男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第51層 迷宮今昔物語

 

 図書室前での小遣い稼ぎを終えたオーリは約束通り、エルフちゃんの宿題を手伝うことになった。

 

 とはいえこの手のイベントにおける定番スポットであるところの図書室は先の通り学園中のバカタレに占拠されたも同然、最低でも机と椅子がある場所に行きたくても教室は閉鎖されてるし、二匹とも個室部屋は使えないので、以前、ミーティングに使った小部屋を借りて勉強会をすることにした。

 

「それはいいんだけどさ……なんできみらまで“ここ”にいる」

 

 至極当然とばかりの顔して一人も欠けることなく集ったパーティの面々を、オーリは順繰りに眺め回した。

 その質問にまずバハムーンくんが応えた。

 

「俺は聖術の勉強のためだよ。お前の相方くんに教科書を借りたり……他にも術習得のコツとかあれば聞きたくてな」

 

 なるほど、彼が転科する君主学科は高い防御とそれを支える聖術が柱となるものな。

 

 でもそれなら俺なんぞ抜きで教わりゃいいじゃん……と言いかけてオーリはやめた。石をぶつければその石の方が砕けちまうくらい重厚頑健な体躯を申し訳無さそうに縮こまらせているこの少年、今だにフェアリーくんのことが苦手なのだ。緩衝材もなしに一緒の空間にいるなぞ数分でも耐えられまい。

 でかい図体しときながら情けないと思われそうなもんだが、こと人間関係において一度、根付いた苦手意識というのはそう簡単に払拭できるようなものではないのだ。

 

 オーリの心中を察したのかフェアリーくんがとりなすように言う。

 

「ここに連れてきたのはぼくだよ。おまえとなら少なくとも退屈はしねーだろと思った」

「俺も僧侶学科に転科するわけだし、一緒に勉強したが効率もいいか。どうせなら俺にも色々と教えてくれる?」

「まかせな。───それとこいつは迷惑料ついでの差し入れな」

「さんきゅ」

 

 お菓子と飲み物が入った籠を受け取ったオーリはセレスティアさんに目を向けた。前回と同じく部屋の隅っこで丸くなって寝てるクラッズさんに関しては、彼氏に着いてきただけだろうから聞くことはない。

 

「んー、私は別に用があるでもなかったんだけどね。どうせなら2人だけにしてあげたかったし」

「なんか引っかかることを言われた気がするが、あえてスルーしとくよ。それがどんな心変わりだい」

「こうして皆が集まっちゃってると、私だけのけものはイヤかなって。面白いイベントも見損ねちゃいそうだし」

「俺ぁ見世物じゃねんだぞ」

「あなたとその周りの子達は見世物より面白いけどね」

「きみも含めてか」

「お陰様でここ最近、退屈とすっぱり縁が切れてるよ」

 

 少年がこさえた渋面とは対照的に、天使の末裔と称される少女は愉快と意地悪が半々くらいの小悪魔めいた笑いをひらめかせた。

 

「ま、私も魔法に関して聞きたいこともあったし、これも親睦を深める一環ってことで今日はみんなで仲良くお勉強しましょ」

 

   ◇

 

 最初の内こそぎこちない空気ではじまったパーティ総出の勉強会だったが、それもすぐに和気藹々(わきあいあい)とまで言わずとも打ち解けたものになっていった。腹の中はさておき、ここらの割り切りは卵であろうとも冒険者というべきか。

 

 バハムーンくんとセレスティアさんの勉強、つまり魔術と聖術はフェアリーくんが担当することになった。こう見えて魔術と聖術の二刀流、しかも座学では学年トップクラスの逸材なのだ。

 そんな何事もそつなくこなす彼だけに教え方も堂に入ったもので、教科書の内容を可能なかぎり平易な表現で噛み砕き、予備知識ゼロでも解りやすいよう段階を踏んで丁寧に教えていく手際は普段の口汚い姿からは想像もつかない。

 さながら乾いた砂へまかれた水のように知識が染み渡る感覚に、教えられた2人は素直な感心を抱いたほどだった。

 

