男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第55層 Like a Rolling Fool

 

 誰が言ったか───『迷宮には魔力がある』。

 

 ここで言うところの魔力とはマジカル魔法的チカラのパワーがどうとかのことではなく、うかつに近寄ったものを魅入り惑わし、ときにはその気がない者にさえ手を伸ばして絡め取り引きずり込む抗いがたき〈力〉のことである。

 

 あるいは魅力と言い換えてもよいのかもしれないが、しかし深く関わりすぎたバカタレどもの末路を考えればそのように語れるものかはちと怪しい。

 

 冒険者達が迷宮に向かう動機は様々だ。あるものは未知への探究、あるものは立身出世や一攫千金お金風呂。

 多くはオーリはじめとした実利を求める輩が大部分なわけであるが(割に合うのかはこの際、置いておくがよろしい)、それとはまた別に欲得を離れた求道の徒もまた少なからず存在している。

 

 前にも何度か述べたように地下道内の活動でのみ得られる〈経験値〉という特殊な資源、並びにレベルアップという現象がもたらす成長曲線は外界のそれと一線を画す。

 例えば、普通なら優秀な人材でも習得に1~2年はかかるような魔法や技術をわずか数回のレベルアップを経ただけの読み書きすら怪しいクソガキが修めるとか、フェアリーやクラッズといった体力に恵まれない種族が馬に蹴っ飛ばされようが牛に踏んづけられようがとりあえず死にゃしねえ程度の頑健さ(死ぬほど痛いだろうけど)を得たりとかがそれだ。

 

 外ではどれほどの鍛錬を積み重ねようが決して得られぬ力。これがときに冒険者、ならびに冒険者志望のガキどもを惑わす。

 

 〈迷宮〉の恩恵に頭まで浸かりきった結果として当初の銭金(ゼニカネ)といった目的や世俗の欲も打ち捨てた挙げ句、シャバに戻る気さえ喪って地下道の深くをうろつきレベル上げとアイテム漁りにのみ勤しむだけの存在に成り果てる。そんな輩が毎年、何人か出てしまうのだ。つまり夏休み終わる前の勉強会で学んだ〈狂王の試練場〉の顛末に語られた冒険者達の焼き直しでもある。

 

 なんだってそんな有り様になっちまうのか。これは迷宮とは縁のない人間、あるいは冒険者稼業を飯の種や将来のキャリアの一環として割り切っている者には理解できないことだろう。

 

 大小の差はあれ冒険者に共通する心理として超人願望があるのは言うまでもないが、とりわけ育成学校の門を叩くガキどもにはその傾向が強い。

 

 これは“そういう年頃だから”という単純な話だけでなく、学徒の結構な数に手の施しようがないボンクラが含まれていることにも起因する。

 できない連中、ダメな連中ほどコツコツ積み上げるという人生から逃げ、反動として現実からかけ離れた成果を求めがちになっちまう。そのくせ自発的になにをするでもなくひたすらダラダラと流れ流される。───そうやって流れ着いた先にアホとバカタレの投込み寺こと冒険者育成学校があったわけだ。

 

 マズい環境に置かれた人間が居場所を変えることで人生やり直すというのは確かに常套手段ではあるが、それにしたところで立て直しに必要な積み重ねの無い者にとっては論外だ。やるべきことをやれずに自らマズい方向へと転がり込んだアホに関しては環境どうとかいう以前の、まず人生の土俵に立つ立たないの問題なのだから。

 

 かくのごときなにもかもが無い無い尽くし。取り柄もないやれることもない我慢できない根気もない、ついでとばかりにお先もない。そんなどうしようもない輩の前に自分を変えるチャンス、それも普通ではありえないとびきりのやつが転がっていたとしたら、それは喪黒福造のセールストークより悪質な誘惑となってクソガキどもの心を捉えることだろう。なにせどいつもこいつも腹の底では自分のダメさ加減を自覚してるし、それに鬱屈したものを抱えていながらどうすることもできない自分へと更に腹を立てている。

 

 だがいくらなんでも身の危険と引き換えにするほどじゃなかろう……。そのように考えるのは冒険者なんぞというヤクザな商売とは無縁の、つまりは出来ることなり未来なり『もっている』者の特権といえる。

