男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第39層 お礼は三日ほど続いたからそこで恩も忘れるようだ

 エルフちゃん達の加入に関してオーリに否やはない。

 どころか場合によってはこちらから声をかけるつもりでさえあったのだが、それでもいくらか不安はあったので率直に訊ねてみることにした。

 

「でもいいのかい? ちょい前にこちらの───」オーリは言葉を切ってバハムーンくんへと顎をしゃくった。「彼にも確認したことの焼き直しになるが、きみってば俺の相方のことキライっしょ」

 

 お前ら上手くやっていけるのか。エルフちゃんは場の空気にそぐわぬとびっきりの朗らかな笑顔───つまりは作り笑い───を見せた。自然体が似合う少女なだけに、取ってつけたようなその笑みはどれだけ美しかろうと怖気をふるうほど不気味だった。

 

「きみに声かけるのを決めた時点でそこらはとっくに承知の助。そりゃ本音を言うなら今すぐその子を追い出してほしいくらいだけどさあ」

「……面と向かってよう言うた。ちったぁ遠慮というもんはないんか」

「それもわたしなりの誠意だよ。どうせお互いに溜め込んでるのはわかってるし、この場で吐き出せるもんは出しておいたがよくね」

「よくねんだよ。人間関係にゃ言わずもがなってのがあるんだよ」

 

 骨と間違えて苦虫かじったパグみたいな顔になるオーリと対象的に、わざとらしい笑みを深めたエルフちゃんはフェアリーくんへとこれっぽっちも笑ってない視線だけを向けた。

 

「いくら君でもわたしの腕だけは信用してくれるんだろ」

「そこに関しちゃ否定はしねえ。……手前はとことん気に入らん性格も相性も最悪だ。地下道の染みにでもなっててほしいし、なんならぼくがそうしてやろうかとさえ思っとるが」

「うっふっふー、『正直は美徳』なんて無責任な道徳屋さんの寝言てのがよくわかる台詞をありがとう」

「おうよ。だがそっちのデカいあんちゃんが言ったように、いつまでもガキみたいなワガママするもんじゃねえし相方の面子(メンツ)くらいは立ててぇからな、ここは(こら)えてやる。精々、便利に使い倒してやっから馬車馬よろしく汗水血反吐垂らしてボロ雑巾みたいになって無様にくたばれ」

 

 だってさ、これからよろしくね。エルフちゃんは作り笑いを消してオーリの方を向いた。

 

「なんてひどいパーティ結成だ」

 

 鈍痛を訴えるお腹を押さえうなだれるオーリのことをバハムーンくんが失笑気味に、セレスティアさんは面白い見世物に出くわしたように眺めていた。

 

   ◇

 

「言いたいこともブチ撒け終えたわけだし、お次は皆の進路について軽くまとめておこうか」

 

 苦々しげに言いながらオーリは注文してたラズベリータルトのホールを切り分けた。お腹が痛くなろうがお腹は減るし、どんなときに食べても美味しいものは美味しいのだ。

 

 それはさておきパーティの新規立ち上げに際しては、各メンツの転科はじめとした予定を慎重に決めないと後悔の種になる。組み立てるべき戦術にも影響するわけだし、いかに強力な学科を揃えようが噛み合わせ次第で機能不全に陥ることも珍しくはない。教科書に載ってる無難編成(テンプレート)がその安定性ゆえに鉄板となる所以でもあった。

 

「相方はこのまま司祭一本でいくんだが、俺は超術師をマスターレベルまで上げたら〈僧侶〉に転科する予定なのよな。きみらの意見はどーよ」

 

 僧侶学科に転科する理由とそのメリットを提示し聞いてみたところ、概ね肯定的なものを得られた。エルフちゃんとセレスティアさんに関しては元から現在の学科を目指していたこともあり卒業まで継続とのことだ。

 

 タルトを受け取ったバハムーンくんは膝で寝こける彼女さんの頭を優しく撫でながら言った。

 

「俺は次にレベル上がった頃合いで〈君主(ロード)〉に、この子は〈忍者〉に転科したいと思ってる。基本的にやることは今と同じだから問題はないと思うんだが」

 

