男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第49層 ジェネレーションエクスのNPCに比べりゃまだ常識人の範囲ではある

 

 昼食後、パーティのメンツと別れたオーリは寮に戻り、軽い昼寝によって魔力を回復してから地下道探索を行うことにした。

 

 いつものようにポータル近辺にて、死屍累々の有り様で散らばる半死人連中を邪魔にならない場所へ蹴り転がし(この光景にも作業にも慣れてきた自分がなんかイヤだ)、途中の地下道は接敵の無視とエリア構造によるショートカットでやり過ごし、体力・魔力の温存をはかりながら駆け足でジェデロ地下道へのポータルまで到達する。

 

「さて、来学期に備えて稼ぎも巻きでいくかー」

 

 オーリは両頬を“ぺちり”と叩いて気合を入れた。

 

 今回の探索における一番の目的は、なんといってもマスターレベル前の総仕上げだ。

 レベルアップに必要な経験値というものは一般的に上に行けば行くほど増大していく。レベル1が2になるのはあっという間だが、マスターレベル(今回のオーリの場合はLv22)ともなれば何十どころか百の単位でモンスターを血祭りにして経験値をすすらにゃならぬ。

 なので、経験値を6人で割る羽目になるフルメンバー(6人編成)でのそれよりも、今回のようなソロのが都合はいい。

 

 また併せて魔障壁(マナシールド)を使わない立ち回りを覚える必要もあった。

 魔障壁をはじめとした〈スキル〉とは、対応したそれぞれの職業や学科(ブラッドコード)でのみ扱うことが可能となるので、転科してしまえば今までの学科で慣れ親しんだスキルやそれとセットになった戦術も役に立たなくなってしまう。

 

 もっともオーリはあくまでも後衛に控える魔法職なので、意識するのは状況に応じて攻撃・回復・補助の魔法を適切かつ迅速に扱うことがメインになるわけだが。

 

「新学期になったら俺も高速詠唱の講義を受けるべきかな。

 ───魔術 Lv6 グループ 闇煌(ジルマハン)

 

 今後の進路について考えながらもジェデロ地下道における最初の接敵である。

 オーリは闇属性の魔法でモンスターの群れを薙ぎ払い、いつものように弱らせたところへ吶喊した。

 

「つーか光はレーザーとかビーム的なアレで納得できるけど闇ってどんな力じゃい」

 

 どのみち属性なんちゃらと言ったところでオーリ達、学徒をはじめとした現代の冒険者が扱う〈魔法〉といえば、因子を内包した魔力のパワー的チカラをホーミングレーザーの形で撃ち出すとかいう二度手間のような代物なわけだし、足りない頭で考えたところでしょうがないのかもだが。

 

 オーリは受けたダメージで動きの鈍ったオーガどもの足を銅槌(コッパーメイス)で粉砕、何匹かを動けなくして、内一匹はみぞおち辺りにヤクザ蹴りをねじ込み思い切り蹴っ飛ばした。そのすぐ後ろに続く、両腕が鋭利な刃物になったモンスター(シザーハンドというやつだ)の何匹かが、オーガの巨体に巻き込まれて塊魂みたいな状態となる。

 

 足を砕かれ動けない連中へのとどめは後にして、地べたに這いずるオーガのデカい図体を乗り越えたり回り込もうとするのにまごつくシザーハンドの頭に銅槌を、あるいは土手っ腹ににダガーを叩き込んで確実に数を減らしながら素早く呪文を詠唱。

 

「───魔術 Lv4 グループ 雷電(マダルク)

 

 放たれた魔法は渋滞に巻き込まれて右往左往していた最後列のモンスター(シルエットしか分からないが、おそらくゴブリンの近縁)に直撃し、その半分ほどを沈めた。

 

 ちょいとデカめのモンスターにあえてとどめを刺さずに転がし、即席のバリケードとする乱戦の乗り切り方はエルフちゃんから教わったものだ。万一、前衛がモンスターの波をさばききれなかった場合、オーリが後衛の盾役になる必要があるからだ。わざわざ生かしておくのは、地下道のモンスターというのは死んじまうといつの間にか消えちまうのが理由。

