男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第40層 Dungeons & parties

 

 装備品の交換等を終えた次の日、オーリ達はホルデア登山道へと赴いた。

 いつものようにポータル前にスッ転がる邪魔なアホタレ連中を蹴り転がしながら(もしかしてこれ、風物詩みたいなものなんか?)気負った風もなくオーリが言う。

 

「言うたとこで今の俺らにとっちゃもうあんまおいしくない場所だ、用が済んだらとっとと次に行こう」

 

 今回の目的は2つ、ひとつはそれぞれの腕試しも含めた連携の確認・調整だ。

 ポータルをくぐった一行は斥候(スカウト)を任されたクラッズさんの水先案内を頼りに地下道を進んでいく。

 

「前・後衛がしっかり揃ったフルメンバー編成ってのはこんなにも頼もしいんだな」

 

 下手くそな警戒に意識を回すこともなく地下道をうろつけるありがたみを噛み締めるオーリのつぶやきを耳にしたセレスティアさんが隣を歩くエルフちゃんに訊ねた。

 

「ね、彼ってば夏休みのちょい前までぼっちで周ってたってホントなの?」

「ウソのようなホントの話。ま、同じクラスの子でさえ耳を疑っちゃうんだけどさ」

「まじかー、控えめに言っても頭おかしい」

「否定できないねー。どうせ死なないからって罠も気にせず宝箱(コードチップ)を開けたときなんてさすがのわたしもドン引いたもん」

 

「……反論のしようもないのは確かだけどさ、せめて聞こえない場所でやってくれねーかな」少女二人による容赦のないやりとりにオーリが口を尖らせると、セレスティアさんがいたずらっぽい顔で謝罪した。

 

「おおっと、ゴメンゴメン。でも命預けてる仲間に陰口ってのも、それはどーかと思うんだよね」

「そうそう、これもわたし達なりの親愛の情ってやつ。美少女二人に愛を向けられるなんてオーリくんも中々、隅に置けないね」

 

 さいですか。ぬけぬけと言い放つ少女たちの態度に毒気を抜かれたようなツラでオーリは矛を収めた。可愛いって腹が立つくらいお得だ。

 

   ◇

 

 軽口をたたき合いながらの探索は順調に進み、C層の半分まで行ったところでクラッズさんが立ち止まった。

 頭上に掲げた両手で素早くサインを送り、風が流れるような動きで音も立てず後ろへ下がる。

 

 接敵(エンカウント)だ。

 サインによれば隊列は4、先頭からトロール、ゴブリン、デブガエル、クリーピングコイン。こちらの存在は気付かれてないので不意討ち可とのことだ。

 そんくらい口で言えよと思われそうなもんだがこういう状況だと目の方が速く伝わるし、なにより今から不意討ちかまそうてなときに大声でやり取りするやつはいない。

 

 クラッズさんが下がったことによってセレスティアさんを先頭に、エルフちゃんとバハムーンくんが後衛を守る形で前に出た。

 出来たてのものとはいえ全員それなりに経験を積んできたのはダテではない。先のミーティングで打ち合わせた通り、少しも慌てることなく得物を手にして各々の役割に応じていく。

 

 まず最初にセレスティアさんが動いた。

 背中の翼を大きく拡げ───直後、大量の火薬が爆ぜたような音と爆風が巻き起こるのと同時にその姿が消え、一拍遅れて相手の最先頭の列に出現するや眼前にいたトロールの上半身が大砲の直撃でも食らったかのように吹き飛んだ。

 

 経験値をたんまり注ぎ込まれた脚力へ翼の推力も乗せた爆発的加速による襲撃だ。ちなみに各学科に付随する〈スキル〉の類ではなく、セレスティアさんが独自に編み出した技術(スキル)である。

 威力はご覧の通り。直撃さえすれば大型のモンスターでも即死か死に寸のどちらかというまさに一撃必殺を誇るがその反面、現在の彼女では速度を完全に制御しきれないので連発はできないのと、反動で少しの間、行動不能に陥る(無理に動くと立ちくらみのような状態になるらしい)という欠点もあったりする。

 

「その欠点を補うのが仲間(パーティ)なんやな、突撃・連携・ボコ殴りの冒険者方程式なんやな」

 