 エルフちゃんの宿題に関しても予想していたよりずっと順調にこなせたのでオーリが驚いた。

 しかしそれもよく考えりゃ当然のことではある。この娘とて曲がりなりにも20回に届こうほどのレベルアップを繰り返した身だけあり頭の巡りそのものは悪くないのだし。

 おそらくだが机の前でじっとしていられない性分が邪魔をし、それが積み重なった結果、わかるものもわからず終いで勉強への苦手意識に結びついたのではなかろうか。

 

 一息ついてジュースの瓶を空けるエルフちゃんへ、少なからず惜しい気分でオーリは言う。

 

「きみさぁ……やりゃあ出来るんだし、やっぱ来学期からは真面目に勉強すべきだと思うんだが」

「無理」

「微塵の逡巡(しゅんじゅん)もなく言い切るなよ……。大元の頭の良さだけなら俺なんぞよりずっと上っぽいのにもったいない」

「そんなこと言われても無理なものは無理。こうして宿題やってられるのだって、きみ達がいてくれるからだもん。一人じゃ投げてたよ」

「情けないことを堂々と言いなさんなよ」

 

 摘んだポン菓子をジュースで流し込んだオーリは次の教科書を手に取った。

 

「じゃあ次は冒険史学か。こっちは休み明けにテストあるからなー、補習で時間食わないためにもみっちり詰め込むぞ」

 

 言いながら教科書を開き、序論を飛ばして黎明期における冒険者の成立に関するページをめくる。

 

   ◇

 

 〈迷宮〉の存在が周知されるより前の〈冒険者〉といえば、街や村で雇われる用心棒や開拓団・輸送の警護などに駆り出される流動的傭兵ないし、もめ事の始末屋程度の扱いであったという。人材(などと呼べるほどのものかも怪しいが)の供給元も傭兵稼業と被っていたらしく、家を継げない大した取り柄もない食うための技術もないボンクラ、つまりパルタクス学園に来る前のオーリみたいなのが大半であったとのことだ。

 

 こんなもん当然ながら社会的な地位も信用度もお察しな、ぶっちゃけ世間には“はぐれ・あぶれ”に食い詰め者が行き着くやくざものよりマシな受け皿くらいの認識で、とにかく頭も悪けりゃ素行も悪く、切った張ったくらいにしか役に立たない与太者、ろくでなし、穀潰し、流血欲情症患者、自殺志願者、脳ミソまで筋肉、社会不適合者とまで評されており、しかもそれが間違いでないという有り様だった。

 

 教科書をざっとめくっても挿絵に描かれているのは、モヒカン頭でトゲトゲ付きの肩パッドを装備した悪そうな人相の冒険者、明日の実りを信じるじいさまから種籾(たねもみ)種芋かっぱらってムシャムシャ食べてる冒険者、胸に七つの傷を持つあんちゃんに変なツボを突かれる冒険者、個性豊かな悲鳴を上げて体を爆散させる冒険者等々……およそ『冒険者』という単語から想像される夢も希望もへったくれもあったもんじゃない絵面ばかりである。

 

 教科書と一緒に並べられた資料集に載る、それら過去の冒険者像をざっと眺めたエルフちゃんが柳眉を納得のいかなそうな形に寄せた。

 

「なんか色々とおかしくね?」

「種籾って食べてもあんま美味しくはないだろうしね。ヘタすりゃお腹壊しちゃうかも」

「そうでなくて」

 

 不審にも似た視線が突き刺さるも、オーリは気にせず先へと進める。

 

 そんな果てしなくどうしようもない冒険者たちの評価を一変させたのが迷宮(ダンジョン)の存在と発見であった。

 迷宮───現代においてはオーリ達が探索をする地下道がその代表例として挙げられるが、歴史においてとみに有名なのはやはり〈狂王の試練場〉とその顛末であろう。

 

 …………

 

 昔々、あるところにあふれんばかりの野心と暴虐によって〈狂王〉の名をほしいままにした王がいた。

 王の欲留まるところを知らず、この世のすべて余すことなく平らげんとする貪欲によって世界は積み重なる屍の山と流される血の河に沈んだという。

 