 君主というのは前衛職の中でも防御に特化した職種だ。

 攻撃では純粋戦士職に劣るものの守りに関して他の追随を許さず、戦術技能と併せてかなり高度な聖術さえ習得可能なので、レベルとスキルが育ちきり装備が充実した君主ともなれば暴走するゾウの群れと正面衝突しようがパーティにかすり傷一つ負わせないとまで言われている。

 

 対して忍者は盗賊職の上級学科で、探査・斥候(スカウト)といった盗賊としての技能の他、学科固有のスキルによる高い火力を兼ね備え補助系の魔法さえも扱う。このありとあらゆる場面での活躍を可能とする万能性は後衛職の憧れと云っても差し支えなく、専攻できるだけで一目置かれるほどだ。

 

 彼らの希望を聞いたオーリはわずかばかり考えてから頷いた。

 

「お前さんの転科には賛成。……でも彼女さんについてはしばらく保留してほしいんだが」

「理由を聞いても?」

「おうともさ」

 

 全学科と比べても高いポテンシャルを誇る忍者だがその運用には様々な、しかも高いハードルがつきまとう。

 

 まずリソースを戦闘にも振った弊害なのか探索に関するスキルの信用度が落ちる。

 罠判別・解除を例に挙げると素の状態ではどんだけ頑張っても成功率7割くらい。それだけあるなら充分じゃないかと思われるかもだが、冒険者が現役で開ける宝箱の総数を考えると絶望的数字である。なにせ即死罠が常態化する地下道なら100回の内、30回は死ぬ計算だ。百万回リスキル可能な猫でも匙を投げちまう。

 

「ただしそれらのデメリットも装備を揃えりゃ帳消しにできる、というかそれらを手に入れるのが運用の最低条件ぽいのな」

 

 そしてもうひとつ無視できないのが成長の遅さ。レベルアップに必要な経験値が他と比べてダンチ、具体的には一般的な盗賊職の倍近くになるのだ。

 地下道における水先案内人を担う盗賊が低レベルでは何をやるにもままならない。同じ仕事や技術でもトーシロと熟練者とでは仕上がりも違うように、同じ職種のスキルでもレベルによる恩恵や補強は適応されるのだから。

 

「しかしカリキュラムの最終盤で潜ることになる地下道なら、今の俺らが必死こいて稼いでるのがゴミに思えるくらい莫大な経験値を得られるからそれも無問題。───つまりどうやっても今挙げた問題をクリアできる時期でないと厳しいから、早い段階で転科なんぞしたら持ち腐れなの」

 

 ポテンシャルを引き出せるアイテムを手に入れるのが前提なだけに、それが手に入る頃合いじゃないと足を引っ張るだけの存在に成り下がっちまう。

 結果として安定したスキルを得るために今までの経験値を棒に振る形で再度、盗賊学科をやり直す羽目になるやつが後を絶たないという半ば罠みたいな学科なのだ。

 

 それらを聞いたバハムーンくんは「ふーむ」と唸った。

 

「わかったよ。この子にはその旨を伝えて、しばらく待ってもらうことにしよう。……しかしお前も専攻学科でもないのに詳しいな、どこで情報を手に入れるのか後学のためにご教授願っても?」

「ほとんどは顔だけ出させてもろとるゼミの先生や先輩方からの受け売り。教師・学徒による縦横のつながりってのも存外、馬鹿にできんよ」

 

 石を投げればアホかバカタレのどちらかに当たる、ろくでなしの投げ込み寺とはいえ冒険者育成の最前線はダテではない。

 先達から得られる情報をしっかり活用できれば自己育成にも結構な補強もかけられるのだ。

 そこらを目当てであちこちに伝手を作っておくのもいいんじゃないかな。そう語りながらオーリはタルトをかじった。

 

   ◇

 

 その後、いくらかの雑談を挟みつつも今後の活動について意見を交わし、腹も膨れた頃合いでオーリ達はカフェを後にした。これ以上の話をするにはお店に迷惑がかかるというのもあったし。

 

 学園に戻った一行はその足で事務棟に出向いてパーティ結成の申請を行い、ついでに学徒達がミーティングやレクリエーションで使う小さな空き教室の一つを借りた。そこで細々とした調整や残りの打ち合わせを行うためだ。

