長い長い休みが明けて新学期となり、各々の学徒達が新たなスタートを切る中、オーリ達のパーティも装いを新たにしていた。
具体的にはオーリが無事に〈
他の面子にしてもそれぞれ置かれた状況や能力に応じて三者三様の学園生活を送っている。
フェアリーくんは辻回復と鑑定で荒稼ぎ、セレスティアさんは魔法習得のために勉強中、クラッズさんは野生から戻る気配もなく、エルフちゃんは補習により現在進行系で泣きを見ている。
そして現在、オーリはバハムーンくんと一緒にカウサ地下道の探索をしていた。
6人編成でないのは他メンツが先の事情で動けないのもあったが、それ以上にレベル差を埋めるため経験値の集中を行う必要があったからである。
以前にも述べたが転科というのはその直後に上げたレベルがリセットされてしまうという致命的な問題があり、それを解決するための手っ取り早い(そして力づくの)解決策がこの少人数編成による地下道行脚というわけだ。
「───魔術 Lv4 グループ 雷電」
オーリが鋭く呪文を唱えるや地下道の闇を砕いて光の嵐が吹きすさび、〈雷〉の属性を内包する力の奔流に巻き込まれたモンスター十数匹が瞬く間に蹴散らされていく。
残ったモンスターの数と状態を素早く確認しながらオーリは握っていた杖を道具袋に仕舞い、替わりに
最前線ではバハムーンくんがモンスターの波を押し止めている。
同じ前衛職であるエルフちゃんやセレスティアさんが相手が何かする前に手数で押し潰し、機動力をもって引っ掻き回すタイプであるのとは真逆に、彼のスタイルは盾役のセオリーに則った重厚堅実なものである。
巨大な木石よろしく持ち場にどっしりと構え、盾と長剣でもって攻撃をさばき、隙を見せればカウンターを入れ、受けきれないところは鎧の構造や装甲の厚い部分を巧みに使って攻撃の力を逸らせダメージを通さない。
こう書いてしまうと簡単そうだが、その実、フルメンバー編成だとこれに加えて他の連中へのフォローやリカバリーもせにゃならんので、常時パーティの状態へ気を配る広い視野に、何事かあれば即応を可能とする判断力・実行力を求められるややこしい立ち回りでもあるのだ。
そんなバハムーンくんがいなしたオーガの群れにオーリは横合いから突入。まずは体勢を崩したやつの頭めがけて両手で握った鉄槌を思い切りよくぶん回して叩きつけた。
リセットされたとはいえ数十回ものレベルアップ経験者がぶん回す重量級鈍器の威力は伊達ではない。とっさに繰り出した守りの構えごとオーガの頭と命がこの世から場外ホームランとなった。
オーリの乱入に気を取られモンスターの群れに混乱が起こるが、その隙を見逃すほどバハムーンくんも甘くはない。
目の前のオーガの土手っ腹に長剣をぶっ刺して怯ませ、稼いだ時間で素早く
さらにバハムーンくんは装備した盾を眼前に構えて腰を落とし、それを見たオーリがバックステップで大きく距離を取る。攻撃が手薄になったことで残りのオーガ達がここぞとばかりに殴りつけてくるが、バハムーンくんは気にせずがっちりと脇を固めて腕を固定し岩盤から切り出したような両足に力を込めた。
一瞬の後、「おお」と気合を上げたバハムーンくんの体が爆ぜた。蹴った床から爆発音さえ巻き起こる突進である。
経験値とレベルアップの恩恵を受けた100kg近い筋肉の塊が、これまた100kg近い鉄の塊をまとって敢行する突撃の威力とはいかなるものか。進路上のモンスターにはオークをはじめとした結構デカいやつらもいたのだが、片っ端から血煙とひき肉に変えられていった。
お仲間のセレスティアさんが使う技術をヒントに編み出されたこの轢殺突進だが、乱戦状態が基本となる通常編成では敵も味方も関係なしの合い挽き肉にしかねないとのことで、使えるのは仲間を巻き込むおそれがないソロないし少人数編成に限られるとのことだ。
それはさておき区画の端まで到達したところで方向転換、再び突進を行い群れを半壊状態にまで追いやったバハムーンくんは、まだ息のあるやつに打撃盾で叩いてとどめを刺してまわった。ブレスでまとめて焼き払ってもよかったが、手足が吹っ飛んで動けなかったり臓物が吹っ飛んで死に寸だったりな連中に使うのも労力の無駄に思えたのだ。
そこにあらためてオーリも加わり、2人は手分けして生き残りを始末していった。
◇
「この分なら地下道を出るまでに当座の目的は果たせそうだな」
