男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第37層 盾と盗賊

 

 充実してんだかしてないんだか、単に授業の時間も地下道に注ぎ込んでるだけなのかもわからない夏休みも残り2週間を切ったある日。

 ときはお昼のちょいと前、ところは学園中庭のベンチにてオーリは相方と並んで座り今後の相談をした。

 

「早ければ休み明けまで、最悪でも二学期の中頃までには新しいパーティを組むかどこぞのパーティへ加入する必要がある」

 

 それを聞いたフェアリーくんが柳眉を諦観にも似たような形でひそめる。

 

「やっぱ今のままじゃあ厳しいか」

「うん。期末と夏休み中の探索で嫌気が差すくらいに思い知ったけどさ、このままじゃ安定した探索なんざできっこねー」

 

 得られる経験値やアイテム、魔力や体力も含めた消費する物資諸々を天秤にかけたところ、魔法使いの二匹編成では遠からず破綻するだろうというのがオーリの出した結論だった。

 

「レベルを上げて力押し……てのもダメそう?」

「無理。ジェデロ以降の難易度が俺の予想通りだとしたら盾役もなしに探索なんてできたもんじゃなし、適正レベルまで雑魚狩りしようにも今度は長期間の足踏みを余儀なくされちまうよ」

 

 前衛職もさることながら盗賊職の不在は喫緊の課題である。

 探索に必要な諸々を魔法で代替しようにも限度があるし、それにしても本職ほどの信用度はないのだ。宝箱を魔法で解錠する関係上、長期探索をしようとしたら得られるアイテムに相当な取りこぼしが発生してしまうのは痛すぎる。

 

 なによりクエストの中にはある程度の人手がないとこなすのも一苦労なやつもあるので、安定した成績と単位取得のためにもパーティを組んでおくにしくはない。

 

「今ならまだ俺らの挙げた実績、提供できるアイテムや情報を武器に良い条件でパーティに売り込みもできるだろうけど、時間が経てばそれも厳しくなっちまう」

「去就を定めるなら早い内にってことだな。それにしたとこでアテはあんのか」

「ぼちぼち程度には。泥舟よりは大分マシな大船ってとこかな」

 

 実のところオーリ“だけ”なら引く手あまた、とまで言わずとも需要はあるのだ。それこそパワーレベリング屋の商いを通じて何度かスカウトされる程度には。

 各種攻撃・補助魔法のみならず限定的ながら回復魔法も扱える人材というのは学徒全体を見渡してもそうはいない、どころか学年ではコイツだけである。

 なによりズンドコからソロで生き残り這い上がった経験と知識はそれだけで価値がある。多少なりとも頭の周るやつならパーティの育成面においてその知見を有効に扱うことだろう。

 

 ただ……相方とセットで加入したいという希望を告げると皆が一様に渋い顔をするだけで。

 

 そこらの事情も察しているフェアリーくんは舌打ちでもしそうな顔で言った。

 

「なんだおめー、それで気を遣ってるつもりなら余計なお世話ってもんだぞ。行きたいとこや組みたい相手があんなら手前の好きにどこへなりとでも行っちまえばいいじゃねーか」

「そういう気持ちがまったくないといえば嘘になる。だけどここできみを手放すわけにもいかんのよ」

 

 襟を正したオーリは、あらためて相方に真正面から向き直った。余人ならば一瞬で魂まで奪われるであろう瞳がこちらを見返している。

 

「この際はっきり言っておくぜ。俺はきみと一蓮托生のつもりでいる。もちろんいずれどこかで道が分かれることもあろうさ、でもそれは決して今じゃないだろ」

 

 相方の義理堅さは承知している。口ではなんと言おうが彼の側から自分を切らない以上、オーリは自分の都合だけを優先できないのだ。

 なにより作った貸し借りをきっちり精算しない内に縁が切れるなんてのはもう真っ平ごめんなのだ。選択肢を選ぶ資格さえなかった頃はともかく、今なら多少のワガママ通すくらいは許されてもいいじゃない。

 

「あーそーかい、なら好きにすりゃいいさ」

 

 秀麗な面をこころもち歪めてそっぽを向くフェアリーくんだが機嫌を損ねたようではなさそうだった。

 そのことに少しの安堵を覚えながらオーリは他にも提案をしてみる。

 

「まずは今までに声をかけてくれた連中を回ってみよう。なんだかんだ言われようがきみの腕は信用されてるんだ、交渉次第じゃすんなりと受け入れてくれるかもしれんぜ」

 

 しかし実のところオーリはそこまで悲観的には考えていないのだが。

 ぶっちゃけるなら相方の美貌さえ前面に押し出しちまえば大抵の交渉事は無条件で通らせることが可能なのだ(彼は嫌がるだろうけど)。こいつのツラを拝まされて首を縦に振らないやつは、美意識とは無縁の木石かウェルズの火星人くらいなもんだ。

 

 万が一、それもダメってんなら他所から人を引っ張ってきて新しくパーティを立ち上げるのも手ではある。

 幸いなことに相性さえ無視できれば腕におぼえあり、かつ二つ返事……は無理としても最終的には了承してくれそうなやつにも何匹か心当たりがあるわけだし。

 

   ◇

 

 大まかな方針も決まったところで、オーリは気晴らしに話題を変えるべく少し気になっていたことを訊ねた。

 

「ところで話は変わるんだが、きみの里帰りはどうだったよ。聞いてた予定よりも長く留まってたみたいだけど」

「ああ、それ。親に引き止められてつい長居しちまったてのもあるんだが、ちょいと気になったことの調べ物をしてたんだ」

「ふうん? それって一体なんぞ」

「おめー、期末試験で入ったセメタリーのことは憶えてるか───正確にはセメタリーの出入り口付近で見かけた〈ターミナル〉のことだけど」

 

