男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第59層 青春の迷走と迷宮の迷子

 数日ほどをかけてパトル地下道の大半を探索して回ったオーリ達は職員室へと顔を出した。

 担任のユーノ先生に新しい地下道開放の申請についての口添えを頼むのと、それもダメだった場合に備えて次善の相談をするためである。

 

 パトル地下道を探索し終えた旨に探索のレポートを添えて伝えられた先生は「え、もう終わったの? 早いわねー」と感心半分、呆れ半分の様子で卓上の書類から顔を上げてメガネを外した。

 

「個人的にはよくやったとホメてあげたいけど、申請が通るかは厳しいかな」

 

 そのように前置いた先生はこめかみのあたりを揉みながら続ける。

 

「まずあんたらの平均レベルが低すぎる。転科したばかりで仕方ないとはいえ、書類や規定はそんなもん考慮しちゃくれんからね。パトル以降の地下道に行きたきゃ最低でも4~6は上げてから出直しな」

 

 前例に縛られ硬直したお役所仕事と思われそうだが、これもまた冒険者学校なんぞという青春の隣り合わせに死と灰が存在する場所ゆえである。

 

 攻略が早すぎる連中には、地下道の難易度と各々の装備も含めたレベルとの不一致によって不幸な事故に遭うことが起こりやすい。つまり先へ先へと急ぐあまりきちんとしたレベル上げも装備更新もないままとんでもない難易度の地下道にまんまと足を突っ込み、モンスターにボコられトラップを前に立ち往生。退くも進むも出来ぬまま屍を晒しちまうバカタレが多すぎるってわけだ。

 

 いくら冒険者稼業の合言葉が全盛期STGばりに“死んで覚えろ死ななきゃ安い”といえど、教師だって積極的に学徒を死なせたいわけではないのだ。

 ご飯がマズくなるし査定的にも大問題、ついでにただでさえ忙しい保健委員会からの突き上げも必至なのだから。

 

 すげなくあしらうユーノ先生にエルフちゃんが唇を尖らせた。

 

「えぇー、でもわたし達だってめちゃ頑張ってるんですよぉ。色々と稼いでアイテムレベルは30近くだし、パーティなんて過半数が上級職だし」

 

 ちょこっとくらい融通を利かせてくれてもいいじゃないですかあと、ぶーたれるエルフちゃんはじめとした不満を隠しきれてない教え子たちをユーノ先生は失笑気味に眺め回した。

 

 ───若いねぇ、多少は優秀つってもこういうところはまだまだだ

 

 もっとも冒険者学校の学徒なんざ若くて体が頑丈なら及第点。他に必要なもんがあるなら自分ら教師と現実が鍛えて肉付けしてやりゃいい。

 

「そんな顔しなさんなよ。私だってあんたらのやる気に水差したいわけじゃないし骨折りくらいはするからさ、今は焦らず経験値稼ぎなりクエストなりに励んでなさいってこと。それでなくとも最近のあんたら、ちょっと急ぎすぎてたからね。たまには回り道すんのも悪くはないでしょ」

 

 そうまで言われてはこれ以上ゴネることもできない。

 クソガキどもは空返事だけして大人しく引き下がることにした。

 

   ◇

 

 職員室を後にしての道すがら、人もまばらな廊下を歩くオーリの横っちょをやる気のなさそうな顔と飛び方で浮遊するフェアリーくんが訊ねてきた。

 

「で、これからどーするよ。大人しく地下道に行ってレベリングやんのか」

 

 オーリは少し考えた素振りを見せてから首を横に振った。

 

「それもいいけど、まずはクエストを受けておこう。最近は地下道にばっかこもりきりでそっちをおざなりにしてたからね、単位のことも考えると余裕のあるうちにこなせる課題は片付けておきたいし」

「あー、そうだな。ぼくもこないだのパイセンのやつを除いたら、夏休みのチョイ前に受けたっきりだったし悪くはねえか」

 

 引っ込むフェアリーくんと替わるようにしてエルフちゃんが混ざってくる。

 

「言われてみればわたしらパーティ組んでからこっち、みんなでクエストこなすのってあんましやってなかったね」

「組んだのが夏休み終わる少し前で、終わってからも個々でレベル上げなりスキル取得に励むばかりだったしな。こういうとこで交流なり深めるのもアリか」

「そういやオーリくん、レベル上げと一緒にクエスト受けてたよね。どんなのだった?」

「地下道で自販機見つけてカレー買ってくるとかいうパシり仕事」

「なんだそれ」

 

   ◇

 

 ところ変わってポータル広場脇に敷設された〈出張保健室〉にて、

 

「───なるほど。それで私達の出した依頼を受けてくれたってわけだ」

 

 出迎えてくれた保健委員のユマ先輩は休憩がてらに読んでいた小説を懐に仕舞った。

 

「うぃーす。保健委員の先輩方には色々とお世話になってますから、せめてもの恩返しとして、また活動の一助となれれば幸いです」

 

