男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第54層 ふざけた品ほど無駄に高修正付くのはなぜなんだ

 

 地下道でアイテム漁りをしていると、ごくときたま〈ユニーク品〉と呼ばれる物品を拾うことがある。

 

 これは古代の逸失技術によって作られていたり製造法の失伝によって現代では入手困難であったりする品を指し、大抵の場合において巷に流通している品にはない強力な効果を特徴とする。例えば少し前にオーリが使った〈魔法の威力を上げる杖〉がそれだ。あれもランクぼちぼち程度のユニーク品である。

 

 当然のことながら由来が由来だけにその価値は高く、物によっては一等地に家どころか墓まで建つほどの高値で取引されるやつもある。ちなみに呪い等の強烈なデメリットが付与されているケースも珍しくないので、建てた墓へ速攻入る羽目になるやつもこれまた珍しくないのだとか。

 

 今まで何度も述べた通り現代の冒険者とは地下道はじめとした迷宮の探索要員である。

 したがってそれを目に見える成果として示す、これらユニーク品の収集とは彼らの重要なステータスのひとつとして挙げられてもいる。

 

 

 

 

 ただ、中にはそのユニークがあらぬ方へ脱線して大惨事になった事例もままあるのが困ったもんだが。

 

   ◇

 

 転科や補習、魔法習得にレベリング等々……様々な面倒事をどうにか乗り切ったオーリ達のパーティは、フルメンバーによる夏休み明け最初の探索を行っていた。

 

 今回、彼らが探索しているのは〈パトル地下道〉。

 ここはホルデア山脈を越えた先にあるハウラー湖までを繋ぐ地下道で、申請が通ったことにより新たに行けるようになった地下道の一つである

 

 スレッドの構造や内部をうろつくモンスターの厄介さはカウサ地下道よりやや下くらい。先のジェデロ地下道に湧いて出た例のアレみたいな厄介エネミーがいるでもなく悪質なトラップがあるでもない、現在のオーリ達にとっては未踏破マップを埋めたら即用済みな通過地点くらいの場所だ。

 とはいえここに来るまで色々とアホなイベントやらゴタゴタ騒ぎがあったせいで、皆が雁首揃えるのは久しぶりな気分だった。

 

 オーリは少なからずの苦々しさを含んだ声を、少し先を歩くエルフちゃんに投げかけた。

 

「きみがちゃんと真面目に補習を受けてさえいりゃ、もうちょい早めに探索にいけてたんだぜ。きちんと反省してくれよな」

「なんだよぉ、まるでわたしが悪いみたく言うじゃん」

「みたい、じゃねえそう言うとんのじゃ。一から十までおのれが宿題すっぽかしたのが原因じゃい。───しかも補習からもトンズラこきよってからに」

 

 そのせいで補習を担当した先生からこのアホ娘をとっ捕まえてこいというクエスト、というか連帯責任的依頼を受ける羽目にもなったのだ。もちろん懲罰の意味合いなので報酬は出ない。

 2人の会話に聞き耳を立てていたセレスティアさんが“くすくす”と笑った。

 

「でも私としては怪我の功名だったかな。お陰で憶えたばかりの魔法を試せたし」

 

 補習から逃げたアホ娘を捕獲した決まり手は彼女による眠りの魔法である。学食大路へと潜り込むため校門を飛び出したところで、大抵の動物にとっての死角である上空から魔法の直撃をくらいお縄となった。

 

 そのときの醜態を思い出したのか、エルフちゃんの薄くリップを引いた唇が不満の形に尖る。

 

「友達甲斐がないなあ。少しは味方しようとは思わないのかよぉ」

「友達かはともかく、仲間だからこそちゃんと手加減もしてあげた。本来なら攻撃魔法よ。なにより私はいつだって、面白そうな側の味方」

「ろくなもんじゃない」

 

 エルフちゃんが諦観にも似た表情で肩を落とすのと、最前列で斥候をしていたクラッズさんが後ろに下がるのはほぼ同時だった。

 

 接敵だ。

 後退と一緒に提示されたハンドサインから敵の情報を読み取った面々は一瞬で気分を切り替えて得物を構え、それぞれの役割(ロールプレイ)に応じて動き出す。

 

   ◇

 

 オーリ達がパトル地下道に侵入してから2時間ほどが経過した。

 

