんの隣に腰掛け、道具袋からジュースの瓶を取り出した。

 

「お疲れさーん、これ差し入れ」

「ありがとーよ───もしかして心配でもさせたか」

「少しだけ。やっぱしお金に関することは簡単にトラブルに繋がっちゃうね」

 

 念のために言っておくがオーリの“心配”とはフェアリーくんのことではなく、今しがた逃げた連中のことである。相方の実力くらい知っている。だから彼がやり過ぎないかだけに肝を冷やしていたのだ。

 

「ふん、お優しいことで……ンなことより、そこのエルフ娘はいつまでくっついてきてんだ」

 

 不愉快そうにフタをひねるフェアリーくんへ、こちらは意地悪そうに笑いながらエルフちゃんが応えた。

 

「ふふー、そんな邪険にしないでもいいじゃん。同じ補習仲間なんだからさあ」

「ぼくらは単位と科目の計算を間違えただけだっつーの、自業自得な能無しと一緒にすんじゃねえ」

「へぇ、目くそ鼻くそを笑うってこういうことね。お勉強になる」

「汚ったねえことわざ使うんじゃねえよ、五十歩百歩とかどんぐりの背比べとか色々あんだろーが!」

「それって自虐かな? 汚いってんなら君の口と性根には負けるんじゃね」

 

「はいはい、そこまで」二人の不毛な口喧嘩に割って入ったオーリは眉間にシワを寄せるフェアリーくんをなだめ、次いでエルフちゃんに首を向けた。「きみも、あんまし俺の相方をからかうのはやめてくれ」

 

「ふっふー、ごめんねえ。今日のところはもうしないよ」

 

 ───つまり明日以降、ツラを合わせたらまたやるってことか

 

 あるいはこれが例のクエストにおける報酬を渡さなかったことに対する、彼女なりの報いなり仕返しなのだろうか。ふと、そのような考えが頭をよぎり、オーリは水に落っこちた犬コロのような顔をこさえた。

 




チームラの新作が『黄泉ヲ裂ク華』の続編らしくてありがてぇかぎり
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