 

 最初は魔障壁を前衛に見立てて魔法を使うことを考えたが、気が散ったところをボコ殴りにされるおそれがあったし、なにより転科後における戦術の切り替えにも支障が出そうなのでやめておくことにしたがゆえにこの戦術だ。

 

 しかしこいつにとってはもはやあくびが出るほどに慣れた、最前線で暴れながら魔法を撃ち込む立ち回りではあるが他パーティの、特に真っ当な魔法職からすれば目と正気を疑う光景だ。

 

 忘れがちだが魔法使いというのは前衛によって安全が確保された後方から戦場・戦況を俯瞰し、その場における最適の魔法を撃ち込む砲台というのが本来の役割なわけで。

 仲間に混ざって前に出るくらいならともかく、戦士職の介護も補助もなしにソロでうろつきまわり屍の山を築くというのは、控えめに言っても頭がおかしい所業なのだ。

 

 残り1匹となったシザーハンドの喉元をダガーで掻っ捌いたオーリは、半壊状態になった最後尾のモンスター達にとどめを刺し、最後に地べたでもがくオーガ達の頭に銅槌を振り下ろして黙らせた。

 

   ◇

 

「ぶん殴ったりぶん殴られたりしながら魔法を使うのも久しぶりな気分だ。

 ───超術 Lv4 グループ 念槍(マハサイ)

 

 ここにいない仲間連中の心強さとありがたみを噛みしめつつ、オーリは地下道を進んでいく。

 

 彼が現在うろついているのは、ジェデロ地下道C層に存在している〈警戒区域(ワーニングゾーン)〉と呼ばれる場所だ。

 ここは通常のエリアと比べてモンスターとの遭遇率に個体ごとの強さが高く設定されているせいもあり探索や急ぎの場面においては嫌われるものの、今のような稼ぎ重視の状況にはうってつけの場所である。

 

 転科者の特権でもある豊富な種類の魔法と潤沢な魔力、さらには高レベル者の腕力による殴る蹴るとでモンスターを蹴散らし、両手の指の数ほどの接敵をこなしたところでオーリは妙なものを見つけた。

 

 前にも述べたが地下道には各種トラップをはじめとした様々なオブジェクトが存在している。

 例えば期末試験のときにオーリが散々に痛い目を見た暗黒地帯、即死水域に魔法禁止区域がそれだ。

 

 そして今、オーリの目の前に鎮座ましましている、冒険者連中から〈水槽〉と呼ばれている“それ”もそんな厄介な品のひとつであった。

 

 大きさはオーリを縦横に2人並べたくらい、透明度の高いガラス状の物質(掘削用のドリルでも魔法でも傷一つ付けられない)によって作られた円柱で、腰より少し下のところには蛇口が設置されている。

 いかにも「喉が渇いてる方はどうぞお飲みください」とばかりのサービス精神が見て取れる物体ではあるが、しかしよほどに切羽詰まった事情があろうともこれを飲もうなどという酔狂者はいない。

 

 なぜというのなら、

 

「なにをやっとるんだ、こいつらは」

 

 オーリは“ぼこぼこ”と泡立つ、やたら粘度が高そうで得体のしれない色した水……というより不気味な汁が詰まった水槽の脇に佇む4体の人影───石化してインスタント二宮尊徳像になっちまってるアホどもを苦々しげに眺めた。

 

 

 

 

 地下道内に設置された謎水槽。

 

 これの内部にたたえられた謎水は飲んだり触れたり浸かったりすると、若返ったり歳を取ったり傷が治ったりダメージ受けたり性格が変わったり毒を食らったり麻痺したり等々……様々な効果というかご利益のあるものなのだが、大抵の場合はスカを引いてご覧の有り様になっちまう代物なもんで、冒険者の間ではトラップの同類として認識されていた。

 

   ◇

 

「さてこのバカタレども、どーしてくれようか」

 