 行けるマップは全て埋め尽くし、出くわすモンスターも接敵したそばから始末し、危なげなくスレッドを周りC層の水場がある地点に到着した一行は、休憩も兼ねて入手したアイテムの整理を行うことにした。

 

 共有の道具袋から取り出した未鑑定の物品をフェアリーくんに預けることしばし。

 いつものように水場から汲んだ水と余った魔法を使って人数分のお茶を淹れ終えたところで、フェアリーくんが「鑑定おわったぜ」と告げた。

 パーティの面々が輪になって座る中心に鑑定の済んだ品々を置いていくフェアリーくんの美貌は、なんだか焼き加減を間違えた料理でも口にしたような表情をしていた。何か妙なアイテムでも混じっていたのだろうか。

 

 訝しく思いながらも少年少女が品物を覗き込むと、

 

「なんじゃ、こりゃあ」

 

 死と闇に満ちた地下道の真っ只中で誰かが困惑の声を上げた。

 

 彼らの視線の先に鎮座ましますのは上下一組の下着だった。しかもやたらド派手であんまし青少年には見せたくないデザインの。ぶっちゃけエロい。

 無論、世間一般の常識とは隔絶した地下道で拾えるアイテムだけにこれとてただの下着ではないのだろうが、それでもあんまりにも程がある代物ではあった。

 

 エルフちゃんが摘んだショーツをオーリに向けた。

 

「どーしよっか、これ」

「どーもこーもなぁ……俺の方が聞きてえよ」

 

 なにせ下着、しかも前述した通りこの年頃の少年少女お断りなタイプである。

 オーリの隣に座りお茶の入ったカップを手にしたフェアリーくんがダメ押しとばかりの説明を加えた。

 

「見た目こそバカだけどユニーク品、アイテムレベルも修正値も中々だ。装備したやつの精神衛生さえ無視できりゃ損はないはずだぜ」

「クソァ! ユニークがオーバーフローして目も当てらんねえ」

 

 半分こしたお茶請けのあんバタをフェアリーくんに渡してオーリは天を仰いだ。地下道では天井しか見えないが。

 

 フェアリーくんが口にした〈修正値〉とはアイテムごとの質の良し悪しを数値的に表したものだ。限界はプラマイでそれぞれ9まで。件のアイテムはブラが+7でショーツが+8とほぼ限界値、アイテムレベルが20近くあるのも加味すればそんじょそこらの鎧より強力なことを示す数値である。

 

 難儀なことに現代の技術で構造を解析できないユニーク品は錬金術による強化措置を受け付けてくれないので、このような高い修正値が付いた品はそれだけで価値がハネ上がる。

 装備するのはイヤだけど、かといって捨てちまうのはもったいない。オーリの嘆きはそこらの悩ましい事情に起因するものだった。

 

 こころなしか苦みと渋みを増したお茶をすするオーリをよそに、女の子達は盛り上がっていた。

 ブラのカップ部分を彩るレースに指を添わせながらセレスティアさんがつぶやいた。

 

「真ん中がぱっかり開いてるけど、これ着ける意味あるの?」

「うわ、すげぇ。クロッチなんて透っけ透け、手のしわまで見えちゃうじゃん」

「でもここの刺繍にレースなんてため息が出るほどの作りだわ。個々の部分はイカれてるくせに全体で見ると上品にまとまるだなんて、デザインの無駄遣いもいいとこね」

「サイドのリボンも超きれーだし、どの部分もやたら手触りいい───なにより頑丈。見なよ、おもくそ引っ張ろうがダガーで突こうがほつれもしない。高修正ユニーク品ってこういうことか」

 

 2人が品物をためすすがめつしながら評していると、横から鼻息を荒くしたクラッズさんが手を伸ばしてきた。

 

 セレスティアさんが不思議そうな顔をした。

 

「うん? もしかしてこれ欲しいの?」

 

 興奮と羞恥の色に染まった顔が上下に“こくこく”と動く。

 セレスティアさんは少しだけ考えたような素振りを見せてから「じゃ、あげる」と下着セットを渡そうとした。が、

 

「こら、やめろばか」

 

 今まで真っ赤に染まった顔を背けて会話を聞かないようにしていたバハムーンくんが慌てて止めに入った。

 卑猥(ひわい)な物品を載せた手をはたき(あっさりとかわされたが)、クラッズさんを大事そうに抱えて距離を取る。

 