 しかし野望の赴くまま侵略と蹂躙を行い大陸に覇を唱えんとしたその威勢も長くは続かなかった。

 ある日、狂王の力の源たる御守り(アミュレット)が盗み出されてしまったのだ。

 

 下手人たる当代一を誇る魔法使いはこともあろうに王のお膝元というべき城塞都市に迷宮を建造し立てこもった。

 

 これには王様もあの野郎バカにしてんのかとプンスコお冠。

 当然のことながら討伐隊を差し向けるも、そこは天下の一とはなっても二には降らぬ大魔法使いが創り上げた迷宮だけに一筋縄ではいかず、投入された軍の精兵は不慣れな迷宮の構造と押し寄せるモンスターにより片っ端から返り討ちときたもんだ。

 

 その後も何度か討伐が繰り返されるも同じ数の失敗だけが結果として残り、これ以上の労力と資本が浪費されるのを嫌った王により白羽の矢を立てられたのが、かくあろう冒険者たちだった。

 

 もちろん当時の、野盗くずれにも等しい冒険者どもに目的を達成できるなどと端から期待はしておらず、あくまでも本命は自分の軍隊による奪還であり、連中にはその露払いとしてモンスターを消耗させる程度の腹積もりではあったが。

 それでももし生き残った連中がいたなら正規の兵隊として取り立ててやってもよいとは考えてもいた。モンスターと戦い経験を積んだ者ならば損耗した兵力を補う程度の働きはしてくれるだろう。

 

 だが一石二鳥ともいうべきこの算段は、しばらくしてから意外な形で裏切られることとなった。

 なんと迷宮に叩き込んだ十把一絡げどもの一団(パーティ)のひとつが、かの不埒な魔法使いを討ち果たし御守りを奪還したという報せが届いたのだ。

 

 国の誰もが思いもよらぬ大金星に市井の人々は驚き王様ニッコリご満悦。早速、功成り名遂げた勇者達を城に呼びつけその功績を労おうとした。

 

 のだが……ここでまた問題が発生した。

 

 冒険者どもいつまで経ってもなしのつぶて。登城どころか迷宮から戻っても来やしないのだ。

 しびれを切らした王がどういうつもりか問い質しに使いの者を寄越したが、

 

 

「王様ごめーん、この御守り超便利だからもちっと借りてく」

 

 

 それだけ言って、冒険者達は迷宮の奥にひきこもり戦いに明け暮れたという。

 

 これには王様もおいこらてめえふざけんなてめぇと大激怒。

 すぐさま件の冒険者たち討伐の勅を発するも、そこはかの大魔法使いさえ退けたパーティだけに送られた刺客も片っ端から返り討ちときたもんだ。

 

 しばらくの後、迷宮での経験を積み腕を磨いた冒険者達の一組がようやっとかの不埒者どもを討伐したのだが……今度はその冒険者どもが戻って来やしねえ。

 

「王様ごめーん、この御守りめっちゃ便利だからもちっと借りてく」

 

 それだけ言って、件の冒険者どもは迷宮の奥にひきこもり戦いに明け暮れたという。

 そんなこんなでまたその冒険者を討ち取るためのお触れが出され、しばらくの後にそいつらが成敗されたはいいが、やはりというか御守りは戻ってこなかった。

 

「王様ごめーん、この御守りすげー便利だからもちっと借りてく」

 

 それだけ言って、やはりというかバカタレもとい冒険者達は迷宮の奥にひきこもり戦いに明け暮れたという。

 

 かくしてミイラ取りがすごいミイラになりそのミイラを取りに行ったやつもまた超すごいミイラになるのが繰り返され、その都度、関わった冒険者たちのレベルだけが無駄に上がりまくり、御守りはさっぱり戻る気配もなく、気がつきゃ冒険者のどいつもこいつも迷宮に潜る目的とかどうでもよくなって寝食忘れモンスターを殴って蹴ってアイテム漁り(ハック・アンド・スラッシュ)にのみ血道を上げ───