モンスターを全滅させ、ドロップアイテムを回収したオーリは転科の少し前に拾った杖で肩のあたりを叩いた。
一見すると貧相で飾りっ気のひとつもない、チャンバラごっこにしか使えなさそうな代物だが、こう見えて魔法の威力を増幅する機能をそなえた逸品であった。
魔法の威力や精度はレベルにも少なからず左右される。転科によって少なからず弱体化を余儀なくされたオーリ達が、曲がりなりにも安定した探索を行えている理由にはこれをはじめとした事前に入手できた装備品によるところも大きい。
なお今回の主な目的はレベルアップだが、そちらは両者共に最低でも13までは上げる必要があった。
というのもオーリの場合は虎の子であるLv7大加護を使うための条件が準マスタークラスであり、バハムーンくんも君主学科の目玉である〈献身〉というスキルを習得するための最低条件がそれであるためだ。
「新学期になったことだし、過半数が上級学科への転科を済ませた実績がありゃ次の地下道も解放してもらえるかな。レベルアップ済ませたら早速、申請してみようと思っとるが、どうよ?」
「いいんじゃねーか。他のメンツも反対はしないだろ。だが申請が通るとしてもどこの地下道を開けてくれるかな」
「そら普通に海沿いルートに繋がるやつじゃね」
オーリは肩をすくめた。
大陸の各地を繋ぐようにして伸びる地下道だが、その種類には中継地点とルートを基準にした3つが存在する。
ひとつはパルタクス学園を基点にしてホルデア山脈までを繋いだ先にある、大陸の中央を貫く形で伸びるルート。もうひとつはホルデア山脈から枝分かれして大陸の北側海岸線を沿うようにして各地域を繋ぐルート。そして最後に現在、オーリ達がうろついてる大陸の南側を繋ぐルートである。
中央部のルートは他2つに比べて構造も湧いて出るモンスターの厄介さも段違いなので、学徒の多くは海岸線のルートから攻略することになる。
ちなみに南北海岸線ルートの途中にはそれぞれ、〈ランツレート学院〉に〈マシュレニア学府〉という冒険者育成学校が置かれており、これらは本来の教育機関としての役割の他にも、冒険者達が束の間、羽根を伸ばす中継地点や補給拠点としても重宝されている。
オーリはふと何かに気が付いたような顔になった。
「そういや俺、マシュレニアにはまだ行ったことねーんだよな。あんたは?」
「同じく。ただ、到達したやつから聞いた話じゃ学府と言わず街全体がずいぶんと寂れた印象だったらしいが」
「ふうん、他所の学校に学徒を取られたりとかの影響があったりするんかね」
「気になるんだったらここを抜けた後にでも寄ってみるか?」
「うんにゃ。雑事に気を回してる場合じゃなし、今は目先の目的を果たすことだけ考えよう」
そうだな、とバハムーンくんは頷き、2人は次の目的のために地下道の闇を歩き出した。
◇
自動販売機と呼ばれるものがある。
一般には金銭を投入することで商品を受け取ることが出来る機械の総称であり、そこそこ程度の規模がある街であれば珍しくもない代物だ。パルタクス学園にも何機か設置されているくらいだし。
そして今現在、死と闇が充満する地下道のど真ん中に佇むオーリ達の前にそびえる物体も、そんな自動販売機のひとつであった。
「今さらではあるが、どこの誰がこんなもん設置してんだ?」
自販機に並ぶ様々なドリンクを眺めながら、バハムーンくんは岩から削り出したように頑強な首をひねった。
動力も謎なら物品のラインナップを決めたやつも補充してるやつも謎、当然のことながら設置したやつとその目的も謎というその自販機は夜の闇よりなお深く昏い地下道を静かにほのかに照らしている。
至極当然というべきその疑問に、オーリがお財布から何枚かのコインを取り出して答えた。
「前にユマ先輩から聞いたんだけど『薄ぼんやりと光って片言で喋るデカくて珍妙なモンスター』が、こいつを何も無い空間から作って設置してるのを見たことがあるってよ」
「……かつがれてねえか?」
「どーだろ。地下道なんてどこまで行こうが、与太とホラにしか思えない現実だけで出来あがったトンチキ空間。実在しようが結局はそいつも与太が生み出した一匹に過ぎんよ」
それを言っちゃおしまいよ。なにせオーリをはじめとした学徒連中も似たようなものなのだ。
バハムーンくんが肺の空気を空にするようなでかいため息を吐いた。
「与太については考えないことにするとしても、誰なんだよこんなバカみたいな依頼をしてきやがったのは」