「過保護だこと。彼女がせっかく勇気出してるんだし暖かく見守ってあげたら? 甘くするだけが愛じゃないよ」

「やかましい。俺の目が黒いうちはいかがわしいもんをこの子に触れさせねーからな」

「はいはい」

 

 セレスティアさんは肩をすくめた。

 言葉と口調こそからかいの色が強めだが、表情は微笑ましいものを目の当たりにしたそれであったという。

 

「じゃあいっそのことオーリくんが着けるのはどーね?」

 

 エルフちゃんにより投げつけられたうるわしい提案を少年は一蹴した。

 

「俺がこんなもん着けてどないせえっちゅーんじゃ。似合わねえのも分った上で言ってんだろ」

「オーリくんはこういうとこで冒険心が足りないなあ。じゃあ、きみの相方───」

「そっから先をぬかしてみろ、上級職の魔法がどんなもんか思い知らせてやるよ」

「わぁ、こわいこわい」

 

 時ならぬ吹雪のごとく、斬りつけるような冷たさを伴う美声の直撃を受けたエルフちゃんは肩を抱いて大仰に震えてみせた。

 ……なお冗談めかしてこそいるが、お互いを繋ぐ殺意はガチである。仮にどちらかが引き金を引いたらもう片方も喜んで殺りにいくことだろう。

 

 隙あらば絡みつく両者の殺気の糸を解きほぐすべくオーリが割って入った。

 

「もの自体は良いんだろ、ならきみらのどちらかが着ればいいじゃない。前衛の装備としても悪くはなかろ」

 

 オーリとしては特に含むところもなかったが、エルフちゃんはショーツのリボンに指を引っかけチャクラムよろしく“くるくる”と回しながら厭味をたんまりまぶしたツラをした。

 

「つまりオーリくんはわたし達にこーんなやらしぃ下着をつけてほしいんだあ」

「別にそういうわけでは」

「そっかそっかー、きみはそういうやつなんだぁー」

「おい人の話を聞けよ」

「そーなんだー、ふぅーん」

「……俺が悪かったよ、デリカシーが足らんかった。もう言わねーよ」

「へぇー」

「…………」

 

 助けを求めるように他のメンツを振り返るも、フェアリーくんは関わりたくねえとばかりにそっぽを向き、バハムーンくんは手足をバタつかせて暴れる彼女さんを抑えるのに手一杯、セレスティアさんはニヤニヤと笑うばかり。

 

 薄情モンどもが。口いっぱいに渋柿を詰め込まれたようなツラするオーリへとエルフちゃんが追い打ちをかけた。

 

「いいよー、装備してあげる。万一、こんなもんはいてるなんてバレたらオーリくんに着せられたって言いふらしてやるから」

「どんな脅迫だよ」

 

 もしかして夏休み終わるちょい前からこっちの仕返しなのだろうか。

 渋面がレモンと梅干しをまとめて口に入れたようなものに変わり、それを見たセレスティアさんがお腹を抱えて笑った。

 

 ひとしきり笑い転げたところでセレスティアさんは居住まいを正した。目尻の涙を拭い、

 

「でも私からも一応の忠告はしておくけど、装備しないのがいいと思うよ」

「なんだよ、オーリくんの味方すんのかよお」

「私はいつだって面白そうな側の味方」

「ろくなもんじゃない」

 

 イヤな顔をするエルフちゃんを意地悪そうに見やったセレスティアさんは白くほっそりした人差し指を立てた。

 

「だってこの場合だとあなたが、彼に───」

 

 セレスティアさんはエルフちゃん、オーリ、そして最後にエルフちゃんが手にする下着セットの順に指差す。

 

「その変態下着を着けろと言われたら拒まない関係ってことになっちゃうんだよ。いいの、それで?」

 

 エルフちゃんはしばしの間、考えるような素振りを見せていたが、理解が及んだところでピラニアが大量に詰まった水槽に放り込まれたドジョウばりに“ぐるぐる”と目を泳がせた。どうやらそこまで考えてはいなかったらしい。

 

「ほんにきみはアホやんなあ」

 

 見ていて気の毒なくらいの狼狽ぶりに、オーリがむしろ慰めるような口調で言った。

 

「ねえ、もうわかったからそれをよこしなさいよ、俺が処分するから。それでこの話は終いってことにしよう、ね」

 

 しかしエルフちゃんは耳まで真っ赤に染まった顔を“ぷるぷる”と振るばかり。

 