 そう言われてオーリは記憶を漁って当時を思い出す。たしかセメタリーの簡易的な情報やらが知れたはずだったが……。

 

「そこの情報にあった〈アブリエル〉とかいう代物についての話な」

「うーん、なんか聞き覚えがあるような無いような……」

「やっぱし忘れてるじゃねーか、ったく……。まあいいや、とにかくそのアブリエルやらについて調べてたんだ。地元にゃそこそこデカい図書館もあるから自主課題の代わりにゃ丁度いいと思ってな」

「ふむ、そんで首尾はどうだったよ」

 

 萌黄色の頭が風にたなびく若草のように振られた。

 

「さっぱり。パパやママに聞いても専門外の代物らしいわ、閲覧できる限りの文献を漁ってもかすりもしねぇわ」

「てことは……」

「そーゆーこと。餅について知りたきゃ餅屋に聞くのが手っ取り早い」

 

 前にも述べたがこの学園には地下道およびそこから得られた知識・技術の研究機関としての側面もあるのだ。

 また学徒どもこそ手の施しようのないアホ多め(さっきから駄弁る二匹も含めて)とはいえ、教師連中はどいつもこいつも担当する方面において最前線を張る一級品揃いでもある。性格やら倫理観やらに手の施しようがない部分が多々あるのはこの際、無視しておくがよろしい。

 

「おまえ、最近ドークス先生に目ぇかけられてるみたいじゃねーか、その伝手(ツテ)でちょっくら聞きに行きたいんだ」

「そんなの抜きにしても素直に請えばふつーに教えてくれそうなもんだがなあ」

「どうだか。対価としてとんでもねー依頼を押し付けるくらいやりそうだぜ。……気をつけろよ、おまえみたく能力に比べて色んなとこが抜けてるようなのはカモとして真っ先に目ぇつけられちまうんだからな」

 

 ひでぇ言われようだ。心配してるんだか罵ってるんだかよくわからない物言いに、色んなとこが抜けてるカモが嘆いた。

 

   ◇

 

「じゃあ早速、先生のとこに行って話でも聞いてみるか」

 

 丁度、頼まれてたアイテムを渡したいことではあるし。そう言ってカモ、もといオーリがベンチから立ち上がったところで横合いから声をかけられた。

 

「オーリ、用事があるとこ悪いんだがちょっくら付き合ってくれねーか」

 

 馴染みのあるその声の主はちょい前に恋愛相談をしてきたバハムーンの少年だった。     

 石柱を思わせるたくましい腰には柔らかそうな亜麻色の髪をアンダーツインテールにしたやたらと小柄な女の子───件の彼女さんが隠れるようにしている。

 

「あー? 一体なんじゃい。デートコースの相談ってんなら他所に行ってくれや」

「ちげーし。真面目な話なんだよ、聞くだけでもいいから時間をくれないか」バハムーンくんは一旦、言葉を切り、少しためらってから再び切り出した。「それと……できればその、お前の相方くんにもいてほしいんだが……だめかい?」

「わーったよ」

 

 話を振られた美少年が隣で訝しむ。この子を苦手としているバハムーンくんが同席を頼むとは珍しいことだ。

 なにやらただ事ではないらしい様子にオーリはフェアリーくんへと視線をよこした。

 

「ちゅうわけで、きみには不本意だろうけど少しだけ付き合ったげてくれんかね」

「構わんよ。ぼくだって別にそいつを嫌ってるわけじゃねーからな」

 

 声も表情もさながら冬の夜空のごとしであったという。どこまでも美しく澄み切っているが身を刻むほど冷たく何者をも拒む。

 ときならぬ寒波の直撃を受けたバハムーンくんが顔を引きつらせ、クラッズさんにいたっては目に涙までためて彼氏の腰にしがみついている。

 

 オーリがそんな2人をかばうようにして間に割って入った。

 

「気に入らないのはしゃあないにしても、そんなおどかさなくてもいいじゃん」

「向こうが勝手にビビってるだけだっつーの。ガチで気に入らないならおまえの頼みだろうが無視こいてどこかに行ってるつーの」

 

 どうだか。オーリとしては納得しがたいのだが、しかしこれ以上、不機嫌にさせて本当にどこかに行かれても困るのでこの場は黙っていることにした。

 

   ◇

 

 そろそろお昼時ということもあり、オーリ達は場所を移して学食大路へと出向いた。

 

 落ち着いて話をするためいつも利用してる屋台ではなく、少し前に突発性暴力エルフ嬢との談話を楽しんだカフェーにて、テーブルを挟んで向かい合ったバハムーンくんは神妙な面付きで切り出した。

 

「率直に言うよ、俺達2人と一緒にパーティを組んでほしいんだ」

 

 思いもよらぬ提案にオーリはバハムーンくんを“まじまじ”と眺めた。フェアリーくんは我関せずとばかりにメニューで顔を隠していたが、目だけはしっかりとオーリを見据えているあたり無視しているわけではないようだ。

 

「知っての通り俺たちは盾役の前衛(タンク)盗賊職(シーフ)だ、今のお前らにとっても決して悪い話じゃないと思うんだが……どうよ?」

 

 ───これが天の助けってやつかいな?

 

 あるいは懲りないカモが新たな罠に引っかかる予兆なのか。

 




オペレーションアビス・バベルで名前変わっちまってたけど権利面でうるさかったんかね
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