気が滅入る昔話がオマケの報酬を受け取ったオーリ達は早速、新たに手に入れた武器の試し切りをすべく地下道へと向かうことにした。
ポータル広場は相変わらずの芋洗い。怪我してぶっ倒れてたり疲労のあまり自我をなくして“ふらふら”うろついてる連中でどこもかしこも善哉ときた。
少し前に散々、広場の片隅へと蹴っ飛ばしたり転がしたり回復してやったはずなのに、バカタレ共の数が減った様子もないのはなぜだろう。
「お前らはステージ切り替えの度に復活するシンボルエンカウントか?」
首をひねりながらも地面に転がるアホどもを広場の脇っちょに蹴り転がし、疲労ゾンビになってる連中は適当な場所へ誘導して、オーリ達一行は地下道へと侵入した。
◇
「とりゃ」
セレスティアさんによる生まれたての子猫も鼻で笑いそうな気合声と、手にした〈クドウムラマサ〉による壮年期の虎さえ三舎を避けようほど凶悪な駆動音が地下道の闇に鳴り響き、相反する二重奏を伴い放たれた斬撃は情け容赦なくスマイルポット───空中浮遊するめっちゃデカい金属バケツみたいなモンスター。胴体に張り付いた、変なクスリでもキメたおっさんみてぇな笑顔がキュート───を唐竹割りにした。
一拍遅れて、両隣にいた数匹ものスマイルポットの群れも片っ端から真っ二つとなった。よく見れば傷の位置も形状も、最初に斬られたやつのそれとまったく一致しているのがわかる。
なにかの怪奇現象でも発生したような光景だがさにあらず。セレスティアさんが専攻する侍学科でのみ扱える〈斬り込み〉というスキルが成したものだ。見ての通り複数のモンスターをまとめて攻撃するという便利なもので、少し前にレベルが規定の値まで上がったのでやっとこ使えるようになった。
これは大昔の侍(現代における
原理としてはコードを応用した情報の侵食というもので、対象となった相手に攻撃することにより『斬られた』という情報を打ち込み、それを起点として同グループのモンスターに接続して先の『斬られた』という情報を伝播、隊列に属する全員に最初に打ち込まれた攻撃と同等のダメージを与えるというものだそうな。
ちなみに「話だけ聞いてると侍の技つーより、丑三つ時にやる呪い人形と五寸釘のアレだよね」とは、当のセレスティアさんによる言だ。
崩れ落ちるスマイルポット達の一匹を、鉄板と針金で強化された
全盛期橋本ばりのフライングニールキックによる、容赦なき死体蹴りはエルフちゃんの仕業である。先の長靴以外にも先輩からせしめた
構造と形状のせいでかなりの重量武器であるはずのバルキリアスだがエルフちゃんにかかっては小枝も同然らしい。縦横無尽に得物を振り回しては触れるものみな死体に変えて、地を駆けるのではなく滑るような動きでモンスターに一指触れることさえ許さない。
なお武器種としては〈槍〉となるバルキリアスだが、使用者であるエルフちゃんが語るところによれば「先輩さんは槍とか言ってたけどさあ、棍みたいなイメージで振り回すのが正解だね。ていうかそうでないと手とか身体を切っちゃうし」とのことで、なるほど彼女のスピーディかつアクロバティックな動きは戦術講習の授業で習った槍の動きとはまったく違うものばかりである。
モンスター達の注意がエルフちゃんに向かったのを見計らいセレスティアさんが前に出て再度の〈斬り込み〉。残りのグループも瞬く間に半壊状態となり、もはやろくに動くこともかなわないモンスター達を、見た目だけなら森の妖精か天の御使いかと見紛う美少女2人がトドメを刺して回る。
バルキリアスとクドウムラマサが閃く度に手足や臓物を撒き散らし、あるいは頭や首を跳ね飛ばされ絶命するモンスター達というなさけむようの光景を他人事のように眺めながらオーリはバハムーンくんに話しかけた。
「あいつら残虐行為手当で富豪にでもなるつもりなんかね? はしゃいでんなあ」
「だが気持ちはわからんでもないさ。今の時期にあんだけの武具を手に入れるなんて本来はありえないんだ」
2人が会話する間にモンスターも最後の一匹を残すのみとなった。
両足を膝のところから斬り飛ばされたあばれ鬼(オークの近縁種)の必死に這いずって逃げる背中をエルフちゃんが踏んづけ、ハロウィンの殺人鬼が振り下ろすハンマーのごとき小手の一撃が頭を叩き割って戦いは終わった。
「ふぃー、つかれたぁ」
エルフちゃん達は一仕事を終えた者が浮かべる、爽快な疲労と達成感の混じった笑顔で額をぬぐった。
先ほどまで繰り広げられたスラッシャー映画の撮影現場と勘違いされそうな戦いぶりとは正反対の、
「こいつら石器時代に生まれてりゃ勇者を名乗れてたろうにな」
「はじめ人間ギャートルズもあの絵でなきゃエグい場面多いもんな」
◇
モンスターを始末したオーリ達はドロップアイテムを回収してから、新しい装備とスキルの使い勝手およびそれらを加味した戦術の擦り合いのために休憩を摂ることにした。
最近の定位置となったオーリの右隣に腰を下ろしたエルフちゃんは、脇に置かれたバルキリアスの幅広の刀身を指で叩いた。
「これいいねー、しばらくの間はこいつ一本でやっていけそう」
「得物だけでなく防具も結構な強化が入ったもんな」
「そういやオーリくん、その鎖帷子の感想はどーよ?」
「うん? 特に問題はないよ。革鎧に比べりゃ多少は重いんだろうけど、俺もレベルは重ねてっからね」