 ボンクラというやつは我が身一つ以外はなにもない、本当に“何も無い”からボンクラなのだ。そんなだから人生かかった場面でさえ自制も効かないし、よく考えもせずしょうもないキッカケで妙なものにどハマりしちまう。

 

 ゆえに目に見える成果を出せかつ今までの自分と袂を分かてる場所に目が眩む。東尋坊よろしく人生ごと飛び込む。迷宮の深みにまんまとハマる。

 

 彼らにとって成果───大げさに表現するなら存在意義───を出せる場所だけが全てであるがゆえに、狭い迷宮の外に拡がるものは彼らの世界のすべてである迷宮を形作るための一部としてすり替わり、いつしか外界ないし社会への帰属意識どころか『戻る』という選択肢さえ消えてしまうのだ。なにせ彼らの『戻る』べきは迷宮なのだから。

 

 それをダメなクソガキによる逃避と捉えるか、不遇をかこつ者が己の才覚を発揮しうる場所を発見したと考えるかは好きにすればいい。

 ただ個々人の世界や現実をどこまで拡げたところで、それはあくまでも自身の意識する領域の範囲にしか存在し得ぬ以上、又聞きしただけの社会的通念を唯一の根拠として語られる世界だの現実だのもまたそれを語る当人にのみ限定される───悪い言い方をするなら他者にとってはなんら実態を伴わぬ虚構の同類に他ならない。

 

 狭い世界での達成や自己実現が虚しいというのなら“広い世界”のそれとて同様だ。世界は広狭を問わず己が認知の届く範囲の事象であるゆえに、狭い迷宮であろうが広い社会や世界であろうが、最終的には個人の生に限定されたもので完結するのみである。

 

 そして人間が努力や情熱を傾ける場所と価値は虚実を問わず、それらを傾けた結果が正当に評価される場所があるなら人が自分のみを基点とする『現実』を見失うこともまたない。

 社会や世界が自身への評価を欠くというのなら、人は自分だけの『現実』を見出すために情熱を傾ける先を求めるものだし、同時に世界(他者の有する『現実』でもよいが)との接点を希求する人間的欲求を充足させる先が危険極まりない〈迷宮〉への片道切符であったとしても、それを選ぶのは当然の成り行きであった。

 

 

 今日もまた、約束の地を夢見て荒野をさまよう放浪の旅人がごとく、あるいは誘蛾灯に焦がれ灼かれる虫のごとく少年少女は迷宮に向かう。

 たとえその先にあるのが死と、命も魂も何もかもを喪う破滅しかありえないとしても彼らの足を止める理由たりえぬだろう。

 

 

 

 

 

 なにせ死ねば治る普通の馬鹿と違い、あいつら死んでも蘇生不可になるまで黄泉返っては懲りることなく迷宮に向かいたがるバカタレなもんで。

 

   ◇

 

 数回ほどの休憩を挟みつつ、パトル地下道のスレッドの隅々を探索してマップを埋め終えたオーリ達は学園に戻ることにした。

 

 僧侶に転科したオーリが新たに修めた〈魔力回復(マナリアライズ)〉のスキルと大加護の合せ技(大加護によって魔力を強制補充。代償となるLv7魔力のガス欠はスキルで回復して踏み倒す)のお陰でパーティにはこれまでにないほど余裕はあったが、山と積まれたアイテムにより道具袋どころか倉庫がそろそろ限界に近かったのだ。これまでの順調すぎる探索の弊害といえる。

 

 帰還後、鑑定の終わったアイテムをパーティに割り当てられた共用の倉庫(サーバー)へ転送したオーリ達は、相談を交えながら探索で得たアイテムの中から不要なものを取り出し購買部で処分した。

 

「要らんものを始末したお陰で倉庫も大分、スッキリしたな。ミニマリズム万歳」

「クソの役にも立たねえ糸くずだの鉄くずだのを溜め込んでた分際でなに言ってやがる。お掃除はこまめにしろって親御さんに言われなかったか」

「面目ない。昔から口酸っぱく注意されてたがここ最近は何かと忙しくて、な」

 

 フェアリーくんに呆れた面持ちをされたオーリは居心地の悪そうなツラで言い訳をした。

 

