男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第22層 セメタリー

 

 冒険者の用語でもある〈小隊(パーティ)〉について、いくらかおさらいをしておきたい。

 

 通常、パーティの編成なるものは戦闘行動の中核を成す〈戦士職(ファイター)〉、索敵と情報解析・処理に長けた〈盗賊職(シーフ)〉、最後に攻撃・補助・回復等で継戦能力の底上げをする〈魔法職(ソーサラー)〉、これら3種をバランスよく配置するのが鉄板である。

 

 中でも盗賊職は直接の戦闘に関わることは少ないとはいえ斥候による不意打ちへの対処や、地下道内の構造把握に各種トラップや施錠区画の解除を任されていることもあり、こいつら抜きに地下道をうろつくのは目隠しをして障害物競走に臨むのと同じとまで言われている。

 

 唯一、難点があるとすれば専攻する学徒連中から「なにか盗むわけでもないのに盗賊はおかしくね?」とか「それ以前に人聞きが悪すぎんだろ」とか「バイトするにも『盗』と『賊』の文字は履歴書に書きづれーんだよなあ」などと不評の声が上がりがちなことで、それを受けて近年では学科の名前を変えようかという動きもあったりするらしい。

 

 事程左様(ことほどさよう)になくてはならぬ存在とはいえ、そこはやはりまだまだ未熟からくる経験と認識の不足によって自分の立ち位置こそが一番と思い込みたがるクソガキどもだ。冒険者にとってのメインお仕事は斬った張ったであるのを都合よく解釈し、後衛の仕事を軽視するバカタレが毎年必ず何匹か湧いて出る。特に探索と戦いにやや慣れてきた頃の、任されたポジションごとによる戦果の違いが明確になるあたりでやらかされがちである。

 

 確かに盗賊職は学科のキャパシティを専門の技能スキルに食われてるせいでリソースを戦闘に回せないし、魔法職も学科選択直後では魔法の威力も使用回数もしれたものな上に成長も遅めであるからその有用性を実感しにくいのは仕方がない。だがそれらの諸問題も、ちゃんと授業を受けてさえいれば事前に解決できる程度の話なのだ。

 

 これらの勘違いを増長させた輩(大体は授業を理解できず教科書もロクに読まないボンクラ)が後衛不要論なんぞという駄法螺をぶち上げたり、後衛の取り分を大幅に削ることで『適正かつ公正なパーティの運用』を目指そうとしたりするのだが、同程度のバカタレを除いて誰も真面目に取り合わない。

 

 ついでにその誤りを正してくれる親切なやつもいない。優秀有望な後衛技能職というのはどこでも引っ張りだこ、どころか奪い合いなのだ。物知らずが自ら手放してくれるってんなら止める理由はないし、不要と判断された側にしても良い条件には困らないので留まってやる義理はないからだ。

 

 なお彼らに見限られたパーティがどうなるのに関してはいちいち書かない。誰も気にしないような連中について語るのは無駄もいいところだろう。

 

 …………

 

 では仮に、本当に仮定の話だが、その必須な技能職を完全に欠いた形で続けられる冒険や探索はどのようになるのか。

 残念ながら、学園においてはまずそのような状況自体が想定もされていなけりゃ、実践して継続しあまつさえ生き延びたケースもいないので語りようもなかったりする。

 

 

 現在、カウサ地下道をほっつき歩くバカタレ共を除いて。

 

   ◇

 

 地下道を探索していると稀に敵意を向けてこないモンスターに出くわすことがある。

 例えばこちらを警戒した様子は見せても一歩も動かないやつ、ただただぼんやりと突っ立っているだけのやつ、全身全霊で敵意のないアピールまでしてくるトンチキ等々……。

 

 俗に“ほとんど無害(マーフィーズ)”と呼ばれる連中だ。

 

 なお、あくまでも“ほとんど”であって完全に無害というわけでもないので、油断して背を向けたところで襲いかかってくるやつもいるので注意は必要だったりするのだが。

 そんな愉快な輩の一種を前に、やや疲れたような声をフェアリーくんが絞り出した。

 

