男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第35層 カエルとうまごや

 

 キャンプを片付けたオーリは探索を再開した。

 

 未踏破の空白領域───つまるところこのスレッド全ての区画へ踏み入れる度に地図を取り出し、書き込みをしながら少しずつ探索を進めていく。

 なんとまだるっこしい道行きかと思われそうなもんだが、これがぼっちの辛いところだ。真っ当なパーティならマッピングひとつとっても斥候と前衛によって安全を確保されながら迅速に、かつ余裕をもって行えるのだが、一人探索では警戒から接敵まで全てを手前でこなさにゃならぬ。

 

 しかも新しく踏み入れた地下道だけにスレッドの構成も今までのものとは勝手が違うときてるので、これまで以上に慎重に歩を進める必要がある。

 とはいえオーリが専攻する超術師は〈魔障壁〉をはじめとした緊急回避に役立つスキルや魔法に恵まれているので、ある程度リスクを減らせるだけマシなのだが。

 

 ちなみに地下道におけるスレッドの構成は制御システムも担うC層(センター)以外は基本的に固定されておらず、そこを軸に連結された各フロアそのものは何も存在しない空間だったりする。

 ポータルを経由して何者かが侵入することによりフロアにランダムで選ばれたスレッドが呼び出され、冒険者達(というか現生人類)に〈地下道〉と呼称される迷宮状の空間が形成(エリアライズ)されるのだ。この仕組みを応用し、ポータルの出入りを繰り返して面倒なスレッドを回避するという裏技めいたものもあったりする。

 

 そうやってちょこちょこと、しかし確実にマップを埋めながら探索することしばし。

 地図にして半分ほどを消化したところで数十匹ものモンスターの群れに遭遇したオーリは大げさに肩をすくめてみせた。

 

「熱烈歓迎ありがてぇ。そんなに気合を入れずとも、腹ごなしくらいでいいんだぜ。

 ───魔術 Lv7 全域 核撃(ティルトレイ)

 

 この数相手にちまちました攻撃はしていられない。初手からティルトレイをぶっ放して群れを薙ぎ払ったオーリはすかさず魔障壁を展開、得物を携え生き残った連中に吶喊する。いかなLv7魔法とはいえ、さすがにこの辺りともなればそれのみで鎧袖一触というわけにはいかないらしい(もっともこれは術者の力量が足りないせいもあろうが)。

 

 立ち上がろうとしたトロールの腹にダッシュの勢いも加味した蹴りを入れて転がし首を踏み砕き、剣を振り回すライオンの頭を載っけた獣人っぽいやつ(サーベルタイガーというらしいが名前間違ってね?)には銅槌をお見舞いして受け止めようとした剣もろとも頭を叩き割り、返す刀でこちらに肉薄していたオーガへ打撃盾を打ち込んで黙らせる。

 

「───超術 Lv4 グループ 念槍(マハサイ)

 

 最後尾に残った群れは種別の特定ができなかったので超術の無属性魔法で始末をつけた。

 超術には知覚を強化してエネミーの判別を容易にする魔法もあるのだが、元の探査能力がへっぽこな魔法職では気休め程度でしかない。それだけに不確定要素を排除できる無属性の攻撃はこういう場面で重宝する。

 

 危なげなく戦いを終えたオーリは跡に残された宝箱(コードチップ)を魔法で解錠してから愚痴った。

 

「難易度に比例して宝箱のランクが上がったのは嬉しいけど、ちまちま魔法で鑑定してっと魔力が足らんくなるのがなあ……。めぼしいのを片付けたら残りは相方に任せるっきゃねーな」

 

 鑑定に使われる魔法(Lv6カルドラ)は宝箱を安全に開けるために使う〈解錠(ケアルノバ)〉や状態異常回復の魔法(ディリタ)と同じLv帯に属しているので、後先考えずにホイホイ使ってると高ランクの宝箱にありついたときにお宝を棒に振ってしまうこともありえるのだ。

 

 今までみたいに無理くり開けちまえばいいじゃねえかと思われるかもだが、さすがにここらの宝箱や罠ともなればしくってもちょいと痛い目を見るくらいで済むようなものではない。

 なにせ麻痺や石化等の罠に引っかかれば生きながらモンスターのランチになったり、ポータル広場の隅っこで野ざらしにされてるバカタレ二宮尊徳像のひとつになっちまうのだから。

