男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第46層 負けの記憶を血で雪ぐ

 

 ところを移してカウサ地下道。

 

 オーリの大加護抽選(マハンマハン)による蘇生は2回のやり直しで引き当てることが出来た。

 持ち前の頭の回転でもって、復活するが早いか自分の身に何があったのかを悟ったフェアリーくんは秀麗な貌を屈辱の色に染め、腹いせとばかりに接敵中のモンスター達をティルトレイで爆殺したものである。

 

「ちくしょうが。せっかくの死亡回数ゼロ記録もこれでパーだ」

「むしろ今まで死んでなかったのに驚きだよ」

 

 ちっとやそっと殴られただけでおっ死ぬ種族が今まで無傷でいられただけでもその非凡さは知れるのだが、そこで満足せずにいるのが彼の彼たるゆえんなのかもしれぬ。

 

 憤る相方をなだめたオーリは少し離れたところで彼氏くんの首っ玉にすがりついて泣きじゃくるクラッズさんへ近寄り、虎の子のLv7活性(ヤーロン)をかけてやった。

 魔法の使用と並行して解析された生命点の状態を確認したオーリは嘆息せずにはいられなかったそうな。

 

「やっぱしというか結構な回数死んでるな。生命点かなり削れとる」

「……ああ。罠解除の失敗もだが仲間のレベルもまだ低くて探索に慣れてない時期じゃ守ってやりたくても、な」

 

 バハムーンくんが目を伏せた。フェアリーほどじゃないにせよクラッズも打たれ弱さに定評がある種族だ。まして低レベル帯では前衛の壁を抜けてきたモンスターに小突かれただけであっさりと昇天しちまう。

 そんな有り様を以前にも目の当たりにしてるなら、今さら死んだの傷ついたのを気にすることもなかろうなどというのは野暮てんもいいところだ。関係性が変わるというのはつまりそういうこと。

 

 一般的なパーティが装備をフル更新してなお釣りが出るくらいには高値がつく魔法を使わせたこともあり、バハムーンくんが申し訳無さそうに頭を下げた。

 

「すまんな。貴重な魔法なんだろ、それ」

「いいってことよ。彼女さんは俺含めたみんなの稼ぎのタネで水先案内人だ。これから先の危険手当の前払いてやつ」

 

 気にすんなとオーリは笑ってみせた。内心はさておきだ。

 次のレベルアップで転科する予定なので〈活性〉を使えるのもこれであと1回が限度。本来ならこれは活動資金の確保に、最後の一回もいざというときへの対策のためにとっておくつもりだったのだが、その“いざ”が思わぬ形で来ちまったのだとここは割り切るべきなのだろう。

 

 措置を終えたクラッズさんは“きょとん”とした顔でオーリを見ていたが、しばらくして小さく頭を下げてからバハムーンくんの影に引っ込んだ。

 

 

 

 

 それからしばらくの間、ベッドの枕元にヘビの抜け殻や捕れたてのモグラが置かれるようになった。

 

   ◇

 

 蘇生諸々の措置を終えたオーリ達は一旦、学園に戻ることにした。

 

 ターミナルを経由して地下道を脱出オーリ達は、いつものようにポータル前でスッ転がってる半死体連中を邪魔にならない場所へ蹴り転がし(一歩間違えりゃ自分らが蹴り転がされる側になってたのだ)、外した装備品を道具袋に仕舞ってから軽いミーティングのため近くの広場に腰を下ろした。

 

 鑑定のためにアイテムを任されたフェアリーくんを除いたメンツで輪になり、それぞれの意見を交換する。

 

「まずは仕切り直しとその準備だ。良いことにせよ悪いことにせよ、やられた分はきっちりとやり返してやらんとな」

 

 オーリとしてはできるだけこの問題にケリを付けたい切実な事情があった。

 負けるのは仕方がない。誰も彼もが百戦して百勝ってわけにはいかないのだから。

 

 しかし『負け癖』をつけるのだけはダメだ。

 

 自分がそうだったからよくわかるのだが人は自信ひとつで良くも悪くも変わるものだ。それだけに一度へばりついた弱気はさっさと落とさにゃ食べこぼしのシミよりしぶとく残り続けるし、弱気は新たな弱気を呼び込み失敗のタネになる。紆余曲折ありながらもせっかく上手い流れに乗れそうだというのに、こんなところで台無しになってはたまらない。

 

 敗北の記憶を(そそ)げるのは同質の勝利だけ。自分らに手も足も出させず負けを押し付けてきやがった、あの忌々しいモンスターをきっちり殺り返えさぬではこの問題がトゲとなってしぶとく居座り続けるだろう。

 

 それでなくとも夏休みも終わりなのだし、後腐れなく新学期を迎えるためにも厄ネタや面倒事は早め早めに片付けておきたい。

 

「だからここは無理をしてでも勝ちに行かにゃならんのだが……あんたら、どーね」

 

