男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第34層 地下道スタンドアローン

 

 残念ながら一発合格とはいかなかったが、補習も終わりレベルをさらに上げることでお情けも加味した形で〈魔法使い〉学科(メイジ)への転科ができた。

 転科に伴いせっかく上げたレベルが1に戻ってしまったのは残念だが、それでも今まで積み重ねてきたノウハウと装備品を活かせばすぐに取り戻せるだろうとあえて楽観的に考えることにした。

 

 転科したことを(しら)せるとパーティの仲間達は驚き喜んだ……と思うがよく憶えていない。その時はもう他人のことより自分のことで手一杯であったし、それ以上にこの時点で彼らと一緒のよりソロ探索の回数と稼ぎの方が多くなっていたこともあり優先度が著しく下がっていたからだ。

 

 思えばその頃からオーリと仲間達とで意見の食い違い、あるいは水面下での対立の種は()かれていたんだろう。

 

 転科してしばらく後、魔法使いの各種必須講義が終わった頃合いでパーティのメンツと一緒に探索を行うことになった。

 今まで前衛だったオーリは後ろに下げられ、強敵に出くわしたときの保険として扱われた。

 もっとも、鉄板編成ないしその気遣いも無駄になったのだが。

 

 相も変わらぬトレーン地下道の探索と聞いた時点で拒否するなり回れ右するなりしておけば良かったのかもしれない。

 なにせこの頃になるとオーリはホルデア登山道への攻略を始めていたし、転科後も探索を欠かしていなかったお陰でささやかながらレベルも上がっていたのだ。今さら初心者向け地下道(ノービスロード)になんてうろついても仕方がなかった。

 

 色々と言いたいことはあったが抑え込み、数区画ほどをまたいだところで一行は最初の接敵を迎えたのだが……。

 

 ───倒すのが遅い。こんくらいの相手にいつまでかけるつもりだ

 

 仲間達の手際の悪さにオーリは失望にも似た苛立ちを覚えた。オーリが一人で相手をしてきたモンスターに、全員でかかってなお彼らは手間取っているのだ。一体どれだけサボっていたのだろうか。

 しびれを切らしたオーリは前に出た。誰かが「おい、待てよ」とか「戻れ」とか言ってたような気もするが空耳だと思い込むことにした。

 

 転科してからの得物である魔法使いの杖(スタッフ)(クラスメイトのお古を安く譲ってもらったものだ)によって頭をかち割られ、モンスターはあっさりと沈んだ。

 跡に残されたドロップアイテムを拾い、何事もなかったような風情で先を急ごうと促すオーリに、彼らはおよそ“仲間”に向けるようなものではない目をしたが、暗かったのとさっさと次の獲物を見つけたいのとで馬鹿は気付きもしなかった。

 

 …………

 

 それから数回ほどの接敵で仲間達は音を上げた。

 負ったダメージが限界に達したとかではない───戦闘のほとんどはオーリが担当したので無傷にも等しいものだったし───単に緊張と疲労によるスタミナ切れを起こしたのだ。

 オーリはその後、何度もこぼす羽目になるため息を吐いた。

 

 結局、C層に到達さえできぬまま戻ろうと提案する仲間達をポータルまで送ったところで、

 

『俺はもう少し探索してくるよ───じゃあね』

 

 そう言い捨て地下道を引き返した自分を、彼らはどんな気持ちで見送ったろうか。

 少なくとも当時の、日を追うごとに強くなっていく自分に酔っ払っていたクソガキには思いも寄らないことなのは間違いないが。

 

   ◇

 

 それから後はもうとんとん拍子だった。ちなみに良い方向と悪い方向の両面だ。

 

 魔法使いに転科後はやや苦労をした経験値稼ぎも、ある頃を境に効率が一気に急上昇した。Lv3帯の魔法───広範囲に影響を与える攻撃が使えるようになったのだ。

 グループ魔法とも呼ばれるカテゴリーのこいつは、相手が一匹だろうが数十匹だろうが同一隊列に属しているなら等しく効果を及ぼすので、今までは逃げの一手だった大量のエネミーもパワーエサを食ったパックマンばりに食い散らかせるようになる。

 

 オーリは戦いの方針を完全に変えることにした。

 

 探索の場はホルデアやパルタクス地下道に絞り、今までのように確実に勝てる弱い個体と数だけを相手にするのではなく、できるだけ強い個体が多く群れているところを狙うのだ。

 なにせ同じ種類のモンスターでも強い相手のが経験値等が多く手に入るし、多少強いといっても所詮は1年坊主が初期に潜る地下道に生息する連中なら駆け出し魔法使いのへっぽこ魔法でも十分間に合う。

 

 加えて特定のモンスターを放置しておくことで仲間を次々と呼び寄せる習性を利用した経験値の養殖じみたことも行った。

 ウソかホントかは知らないが、この技術を教えてくれた先生によればレベルの上がりきった連中はグレーターデーモン等の超危険エネミー相手にさえこれをやるそうだが、一体どんだけの魔法や武装があればそんなマネができるのだろうか。

 

 それらにより稼ぎの効率はべらぼうに上がったが、引き換えに忙しさもうなぎのぼりとなった。

 

 授業が終われば即、地下道に向かいありったけの魔法を使いまくり殺りまくり、稼ぎ終わったら寮に戻って一休み。魔力を回復したらまた地下道に潜る、この繰り返しがオーリの記憶に残っている当時の全てである。