 

「倉庫に預けてる未鑑定品の数もかなりのもんになっちまってるし、早く戻ってきてもらいたいもんだ」

 

 それ以外にも図書室に並ぶクエストの中には一人だと苦しいものもあるので、それらをこなして単位取得に繋げる意味でも相方にいてもらわないと困るわけで。

 

 ───そういやあの子とつるむようになってから結構経つな

 

 自分の傍らでぞっとするほど美しいフェアリーの少年がうろんな笑いを浮かべていたのに気がついたのは、マスターレベルの頂きが見えてきたくらいだったか。

 皆が遠巻きにこちらを伺い好き勝手なことを噂する中、なぜか彼だけは気にすることなくオーリに構ってくれて回復やらロハ鑑定やらなにくれとなく世話まで焼いてくれたのだが……今にして思えばなんだって自分のような輩に関わってくれたのか。性格はさておきあんだけの、並外れた美貌と力量の持ち主である。その気になればつるむ相手なんていくらでも選び放題だろうに。

 

 ───すぐに切れる縁かとも思ってたんだが、存外に長続きする。これも相性ってやつなんかね

 

 それにしても10日ぽっち顔を合わせてないだけでずいぶんと寂しく感じるものだ。

 少し前まではこんな感傷を抱くこともなかったはずだが、これもまた仲間を大事に思う形の成長なのか、はたまた誰かに頼りたい弱さゆえなのかオーリには見当もつかない。

 

   ◇

 

 ジェデロ地下道はR1スレッドのあらかたを回り、C層へ抜けるためのポータルに到着したところでオーリは一旦、学園へ引き返すことにした。体力にはまだ余裕はあるのだが魔力が心もとなくなってきたのだ。

 特に切り札となるLv7帯を想定以上に消費したのが痛い。C層には〈イカロフォース〉はじめとした強力なエネミーがうろついているので、ソロ探索ではわずかな油断もできない。

 

 ポータル脇に浮かぶターミナルへ接続しながらオーリはぼやいた。

 

「長転移の魔法を使えばLv7帯に余裕がなくなり、短転移だと何度も使うから魔力がすっからかんになっちまうときたもんだ。あーあ、目的地まで魔法一発ひとっ飛びな時代にならねーかな」

 

 魔法をケチって歩いて行こうとすれば今度は道中の接敵等によって体力が削られる。それなら中継地点の街に寄って、アイテムの整理ついでに休憩をして回復するのも手ではあるが、これもある程度の馴染みや土地鑑がないとぼられたりするので悩ましい。

 

 こういった諸々の問題もソロ探索の限界、あるいはどんだけレベルを上げようが『冒険者』としての経験は駆け出しでしかないひよっこの現実ってわけだ。

 

   ◇

 

 学園に帰還したオーリはひとまず魔力回復のために一休みすることにした。

 

 あくびを噛み殺し、寮に向かうために歩き出すと足の裏からデカいカエルでも踏んづけたような感触と、これまたデカいカエルでも踏んづけたような「ぐえっ」という声が聞こえてきた。

 

「うわあ、一体なんじゃい」

 

 ぎょっとなったオーリが視線を足元にやると、自分の足が馬に踏んづけられたカエルみたいな格好の男子学徒の背中を踏んづけているのが見えた。同じ教室の子だった。

 オーリは眉をひそめた。

 

「誰かと思ったらお前さんか。ンなとこで何してんだ、お昼寝?」

 

 それならせめても寮のベッドで寝れ。言いながら足をどけたオーリが、あらためて地べたに転がるバカタレを邪魔にならない場所へと蹴り転がそうとしたところで、

 

「てめー、仮にもクラスメイトになんちゅうマネをしやがるかな!」

 

 “がばり”と起き上がって抗議するクラスメイトくんを、やや冷めた目でオーリはなだめた。

 

「おお、自力で立ち上がれるなら蹴飛ばす必要もないな。とっとと寮に行っておやすみ」

「だから寝てたわけじゃねえつーの」

「わーってるよ、どうせ探索に失敗して逃げ帰ってきたんだろ。ていうか他の連中はどうしたんだ」

「……今日は俺一人のソロ探だよ。他には誰もいねんだ」

 

「あー?」今度こそ冷え切った声でオーリは斬って捨てた。「お前、アホちゃうか」

 

 短くも容赦のない一言にクラスメイトくんはキレた。

 