 6畳ちょっとの広さに、頑丈そうだが簡素な長机と椅子が置かれただけの小部屋でオーリは道具袋から取り出した物品を並べた。

 

「まず俺らの装備を確認しよう。その上でお互いの持ち物からアップグレードできそうなもんがあればそれぞれ提供してもらいたい。金銭的な問題が出たら俺が自腹を切って補填するからさ」

 

 頷いたバハムーンくんが自分の道具袋を机に置き、エルフちゃん達もそれに続く。クラッズさんは部屋の隅っこで丸くなって寝ている。

 

「そうまで言われちゃ否やはねえよ。……もっとも今までの稼ぎだの地下道攻略の進み具合を考えるとお前が提供する以上のものは出せないだろうが」

「気にしないで構わんよ。補填云々にしたところで、この先の稼ぎを考えりゃ先行投資にもならんからな。───とはいえガッポリ稼げる地下道に到達するまで、俺らが解散もせず生き残るのが前提だがよ」

 

 せめて生き残るためには初手から小銭出し惜しんでる場合じゃないのだ。

 

「守り専門のあんたの装備がへっぽこじゃあ話にならん、ひとまずこいつの具合を試してみてくれ。問題なけりゃ知り合いの錬金屋で可能な限り強化してもらうから」

 

 オーリから鉄製の鎧(アイアンアーマー)金属小手(ガントレット)、カイトシールドを渡されたバハムーンくんは小さく口笛を吹いた。

 

「さすがというか、よくこんなもんを手に入れたもんだ。AC換算で-4か5はあるんじゃねえの」

「俺らがポータル広場で辻魔法売りしてるのは知ってるだろ、そこで仕入れたのさ。代わりと言ってはなんだけどあんたが使ってる革鎧の一式を譲ってくれ」

「わかった。しかしお前が装備するにはサイズが一回り以上違うぜ」

「それも錬金屋で調整すればいい。もちろん費用は俺持ちだから安心してくれ」

 

 受け取った装備品の具合を確かめるバハムーンくんの、鼻歌でもやりそうな上機嫌の(てい)にオーリの口元がゆるんだ。

 

「楽しそうだこと」

「そりゃあな。今まで使ってた革鎧も悪かないが、やっぱし盾役は『金属鎧』と『デカい盾』に思い入れつーか憧れがあるもんさ。単純に革や木と比べて安心感から違うちゅうのもあるが」

「なーる」

 

 納得ついでにオーリはいくらかの物品を出した。いまだ寝こけるクラッズさんを指差し、

 

「それとこいつは彼女さん用だ。聞いた話じゃ盗賊技能の助けになる効果があるんだとさ」

「おや、いいのか? それなりに貴重だろそれ」

「どうせ俺らじゃ扱えないしパーティの安全とは引き換えにできんだろ。───彼女が起きたら渡したげてな。俺なんぞよりあんたからもらった方が気分よかろうし」

「そうだな、そうしとくよ。気ぃ遣わせちまって悪いな」

 

 いいってことよ。オーリが肩をすくめていると、彼らのやり取りを聞いていたエルフちゃんが割って入ってきた。背後からオーリの体を包むようにしなだれかかり甘えた声を出す。

 

「ねえねえ、わたしもオーリくんからプレゼントほしいなぁ……。ていうかくれ、一番お高いやつ」

 

 オーリはめんどくさそうにバナナをくれてやった。背中から回される白くしなやかな腕の圧力が万力のそれに変わった。

 

「ぶつよ? かなり強めに」

「なりたてとはいえ神女にぶん殴られたくねぇ」

 

 神女のスキルには相手の守りを無視して打撃を叩き込むとかいうかなりやべーものがあるのだ。

 身を離し不満げにバナナの皮を剥く少女へと、オーリは諭すように言って聞かせる。

 

「言うたとこできみは手数で押してひたすら前に詰めていくタイプだろ。守りは専門の盾役に任せて攻撃だけに傾注しとけって。どうせ小手や盾を装備しても殴るのに使っちまうんだしさあ」

「ちぇー、そんならせめていい武器がドロップしたら優先で回してほしー」

「あいあい。それにしたとこで泥運次第やな」

 

