男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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Hello? Iam here.Anybody hear me?


第26層 アホとテストと冒険者Ⅳ

 

 聞こえますか?

 私はここにいます

 

 

 ───トロア暦608年(第3次イカロ戦役)各聖戦学府の学徒に届いたメッセージより

 

 

 

 

 

 

 

 数カ月後、世界と歴史が炎に消えた。

 

   ◇

 

「ここが〈セメタリー〉……パッと見は普通の地下道だね」

 

 ゲートをくぐった先に広がる光景へオーリが率直な感想をこぼした。

 かなり広い水域の真ん中に出島よろしく浮かぶゲート設置区画。その周りは年季の入った石柱が建ち並び、さながら遺棄された神殿のようである。

 

「こんだけデカめの水場があるってことは当然、浅水域と一緒に即死水域もあるんだろーな。今のぼくらにゃ大した障害にゃならんだろうが」

 

 相方と一緒に周囲を観察するフェアリーくんが視線の先にあるものに目を細めた。

 

「……うん? こんなとこにもターミナルはあるんだな。悪いけどちょっくら調べ物をさせてくれねーか」

「構わんよ。なんぞ攻略のヒントがもらえるかもだ」

 

 断りを入れたフェアリーくんはターミナルへ手をかざした。

 

 地下道に設置されたターミナルの機能にはアーカイブなるものが存在している。

 これはターミナルを経由して超古代文明のサーバーに接続し過去の記録や履歴の閲覧を可能とするもので、過去のゴタゴタで一度は文字通りに灰(どころかロスト)となった大陸の歴史や事件を知る上での貴重な資料としても重宝されている。

 

 とはいえそれも無条件とはいかず、閲覧可能な記録深度は各地下道とターミナルごとに設定される権限以上のものは許可されていないので、より深く詳細な記録(つまり過去の記録)を閲覧したいのなら接続者も相応に探索難度の高い地下道に設置されたターミナルへ接触をはかる必要はあるのだが。

 

 接続して数十秒、秀麗な面に怪訝の相を浮かべるフェアリーくんへとオーリは声をかけた。

 

「どーね、なんか面白いもんでも見つかった?」

「そこそこ程度には。言うても当座の役にも立たなきゃお金にもならないのが残念だな」

 

 アーカイブに残されていたのは当該区画に関する情報らしかった。正式名称は〈ペテロセメタリー〉、管理権限者はPLT-01チルドレン型万能電脳種〈ペテロのサクラ〉とのことだ。

 なんのこっちゃ。オーリは片眉を上げた。

 

「ここをくまなく探せばそのサクラさんとかいう……人? 人なのかもわからんが、会えるんかね」

「無理じゃねーかな。履歴によればちょうどイカロ戦役のあたりで件のチルドレン型なんちゃらが防衛システム諸共で廃棄処分に……おっ、ガーディアンの名前も残ってんな……えーっと〈ABRIEL‐2121トード無限種(アブリエル):アバドン〉? なんじゃこりゃあ。おい、おまえは今の単語になんぞ聞き覚えはあるか」

「きみも知らないようなことを俺が知ってる訳がない。ひょっとしたら1年生の学ぶ範囲じゃないのかもね。気になるならテストが終わった後にでも先生に聞くか、先輩から教科書でも借りてみるのがよかろ」

 

 そうするか。接続を切ったフェアリーくんは2mほどの高さまで浮かび、オーリのやや後ろの定位置に付いた。

 オーリも銅槌(カッパーメイス)を軽く握っていつ接敵(エンカウント)してもいいように警戒を強め、区画から一歩を踏み出す。

 

 セメタリーの攻略……という名のテスト本番が開始された。

 

   ◇

 

「───魔術 Lv6 グループ 土撃(マローク)

 

 フェアリーくんの広域魔法によってボール状の胴体から何本ものヘビの首が生えるという気色が悪いモンスター達は息の根を止めた。

 

 地下道をうろつくモンスターという連中は基本的にシャバの生き物とは一線を画す能力と風体をその特徴とするわけだが、ここセメタリーはそれに輪をかけてイカレポンチな造形したやつらの吹き溜まりだった。

 そのせいでこんなとこに長く居続けたら頭がラリパッパになりそうだとフェアリーくんは密かに危惧しているくらいだ。

 

 残ったモンスターの群れには魔障壁(マナシールド)を展開したオーリが吶喊(とっかん)して始末をつける。

 発動の際には無防備になることを余儀なくされる魔障壁だが、一度貼り終えれば戦闘が終わるか破壊されるまでは効果が続く。今のオーリならオーガ程度の攻撃なら5~6回は耐えられる。

 

 オーリはトカゲとワニの合いの子みたいなモンスターの口を強化したブーツで踏んづけて潰し、あるいは槌を振り下ろして頭を粉砕していった。

 