「このやろうてめえ、なんてこと言いやがる!?」

「怒るなよ。言い訳のしようもない事実だしアホで悪けりゃ自殺行為だぜ」

 

 それをさんざか繰り返して、懲りずに今もやらかしてた俺が言うのもなんだけど。胸ぐらを掴もうとした手を“ぺちり”とはたかれた痛みに頭が冷えたのかクラスメイトくんは引き下がった。度を越したアホとはいえども、相手はマスタークラスの実績持ちなのだ。

 

「にしてもなんだってそんなマネをしくさった。ぼっちやるにしても今のレベルと学科、装備や潜れる地下道まで考えると稼ぐのも一苦労じゃろが。悪いこと言わないからパーティの連中と一緒しなよ」

「……期末でちょいと無様さらしちまってな。新学期が始まるまでに鍛え直したいんだよ」

 

 クラスメイトくんが顔をしかめながら語るところによれば、なんでも先の試験で壁役としてパーティの前衛を張っていたものの、最終試験(ダイオウバサミの撃破)では真っ先に戦闘不能状態になっちまったのだそうな。

 

「門外漢だからなんとも言いにくいけど壁役ってのは真っ先にボコられるもんだし、役目を果たして沈むならそれはしゃあないんちゃうか。パーティのメンツもそこは理解してるしお前さんを責めたりしてるわけでもないんじゃろ」

「みんながそう思ってるにしても俺がよくねえんだよ。……パーティに所属してないお前にゃわかりにくいのかもしれんけどな」

 

 そんなもんすか。オーリとしてはいまいち納得はしかねたが、少年が語ったようにこれは仕方のないことではある。

 仲間に対する責任感なりパーティへの帰属意識(あるいは集団行動に際してのコミュニケーション能力でもいいか?)といったものばかりは、いくらレベルを上げようが身に付くような物ではないのだから。しかもこのアホ、過去には所属していた仲間を見限るという行為を2回もやらかしてるわけだし。

 

 クラスメイトくんは外した装備品を道具袋に仕舞いながらため息を吐いた。

 

「でもお前の言う通りすぎるわな。今更だけど地下道ってのは甘くねえ。……お前でもやれたんだから俺もイケると思ったんだけどなあ」

「俺にしたところで運が良かっただけなんだけどな」

 

 もちろん決してそれだけじゃないにせよ、あと少し、どこかでツキに見放されてりゃ今頃は知らないところで屍をさらしてたのには違いないわけで。

 これからどーすっかなと考え込むクラスメイトくんの横顔をしばし眺めてからオーリは切り出した。

 

「なあここは俺に任せてみないか? パワーレベリングを手伝ったげるよ」

 

 オーリが口にしたのは高レベルの冒険者が高難度の地下道やクエストに付き添うことで低レベルの連中へ安全に経験値を稼がせる互助・育成行為のことだ。

 

 メリットとしては先に述べたような安全かつ一足飛びのレベルアップが挙げられるが、その反面レベルは高くなってもその過程における経験、つまりどんな状況でどんな行動をすべきか等の知識や対処法の『経験』までは得られずじまいとなるデメリットもあるので、考えなしに頼り切るのもまたよろしくはない。今回のクラスメイトくんの場合であるなら、パーティにおける立ち回りを通じて充分に経験を積んでいると思われるから問題はないだろうが。

 

 提案を聞いたクラスメイトくんは不審げな顔でオーリを見た。まさかコイツが助け舟を出すとは思わなかったのだ。

 

「そりゃあ願ったりかなったりではあるがよ……いいのか?」

「いいってことよ。今なら同級生価格で多少は安くしたげるから遠慮は無用だぜ」

「おめぇ、この流れで金取るのかよ……」

「たりめーだ。もちろんロハでも構わんが、その場合、飽きたりめんどくさくなったら深奥部の警戒区域(どちゃくそやべー場所)で放置されるくらいは覚悟しとけ」

 

 ろくなもんじゃねえと顔を歪めるクラスメイトくんを諭すようにオーリは言って聞かせる。

 

「お金を払うてのはそーゆーこと。親しいわけでもない相手に安全の担保とか保険とか求めたいなら相応の対価は出さにゃな」

 

 なにせお前さんへ特別に親切にするほどの義理もねえし、俺。身も蓋もない言いように少年のしかめっ面がさらにひどいものになったが、しかし背に腹は代えられないということもあり結局はオーリの申し出を了承した。