 オーリが白々しくつぶやくと、混乱するエネミーのど真ん前で棒立ちするセレスティアさんを取り囲むように魔力で編まれた無数の半透明六角形(ハニカム)が現れる。

 それとほぼ同時にエルフちゃん、次いでバハムーンくんが乱入して場を引っかき回し(ヘイトを稼ぎ)、稼いだ時間で動けるようになったセレスティアさんも混ざって瞬く間に残りを始末していく。

 

 最前列が全滅する頃合いで混乱も収まりモンスターたちも反撃をしてくるが、しかしそれも蟷螂(とうろう)の斧どころか羽虫のはばたきより空しい抵抗だ。

 障壁に阻まれ立ち往生するゴブリン達は土手っ腹をエルフちゃんの槍に穿たれセレスティアさんに首を飛ばされていく。攻撃に集中しているせいで守りの甘い二人を魔障壁とバハムーンくんでカバーする。

 

 後ろに控えているデブガエルどもは後衛のフェアリーくんとクラッズさんがそれぞれぱちんこ(スリング)短弓(ショートボウ)による狙撃で牽制しているので、第二陣も全滅した頃には少なからずのダメージを受けていた。

 

「そおらっ」

 

 したたかな痛撃を受けて動きが鈍いデブガエルたちにバハムーンくんが鉄槌(メイス)をお見舞いする。

 大人も一呑みにするモンスターといえど数十kgもの鉄塊を涼しい顔で着込むこれまた100kg近い筋肉の相手は務まらない。ただでさえ膂力に定評のあるバハムーンの、しかも戦士としてレベルアップの恩恵まで受けた横薙ぎはモンスターを数匹まとめて挽き肉に変えた。

 

 最後に残ったのはクリーピングコイン───数十個のコインが寄せ集まって構成された群体モンスターである。

 長らく大昔のコインが呪いの力的パワーのなんちゃらによってモンスター化したものと思われていたのだが、実はこいつらも古代文明の機械兵器群ことイカロフォースの一種だったりする。なんでも各スレッドの余剰エネルギーを吸収したり不足した場所に供給したりの、いわば警備機能をおまけした電池みたいな役割を担っているのだとか。

 

 個体としては地下道に入りたての初心者でも相手できるほど弱いのだがとにかく数が多い上、放置してると次々に仲間を呼び寄せては傷ついた奴と交代するという性質を持っているので油断した新入生がずるずると戦いを長引かせられた挙げ句に囲まれてトンヅラもできず袋叩きにされ、気がつきゃ保健室でアホヅラさらしていたというケースが後を絶たない。

 

「それも今の俺らにとっちゃノーコスト即殺なわけだが。───ちゅうわけで先生、たのんます」

「どーれ」

 

 時代がかったオーリの呼びかけに応えたバハムーンくんが大きく息を吸い込み、同時にエルフちゃんとセレスティアさんが後ろに下がる。

 

 次の瞬間、前方の区画が凄まじい熱量に満たされ、それに巻き込まれたクリーピングコインの群れが消え失せた。

 

 〈ブレス〉というバハムーンとディアボロスの二種族に備わった先天的技能である。

 一般的にブレスといえばモンスターが使う特殊攻撃のことを指すが、流れる血の中に竜属や魔族の因子を有する彼らも似たような技能を使えるのだ。もっとも体内にブレスを放出する器官が備わるバハムーンと違い、ディアボロスの場合は体内の余剰魔力を放出しているだけなので〈ブートキャスト〉という別物の技術として呼ばれることもあるようだが。

 

 あっという間に戦闘が終わり、オーリがバハムーンくんの背中を軽く叩く。

 

「うーん快勝快勝。みんなもおつかれちゃーん」

 

 上機嫌な声が地下道に響いた。

 

   ◇

 

「いかに初心者地下道とはいえ、あの数を魔法も使わず無傷でやり過ごせるとは……。ドロップアイテムもさっさと回収できるから言う事なしだね」

 

 今までのぼっち探索や二人編成じゃどうやっても魔法を使うか多少なりともボコボコにされるかの二者択一だったのだ。まったく持つべきものは優秀なお仲間だ。

 オーリが“しみじみ”とこぼしているとエルフちゃんが声をかけてきた。

 

「でもオーリくんが転科したら今みたいな魔障壁頼みの戦法も使えないね。もうちょい続けてみない?」

「そんなら心配ご無用、こっちのあんちゃんが君主に鞍替えすっから無問題よ」

 