彼が口にしたように、この自販機こそが今回、2人が経験値稼ぎのついでに受けた〈クエスト〉の目的であった。
内容は『地下道の自販機に置かれてるらしい〈飲むカレー〉とかいうアイテムを持ってきてほしい』というものである。
「あんたのクラスから数えて2つばかり隣の教室にいるハチってやつだよ」オーリはコインを投入しながら言う。
「ああ、むさくるしくて暑苦しいヒゲ面のあいつ」
「今はクラッズと勘違いされそうなくらいちっこい女の子だよ。一応はヒューマンらしいけど」
「同姓同名の別人からの依頼ってことか。でも他にハチなんてやついたかな」
「うんにゃ、同一人物。あいつ時期によって性別と見た目が替わるんだ」
こいつまたぞろ妙なことを言い出しやがったぞ。バハムーンくんがきなくさそうな視線を向けた。
「魚じゃねえんだぞ。どういうこった」
「さてな。若い娘っ子が溺れ死んだとかいう悲劇的伝説のある泉にでもドブ漬けされて、水お湯被ると性別替わるふざけた体質にでもなったんじゃねえの」
「わけわかんねぇ」
「じゃあこう言い直そうか───あいつもパルタクス学園の学徒だ」
「……俺もその一員なのを考えるとアレだが、まあ納得できちまうのが悲しいな」
なんだか一気に疲れたような気分になったバハムーンくんは自販機に並べられた物品のラインナップを左から順に眺めていった。
『~ 解除一発! バステリアス ~
フツウの状態異常にはこれ! 死んじゃってる人には効果がないので注意』
『~ 死ねない貴方に デスクラエース ~
「あっ死んだ……」 そんな時には根性一本!』
『~ 最期の砦だ ロスタミンZ ~
あきらめないで! 飲めば助かる!』
……等々、蘇生や状態異常回復の効果があるらしいドリンクや、一飲みすれば燃え尽き状態も吹っ飛ぶバカンス気分が謳い文句の謎ドリンクはともかく、素人目にもわかる強烈な破邪顕正の気配を撒き散らすどこかのオッサンのお尻といったトンチキ極まる物品までが置かれているのはどういうことだ。ちなみにオッサンの尻は100ゴールド、菓子パンよりも安い。
「誰のケツだよ! ていうかこんなもん飲食物の自販機に置くんじゃねえよ!?」
「おっアタリだ。ラッキー」
急性の頭痛にでも襲われたような面持ちのバハムーンくんを尻目に、思わぬ幸運に恵まれたオーリが口笛を吹く。つくづく、こいつは妙なところで運を拾う。
「せっかくだから俺もこの飲むカレーとやらを買ってみるかな」
上機嫌でボタンを押すオーリとは対象的に、バハムーンくんは肩こりでもこじらせたような顔である。何か言いたそうにしているが、黙っているあたりいい加減につっこみ疲れてきたようだ。無尽蔵の体力を誇るバハムーンとはいえ、精神力はまた別腹ってわけだ。
オーリは取り出し口から出てきた〈飲むカレー〉をバハムーンくんへと向けた。
「あんたも飲むかい」
「いいや、俺は遠慮しておきます。それでなくとも見知らぬオッサンのケツと一緒に並べられた飲み物を口にするのはちょっと……」
「繊細だね。こんなの気にするほどのもんでもなかろ」
「言っちゃなんだけど神経が一本饂飩より太っとい奴でも遠慮したいと思うぞぉー」
そんなもんかね。プルタブを捻ったオーリは、“ぷしゅっ”という音を立てて開いた缶の口に鼻を寄せた。
「匂いは中々いいけど、肝心のお味はどんなもんか」
「大方、カレースープみたいな味じゃねーの」
「まあ妥当だな。どれ……」
口をつけ、缶を傾け───オーリは微妙な形に眉を寄せた。
「……カレーだ、普通に」
というよりカレールウそのまんまである。おいしいのは間違いないけど、飯も無しではかなりツラい。
話を聞いたバハムーンくんが道具袋を“ぽん”と叩いた。
「パンか水と一緒に流し込むか?」
「あるのは菓子パンくらいだからなあ。これとじゃ食い合わせが悪かろう」
それでなくとも探索はまだ続いている。下手に詰め込んで腹が重くなるのは望むところではない。
幸いというか味はちゃんと良いので、飲みにくささえ我慢すりゃなんとかイケそうだ。
オーリは腹をくくって缶の残りを一気に呷った。
古くはそれこそXTH2の頃からおなじみだったヒゲが美幼女に生まれ変わっちまってキャラデザの正気を疑ったね でもチームラだしこうもなろうと納得はしたね
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