 

「毎度あり。とはいえ俺も魔力を回復せにゃならんから今日のところは解散だ。報酬やら探索の取り分とかの打ち合わせは明日にしようや。

 ───超術 Lv7 ソロ 快癒(マディリタ)

 

 別れ際にオーリは虎の子の回復魔法をクラスメイトくんにかけてやった。

 

「こいつはサービスだよ。じゃあまた明日、ここでな」

 

   ◇

 

 クラスメイトくんと別れたオーリは探索で得たアイテムのいくつかを余ってた魔法で鑑定してから、立ち寄った購買部で処分した。

 アイテムが思ったより良い値段で売れたこともあり、学食大路でごはんを食べていくらかのお店を回り遊んだオーリが学生寮に戻ったのは夕暮れ時を少しすぎた頃だった。

 

「……今日はもうちょい稼ぐつもりだったのにすっかり予定が狂っちまったなあ」

 

 でもせっかくの休みなんだし、たまにならこんな日があってもいい。

 エントランス脇の受付に荷物を預け、風呂や歯磨きを済ませてからいつも使っている部屋に繋がる廊下へと向かう。

 

 パルタクス学園における寮の部屋はおおまかに2種類が存在している。

 

 一つは有料の個室部屋。

 利用に際してお金を取られるだけあって設備や居住性は中々、どころか料金を考えれば断然そこらの宿よりも優れている。

 冒険にも慣れて懐に余裕があったり、お家が太い(そんなやつはまず冒険者とかいうヤクザな稼業にならんけど)とかいう学徒は主にこちらを使う。オーリの相方であるフェアリーくんも基本は個室住まいである。

 

 対するのがもう一つの無料部屋。

 なのだが……これがだだっ広いだけの部屋に多段ベッドがバッテラよろしくすし詰めにされただけというフルメタル・ジャケットに出てきたような雑魚寝部屋で、タダで休めるだけありがてぇかたじけねぇと思いやがれとでも言わんばかりのやっつけ具合。口の悪い学徒などからは親しみを込めて『馬小屋』などと呼ばれている。

 

 こんなもん当然ながら居住性等もお察しで、魔力を回復する程度はできても体力はイマイチ回復した気分にならないこともあり、大半の学徒達が一日でも早くこの馬小屋住まいから脱け出すために必死こく羽目になるのだ。

 

 学徒らにとって個室部屋を選べるというのは一種のステータスと言ってもよく、また学園の側としてもクソガキ共に競争と成長を促すため、あえてこのように露骨な格差を見せつけているんじゃねえかとオーリは邪推している。

 

 なお懐具合だけならオーリも個室を選べるのだが、こいつの場合は染み付いた節約気質がそうさせるのか生来の貧乏性が祟るのか今だに雑魚寝部屋での寝泊まりがやめられないでいる。

 

   ◇

 

 長い長い廊下を歩き、薄暗い無料部屋の扉を開いたオーリは一番近くにあったベッドの最上段に登った。

 普段なら真っ先に占領されてる位置のベッドも、学徒の大半が出払った現在ではどれでも選び放題だ。うまごやだけに寝心地もアレだからどれを選んだところでなんも変わらんけど。

 

 脱いだ制服を畳んで枕元に置いてから薄手のタオルケットを被ったオーリは、眠気が訪れるまでこれからの算段を少しだけ考えることにした。

 

 ───帰省から戻ってきた奴らの中にはサボってるのもいるだろうし、そいつらを当て込んだレベリングでまた稼げるかな?

 

 狙い目としては夏休みも終わる頃合いギリギリで戻ってきた連中だろうか。

 そのくらいの時期なら自分も超術師のマスターまでこぎつけられるだろうか。

 魔法を売ることも計算に入れたらどの時期で転科ができるように調整するべきだろうか。

 

 無い知恵絞って色々考えてるうちに眠くなってきたのでオーリは「おやすみお嬢様」と、わけのわからない独り言をつぶやいて目を閉じた。

 




 あえて良いところ探すなら夜食にドーナツ持ち込んでも鬼みたいな形相の先生に怒られないくらいかな
 寝相があまりにも悪かったりイビキがうるせぇみたいなやつは靴下と石鹸で合成したブラックジャックで闇討ちされるくらいはありそうだけど。
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