 ヘイト稼ぎも兼ねるために振り回す得物の動きで目を引き、かわしきれない攻撃のみ魔障壁で受け止め、体や足さばき自体はコンパクトなものを意識することで無駄な消耗を抑える。

 この立ち回りは少し前に一緒した少女のそれを真似たものだが、こいつを学べただけでも彼女の働きには値千金の価値があった。今だ甲斐性無しな身分では、ささやかな感謝以外に出せるものがないのは残念である。

 

 ワニもどきを始末し、最後に残ったグループ───獅子の頭を載っけた獣人ぽいやつら。数は三体───を相手した頃合いで魔障壁にも限界がくる。真正面の獅子獣人が振り回す幅広の剣によって半透明の六角形集合体はガラスが割れたような音を立てて霧散した。

 

 魔障壁を張り直している余裕はないのでオーリは右に軽くステップ、打ち込まれる攻撃を乱戦用の打撃盾(アスピス)でしのぎカウンターで槌を叩き込む。

 残りの獣人にはフェアリーくんのぱちんこによる牽制が飛んだ。探索用に調整されたものとはいえ所詮ぱちんこ、モンスター相手では威力もしれたものだがそこは何をやらせてもそつなくこなす相方だ。撃ち込まれた弾は目や喉元、眉間といった、当たれば無視できない急所ないし行動に支障をきたす場所へと的確に吸い込まれていった。

 

 相方の活躍でもって稼いだ時間でオーリは障壁を張り直し、怯んだ獣人の土手っ腹めがけて渾身の力で槌をフルスイング、槌は手放し身軽になったところで障壁を前に立ち往生する最後の1匹へと打撃盾をぶち込んだ。

 

 

 …………

 

 

 セメタリーの傾向と難易度確認の戦いを数回ほどこなしたオーリはドロップアイテムを回収しながらつぶやいた。

 

「強さは今までのやつに毛が生えた程度、対応さえ間違えなきゃ楽に殺れる。ただアイテムは今までの地下道と変わらない上、エネミーへの有効属性が偏っているのはな……」

 

 どうやらセメタリーをうろつくモンスターは属性が〈雷〉に固定されているらしく、そのせいで有効属性(ちなみに土の属性)のストックがされているフェアリーくんの魔力は半分を切っている。

 前衛を務める自分の魔力はまだ余裕はあるが、単純な威力を考えるとこんなもん腐らせてもしゃあない。

 

「確認は済んだことだし、以降の接敵は逃げの一手でよかろ。やむを得ず交戦するときも魔法は低レベル帯か回数の余ってる魔法使っての援護に留めといてくれんか。実技で用意されてるエネミーまでは魔力をなるたけ温存したい」

「そりゃ構わねえが始末の速度と効率が落ちるぜ。おまえの疲労も考慮に入れんでもいいのか」

「そこらも気にすることはないんじゃね。マップも結構な部分を埋めたから、そろそろ試験会場が見えてきてもいいと思うんだ」

 

 言いながらオーリは目を凝らして周囲を見渡す。

 レベルアップによる身体強化の恩恵は当然ながら目ン玉にだって適応される。ウソかホントかは知らないが盗賊・野伏系の高レベル者ともなれば“真っ昼間から星座が見える”とかなんとか。

 

 すると現在地点から数区画ほど離れたところに何人かの人影と───ついでに何組かの折りたたみ式の長机に椅子のセットという、およそダンジョンだの迷宮だのと呼ばれる存在には似つかわしからざる物品の置かれた区画が見えた。

 

「───ぬー? ひょっとしたらあそこが試験会場かな」

「んだな。ひとまずこれで目的の半分は消化できたか」

 

 前座の筆記試験といえど、あんまし体力が削られては頭の働きだって鈍る。下手な消耗する前に見つかったのは僥倖というもんだ。

 

「よっしゃ、もう一息だ。ここまできてミスったら目も当てられんし、慎重に急ぐとしよう」

「おーう。だがその前に一息入れねーか。試験会場は逃げねーんだ、おやつで英気を養っとこうぜ」

 

 そいつは悪くない。

 頷いたオーリは簡易キャンプの準備のために道具袋から防水シート等の簡易キャンプ一式といくらかの菓子パンを取り出した。

 

   ◇

 

「到着ご苦労さま。あなた達が一番乗りかと思ってたのだけれど、存外に時間をくったものね」

 

 休憩を挟みつつも無事、筆記試験の会場に到着したオーリ達へ労いの声をかけてきたのは涼しげな表情と優しい目をした女性だった。

 歳の頃なら20の後半くらいで背丈はオーリより頭一つほど高い。細めの腕はいくらかの紙束とお饅頭の箱を抱きしめるようにしている。

 

 彼女は1年生の戦術講義を担当するライナ先生だ。

 元・冒険者とは思えないほど穏やかな雰囲気を常にまとった小糠雨に濡れたような人である。

 

