男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第41層 あのドグサレマップ考えたやつ絶対に許さねぇからな

 長いトンネルを抜けた先にあるのが夜の底さえ白む雪国であるのなら、暗い地下道の扉を抜けた先にあるのは夜の底よりドス黒い闇と死国へ誘うモンスターにトラップである。

 

「またハズレかよお……これで何度目だよぉ」

 

 そんな扉を開けた先、アホほどまかれた悪意のひとつに引っかかったエルフちゃんの、忌々しさと疲労をまぶされた嘆きが地下道に溶けていくのを横目に、オーリが地図へと書き込みを入れた。

 

「はいはい、嫌になるのもわかるけど空白地帯はまだ残ってるんだ。ちゃっちゃと次に行きましょう」

「うもー」

 

 声に覇気なく足取りは重く、少年少女は何度目になるかもわからない道行きを再開した。

 

   ◇

 

 生態観察スレッドの空白地帯を埋めた彼らは一度パルタクス学園へ戻り、そこからトレーン地下道行きのポータルを何度か出入り(リセット)して引き当てた『マップNo.21』というスレッドを攻略していた。

 

 ここは構造だけなら単純なものでなにか悪質なトラップ地帯があるでもなけりゃ複雑な形をしてるでもない、強いて挙げるなら出入りのポータルから少し行った地点にスレッドのX軸(東西)を埋め尽くすように扉が並んでいるくらいしか特徴のない場所である。

 

 しかしずらり並んだ扉の向こうにあるほとんどの区画に強制転移地点(ワープポイント)、つまり侵入すると定められた場所へ強制移動させられる罠が仕掛けられており、しかもその転移先が出入り口付近に設定されている───つまりくじ運の悪いやつが足を踏み入れたが最後、先に進むこともままならずアタリが出るまで延々やり直しという(さい)の河原で石を積む気分を味わう羽目になっちまう地味にイヤなスレッドだ。

 

 なので別名をワープ地獄。

 マップ埋めによる点数稼ぎ(アチーブ)を狙う学徒からは台所でおなじみの害虫がごとく嫌われる場所であった。

 

「……もういやー、一体いつになったらアタリ引けるんだよお」

 

 扉を分け入っても分け入ってもワープの山。

 エルフちゃんのいつもなら瑞々しい若葉を思わせていた長い耳も、先の見えない道行きに生気を奪われたのかしなびたカイワレ大根みたいな有り様になっていた。

 

 他の連中も程度の差はあれ精神的な疲労が見て取れる。そんなお仲間を慰めるようにオーリが言った。

 

「とはいえ転移地点が定められてるだけナンボかマシよ。ちょいと面倒くさいだけで済むんだから」

 

 ワープ罠の中でも特に厄介なものといえば、やはり宝箱に仕掛けられてるやつだろう。

 なんせ引っかかったらどこに飛ばされるかは運次第。最悪だと地下道の壁だの床だのに埋まった状態にされちまうのだ。こうなると救助するためには保健委員でなく重機級の腕力を持った高レベル冒険者の手助けが必要になっちまう。当然、その場合だと仮に助かったとしても救出費用は悲惨なことになろう。

 

 それを聞いてエルフちゃんがほっぺたをホオズキのように膨らませた。

 

「ていうかさあ、オーリくんの転移魔法でショートカットしてぱぱっと終わらせるわけにはいかないの?」

「そうしてあげたいのは山々なんだけどね、俺と相方を合計しても使えるのは20と少しくらいだぜ。マップだってまだ半分も埋めてないんだから移動距離を考えたら足で行ける範囲は人力で済ませておかないと後々が苦しくなる」

「うぬー」

「……そんな顔しなさんな。きちんと苦労に見合った成果はあるんだからさ───そうさな、そこらの説明も兼ねて休憩を取ることにしようか」

 

 パーティ連中にしても体力だけならこんくらいで音を上げるほどやわではないが、それでも同じことを何度も繰り返させられては心がまいってくるだろうから丁度いい。

 

   ◇

 

 一行はポータル横の区画で簡易キャンプを張った。

 普段なら他の探索者の邪魔になるのでもうちょい離れたところに敷設するのだが、どうせ今の時期では地下道に潜りたがるやつはいないし、いたとしても避暑目当てで冷却系のスレッドに行ってしまうから無問題だ。

 

 オーリの正面に座り、渡されたジュースの瓶を開けながらエルフちゃんは訊ねた。

 

「で、さっきの“説明”ってやつを聞かせてくれるんだよね。こんだけ苦労させたからにはヘタなことじゃ許さないんだから」

「あいあい」

 

 オーリもお茶で喉を潤し、一息ついてから説明をはじめた。

 

「皆も知っての通りこのマップは他の学徒連中に避けられがちだ。その分、きちんとした探索をしただけでも教師連中からの加点が相対的に美味しいのな」

 

 忘れてはいけないのだが現代における冒険者とは地下道はじめとした『迷宮の探索要員』なのだ。腕っぷしのみならず本来の目的である探索においても結果が出せる人材であると知らしめておくにしくはない。

 

