男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第28層 後生迷宮

 

 テスト終わって日が暮れて───

 

 暮れているのかは外に出てみないとわからないが、規定のエネミーを始末し終え弛緩(しかん)した空気の中、フェアリーくんがやや拍子抜けしたような風に言った。

 

「終わってみりゃ、そこまで難しいもんでもなかったな」

 

 ここに来る前に見た連中の惨状から想定するに、多少なりとも怪我なりするくらいは覚悟の上だったのだが結果はご覧の通り。

 相方が多少の傷を負った程度で(即、自前治療したけど)実質、無傷で済んだようなものだ。これでは慎重にここまで進んできた自分らがアホみたいである。

 

 もっともオーリの見解はやや異なるようだったが。

 

「俺らは〈Lv7大加護〉なんちゅうインチキを使えるわけだからね。こいつを抜きにしたら、最終的には勝てたにせよ相応に苦戦はしたろうよ」

「そんなもんかね」

「そんなもんだよ。おそらくだけど本来ならさっきのエネミーだけでなく、セメタリー全体も含めた構成が真っ当な、頭数まで含めてしっかり準備をしたパーティで当たるのを想定した試験なんだ」

 

 まさかこの時期からLv7魔法を扱うほどのレベルアップするやつがいるとは、学園関係者にとっては想定の外々だっただけで。

 

 付け加えるなら彼らの他にもう一人でも───例えばこの間まで行動を共にしていた少女くらいの技量を持った前衛がいたのなら、大加護を使う必要さえなかった。

 教科書にも載っている基本戦術に則った立ち回りだけで満足な討伐がかなったことだろう。

 

「でもよー、それだと逆に出入り口に転がってた奴らはどーなんだ。苦戦したりボコボコにされてたのもかなりいてたぜ」

「連中に関してはレベルか装備品の強化等も含めた準備不足だね。どちらかを満足にこなしてさえいりゃ結果は違ったろうさ」

 

 オーリ達は装備さえも同学年の連中に比してかなりの充実をしている。探索以外の商いや潤沢な資金に物を言わせてアイテムを強化してきたからだ。

 これに準マスターレベルの魔法と経験値が加わればこの時期に苦戦をする方が難しい。

 

「───それでも今回の道中を考えれば後々の、夏休み明けからの本格的なカリキュラムが厳しくなりそうのは変わらんしな。やっぱ早いところ仲間を探すかどこかのパーティに潜り込むべきだな、こりゃ」

「その意見に否やはねぇが……今度はせめても学業姿勢くらいは真面目なやつじゃねーとな」

 

 違いない。頷きあった少年達が、さてこの後はどうしようかと口にしようとしたところで───

 

 

「用事はもう済んだの? なら、さっさとここから出ていった方がいいんじゃない」

 

 

 という声がかけられた。

 

 次の試験待ちの学徒だろうか?

 2人が振り返ると区画の出入り口に見慣れない、上等ながらもずいぶん年季の入った装備に身を包んだヒューマンの少女がいた。

 

 歳の頃はオーリ達より2つか3つくらい上、腰のあたりにまで届く淡いブラウンの髪と意思の強そうな顔立ちをした彼女は特に警戒した風もない自然体でそこにいた。

 

 もしかして試験の手伝いに駆り出された先輩なのかなと思いつつ、オーリは言葉を選んだ。

 

「えーっと、自分らまだテスト終わらせてないんでここで引き返すってのはないんすけど……」

「テスト? ……ああ、〈外〉はそんな時期なんだ。懐かしい言葉に過ぎて何のことかもわからなかった」

「そんな時期もなにも、先輩は違うんですか」

「私はそういうのじゃないから。ついでに言うならあなた達の通ってる学校の所属でさえないから厳密には先輩でもないわね」

「はあ」

 

 どう返事をしていいのか分からぬまま、オーリは曖昧な相槌を打った。

 

 それにしても……と、オーリは訝しんだ。なんというか歳に見合わぬ物腰と浮世離れした言動が妙にちぐはぐな少女である。

 あと他には誰もいないってことは彼女もソロ探索をしてる物好きなのだろうか?

