男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第23層 アホとテストと冒険者Ⅰ

 

 学徒としては忘れたいけど、そうもいかないのがテストというやつだ。

 

 しかも一般的な学校における試験であれば教室に入って定められた学業範囲において得られた知見を武器に試験用紙との取っ組み合いをすれば事足りるが、冒険者育成学校においてはそれだけで済まされるわけもなく。

 科目が剣技とか体術に関連するものだろうが、数字や文章に関わるものであろうが、史学や科学に類するものだろうが、ありとあらゆる試験に『実技』がセットで付いてくるときたもので。

 

 国語や数学のテストに実技───他所であれば正気を疑われる文言だが、冒険者学校においてはこれが常識である。

 なんせ繰り返しになるが、冒険者稼業は命がけ。腕力しか取り柄のないバカタレを量産するのは問題外としても、ちょっとやそっとの苦難に折れる文弱の徒を輩出するのもまた論外なのだ

 

 とはいえ実際はそこまで難しく考える必要もまたないのだが。

 

 基本的なスケジュールにしても精々、危険が隣り合わせの地下道に放り込まれ並み居る罠とモンスターを退け指定のポイントに設営された試験会場まで到達し、筆記試験を受けた後に用意されたエネミー(相応に強力)を倒して終了という程度なのだから、いつもやってる探索の延長線上とでも思えば気楽なもんである。

 

 …………

 

 

「それもはや試験じゃなくてチェスボクシングのご同類じゃねーか」

「言うてやるな。ダンジョンの角っこから、待ち伏せてる方程式やら歴史年表が襲いかかってくるとかじゃないだけマシやぞ」

 

 

 試験の概要を知らされたある学徒達の会話だった。

 

   ◇

 

 当座の用を済ませたオーリ達はターミナルを使い地下道から帰還した。

 補習の時間まではまだ余裕があったので探索で得た物品を強化するため例の錬金術師の先輩のところに向かうことにする。今の時間帯なら食堂で暇をつぶしているはずだ。

 

「じゃあその前に、借りてたものを返しとくね」

 

 惜しそうな顔でエルフちゃんが返してきた装備の中から、オーリは長槍だけを手に取って少女へと差し出した。

 

「こいつは返さなくていーよ。気に入ってたんだろ、譲ったげる」

「えっ、いいの?」

「うん、いいよ。どうせ俺らじゃ扱えないし、予想を越えて助けてもらったからね。気になるお値段もこんくらいにまけたげる」

「……そこはプレゼントってことにしようよ。きみ、そんなだからモテないんだ」

「じゃあ地下道で拾った石ころあげる。これでモテるかな」

「わたしでなかったらそれで頭割られるくらいにモテモテ」

「やったあ。そんで、どーするね。買うの、買わねえの?」

 

 エルフちゃんは少しの間、迷った後に首を縦に振った。通常の半分編成(しかも高レベル者が混じる)による身軽さがもたらした、高効率の探索のお陰で今日の彼女の懐はそこそこぬくい。

 手持ちのがらくたを鑑定したオーリ達は後々で必要となりそうなもの以外を購買部で処分し、いくらかのアイテムを補充してから食堂に足を運んだ。

 

 クソガキ共が地下道に出払う時間帯なこともあり食堂は閑散(かんさん)としていた。 

 その隅っこに置かれたいつものテーブルに着いている先輩は脇目も振らず手元のアイテム(革製の小手のようだ)を合成しては分解をひたすら繰り返していた。

 

「こんちゃーす。……先輩、なにしてらっしゃるんすか?」

「やあ、見ての通りなのね。合成と分解なのね」

「ええ、そりゃあ見れば判りますけど。暇つぶしの手慰みですか」

「それもあるのね。この加工を何度も繰り返してると、ごくたーまに強化素材なしに+修正が付いたりするからそれを狙ってるのね」

 