「ともかく明日は探索の前に合成屋に寄り道して、新しい防具と一緒に余ってる素材もまとめて上位のものに精製してもらおう」

 

 錬金術の中にはゴミにも等しい材料を元に有用な物質を生み出すという便利なものがあるので、それも活用して一括保管(スタック)されてる素材の整理もしちまおうというわけだ。

 ただし交換比率は1ランク上の素材をひとつ作るために下位素材を10くらい必要とするので、今回のオーリのように倉庫を圧迫するくらい大量のゴミ素材を溜め込んじまってるやつでもないかぎりはまず用はない話であるが。

 

 ひとまず明日の予定も決まり、各自の取り分の分配を終えた一行は装備品の着替えを済ませた後に学食大路に向かい、ミーティングついでの夕飯をとってから三々五々、解散した。

 

   ◇

 

 翌日の放課後、彼らは合成屋の先輩のところに赴いた。

 先にもオーリが言った通り探索ですぐに使えそうなアイテムがいくらか手に入ったので合成等をしてもらうためだ。

 

 時刻はお昼と夕食のちょうど中頃。まだ食事時でないこともあり人気も少ない食堂の片隅で、先輩はいつものように頬杖をついていた。慌ただしかった就活期間を終えたせいか、その表情にはどことなく倦怠のようなものが見えた。

 

 先輩に声をかけたオーリ達は購買部で購入した差し入れと一緒に用件を切り出し、防具の廃品をもとに鱗状帷子(スケイルアーマー)と手甲を合成してもらった。

 溜め込んだ素材を元にした強化素材にも余裕があったので強化措置もしてから、それらは装備更新が遅れていたセレスティアさんに渡された。

 

 セレスティアさんはおろしたての手甲の感触を噛みしめながら愛おしそうに撫でさすった。

 

「やー、これでちょっとは〈侍〉っぽくなれるよ。後はいい刀でも手に入りゃ言う事なしなんだけど」

「今までは普通の戦士職とあんま変わらん装備だったもんな」

 

 彼女の使っていた革の小手を譲り受けたオーリがベルトや留め金の調整をしながらしみじみと言う。

 オーリの使っていたグローブは他のメンツの装備品と比べても型落ちなので晴れてお役御免となった。他のクラスメイトにでも売っ払って合成費用の足しにでもしちまおう。

 

「刀ってやつに関しちゃもうちょい待ってくれ。クラスの連中にも声かけたりしてんだが、どうにも引っかからんでな」

「元々、流通から希少な武器だしそこはしょうがないね。次の中継地点に到達したら交易商ンとこを覗いてみよう」

 

 なんやかやと意見を交換しながら新しい装備の着心地を試す少年少女の様子を、先輩はいつになくぼんやりとした風に見つめていたが、やがて意を決したように切り出してきた。

 

「ところでオーリ、お駄賃はずんだげるからちょっくらおねーさんの依頼を受けてほしいのね」

「あいあい、喜んで。でもクエストなら図書室に依頼として提出すりゃいいのでは」

「これはごく私的、というか身内が絡む話なのね。だから余計なことを詮索せず、なおかつある程度は信頼できる人じゃないと任せられないのね」

「見込まれたもんですね。そうまで言われちゃ無碍(むげ)にも出来ない。どのような内容ですのん?」

 

 何の気なしの確認でしかなかったのだが、なぜだか先輩はわずかに逡巡を見せた。

 

「……なーに、大したことじゃないのね。以前、私が所属していたパーティの荷物を取りに行ってほしいのね」

 

   ◇

 

 所変わってポータル広場前。

 先輩からのクエストを受けたオーリ達は一旦、解散した後に更衣室で装備を身につけてから広場に集合した。

 

 今日も今日とて広場はあちこちにぶっ倒れてる学徒によって死屍累々の有り様である。

 

「迷惑殺人鬼が暴れまわった直後の八つ墓村みてぇだな」

 

 よくわからないことを言いながら、オーリは古の詩聖よろしく天地を(しとね)とするバカタレ連中を邪魔にならないところへ蹴り転がし、意識のあるやつにはお代と引き換えに回復魔法をかけてやった。オーリと同じく回復魔法の心得がある相方も、あちこちの半死人ども相手の回復商売に精を出す。