「いいもん、こうなったら自爆覚悟で道連れにするもん。……オーリくん、死ぬときは一緒だよ」

「昭和のトンチキメロドラマに生えてるよろめきヒロインみたいなこと言ってら。早よ正気に戻らんかい」

「なんならこの場で着けてやるもん。これも全部オーリくんが悪いんだあ」

「えーい、やめんかバカタレ。おい、お前らもこいつ止めるの手伝え」

 

 錯乱のあまり泣きべそさえかきながらパンツを下ろそうとするアホ娘をパーティのメンツ総出で止めにかかる。こう見えて上級前衛職、アホな所業を止めるのも一苦労なのだ。

 世の中、目的のために手段を選ばないやつはいくらもいてるが、損切りができず目的達成のみに固執した輩というのもまた困ったもんだというのを、オーリは嫌気が差すほど思い知った。

 

   ◇

 

 すったもんだあったものの取り押さえられ、なだめたりすかしたり、おだてたり誤魔化したり煙に巻いたりおやつで釣ったりの末、どうにか落ち着きを取り戻したエルフちゃんを横目に、セレスティアさんが提案してきた。

 

「しかたないなあ。捨てちゃうのも勿体ないしショーツだけ私が装備するよ。───さすがに上の方は無理だけど」

「……いいの? さっき提案した舌の根も乾かん内に言うのもなんだけどこっちだって大概だぜ」

 

 こんなもん着けてるのが知られたら一発でお嫁に行けんくなりそうなブツである。

 

「そん時は責任取ってあなたがもらって。アンスコ(見せパン)あるからそれも一緒に履く」

「用意のいいことで。テニスかチアリーディング部にでも入ってるのかい」

「当たり、チア部ね。言ってなかったっけ」

 

 ちなみに他の連中もエルフちゃんがバスケ部、バハムーンくんは文芸部と彼女さんの付き添いによる料理研究会のかけもち、フェアリーくんは吹奏楽部とクロスワードパズル同好会の幽霊部員をやってるのだとさ。

 

「あなたは部活どこ。やっぱ体育会系?」

「俺は無所属だよ。学園に来てからこっち、部活に汗するどころじゃなかった」

「もったいない。今なら余裕もあるんだし、なにかやってみればいんじゃない。なんならウチ来る? 顧問が男子チア設立したいとか言ってたし」

「考えとくよ。女の子でいっぱいな部活は魅力的だものな」

「ヒヒジジイみたいなこと言ってるよ。ひとまずテント張るけど、着替え中は少し離れててね」

「あいよ」

 

 立てたポールにシートを引っ掛けただけの簡易テントでセレスティアさんは他の女子2人も付き添っての装備更新───というか着替え───を行った。

 言われた通り男子連中は区画から出ないギリギリのところまで離れたのだが、それでも会話は聞こえてきてしまう。

 

 

「うわっ、わぁ……なんかすっごいすかすかしてる。着心地が良すぎて装着感がまったく無いってやばいねこれ。……それにはいてから言うのもバカだけどノーパンより恥ずいかも」

「ブラ着けないで正解だったね。セットならもう言い訳不可能な痴女じゃん」

「子孫が地下道のド真ん中でこんなもんはくなんて、イカロ戦役時代のご先祖様が草葉の陰で泣いちゃう」

「わたしなら嘆きのあまり墓の下でコープスマシンになっちゃうかもな」

「───あ、こら。そっちを持っていこうとしない。あなたの彼氏くんに怒られちゃうんだから」

 

 

 他の男子と並んでテントから距離を置き背を向けたオーリは傍らの、自分より高さも厚みも一回り大きな偉丈夫へと声をかけた。

 

「顔、真っ赤になってんね」

「うっせ。これが普通なんだよ」

「あんたのそういうとこキライじゃないよ。それはさておき次またああいうのを拾ったら取り扱いには気をつけんとなあ」

「できればもう二度と拝みたくねえけどな」

「…………」

「なんか言えよ」

 

 可愛い女の子が好きでえっちなことにも興味あるクソガキとして否定はしにくかった。

 

   ◇

 

 なお後日───

 

 

「あれ、普通だ。こないだのやつどうしたの?」

「装備してない、洗濯物に出してるから」

「んー?」

「だって下着だよ。あれだけずっと着っぱなすわけにはいかないでしょ」

 

 

 などという会話が更衣室で交わされたのだそうな。

 




3もリマスター出たんだしさぁ、二次やる人増えてくれないかね
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