 オーリが仲間を見渡すとエルフちゃんとバハムーンくんは即座に頷きを返してきた。さすが強気でなけりゃ務まらない前衛職はここらの話が早い。

 少し離れたところで鑑定に勤しむフェアリーくんもこちらの話はしっかり聞いていたようで指で『OK』のサインをよこしてきた。クラッズさんは彼氏の膝の上で丸くなって寝ている。

 

 そんな中、セレスティアさんが慎重に手を挙げる。

 

「私も心情としては賛成。でも、あいつを相手にどうすんの。すげえムカつくけど今の私らじゃ歯が立たないどころか傷の一つも付けられない」

 

 倒せるようになるまでレベリングかアイテム漁りでもするのか問われたオーリは首を横に振った。それじゃあ本末転倒だ。

 

「……気は進まないけど奥の手を使わざるをえない」

「なにすんの、覇王翔吼拳でもやんの?」

「それも悪くないけど、もちっと確実性のあるやつだ。久しぶりにやろうとしたらコマンド全然、入力できねえし。───あと面倒事で思い出したが、あんたら宿題は済ませてんのか」

 

 余計なお世話かもしれんけど、夏休み明けた直後に補習で探索が潰れるのはカンベンな。そう訊ねられるやエルフちゃんが甘えた声でオーリへすり寄ってきた。

 

「ところで話は変わるんだけどさー、時間が余ったら後でわたしとデートしない?」

「そりゃいいね。宿題は見せてやんねーけど」

「……ちぇー、サービスして損した」

「サービスなんだ、それ」

「たりめーだろ、美少女の笑顔をタダでもらえると思ってんじゃねーぞ」

 

 身を離したエルフちゃんが“べえっ”と舌を出したところでフェアリーくんが「鑑定終わったぜ」と告げたので、オーリ達は立ち上がり広場を後にした。

 

   ◇

 

 購買部に立ち寄り不用品を処分したオーリ達は職員室へと向かった。

 対策を練ろうにもまず情報がないではどうにもならんので、担任のユーノ先生に話を聞いてもらいたかったのだ。

 

「あー、とうとう“アレ”の相手をしたのか。ごくろうさん」

 

 職員室で一行の話を聞いたユーノ先生は“にやにや”とした笑いを浮かべた。

 

「先生、アレのことをご存知……いや、もしかして俺らがボコられるのまで予想してたんですか?」

「まあね。なにせありゃ、あんたらみたいな連中専用のトラップみたいなもんだから」

 

 先生が語るところによればまだ得られる経験や装備も大したもんがない時期にジェデロ地下道を攻略できる能力に加えて、隅から隅までマップを埋めるような連中───つまりオーリ達みたいなのしか引っかからないんだそうな。

 

「あの近辺は確かに稼げる場所だけど、普通の学徒やパーティなら湧出地点かもっと楽なマップ巡りだけでお茶を濁すだろ。その後あらためてマップ埋めをする頃にゃ相応に、レベルや装備等も恵まれてるからアレも普通の雑魚散らしと変わらんくなるのな」

 

 つまりは学徒のやる気と能力、頑張りが反転して牙を剥く形の理不尽ってわけだ。

 痛い目に遭ったのは決して自分達が弱かったからというわけではないにせよオーリ達は複雑な心境を抱かざるをえない。

 

「あんたらがもうちょい不真面目か不出来だったらスルーしてたんだろうがね───何人死んだ?」

「2人です。俺以外の後衛組」

「へえ、やるじゃない」

 

 ユーノ先生は掛け値なしの驚きと称賛とで目を丸くした。

 

「私が運悪くアレにかち合ったときは私を残して皆が死んじまったもんさ。その程度の犠牲で逃げられるなんて大したもんだと自慢していいわよ」

 

 ちなみに撤退を主張した仲間たちをガン無視して戦闘を敢行。お前らが怪我しようがおっ死んじまおうがこちとら知ったことじゃねえとばかりの奮戦の末、パーティメンバーの屍山血河と引き換えに先生一人が勝ち名乗りを上げるとかいうバーサーカー戦法だったそうな。

 

 おかげでしばらくは仲間連中との間に溝ができちゃったもんよ。当時を懐かしみメガネの奥でやわらかく目を細めるユーノ先生だった。

 

 オーリは血で染まった凶器片手に命の尊さを説く殺人鬼でも見たような気分になった。

 

「そりゃそうもなろう。なんぼなんでもヒドすぎるぞ、あんた」

「なによー、はちみつレモンみたいにちょっぴり苦くて甘酸っぱい青春のさわやか1ページに文句あんのー?」

「バケツいっぱいのサンマの臓物より苦えし血生臭せえんだよ」

 

   ◇

 

 先生は机から離した体を椅子の背もたれに預け、メガネの位置を直しながら訊ねた。

 

「で、あたしに何を聞きに来たのかしら? 攻略の方法ならそこまで難しくないわよ。教科書に書いてある通りのレベルを上げて装備で殴る(ハック・アンド・スラッシュ)でもしな」