 ちなみに君主(ロード)に転科したバハムーンくんも回復魔法を使えるようになったのだが、人の弱みに付け込むのを屁とも思わぬ銭ゲバ2匹と違って根が真面目な彼には抵抗があるようで、今回は見送りということになった。

 

「こんくらいなら欲の皮を突っ張らせてもええと思うんだがね。あんたのそういうとこキライじゃないけど、お人好しは往々にして損な役回りになりがちだぜ」

「わかってるよ。けどお前こそ、あんま調子に乗って魔法を使いすぎないよう気をつけろよ。いざってときにガス欠は困るからな」

「ご忠告いたみいる。やりようによってはナンボでも魔力を都合できるのが僧侶学科の強みよ。───おう、そこのあんちゃん達ずいぶんと痛そうだね。今ならたったのこんくらいで痛いの痛いの飛んでけしたるで」

 

 新たにポータルから吐き出されるや地べたへ倒れ込み、苦痛に呻吟(しんぎん)する同級生達へとミナミの帝王に出てくる使い捨て悪者みたいな顔と口調で回復魔法のセールスをするオーリに、感心してるんだか呆れてんだかよくわからない表情をエルフちゃんが向けた。

 

「アコギだのう」

「うっせ。ロハで行う親切ってのは趣味としてのみやるもんだぞ。これはあくまでも仕事なのだ」

「まあ、そこは否定しないけど」

「そんなことより、きみもそろそろ真面目に聖術を学ぶとかしたらどーね。稼ぎの幅も拡がるし、仮にもエルフなんだから魔力に関しちゃ俺より上だろ」

「前にも言ったろ、潜在的な魔力はともかく魔法への適性がねーんだって」

「せっかくの素養も持ち腐れか、惜しいもんだ」

 

 何組目かのパーティを回復したところで魔力も尽きたので、オーリ達は残りの邪魔な連中(失神中)を広場の脇へと蹴り転がした。

 

 そうして最後の一人、どこか憶えのあるフェルパーの女の子を転がそうとしたところでオーリは捨て置けぬものを見た。

 

「あー? 誰かと思えばあんたか」

 

 彼が今まさに蹴り転がそうとしてたのは誰あろう、前学期の期末試験のチョイ前にオーリと相方くんに寄生しようとして、ものの見事に皮算用のツケを払わされる羽目になったアホ達の一匹。やたらと可愛い見た目しか取り柄がないフェルパーの少女だった。気絶しているのかオーリの声にも“ぴくり”とも反応しない。

 

 ───こいつがここにいるってことは、もしかしたら仲間のバカタレ共も近くにいるんじゃなかろうな

 

 イヤな記憶が掘り起こされたオーリは顔をしかめながら周りを見渡したが、かつてのお仲間(大嘘)の姿は見当たらなかった。もっとも積極的に憶えていたくないような奴らだったから見逃してるのかもだが。

 

「一人なのか。ソロ探するような根性があるとも思えんし、お仲間連中に放置されちまったんか? ま、だとしても可哀想ではあるが同情はしてやれんけどな」

 

 自分でも冷え冷えと感じる声でオーリはつぶやく。危害を加えられたり等の実害を被ったとかまでいかずとも、こいつとそのお仲間には少なからず不愉快な目に遭わされたのだからそれも仕方なし。

 

 固まったままの自分を不審に思ったのか、エルフちゃんが声をかけてきた。

 

「どーかしたの?」

「───うんにゃ、別に。ちょっと余計なことを思い出しただけさ」

「んー?」

「ホントに大したことじゃないの。“これ”を片したらさっさとクエストに向かおう」

 

 言いながらオーリは今だ目を覚ます気配もない少女のお腹のところに足の爪先を潜り込ませた。

 

 仮にも相手は美少女、そして元・仲間としてのよしみもあるということで、オーリはできるだけ傷を負わせないような力加減をして少女の華奢な体を公場の隅っこに蹴り転がした。

 




冒険者がよくわからなくなってきたのでファイブリアとソード・ワールド・ノベルを読み返してたらモンカル遊んでる暇もねぇや
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