 オーリはさもイヤそうに立ち並ぶアホの像を見渡した。

 一体、こやつらにいかなる事情があってこんなもんを飲んじまったのかは知らないし、興味もないが、放ったらかして先に進むというのは人としていかがなものかと思われた。

 

 それに助けてやるにしても処置そのものは簡単なものなわけだし。学園に戻ってから、ポータル脇に設置されている出張保健室へ連絡しておくだけで済む。

 しかし、それだと多忙な保健委員会へ余計な仕事を持ち込むことになっちまうので、そこがオーリを躊躇わせるのだ。前にも自分で言ったことだが、せめても夏休みの間くらいは羽根を伸ばしてもらいたいのだ。

 

 オーリはしばし迷った末、逡巡(しゅんじゅん)を無理やり吐き出すような深い息を吐いた。

 

「しゃーなしやで。

 ───超術 Lv6 ソロ 治癒(ディリタ)

 

 オーリはそこそこ貴重なLv6帯の魔法をアホ石像の人数分かけてやった。相方の使う〈癒流〉なら一発で治せるというのに勿体ないもんだ。

 少なからず苦い気分でいるオーリの前で、アホタレ共は無事に石化から快復した。

 

 …………

 

「そんな事情があったんだな、助けてくれてありがとう!」

 

 石像から人間に戻り混乱する連中に事情を説明すると、その中でも一際ガタイがよくて暑苦しい風貌をした、オーリより一回りほど歳上くらいのヒューマンの男性が進み出て礼を言った。よく鍛えられた腹筋のせいなのか、やたら通りがよくて地下道に響く声である。歳の頃からすると、学徒ではない冒険者のようだ。

 

 多少の暑苦しさはあるものの礼を言われて悪い気はしない。オーリは気を取り直してここで彼らに何が起こったのかを訊ねてみることにした。

 

「お気になさらず。それよりなんだって水槽(これ)の水なんぞ飲んじまったんです? 喉乾いてるなら一度、引き返すか水場のあるスレッドまで引き返しゃいいでしょうに」

「うむ、よくぞ聞いてくれた」

 

 意を得たりとばかりに彼らは一斉に頷いた。

 

「俺達は男を試していたのさ」

「……はい?」

 

 この暑苦しい連中の説明によると、彼らはパルタクスの学徒ではなく冒険のかたわら『男の中の男』を目指す修行に明け暮れる一団とのことであった。

 

「真の男たらんと志すからには、レベルなどという見せかけの力だけでは駄目だ。心技体、その全てが鍛え抜かれなければならない」

 

 どのような試練が立ち塞がろうと一歩も退くことなき者こそ真の男というのが彼らの信条であり、それがゆえに地下道に湧き出るエネミーやトラップはもとより、〈水槽〉のように悪質なオブジェクトであろうとも立ち向かう必要があるのだと。

 

 つまりは運試しに度胸試しも兼ねた修行の一環ってことらしい。

 

 ちなみにこれまでにも何度となくスカを引き、毒にやられたり麻痺ってモンスターにかじられたり先程のような二宮尊徳になっちまったりもしてたんだとか。

 なんちゅう迷惑なやつらだ。オーリは口いっぱいに渋柿でも詰め込んだようなツラをした。

 

「さてはバカだろ、あんたら」

 

 あまりのバカらしさにオーリが半眼で一刀両断すると、アホタレ共は熱湯に叩き込まれたタコみたいな顔色になった。

 

「なんだとお! 俺達の崇高なる男磨きにケチつけようってのか!」

「そうだそうだ! レベルアップだの経験値だのは邪道よ! 本当の強さとはそれだけで得られるものではない!」

「お前らはいつも安易な手段に頼る! そんなことで真の男の道が歩めるものか!」

「そのように軟弱な輩と考えが我々の母校を、ひいては冒険者をダメにするんだとなぜわからない!」

 

 アホみたいな理由で激怒するやつを見てるとかえって冷めるもので、オーリは自分でも驚くほど冷え冷えとした声で言い返した。

 