「それじゃ時間がかかりすぎます。少なくとも両日中にはリベンジしたいので」

「いくらあんた達でも、アレとやり合うには今のレベル・装備じゃ厳しいぞ。あたしに向かってああまで言ったからには、余計な犠牲を出さないくらいはしてみたら?」

「ちょいとこすいですが〈手榴弾〉を使おうと思ってます」

「ふん、そうきたか」

 

 先生は面白くもなさそうな顔をした。

 

「しかしありゃあ確かに強力な反面、扱うには制約がデカすぎる。そこんとこちゃんと考えているのかしら」

「それをなんとかするために、こうしてお願いにきたわけで。過去の学徒が提出したレポートの閲覧許可をいただきたい」

「行動傾向の把握か。わかった、図書室に話を通しといてあげるから顔出しておきなさい」

「あざっす。……先生はこういうのをズルとみなすと思ってましたが」

「見損なうない。私ら正々堂々だの敢闘精神だの掲げてメシが食える商売じゃねーんだ、足りないもんがあるなら他所から引っ張ってくるのも立派な戦術よ。なにを恥じる必要がある」

 

 まあ応援したげるから精々、怪我しない程度に頑張りな。投げやり気味に言い捨て机の上に積まれた書類へと向き直る先生に礼を言い、オーリ達は図書室に足を運んだ。

 

   ◇

 

「うぉーい、このレポート用の資料ってどこに置いてあんのー?」

「こらーっ読み終わったらちゃんと元の場所に戻せ!」

「この提出物だけでも写させて! 一生のお願い!」

「しゃあないなあ。後でなんかおごってね」

「誰かー! クエスト手伝ってぇー!」

「んー、手伝ったげてもいいけど取り分は割り増しでもらうよ」

「そこは友達料金でひとつ!」

「今日から赤の他人でいい?」

「二度と逢うまい逢わないと 心に誓うはまぼろしか」

「こんなつらい渡世など だれが好んで生まりょうか」

「は~あ……やっぱし勉強でも仕事でもコツコツやるって大事なのな」

「口を動かす暇で手ぇ動かせ! 休み明けが補習で潰れるとかゴメンだからな!」

「そこな若人よ、怪人ノノのパイ拓買わない?」

 

 

「うわ、なんじゃこりゃあ」

「あっちゃー、時期が悪かったか。こいつら溜まってた宿題やクエスト目当ての連中だよ」

 

 図書室(と言い張る図書館)に到着するやフェアリーくんが悲鳴にも似た声を出し隣のオーリも頭を抱えた。

 

 彼らが目にしたのは図書室敷地内における隅々で学徒たちが押し合いへし合い声を枯らしている地獄絵図だった。

 普段は利用する者とて少ない図書室は、今や玄関といわずありとあらゆる場所がアホの群れでひしめき、窓という窓(上の階も含む)からは内部の圧力に負けたらしい学徒たちが“ポロポロ”とこぼれ落ちたりもしている。

 

 様子を見るためにフェアリーくんが学徒どもの上を飛んだり窓から中の様子を見に行ってくれたのだが、すぐに戻ってきて諦めたように頭を振った。

 

「ダメだな。構内はどこもかしこも奥の階段にいたるまでアホの芋洗い、とてもじゃねえが受付まで辿り着けるかもわからん」

「うぬー」

 

 梅干しかじったシーズーみたいな顔するオーリにエルフちゃんが訊いてきた。

 

「どーすんの、こんな有り様じゃ今日は諦めるしかないんじゃね?」

「俺もそうしたいのは山々だけどね……引き返そうが夏休み終わるまで変わらねーんだから、ここは強行突破だ───ちゅうわけで、いっちょ頼むぜ」

 

 皆の視線が一斉に、寝こけるクラッズさんをおんぶするバハムーンくんへと集中し、こいつらが自分に何をさせる気なのかを悟った少年の顔が苦々しさに歪んだ。

 

「くっそー、後でおぼえとけよお前ら」

 

 …………

 

 クエスト受注と放ったらかしてた宿題に追われる学徒たちによって常より賑わう図書室の構内を、一行はバハムーンくんを先頭にしてかき分けていく。

 その力強さにオーリは少なくない羨望も込めて“しみじみ”と言った。

 

「やっぱ最後に頼れるのはデカくて重い筋肉よな」

「だからって仲間をラッセル車替わりに使うんじゃねーよ」

「しょーがねーだろ。俺らがこの人混みを突っ切ろうもんなら、あっという間にボロ雑巾やぞ」

「ていうか飛べるやつは普通に空飛んで行きゃいいんじゃねーのか」

 

 その文句にセレスティアさんが口を尖らせた。

 

「無茶言わんでほしいんだが。男の子はともかく私ゃスカートなんだが」

「あー、そうだった。悪かったよ!」

 

 ちなみにフェアリーやセレスティアに属する空飛べる系女子が人目のある場所では高いとこを飛びたがらない理由もこれ(それ以前に資料の閲覧だけなら全員で顔を出す必要もないのだが、気がついた頃には遅かった)。

 

 自分がどれほどウカツな発言をしたのかを知ったバハムーンくんは、耳といわず顔を真っ赤に染め上げてヤケクソ気味に速度を上げた。

 

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