「なんでC層ってのはこうもマーフィーに出くわすんだろうな」

 

 彼らの前には童話に出てくる大昔のお偉いお貴族様みたいな風体のマーフィーズが(一説には大昔のお偉いお貴族様の幽的らしい)、これ見よがしのうさんくさい笑顔を振りまいている。

 

「さてね、でも今みたいに急いでるときにはありがたいさ。───ほら、警戒は俺がするからきみもさっさと移動しちゃいなよ」

 

 促すオーリの声を振り払い、エルフの少女はプリマドンナを思わせる軽やかな足取りでにこやかな笑顔を浮かべるマーフィーへと斬り込んでいった。

 

「よっしゃ、経験値げっとー!」

 

「やめいちゅーとんじゃ、くそぼけ!」

 

 ……あとマーフィーの特長として、無害アピールに夢中になるやつが多いせいなのか高い確率で先制攻撃が成功することもあり、安全に経験値を得たい学徒が好んで狩ること、余計な戦闘を避けたい学徒がパーティ内に混じっている場合、後々で余計な軋轢が生じることなど挙げられる。

 

 ◇

 

 望まざる戦闘も終わり、モンスターにトドメを刺し終わったオーリは跡に残った物体を見て喜色の声を上げた。

 

「───おっ宝箱(コードチップ)めっけ。この区画は湧出地点だったんかね」

「さてな、一度ポータルを抜けて確認せにゃ判らんよ。一応、地図に仮の書き込みだけしとくわ」

 

 湧出地点とは侵入すると必ずモンスターに出くわす区画のことだ。一度でもエンカウントを済ませれば無害な区画になるが、ポータルを使ってスレッドを移動したり転移魔法を使うと復活する変則無限湧き仕様だったりする。

 これだけ聞けばトラップも同然の嫌がらせ地点だが、実はここで倒したモンスターは必ず宝箱をドロップするという謎法則があるので、冒険者にとって湧出地点が多く存在するスレッドを探すことは死活問題でもある。なにせ宝箱から得られるアイテムは通常のドロップ品とは量も質も段違いなのだ。

 

 なお一般に『宝箱』といえば木材と金属の枠できらびやかに彩られた、いかにも射幸心を煽る物体を思い浮かべるものだろうが、やはりというか地下道においてはその限りでなかったりする。

 現に彼らの視線の先にある宝箱とやら、“平べったくて艶のない謎物質によって作られた四角形”という珍妙な形をしているわけであるし。四角形の周りは小さな金属の毛みたいなものが取り巻いており、さながら変な虫のようにも見える。

 この珍奇な物体の内部にデジタライズされた各種物品の圧縮情報が格納されている、つまり他に形容のしようもないから便宜上〈宝箱〉なんぞと呼ばれてるだけの物体でしかない。

 

 とはいえ出たらそれでおしまいというわけにもいかないもので、

 

「ねー、解錠はどーするの。わたしら盗術技能なんてないっしょ、もったいないけど諦めちゃう?」

 

 警戒した風もなく宝箱を拾うアホの姿にエルフちゃんが訝しげな表情を見せた。宝箱というやつは開けるだけなら誰にでもできるが大体は罠がセットで仕掛けられており、これを突破して安全に内部の物品を手に入れるには彼女が口にした盗術の検定資格者(つまり盗賊)の存在が必須となる。

 

 オーリは少し困ったような顔になりつつ「そらもちろん、こうすんのよ」と宝箱を無理やり『開け』た。

 

「ちょっ───」

 

 あまりのことに絶句するエルフちゃんをよそに罠が発動し、直撃を受けたオーリがひっくり返った。

 

「痛ったぁ……毒針じゃなく石つぶてだったか……でも毒ガスでないだけマシよな」

 

 ツイてるねえ、などと鼻のあたりを押さえて強がるオーリに、表情をやや固くしたエルフちゃんが鼻紙(ティッシュ)を差し出した。

 