道具袋からジュースや水の瓶を取り出して配るオーリの装備も、少し前の革鎧からエルフちゃんが使っていた
一般的に〈僧侶〉と聞くと、後ろに控えて守ってもらいながら回復に専念する貧弱な商売と思われがちだが、実際のところは装備できる武具防具の幅が広いこともあり、ヒューマン等の装備に関する制限が緩い種族の場合だと前衛を張ることさえ可能な学科でもあるのだ(だからこそユマ先輩をはじめとした〈保健委員〉のメンツは高難度の迷宮をソロ探索できる)。
エルフちゃんは人の不幸をおかずにウマい飯を食う妖怪のような笑顔で「そうじゃねーよ」と言った。
「美少女の脱ぎたて装備だぜー、男の子的に興奮しちゃったりとかしてんだろー?」
「えーい、失礼なことを言うんじゃない。古式ゆかしいブルセラオヤジじゃねえんだぞ」
こちらの胸元を肘で突いてくる少女を、オーリは半眼で睨みつける。
本来ならちょっとした仕草ひとつでさえエロガキの胸を弾ませてしかるべき美少女のはずが、こいつにイマイチそういう感情を呼び起こされないのはこういうところなんだろう。
しつこくからんでくるアホ娘のことはこの際、置いておくことにして、オーリはクドウムラマサの感想をセレスティアさんに訊いてみた。
「予想以上に強力なのは嬉しいんだけどねー、ここらのモンスター相手じゃ一撃即殺なのが困ったもんだ。そろそろ〈
首刎ね───これは迷宮に関わる者たちにとって特に恐れられ、同時に頼りにされるもののひとつだ。
その歴史は古く、さかのぼれば地下道どころか伝説に語られるリルガミンの時代にはすでに存在が確認されていたという。
現代においては地下道とそこに巣食うモンスターの存在が周知されてしばらくの頃、つまりかの〈イカロ戦役〉時代において、大した怪我を負ってるわけでもない冒険者達が突如として首でも刎ねられたかのごとくコロリとおっ死んじまうというケースが続出したことで知られるようになった。
当初はたちの悪い病気にでも罹ったか妙なものでも食ったのかと思われていたのだが、蘇生して話を聞いてみたところ最期に相手をしたモンスターに共通したものがあるとわかった。
俗に〈ボーパル種〉と呼ばれるそのモンスターは、どうやら傷の深度や部位に関わらず『接触した時点で死ぬ』という特殊な攻撃をしてくるらしく、地下道の探索が進んだ後にはボーパル種以外にも様々なモンスターがこの手の攻撃を使うことが知れた。
首刎ねのなにが厄介で恐ろしいのかといえば、彼我のレベル差がどれだけ大きなものだろうが通ってしまえば死ぬことに尽きる。
つまり運次第ではとんでもないジャイアントキリングだって出来てしまう。極端な例を持ち出せば、レベル1のへっぽこモンスターが繰り出した首刎ねがレベルカンストした熟練冒険者の首を刎ねちまう可能性だってありえてしまうってことだ。
それゆえに対抗策として様々な案が出されもしたのだがどれもこれも有効なものとはならず(シャーマン戦車並の装甲をまとおうが接触をトリガーにして死んじまう)、結局は“殺られる前に殺れ”という冒険者にとっては定番の結論に落ち着いたとかなんとか。
時は流れて
クドウムラマサに付与された首刎ねの効果がいかほどかは不明だが、斬り込みに首刎ねを乗っけることができるならこれほど心強いものはない。確率次第という泣き所があるにせよ、手数は大いに越したことはないのだし。
オーリは「ふむ」と、自分を納得させるようにつぶやいて腕を組む。
「安定した運用のためにも検証は早めにしておきたいってことか」
「そゆこと。これからどうしよっか。この地下道は切り上げて、適当な試し胴を探して次の地下道にでも行く?」
「そうしてあげたいのはやまやまなんだけどねー、今攻略してるパトル地下道の探索許可さえ出してもらったばかりだから、その先の探索はすぐには下りないと思うのよ」
しかも困ったことにパトル地下道を越えた先、〈ハウラー湖〉以北の地下道はパルタクス学園とはまた別の冒険者育成学校である、〈ランツレート学院〉が管理する場所なのだ。
彼らがまだ夏休みを終えたばかりの一年坊なこと、向こうさんとの“つなぎ”のことも考慮に入れたら早々に許可が下りるとは思えない。
少しの間、考えてからオーリは皆の顔を見渡した。
「ダメ元で申請するにしても無駄にはしたくない。そのためにも学校に納得してもらうにはまず実績だな。ひとまずパトル地下道で行けるマップを全部埋めて、その上でクエストをこなしていくってのはどーね? どのみち最近の俺ら、ちょっと駆け足が過ぎた気もするし、少し落ち着くって意味でも悪いもんじゃないと思うんだけど」
「オーリくんがそうするって決めたなら、わたしはそれでいーよ」
いつもの調子でエルフちゃんが首肯し、皆もそれに続いた。
「よっしゃ、それじゃあ決まりだ」
オーリも頷きを返して瓶の蓋を開けた。
生き急ぎは若人と冒険者のならい。しかし千里の道を踏破しようと望むなら、たまには休むなり歩くなりしてもバチは当たるまい。
それができなかったアホの末路を考えりゃなおさらだ。
ワゴンに突っ込まれてる便乗バカホラー映画のタイトルには稀に神が宿る
あと侍のブラッドコードの元になったゲノム情報はムラサマとかいうクソ古い刀に残留していた
スカルダだかバルカンだかってやつのものから採取されたんだとさ