 同じアイテムでも性能が良い方のがお高く売れる。錬金加工に関しては魔法学科の実験棟でも行えるが、あっちは機材を扱うにも相応のお金が取られてしまうので実質、錬金術師にのみ可能な裏ワザってわけだ。

 

 先輩はこめかみのあたりを軽く揉みながら一息ついた。

 

「それで、今日はどんなご依頼なのね?」

「こちらのブーツを強化してほしいのです。必要な素材はこちらで用意してますんで錬金処置だけ頼んます」

「はいはい、テストも近いせいか、ここしばらくお客に困らんのね」

「先輩はお勉強とかしないでもいいんですか」

「わたしゃ卒業資格に必要な講義とレベル取得を全部終わらせてるから無問題なのね。なのでもう卒業まで探索とも縁を切ってこうして資金集めに専念するつもりなのね」

 

 卒業したら学園とも縁のある錬金工房に勤めてコネとキャリアを積み、いずれは独立して自前の工房を持ちたいと先輩は語った。

 

「なんだかもったいない話ですね。せっかくそこまでレベルを上げたのに」

「周りにもそう言われたのね。でも、わたしが学園と冒険者稼業に求めたのは錬金術師としてやってくのに必要な技術と経験、あとは夢叶えるためのお金なのね。これ以上の深入りはできないのね」

 

 声と表情はいつも通り穏やかに、頑としたものを込めて先輩は言う。

 一般的な蘇生不可(ロスト)を示す言葉とは違う、これもまた冒険者の〈ロスト(あがり)〉の形なのだろう。そこに少なからずの羨望をオーリは禁じえない。

 

 ───俺はどうなんだろ。今ンとこ冒険者で稼ぐくらいしか未来も無さそうだけど、いつかは先輩みたいに夢とかやりたいことできるかな

 

 とはいえこのバカタレの場合は御大層な目標を掲げるその前に、まず目先の補習とテストを乗り越えにゃならんわけではあるが。

 可能な限りまで強化を入れてもらったブーツを受取ったオーリは料金を払い、小さくお礼を言ってから補習授業の教室へと向かった。

 

   ◇

 

 なんやかやありつつ補習も無事に終わった次の週、オーリ達はいよいよテスト期間を迎える運びとなった。

 朝のHRにて配布された、明日以降の日程が書かれたプリントと一緒に大まかな説明をしたユーノ先生は話の締めにクソガキどもへダメ押したものである。

 

「あんたら、くれぐれも準備を怠るんじゃないよ。追試や補習で夏休み潰れるのがイヤなら、いつも以上にアイテムや魔法には余裕を持たせておきな。今日は探索も早めに切り上げて体を万全に整えておくこと、いいわね?」

 

 

「はぁーい」

「うぃーす」

「わかりましたっす」

「しゃあねえ、今日くらいは図書室で勉強すっかな」

「ねえねえ、カンペ買わない? だいじょぶ、絶対当たる気がするから」

「一夜漬けで適当なヤマでも貼るかぁ」

「そこはフリでもいいからふつーに勉強しなって……」

「あたし実技はともかく筆記は自信ないんだぁ」

「誰かノート貸してぇー」

「ねえ、お昼おごるからマップ写させてー」

「そこなお嬢さん、コズミックフォージのレプリカ買わんかね」

「オレ、このテストが終わったら隣のクラスの子に告白するんだ」

「くたばれ」 「落単しろ!」 「振られちまえ!!」

 

 

 ささやかな阿鼻叫喚の様相を呈するクラスメイト連中を横目に、教室の片隅でオーリ達は気負った様子もなしに語り合った。少なくとも彼らはこれまでの探索と前準備で余裕ある行動ができるのだから今のところは気楽なものだ。

 

「ぼくらはどーするよ。先生が言ってた通り大人しくして探索もやめとくか?」

「んだね。それにいまさら一夜漬けをするもんでもなし、今日は装備の点検だけしたらお休みでよかろ」

 