 

 考えを巡らせるオーリのことなぞ斟酌しない様子で少女は口を開く。

 

「まあいいや。さっきも言ったけど用が済んだのなら早くここを出なさい。しばらくはここいらも物騒になるから、地下道に来るのも控えといたが身のためよ」

「ンなこと言われましても……ただでさえご飯のタネな上に今はテスト期間中なもんで、嫌でも潜らにゃならんのですが」

「そういえばそんなこと言ってたわね。学生って大変だわ───私にとってはもうどうしようもないことだけれど」

 

 なんにしても忠告はしたからさっさと帰りなさい。そう言って少女は去り、残された少年達は狐につままれたような気分で顔を見合わせた。

 

「変な人だったね」

「つーかよ、どこかで見たことなかったか。なんか見覚え……いや、既視感? とにかく以前どこかで会った気がするんだけど」

「言われてみりゃ割と最近、どっかで見たかもだが……でもあの人が言ってたようにいつまでもいるわけにもいかないね。考え事は後にして今はさっさとずらかることにしようや」

 

 それもそうだ。オーリ達は忘れ物・落とし物がないか確認した後、足早に区画を後にした。

 

 ついでの行き掛けの駄賃としてここに来る前に思い付いた通り、出入り口にて転がっている大量の半死人の群れへ余ってた回復魔法を売っておく。

 どいつもこいつも痛いわ苦しいわ背に腹は代えられないわということもあり言い値で買ってくれた。

 予定外の臨時収入にオーリは鼻歌のひとつも鳴らしたい気分だ。

 

「一日一善、いい功徳したもんだね」

「ときたまなんだが、ぼくはお前が底抜けのアホなのか性悪の守銭奴なのかわからんくなる」

 

 呆れ半分、心配半分のフェアリーくんが唱える〈送還(ロールフェイト)〉の魔法によって二人はセメタリーから〈カウサ地下道〉のC層へ脱けた。

 

 本来なら地下道のどこであろうが唱えりゃ一発で外界に出ることのできる呪文だが、以前オーリが語ったようにセメタリーは普通の地下道ともまた違う位相に置かれた謎空間なので、外に出るためにはここからターミナルの配置されてる場所に行くかもう一回、魔法を使う必要がある。

 

 ターミナルまでの短距離転移魔法(マロー)を使おうとしたところでオーリは何かに気づいたように“ぽん”と手を叩いた。

 

「あ、しまった。俺の魔法も一緒に使えば転がってた連中の送り迎えでもうひと稼ぎいけたじゃんか───せっかくの儲けをフイにしちまったぞ」

 

 いかんなぁ。己のウカツに渋い顔をするオーリへ今度こそ呆れ10割の視線が向けられる。

 

「ぼくが言えた義理でもないが、あんまアコギしてると鰻屋の女房ばりに即死水域へ放り込まれちまうぞ」

 

 底抜けの銭ゲバは胸の前で手をこすり合わせて「後生(ごしょう)だぁ、後生だぁ」とつぶやいた。

 

   ◇

 

 ターミナルを介して学園に戻り、ポータル脇に敷設されている受付に探索終了の旨を伝えたオーリ達はその足で〈出張保健室〉へと向かうことにした。

 怪我の治療とかではなく、道具袋に眠るお仲間(笑)くんちゃん達の蘇生を依頼するためだ。押し付けるとも云うが。

 

 受付を出て保健室へと足を向けたところで見知った顔が声をかけてきた。

 

「───あら、オーリ。もうテストを終わらせたのね、ごくろうさま」

 

 以前、死体回収のクエストを依頼してきた保健委員のユマ先輩である。

 

 彼女はおそらくこの後で高難度地下道にも向かう仕事もあるのだろう。(比較的)軽装だった前と違い、今回は複雑な文様が彫琢された胸部鎧(ブレストプレート)を着込み、右手には一振りでゾウも絶命させそうな戦鎚、左手には城塞の壁から削り取ったような大盾という戦いを重視した武装で身を固めていた。

 