 こすい点数稼ぎ(アピール)と思われるかもだが、オーリに言わせりゃ目先の仕事だけ片付ければいつか誰かが評価してくれるだろうという考えこそ餓死寸前の雛鳥が口を開けてるだけと変わらない。積極的に周りに働きかけないやつはご飯にはありつけないのだ。

 

「それ以外にも学徒連中にマップを写させてやるだけでちょっとした小遣い稼ぎもできるしな」

 

 “アタリ”座標の情報だけでも高く売れるだろうし、マップ全域の情報ともなりゃレポートで楽をしたがるバカタレが大枚はたくだろう。

 特に夏休みの終わりを意識せざるをえないこれからの時期は狙い目だ。来学期に備えて学業に励むより、いかにして残された休みを楽しみ尽くすかで頭が一杯のやつのが多いのだし。

 

 それらを聞いたエルフちゃんが感心とも呆れとも判断しかねる微妙な顔をした。

 

「アコギだなあ」

「抜け目がないと言うてくれ。もっとも情報を売った連中だって出費を取り返すために同じようなこと考えるだろうし、帰ったら速攻で売り逃げにゃならんが」

 

 だもんで皆で手分けして営業してもらうからね。それを聞いたエルフちゃんは少し考えてから、

 

「構わないけど、売ったお金はパーティでの分配でなくわたしらの懐に入れちゃってもいいんだよね?」

「そりゃ当然。(パーティ)で得た成果と、個々人による稼ぎは区別するべきだもの。もっとも早いもの勝ちになっちゃうからそこは恨みっこなしね」

 

 余計なことを付け加えるなら後半部分のマップはオーリとフェアリーくんの魔法で埋めることになるのだが、それを主張して取り分を増やそうという気もさらさら無い。

 まだ年度の半分も終わってないのだ。こんな時期のちんけな稼ぎで揉めて不和の種を植えてる場合ではなかろう。

 

「あいわかった」

 

 エルフちゃんは上機嫌の体で頷き、隣のセレスティアさんと誰に売るかで商いの相談をはじめた。

 その様子をバハムーンくんがどこかうらやましげに眺めてぼやく。

 

「こういったところだと顔が広くないやつは不利になるな。俺じゃあ精々が元パーティの連中くらいにしか伝手がない」

 

 ストレスのせいなのか彼女さんも例によって野生に帰ったままなので協力には期待できなかろう。

 オーリは少し不思議そうな顔をした。

 

「あー? 別に難しく考えるこたなくね。クラスメイトとか、なんなら地下道出てから目についたやつでいーじゃん」

「まあ、そうなんだけどさ……地下道攻略に集中してたせいもあって、パーティ以外のやつらと話しをしたことないから腰が引けるつーか」

「俺だって似たようなもんさ。学期終わりまでぼっちの地下道巡りだったからクラスメイトとの交流もなにもなかったし。気にせんとガンガン声かけてバンバン売りゃよかろ」

「それが一苦労なやつもいるってことさ。俺に言わせりゃお前みたく、知らない相手だろうが構わず話に行けるってだけでもすげーと思うよ」

「んー、俺は生来の頭の悪さとセットになった他人への配慮の欠如が良い方向に作用したんかね。……しかしお前さん、図体の割にシャイなのな」

 

 だがよく考えりゃガタイと同じくらい心も太いなら俺に恋愛相談なんぞしに来るわけもないわな。遠慮のない物言いにバハムーンくんはちょっと困ったような笑みを浮かべた。

 

「図体は余計だっての。……種族柄つーのかね、フェルパーやディアボロスほどじゃないけど俺らバハムーンは身内以外や他種族への隔意を抱きがちってのもあるんだよ」

「俺とは普通に話すじゃん」

「お前とは慣れてるからな。忘れてんだろうけど顔を合わせたばかりの頃はお前の方からよく話しかけてきたし」

「そのくらいだと前いたパーティと疎遠になってた時期だったか。忙しさに紛れてただけで腹の底では人寂しかったのかも」

 

 さほど昔のことでもなかろうに、懐かしむような面付きでオーリと右隣のクラッズさんとを交互に見やってバハムーンくんは続けた。

 

「でもまあ、これも経験ってやつだ。一人前を目指す前にまず子供じみた人見知りと縁を切らにゃあな。お前ら見習って、俺もここ出たら積極的に営業をこなすことにするよ」

 

 そうしたがよかろ。

 オーリもまた常になく穏やかな面持ちでパーティの面々を見やった。

 

 

 

 

 

 

 ちなみにここまで無言のフェアリーくんだが、彼の場合は相方共々、魔法売りをするだけでガッポリ稼げるので今回の商いなんぞにゃ端から関わる気がなかった。

 

 余計なことを言わないのは、これもまたひとつの成長の形ということなのだろうか。

 

   ◇

 

 英気を養った一行はキャンプを片付け探索を再開した。

 

 

「あーもー! またハズレじゃーん!」

「言ってないでまたさっきの扉まで急ぐんだよ」

「ったくもー、いつになったらアタリを引けんだよー!」

「愚痴ってないで早よ急ぐの」

 

 

 ぶーたれる少年少女の声は晩ご飯の時間になるまで地下道に響いていたという。

 

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