 話を振られたあんちゃんことバハムーンくんが大まかな説明をしてくれた。

 

君主(ロード)のスキルにゃエネミーの攻撃を自分に集中させてパーティが受けるダメージを肩代わりするものがあるんだよ。それを考えるとスキルが無駄になるし俺が守りを引き受ける分、回復に余裕をもたせた方がいいってわけだ」

 

 もっともそのスキルにしてもレベルが10越えるくらいじゃないと扱えないから、転科後のパワーレベリングなりで早目に調整する必要はあるのだが。

 

「オーリにゃつくづく面倒かけさせる形になっちまうけどな」

「転科後のお前さんの役目に比べりゃ大したことじゃねーよ。どのみち俺にしたところでレベルを上げにゃ話にならないんだから持ちつ持たれつってやつ」

 

 説明を受けて引き下がったエルフちゃんと入れ替わるようにしてセレスティアさんが質問をしてきた。

 

「それでこの後はどうするの。私達の腕試しや連携の確認は済んだわけだし次の地下道にでも行く?」

 

 今の地下道を出るとホルデア山脈という中継地点を経て〈パトル地下道〉と〈フレイク地下道〉へと抜けることができる。

 ただしフレイク地下道は結構な高難度ということもあり、現在のオーリ達には進入許可が降りていないので選べるのは前者のみだが。

 

 オーリは首を横に振りつつ道具袋からマップを取り出した。

 

「俺としてもそうしたいのは山々だけど、新学期に備えて成績の底上げをしておきたいのな」

「一旦、学園に戻ってクエストでも受けるの?」

「それもいいけどまずはマップ埋めだね。いい機会だから俺らがまだ行けてなかった区画を片しちまおう」

「マメだこと」

「こーゆー細かな仕事をこなすのも、冒険者としての信用を上げるコツさ」

 

   ◇

 

 地下道を繋ぐ各スレッドには様々な形態が存在するが、それらは一見すると何の法則性もなく雑多に構成されているだけに思えながらもその実、定められた用途やなにがしかのコンセプトに沿うようにして形成されているのが見て取れるし、またそれら形態に応じて学徒達の得手不得手もはっきり分かれやすくもなるのだ。

 

 例えば桟水域や深水域によって構成されるスレッド(夏休みのちょい前にオーリのクラスメイト達が自習したりサボったり土左衛門になってたりしたやつ)は正式名称を〈胎動冷却スレッド〉と云い、これは地下道の不要なエネルギ-を循環させて冷却するのを目的としたものであり、今の時期だとプールや避暑地代わりに使われるのとその単純な構造から学徒達の人気も高いスレッドでもある。

 

 そして今回オーリ達が足を運ぶのは生態観察スレッドという、過去には地下道内に進入した生物を軟禁・飼育・観察するのを目的とされていた場所で、多数の小部屋が配置された(大まかには3×3の区画で構成された部屋が並んでいる)構造をその特徴とする。

 

「マップの構造だけなら単純なものなんだがね。アホほど存在する〈魔法禁止区域(アンチスペルゾーン)〉のせいで俺ら魔法職(ソーサラー)には鬼門でさ、お陰で今まで後回しにせざるをえなかったのよな」

 

 魔法禁止区域───読んで字のごとく魔法が使えない区画のことだ。厄介なことに前もってかけていた補助魔法等も中和されてしまうので、魔法を無駄撃ちする羽目にもなっちまうのも地味に痛い場所である。

 ターミナルの情報によれば生態観察スレッドでとっ捕まった生物の中にはイカロ戦役の前後に迷い込んだ人類や魔族まで含まれていたらしく、そいつらが暴れたときの対策としてこの陰険ギミックが設置されていたんだそうな。

 

 説明を聞いたエルフちゃんが意外そうな顔をした。

 

「きみ達にもそーゆーのあるんだね」

「まあね。多少レベルを上げたところで足りないだらけの魔法職二人じゃ上手くなるのはドつきあいくらい。肝心の探索に関しちゃ出来ないことのが多いのさ」

 

 夏の少し頃にユーノ先生から受けた指導ってのがつまりはそういうことなんだ。自嘲気味に語るオーリだった。その頃と違って今回はフルメンバーな上、魔法禁止区域でも問題なく広範囲攻撃の出来るバハムーンくんがいるのでかなり楽に回れることだろう。

 

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