 

 時は流れ流れて幾星霜、老残の身を臥床に横たえ最期に王は言った。

 

 

「もうええわい」

 

 

 いかほどの無念がその一言に宿っていたか余人は知らず、また冒険者達もだからなんだよそんなもん知ったことじゃねえと迷宮潜りに明け暮れたとさ。

 

 これら一連の話は冒険者という生き物の救いがたい生態および、そんな連中すらも虜にする迷宮という存在の魔力をしらしむる例として今も語り伝えられている。

 

 …………

 

「ろくなもんじゃねーな」

 

 教科書から目を離したエルフちゃんがお弁当に大嫌いなおかずを入れられた子供みたいな顔で言い、それをなだめるようにオーリがフォローを入れる。

 

「どんな業職種でも黎明期(れいめいき)なんてそんなもんだよ」

「いくらわたしでもその一言で納得できるもんじゃないつーの。先生達もこんなバカな歴史を学ばせてなにしようってんだか」

「こういった先人の苦難やら面倒事が積もりに積もって今があるんだ。今を生きる俺らが過去の事例を参考に未来を繋ぐためにも知っておくにしくはなしさ」

「何ちょっといい話みたいに言ってんだ。積もったのは目先の欲得に流されて、肝心の目的も見失ったバカタレの山じゃん」

「手厳しいね」

 

 辛辣に言い捨てるエルフちゃんへ曖昧な笑みだけをよこし、オーリは半ば自分に言い聞かせるように胸中でうそぶいた。

 

 ───俺らだってそこに積み上げられるバカタレかもしれんぞ

 

   ◇

 

 少年少女たちのお勉強もそこそこに進み、休憩を挟んだところでフェアリーくんが何かに気付いた様子でオーリをまじまじと見つめた。

 

「そういえばおまえ、少し前から身綺麗にしてんな。色気づいたとかでもなさそうだし、なんぞ宗旨替えでもしたんか」

「うん。ちょい前にこの子達からメイクや身だしなみの基本とか色々と教えてもらってさ、少し気を遣ってみることにしたんだ。まだ色々と試してる最中だけど……どうかな?」

 

 エルフちゃん達の指導を受けてからこっち、オーリもヘアオイルやら乳液等でのケアをするようになった。

 併せて彼女らに紹介してもらった美容室で髪を整えたりもした。今までは石鹸で雑に洗っていい加減に乾かすだけ、髪が伸びてもお金がもったいないからと自分で切ってたのに比べれば格段の進歩といえた。今までがマズすぎるともいうが。

 

「いいんじゃねーか。おまえ元は悪くないんだから、磨けばいい線いくと思うし」

「気休めでもきみにそう言ってもらえると自信が付くね。ありがと」

 

 オーリは照れくさそうに前髪をつまみ指に絡めた。

 横で2人のやり取りを聞いていたエルフちゃんが嬉しげに目を細める。

 

「いいことだよ。髪がボサボサだったり服がだらしない人ってどうしても印象悪くなっちゃうからさあ」

 

 言いながらエルフちゃんは白魚のような手をオーリのこめかみのあたりへと伸ばし、以前より艶や柔らかさが乗った髪に泳がせた。

 

「んふふ、男の子を自分の好みとセンスで磨くのって悪くないね。マイ・フェア・レディに出てきたおじさまの気分てこんなか」

「ヒギンズ教授を騙るにはあまりにも物騒な」

「ほっとけ。でもその調子でどんどんカッコよくなってくれると嬉しいな。───ね、今度わたしとお揃いのメッシュ入れてみるのってどうよ?」

「髪染めるとかはまだ抵抗があるし先にしようかな。でもまあ、期待に応えられるように善処だけはするよ」

 

 それよりまずは目の前の課題を始末しないとな。あらためて教科書を開くオーリを童話の笑い猫じみた顔で一瞥し、エルフちゃんもノートと鉛筆を手に取った。

 




あいつら今だに迷宮のズンドコを彷徨ってんのだろうか
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