「ユマ先輩、こんにちわ。もしかしてこれからお仕事ですか」オーリは軽く頭を下げた。

 

「まあね。あなた達は……見たところ怪我も無いようでなによりね、結構結構」先輩は言葉を切り、意味ありげに保健室へと視線をやった。

 

「まったく、他の子もあなた達を見習ってほしいわね。これくらいの地下道でホイホイ重傷負ったり死人出したり遭難するだなんて先が思いやられる。お陰で私だけじゃなく保健委員のみんな、魔力回復の仮眠と地下道で行ったり来たりの繰り返しよ」

 

 いい加減にしてほしいわ。口調こそいつもと変わらぬ柔らかなものだったが、その表情には隠しきれない疲労と辟易(へきえき)が滲んでいた。

 

「そういえばあなた達もパーティを組んだんですってね、その子達はどうしたの。お手洗い?」

 

 後輩2匹へ向けられた訝しげな視線は何かを察したように鋭く細められ、次に彼らが所持する道具袋へと注がれた。

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 しばしの気まずい沈黙の後、フェアリーくんが絞り出すような声で言った。

 

「……えーっと、こいつら───じゃなかった、仲間達はぼくが蘇生しますんで、先輩はお気になさらず仕事に励んでください」

「面倒事を押し付けちゃって悪いわね。でも優秀で気が利くステキな後輩を持てた私はきっと幸せ者よ」

 

 道端をひっそりと彩るスミレのような淡い笑みだけを残して先輩の姿はポータルへと吸い込まれ、それを見送ったフェアリーくんは忌々しさもそのままに引っ張り出した死体袋の中身を地べたにぶちまけた。

 死霊のしたたりのワンシーンみたいな有り様の“仲間たち”を見た周りの連中がドン引きもしくはイヤな顔をして距離を取るが、悲鳴を上げるやつがいないのは流石というべきである。

 

 衆生(しゅじょう)の反応など知ったことではないフェアリーくんはぶーぶー文句を垂れ流しながら呪文を唱える。

 

「───聖術 Lv5 ソロ 蘇生(ドルトレイ)

 ああ、もう! 面倒くせえ魔力もったいねえ! 手前ら、みんな失敗しちまえ!! 灰になれ!!!」

 

 少年のささやかな願いもむなしくアホタレどもは無事に生き返り、「痛い」だの「助けて」だのとみっともなく喚き散らした。傷も全回復するLv7復活(マドルト)と違ってLv5蘇生は息を吹き返すだけの代物なので食らったダメージの大半は据え置きなのだ。

 フェアリーくんは使える魔力がLv5しか残ってないからしょうがねーよなと言い訳をしたが真の目的が嫌がらせなのは明白だった。そもそもLv7の聖術ストックたんまり余ってるし。

 

 オーリは道具袋からいくらかのアイテムを取り出してアホ連中の前に置いてやった。

 

「これ約束してた君らの取り分ね───それじゃあ用も済んだことだし俺らは失礼させてもらうね。回復は自前で何とかしてね」

「あばよ。これに懲りたらもう二度とぼくらにゃ関わってくれるんじゃねーぞ」

 

 なおも“ぎゃあぎゃあ”うるさい連中を放置してオーリ達はその場を後にした。

 次の行き先は学園の事務棟。パーティの脱退報告と手続きのためである。

 

 沈みゆくお天道さまに名残惜しいものを感じながらオーリはしみじみと言う。

 

「これって長く仕事を続けたきゃ仲間や職場は焦って決めず、きちんと下調べしろっていう教訓なんかね」

「けだし名言。なんにしてもこんだけ最底辺な連中を相手にした後なら、次は多少の問題児を引いても我慢が効くわな」

 

 ンなことよりさっさと手続き済ませてご飯にしようぜ。フェアリーくんのもはや微塵の興味も失せたとばかりな提案に、オーリも短く「そーだね」と応えた。

 

 

 

 

 その後の彼らがどうなったかなんて、オーリ達の知ったことではない。

 




あんまりにお馬鹿な展開で原作ラブクラフトなことに割と最近まで気が付かなかったんだよね
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