 プリントを流し読みしながら頷き、オーリはふとした思い付きを口にした。

 

「ところできみ、今日なにか予定があったりする? せっかく空いた時間があるんだし景気づけってことでさ、学食大路にでも遊び行かない」

「いいな、それ。おい、そっちが誘ったからにはなんか奢るくらいしろよ」

「おーう。ま、ちょっとくらいならね」

 

   ◇

 

 午前中の授業が終わり、学徒達は各々の予定に従ってカバンや道具袋を手に教室を後にしていく。

 今日のように試験をはじめとした面倒なイベントが控えた日の授業は午前中だけで終わるのだ(こういう文化も最近は廃れたと聞くが本当なのだろうか?)。

 

「どうして半ドンってのは、ヘタなお休みの日よりお得感があるんだろうね」

「ンなことより早く行こうぜ、こないだの物資補充に来た商隊が新しい露天を開いてるらしいからな。チンタラしてっと先越されちまうぞ」

 

 教科書などを仕舞いつつ、授業からの解放と午後からの羽伸ばしへの期待に少年達は声を弾ませる。

 そんな彼らに最近めっきり馴染みとなった声がかけられた。

 

「ねえオーリくーん、遊びに行くんでしょ。わたしも一緒させてー」

「どこで聞きつけてきやがったんだ」

「そんなのきみらがHRでお話してたのを聞いたに決まってるじゃん。わたし、耳がいいからね」

 

 にやりと笑い、エルフちゃんは他種族のそれより大分に長い耳を“ぴこぴこ”と動かしてみせた。器用なやつである。

 つまりこいつは教室の喧騒から特定の声を(しかもかなり離れた席から)狙って拾ったってことか。油断ならぬやつである。

 

「そんなヤな顔しないでよ。相手は美少女だぜ」

「美少女は置いとくにしても勉強しないでいいの? 俺が言うのもなんだけど」

「前にも言ったっしょ。わたし頭良くないからさ、今更ジタバタしても変わらないの」

「つまりは開き直るってことかい」

 

 肝が座ってるのか諦めが早いだけなのかは不明だが、少なくとも慌てた風もなくどっしり構える姿勢は前衛職として評価すべきポイントかもしれないと、オーリは自分に言い聞かせた。

 

「ていうかさあ俺らと一緒するくらいならパーティの子達を誘えばよくね。ホレ、仲間同士の親睦を深めて今後の連携をどうとかみたいな」

「なあに言ってるかなあ、テスト前なのにそんなことできるわけないじゃん。それに、今はみんな装備を更新したり強化したりで余裕がないからね。余計なことでお財布に無理させらんない」

「俺らとその懐なら構わないとでも言うつもりか」

「こないだの魔法売りでガッポリ儲けたんだし、いいじゃん。それもダメなら相方ほったらかしてわたしとだけ遊べばよくね」

「よくねーよ。それに生活費を除きゃ稼ぎは実家の仕送りに出すつもりなんよ、俺だって余裕はそこまでないんだよね」

「ふぅん、オーリくんはえらいんだね。わたしはそこまで頭も懐も回らないよ」

「どういたしまして───だもんでよ、余計な出費は控えたいのな。ま、こちとらの財布に余裕の出た頃にでもまた来ておくれよ」

 

 いつになるのかは知らんけどな。言いながらエルフちゃんに別れを告げたオーリは相方を伴って教室を出た。

 

 しかし相方とこの後の予定について駄弁りながら階段を降りようとしたところでまた声をかけられた。

 どうして楽しい予定のあるときほど邪魔が入るんだか。ややウンザリとした気分で振り返るとそこには目が覚めるほどに可愛いフェルパーの少女がいた。以前、彼らが地下道で拾った全滅パーティの子だ。

 

 次から次へと何だってのさ。オーリは訝しさもあらわに訊ねた。

 

「なんだ、君か……なんかご用? 俺らこれから予定あるんだけど」

 