「むしろお前らみたくなのが次から次へと生えてきやがるから、冒険者への風評どころかウチの学校も類友で珍奇なやつらの投げ込み寺になっちまうんじゃねーか」

「俺達をあんな変人たちと一緒にするな! いくらなんでも言っていいこと悪いことはあるだろう!」

「そういうセリフはせめてもうちょい真っ当な行動をしてから口にしろ。いい歳こいて自覚症状さえねえのか」

 

 ───まったく、こんなアホなら助けるんじゃなかった……

 

 後悔にほぞを噛むオーリだったが口には出せなかった。

 結果はこんなであったとしても、それを選んだのは他ならぬ自分なのだ。自らの選択を貶めるようなことを、思いはしても言わないにかぎる。なによりこんなアホでも助けにゃならぬ、ユマ先輩はじめとした保健委員の先輩たちに申し訳ない。

 

 代わりに聞えよがしのデカいため息をひとつして、不毛な会話(などと言えるのかも怪しい)を切り上げることにした。

 

「まあいいさ、俺はもう行くよ。あんたらも命知らずと迷惑行為はほどほどにな」

 

 そう吐き捨てたオーリは探索を続けるべく地下道を引き返そうとした。

 どんだけバカなことをしでかそうが、自分に関係のないところで人様に迷惑をかけるわけでもないなら好きにすりゃいいのだ。保健委員の面々にはとっくに迷惑になっているだろうけど。

 

 しかし踵を返したオーリの背中に、先程の暑苦しいヒューマン氏が声をかけてくる。

 

「待て、少年。言動こそ失礼なやつだが、何の得にもならない人助けをしようというその心意気、お前には見込みがある。我々のパーティにもちょうど空きがあることだし、こうして出会ったのも何かの縁だろう───」

 

 猛烈にイヤな予感がオーリの背筋を突っ走った。

 

「───どうだ、お前も俺達と共に真の男を目指さないか!?」

 

 ヒューマン氏はろくでもない提案をしながらオーリの肩を掴んだ。

 前言撤回。有害かつ迷惑なバカタレだった。

 

「やだよ、俺は忙しいんだ。……さっさと手え離してくれ」

 

 肩に置かれたゴツい手は全盛期のフリッツ・フォン・エリックばりの握力で“ぎりぎり”と締め上げてくる。どうやら逃がすつもりはなさそうだ。

 

「遠慮ならしないでいいぞ。真の男は多少の無礼も水に流すものだからな」

「そういうことを言いたいんじゃねえよ。俺ぁもうこれ以上、お前らに関わりたくないんだよ」

 

 オーリは足の小指をタンスにぶつけたカミナリオヤジのような顔をした。

 こいつらと一緒にいるくらいならまだ学食大路を根城にするトンチキ邪宗門にでも入信した方がマシである。

 

 しかし彼らは人の気も知らんと新たに水槽から汲んだばかりの謎水(鼻が曲がりそうな臭いをさせて泡立っている)がなみなみ湛えられたコップを爽やかな笑顔で差し出してくきやがる。つくづく人の話を聞かない連中だ。

 

「さあ、お前も俺達と一緒に男を磨こうじゃないか!」

 

 地下道の闇の中にあってさえ煌めき光る真っ白な歯が鬱陶しい、暑苦しくもイイ笑顔であったそうな。

 ことここに到り、口での説得を諦めたオーリもとびっきりの作り笑顔と一緒に鉄砲の形にした手をアホ達に向けた。

 

「魔術 Lv1 グループ 昏睡(カティドレイ)

 

   ◇

 

 至近距離からブッ放された魔法により、片っ端から眠りの国へと強制退去させられたアホどもを放置してオーリは探索を再開した。

 

「馬鹿に付ける薬ってのはどこで取り扱ってんだろなぁー」

 

 付ける薬もない輩の同類が吐いたぼやきが地下道の闇に溶けていった。

 




なにせネットではまず書けないテキストがアホほど存在しとる
そりゃリメイク版では台詞も出番もバンバン削られもするちゅーんじゃ
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