「じめじめして湿っぽいってことか。言われてみりゃ変なキノコ生えてそうな感じだもんな」

「えーい、しっとりと落ち着いたとか静かな佇まいと言わんかい、ばかもん」

 

 フェアリーくんのおよそ女性に(しかも目上で歳上だ)向けるようなものではない評をオーリがたしなめる。

 クソガキ共の失礼きわまるやりとりを年長者の余裕で流したライナ先生は2人の背後に目をやってからちいさく首を傾げた。

 

「ところで他の子達はどうしたのかしら? 死んじゃったにしても、貴方達なら自前で蘇生できるでしょ」

 

 やっぱしそこを突かれるか。オーリは一瞬、目を泳がせながらも一応の弁明をしてみた。

 

「……えー、彼らも我らが母校パルタクスの名に恥じることなき一歩も退かぬ敢闘精神を胸に燃やし、右手(めて)血刀(ちがたな)左手(ゆんで)に手綱、屍山血河を築くとも死なば(かばね)に花も散る。泣くな我が母(いさ)めよ男子(おのこ)、散るを惜しむや花にも枝にも先駆けて果敢に地下道へ挑むも奮戦虚しくここにおいておや何をか言わんやしからずんばさにあらずのみならずもってくだんの如しなり───」

 

「はい、そこまで。大体わかってるから」

 

 大昔の軍歌と壮士の演説に滝田ゆう先生の漫画を雑にちゃんぽんしたら出来上がったみてぇな内容空疎で意味不明、そのくせ見苦しさだけはよく伝わる言い訳を先生はさもイヤそうに遮った。ついでに細いお腹のあたりから「ぐぅ」という音が聞こえた。この人、ある難儀な事情によっていつでもお腹を空かせているのだ。

 

「私が貴方達の立場ならやっぱり同じようにしたことでしょう。だから今回だけは何も言いません。でも次に真っ当なパーティを組むならそのときはちゃんと仲間を大事にするのよ」

「あい、合点」

「はい、承知」

 

 蘇生しろなどと言わないあたり、彼女も教師である前に冒険者ということなのだろう(仮に黄泉返らせても爆速で死ぬのを承知している)。

 

 なにより冒険者ならずとも仁義信義に足る相手以外へと情をかけて良い結果は産まないわけである。

 

「よろしい。じゃあこれがテストと解答用紙。終わったらここを出て、最終チェックに用意されたエネミーを撃破したら“今日の”試験は終了です」

 

 ケアレスミスと怪我には気をつけてねと、お饅頭かじりながら付け加えるライナ先生へ短く返事をした2人は一旦、会場の隅っこで装備を外してから空いてる席に座って筆記用具を取り出した。

 

   ◇

 

 数時間後。

 冒険者を目指すガキどもにとって、ある意味において最大の関門であるところの筆記試験を終えたオーリは席を立ち、解答用紙を提出してから試験会場の端っこで待っている相方のところに向かった。

 

「疲れたぁ……仮にも魔法職(ソーサラー)が言うもんじゃないけど、やっぱ頭使うの苦手なんだね」

 

 大儀そうに首や肩を回すオーリへと、こちらは大分前にテストを終えたフェアリーくんが薔薇の蕾のような唇を皮肉の形にひん曲げた。

 

「それ言うなら冒険者を目指してる奴らの大半が当てはまるけどな。どいつもこいつも、ペンより剣を握って殴る蹴るしてたがマシとか抜かしやがる」

「誰も彼もがきみのように頭も腕も回るってわけじゃないんだよ」

「……それ、間違えてもぼく以外には言うなよ。おまえが口にしたら二重三重にイヤミだからな」

 

 繰り返しになるがこいつら、アホではあっても都合30回以上に及ぶレベルアップを積み上げてきた輩なわけで。当然、その恩恵はオツムの回りにだって適用される。

 オーリにしてからが以前、保健委員のクエストを受けた際にユマ先輩へ語った通り、ちょいとの一夜漬けで急場をしのげる程度に粗末な頭の底上げがされてるのだ。そんなんが頭脳労働ニガテとか言うのはそれもはや謙遜スッ通り越して嫌味以外のなにものでもない。

 

「あいあい、気をつけます。それより次のチェックポイントに行こうぜ」

「休憩はしなくていいのか」

「長く座ってたせいでお尻やら背中がむず痒いんだよね。体動かしてほぐしておきたいの」

「あー、なんか分かるわ」

 

 馬鹿話をしつつオーリ達は筆記用具を仕舞い、代わりに装備品を取り出して身に付けていった。

 

 

 

 

 なお今だ死体として放ったらかしなお仲間ちゃん達は当然のことながら試験を受けられてないのでこのままじゃ落単か追試の二者択一なのだが、オーリ達にとってはもはや炒め物に混じってるピーマンよりどうでもいい話である。

 




リリスはいい子だったね
終わりはやりきれなかったけど
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