 話を打ち切ったオーリは革製の小手(レザーグラブ)を“ためすすがめつ”してるセレスティアさんへ申し訳なさそうに言った。

 

「まことにごめん、きみが扱えそうなアイテムはそれくらいしか無いんだ」

「あー、そら仕方ない。侍なんてなり手が少ないもんだから装備の需要も流通もイマイチだもん。しばらくは“こいつ”でしのぐっきゃないわ」

 

 やや困ったように笑うセレスティアさんは自前の得物である緩やかな反りが入った細身剣───〈刀〉とかいう代物だそうな───を軽く叩いた。

 強力なスキルと立ち回りを可能とする侍だが世の中いいことずくめなんてもんはないもんで、この学科は装備できる武器も防具も特殊なのが多いため入手に難があり、しかも他職種との使い回しが効かないという地味に痛い欠点もあるのだ。

 

「地道にドロップするのを待つか、望み薄だけど購買部にでも流れてくれるのを期待するしかないね。俺も他のパーティに声をかけて、もし所有してるなら譲ってもらえるか交渉してみる」

「手間かけさせちゃって悪いねー」

「いいってことよ。それだけのリターンが見込めるからこそだ」

 

 オーリは最後に防具の廃品(ジャンクアーマー)のいくつかを手に取る相方のところに足を向けた。

 

「どうね、それ合成したら装備できそう?」

 

 〈廃品〉というのはアイテムがコード情報の欠損等によって本来の機能を損なった状態のことだ。

 こいつを使い物にするためには錬金術の〈合成〉により、破損したコードを対応素材で補完しなければならない。

 

 声をかけられたフェアリーくんはやや複雑な表情をした。

 

「装備はできるだろうけど、ACがイマイチ微妙なのがな……金が無駄になるかもだし、もうちょい我慢していい装備が出るまで粘ったがいいかもな」

「だけどいい加減、きみの装備も更新しなきゃだぜ。今の俺が周れる地下道ならそれの合成費用くらいすぐ回収できるんだし、ここは安全を買っておくべきだよ」

「……わかった。じゃあこいつの合成を頼めるか」

「あいよ。強化もなるだけやってもらおう」

 

 ただでさえ装備に制限のかかる司祭、しかも非力で小柄なフェアリーじゃレベルに見合った装備品を探すのも一苦労なのだ。少しでも安全が確保できるなら安いもんである。

 

 装備のトレードを終わらせたオーリ達は今後の立ち回りや戦術面での打ち合わせを済ませた後、アイテムの調整を依頼するためいつもの合成屋の先輩のところへ赴いた。

 卒業後の進路のために行われていた、各工房のインターンから戻ったばかりの先輩は「やー、こちとら休み返上で就活の最中だちゅうのにコキ使ってくれるもんなのね」と渋い顔をしたもんである。まことにごめんなさい。オーリはその場で平謝りに謝り倒した。

 

 愚痴を垂れつつも作業に勤しむ先輩を見学する傍ら、フェアリーくんが後の予定について聞いてきた。

 

「これが終わったら次はどーすんだ。早速、地下道に行くの?」

「そうしたいのは山々だけど色々ありすぎてお腹いっぱい。今日のところはこれで解散しよう」

 

 他の連中に聞いてみたところそれで構わないとのことだった。

 それでなくともこのパーティは初手の人間関係から面倒なものを抱えている。オーリとしても日を置いて頭を冷やすことで今後いやでもついて回る“あれやこれや”を受け入れさせたいという判断である。

 

 ───俺にしてからこういう、しっかりとした形の集団行動って初めてだしさあ……もう頭がパンクしそうだから早よ寝たいのな

 

 しょうもない本音に関しては腹の中に仕舞うことにした。

 

   ◇

 

 翌日。

 

 いつもの雑魚寝部屋の多段ベッドでオーリが目を覚ますと、枕元にセミの抜け殻(なぜかお腹の側が割れている)とでかいカエルが置いてあった。

 

「アイテムのお礼かな?」

 

 ありがてぇありがてぇとつぶやき、オーリはそれを下でいびきかいてるアホの寝床へ放り込んだ。

 

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