 声がやや刺々しくなったかもしれないが、そこは大目に見てほしいもんだ。

 前回とは打って変わった、塩どころか岩塩でも投げけられるような対応をされたフェルパーの少女は、怯んだような顔で用件を告げた。

 

「……うちのパーティの子達から呼んできてって頼まれたの……その、テスト前の打ち合わせがしたいんだって。もう少し……人気がなくなったくらいの頃に来てほしいって」

 

 ああ、そう。言われてオーリは思い出す。そういや自分ら、“こいつ”のパーティに所属してたんだった。

 忙しかったのとあんまし憶えていたくない連中だったのとで今まですっかり忘れてたが。

 

「悪いんだけど別の日にしてくんない? こっちにだって予定ってもんがあるんだしさ───テスト終わった後とかでいいよね」

 

 自分でもメチャクチャなことを言ってるなとは思うが、今さらこいつらに関わりたくない身としては真っ当に理屈を並べるのも億劫だった。

 だからといっても可愛い女の子相手にこれはねーなとも反省はしたが。

 

「そんなことを言われても、私だって困るよ……とにかく伝えたから、絶対に来てね。じゃあ、私もう戻るから……」

 

 言うだけ言って少女は逃げるように去った。

 

「なぁにアレ、もしかしてオーリくんの彼女?」

 

 フェルパーの少女の頼りない後ろ姿を、さっきまでとは真逆の表情で見送りながらエルフちゃんがあまりよろしくない声を出した。しかしなぜついてきてやがる。

 

 「趣味悪いね」とエルフちゃんは短く、辛辣に斬って捨てた。ひでぇ言い様だなとは思ったが、オーリの目からしても見てくれが可愛い以外に取り柄もなさそうという印象の子だからしゃあない。力無く「ちげーよ」と応えるのが精々である。

 

「ありゃあ俺らの所属……? してるパーティの子だよ」

 

 エルフちゃんの瞳に浮かぶ怪訝そうなものが深まった。

 

「なんで疑問形なのさ。それはともかく余計なことかもだけど、入れ替えちゃったがお互いのためじゃね? あの子、メッチャ弱いじゃん」

「ちょっと見ただけで判るもんなのか」

「ひと目で相手がどんなもんかわからないようなら、冒険者ってより女の子やめたがいいね」

 

「こいつ腕力頼みのアホかと思いきやちょくちょく妙なところで妙なスペックを発揮しやがるな」フェアリーくんが苦々しさと称賛が混ざる複雑な顔でうめくが、その表情もすぐさま先程のエルフちゃんが浮かべていたのと似たようなものに取って代わられた。

 

「しかし何様なんだ、あいつら。手前らで足運ぶどころかおまえの方でやって来いだとよ。そんなん言えるような立場じゃねーだろ」

 

 嫌悪もあらわに吐き捨てるフェアリーくんだった。人前と公共の場でなければ唾も吐いていたかもしれない。

 

「しかも人気のない時間とな。どうせ多勢で囲むつもりだぜ───ぼくら相手に手を出すほどのアホじゃなかろうがよ───おい、まさかとは思うけどバカ正直に呑む気じゃなかろうな。シカトこいたが無難じゃねーか」

「俺だってそうしたいのは山々だけどね、この手の話は放置しても良い事はないんだ」

 

 後回しも却下。面倒事というやつは時間が立つほど雪だるま式に厄介の度合いを増していく。慶事は真逆にどんどん萎むのだから不思議よな。

 

「じゃあ、どーすんだよ。大人しくあいつらの言うこと聞いてやんのか」

「うん」

 

 特に何も考えてなさそうなアホヅラで頷くオーリを、頭大丈夫なのかと言わんばかりの視線が貫き、特に何も考えてないアホが気楽なツラで返した。

 

「一応は“お仲間”だ、素直に聞いてはあげるよ。聞くだけは」

 

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