 忙しさに反比例するかのように元から少なかった仲間といる時間は皆無に───というよりすでに頭のどこにも存在しなくなり、かつては数日おきだった地下道探索は毎日のように行われ、他を抜き去るレベルアップの恩恵で探索を息するように行えるようになるまで時間はかからなかった。

 

 仲間(もはやそのように形容できるかも怪しいのだが)との関係が変わったように、教師やクラスメイトをはじめとした周りの見る目も変わった。

 

 少し前までいようがいまいが消えていなくなろうが誰も気にしない構わない十把一絡げボンクラだったのが、常軌を逸した稼ぎ行為に明け暮れるヤバキチとして知れ渡るようになったのだ。悪名は無名に云々ではないが、ナメられ安く見積もられるのに比べりゃいくらかマシには違いないのだろうということで気にはしないことにしたが。

 

   ◇

 

 それにしても……今や顔も名前も記憶に残ってないかつての仲間達には悪いことをしたと、身の回りも落ち着いてきた最近のオーリは思う。

 

 まだ弱かった頃のオーリを拾って、手助けしてくれたのは間違いなく彼らだったのだ。あのパーティに入れてもらえなければおそらく最初の一歩につまづき、今頃ひとりぼっちで灰か塵にでもなっていたはずだ。

 

 だのにこちらの都合だけで振り回して蔑ろにして、ついには貸し借り踏み倒してしらんぷりを決め込んだ。いずれ(たもと)を分かつのは避けられないにしても、あと少しだけ、ほんの少しでいいからマシな別れはなかったか。彼らのことがふと頭をよぎる度にレベルを多少、上げようが人としての根本的な部分がまったく成長していないのを思い知る。

 

 なら自分の人生や稼ぎと引き換えにしてでも彼らに義理を果たせたかといえば、首は横にしか振れないのだが。

 

 それらを以前、ふとしたはずみでユーノ先生に相談したこともあるのだが、

 

「それもこれも結局はアンタが弱いからよ。後ろめたさを誤魔化すための自己憐憫に費やす暇を使って腕立て伏せでもするんだね」

 

 返ってきた応えは斬って捨てるがごとくに辛辣なものだった。

 

「あんたに着いて行けなかったのだってそいつらが弱かっただけ。本当にそんだけ。そうでなくとも手前の貧相な尻っぺたも拭けない学徒風情が、他人の都合や去就にまで気を配ろうなんざおこがましい」

 

 オーリの目を真っ向から射抜いて先生は続けた。

 

「この界隈、あんた程度のやつなんざはいて捨てるほど売るほどいるんだ。多少、強くなった程度でいい気になってないでさっさと地下道に行ってきな。で、今よりもっと強くなって、そうさな……〈イカロスの足〉を踏破する頃合いにでも、改めて今を振り返ってみるんだね。きっと、しょうもないことで悩んでた自分を笑い飛ばしてるさ」

 

 もしかして慰めてくれてんすか。馬鹿正直に訊くと、先生はバカを目の当たりにしたような顔をした。

 

「まあね。アンタみたくなのでも一応は教え子で飯の種だ。しかも少し前まで読み書きも出来なかったバカタレが今や学年最速のマスターレベル到達者に成り上がる───こんな絵に描いたようなサクセスストーリー持ちに潰れてもらうわけにゃいかねーんだよ。あたしの査定にだって響いちまうだろ」

 

 さいですか。

 遠慮も身も蓋もない言い様にむしろ笑いの感情を刺激されたらしい教え子を、鼻を鳴らして見やった先生はデスクに向き直った。

 

「それよかアンタもそろそろ心機一転して、新しいパーティを組んでみちゃどうだ。昔の男の面影なんぞにいつまでも縋りつくもんじゃない」

 

 先生にはそういうのないんですかね。茶化す教え子に底冷えするような視線を先生は向けた。

 

「レディの過去バナ色恋沙汰に首を突っ込むようなのは、マッドストンパーに踏んづけられるのが相応って親御さんに教わらなかったか?」

 

 さーせん。両手を上げてオーリは謝罪し、いくらかの問答の後に職員室を出た。

 

 ───ほんでもなあ、パーティを組め言われてもどーしたもんじゃろ

 

 探索の準備のために教室へ向かう途中、廊下をとぼとぼ歩くオーリの横っちょ、より正確には腰のちょい下あたりから水晶細工の鈴を鳴らすような声が聞こえてきた。

 

 

「うーす。シケた顔してんね、一体どしたぁ」

 

 

 そろそろ日差しが辛くなってきた、ある初夏の思い出の一幕であった。

 

   ◇

 

「思い返すほど、なんちゅう綱渡りというか行き当たりばったりなことか」

 

 将来設計もへったくれもない人任せ運任せな道行きの数々を思い出し頭を抱えそうになったオーリだが、すぐに気を取り直してお弁当の残りをかっこみキャンプを片付けはじめた。

 

 悩もうが悔やもうが今さら遅いしどうにもならない。

 悪いことをしたと思った相手にいたってはもうどこの誰なのか思い出すこともできない有り様ときたもんだ。

 

 ならせめてこれからの行動で少しでも良いものを積み上げて不甲斐なかった過去の落とし前をつけるしかない。

 




あれじゃねぇこれでもねえと試行錯誤しながら
ちまちま探索域を拡げていく時期が一番楽しい
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