「……呆れた。君たち、今までずっとこんな無茶なことしてたんだ」

「まーね。盗賊職がいないんだからしゃあない。一応、罠や鍵を解除する魔法(ケアルノバ)てのも使えるんだけどさ、施錠された区画のことも考えると初見のマップじゃ温存しときたいのな」

 

 どのみちこの辺りの宝箱に備えられた罠に致死性のものはないのだし、痛い目を覚悟の上ならこれもまた正しい措置ではあるのだ。褒められたことではない上に、以降の地下道でも続けるなら馬鹿の所業だが。

 オーリが受け取ったティッシュを丸めて鼻に詰めている横で、アイテムの鑑定を終えたフェアリーくんが口笛を吹いた。

 

「確かにツイてるな。強化修正の入った軍用靴(アーミーブーツ)に素材がいくらか、あとはクッキ-とバナナだ」

「今日のおやつが決まったのは嬉しいねえ───靴はきみが装備しときなよ、そんくらいなら問題なかろ」

「おまえはいらねーのか。そこの突発性暴力アホ娘が抜けたら、また前衛でボコられるんだぜ」

「魔障壁の守りも加味すりゃ今の装備を抜ける攻撃力持ちはいないからね、これ以上は無駄になっちゃうよ。念のために、探索が終わったらその靴も先輩に最大まで強化してもらおうぜ」

 

 納得したフェアリーくんが装備を更新し、三馬鹿は探索を再開。

 道中における何度かの戦闘も危なげなく───ちょいとした問題はあったにせよ───クリアしながらC層のマップを隅から隅まで探索していった。

 

   ◇

 

 探索開始から数時間が経った。

 途中で昼食とおやつ休憩も挟みながら順調に探索を進めたオーリ達は当座の目標であるC層の、俯瞰図にして左下端っこに存在するポータルとはまた別口の〈門〉に到着した。

 

「テストの会場はこのゲートから侵入できる最深部───〈セメタリー〉で行われるんだっけか」

 

 ひとりごちながらオーリが書き込みを入れた地図を横から覗き見るエルフちゃんが眉をひそめた。

 

「前から思ってたけど、墓場なんて縁起でもない名前だね」

「正確にはお墓じゃなく、地下道における廃棄コードの投げ込み先らしいけどな」

 

 もっともそんなゴミ捨て場に落ちてる品や叡智さえ、オーリ達の世界にとっては値千金万金であるのだが。

 

「ふーん、だったらそこで稼ぎをすれば超がっぽりな一獲千金イケんじゃね」

 

「ああ、そりゃ無理だ。聞いた話じゃ大半は並みの〈がらくた〉とは違う膨大なコードデータと、これまた膨大な破損情報だからね。こいつを解析して、あまつさえ修復できる技術は現代には存在してない。仮に必要な技術を得られる頃にはそのコードが時代遅れになってる可能性のがデカいんだとさ」

 

 だからこそセメタリー。過去から現在、未来に到る墓場。こんな時期でもなければ誰もが足も目も向けようとはしない。

 

「ポイントは記録したから、これで試験が来たらここまで長転移でひとっ飛びできるね」

 

 書き込みを終えたオーリはエルフちゃんに地図を渡した。助っ人の報酬にはここまでのマップ情報も入っているのだ。

 受け取った地図をもとに早速、自分の地図にも書き込みを加えつつエルフちゃんが複雑そうな顔でつぶやいた。

 

「ずっこいなあ」

「そうは言うけどさ、俺らもここまでレベルを上げるのにゃ死ぬほど苦労したんだぜ、こんくらいは役得とも言えない当然の権利やろがい」

「それもそっか───ところでこの後はどーするの。もうちょい稼いでく?」

 

「うんにゃ」オーリは首を横に振った。「目的は達したんだから長居は無用さ。補習の時間にも間に合わせたいし」

 

 “もうはまだなり、まだはもうなり”の格言は冒険者の世界では通用しない。

 まずは生き残ることこそが先決であり、やるだけのことをやったらとっとと手仕舞いするのが生き残るためのコツである。

 

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