 しゃっちょこばるオーリへ向けられる微笑みが少しだけ深まったようだ。

 

「冗談でもそう言ってくれる人がいるのは嬉しいね」

「……別に冗談ってわけでもないです。先輩はじめとした保健委員さんは俺らにとっちゃ最後の命綱だ」

 

 これはお世辞ではなく本心からのものであり、オーリならず学徒に共通する認識でもある。

 

 なにせ他所はいざしらずパルタクス学園における保健委員といえば、怪我したり骨折ったり砕かれたり手足臓物(ぞうもつ)頭を失くしたり致命傷負ったり死んじゃったり灰になったり毒麻痺石化くらったり壁に埋まったり等々、数え切れないバカタレ共の面倒を見るのが仕事という実にありがたくも難儀な人達なのだ。

 

 ユマ先輩が言うには様々な講義や単位の免除───そんなもんやってたら仕事に間に合わない───といった優遇措置に加え、所属して1年もする頃には回復に関して同学年のトップを張れるくらいのキャリアアップができ就職にも有利なのだが、それでもあまりの激務なせいで長く続けられるやつはほぼ皆無。見返りが少なからずあろうとも、のしかかる疲労・ストレス・胃痛の三重奏を真っ当な学園生活や青春と引き換えにできるかはかなり怪しい。

 

 それらを考えれば足を向けては寝られぬ人々である。

 まったくありがてぇありがてぇ。大仰に手を合わせるオーリへ、先輩はくすぐったそうな表情を返した。

 

「ふふっ、そういうことなら素直に受け取っておくよ。ありがと」

 

 ひとしきり拝んだところで先輩はクエストについての説明をしてくれた。

 

「説明と言っても、やることは前回の依頼とあまり変わらないんだ。地下道を隅から隅まで回って困ってる子や遭難してる子、死んじゃってる子を助けてあげて」

「りょーかいです。俺らも経験値稼ぎせにゃならんので、渡りに船みたいなもんですよ」

「うん、お願いね。それと今回の依頼は〈保健委員会〉から出てるものだけど、道中の回復に関しては貴方達の判断に任せるから、必要に応じて料金取るなりは好きにしていいよ。最近、ポータル広場(ここ)をはじめとしたあちこちで結構な荒稼ぎしてるんでしょ?」

「……もしかして迷惑だったりしてます?」

「まさか、その逆。あの子達ってば安く回復してもらえるからって無茶なことばかりしては仕事を増やすんだから、多少は痛い目を見た方がいい薬になるかもね」

 

 先輩は処置なしと言わんばかりに首を振る。

 

「特に最近なんて、遅れがちなレベルアップを取り戻すためにソロや少人数編成で探索する子が増えてるから余計にね」

 

 オーリは机の角っこに爪先でもぶつけたような顔をした。

 

「無茶をする。行ける地下道が増えた時期こそ、後々まで重要になるパーティの連携を重視した堅実な探索が求められるというに」

「そうだね、私もそう思う。助けた子達から話を聞くに、なんでも今年はソロ探索を繰り返して、たったの1学期で成績ズンドコからマスターレベルにまで成り上がるなんて子がいたもんだから、みんな触発されちゃったみたい」

「……はなはだ申し訳ございません」

 

 もはや合わす顔もないとばかりに抱えた頭と肩を落とすアホへ、困ったような表情をユマ先輩は向けた。

 

「気を悪くさせたらごめんなさい。あなたには何の責任もないのは私達もわかってるよ。『あいつに出来たんだから俺でもやれる』───そんな根拠ゼロの思い込みで命を捨てちゃう子の方が悪いんだから」

「……うっす」

「だからそんな顔しないでいいよ。お金でも怪我でも、多少は痛い思いしないとわからないなら誰かがそうしなきゃってだけ。私達は仕事と立場上、そこらが、ね」

 

 そらそうだ。一応は学内における公共機関に属する保健委員のメンツが、半死人の連中を蹴飛ばしたり転がしたり金持ってないやつに「けちな アホがくとめ でていけ!」なんてやらかしたら大問題どころではない。

 

 常に絶やさぬ笑顔へ珍しく苦いものを含ませる先輩に、後輩のガキどもが同情にも似たような目を向けた。

 

「先輩も先輩で、色々と抱えてるものはおありなんですね」

「まあね。貴方達よりちょっと歳上ってだけで、私だってまだ子供なんだもの」

 

 苦笑いで語る先輩はこころなしかいつもより幼い、年相応の少女として見えた。

 

   ◇

 

 その後、先輩からいくらかの説明と一緒に渡されたクエスト用の道具を受け取ったオーリ達は出張保健室を出てポータルへと足を運んだ。

 いつものように広場に横たわる邪魔なバカタレどもを脇っちょへどかすところまではいつもと同じだが、今回は地下道で難儀するアホの救助がメインになるので魔力節約のため怪我人等も蹴り転がすに留めて回復はしない。

 

 最後の一人、ポータル前の地べたに横たわりながら『かど ると』などとわけのわからぬダイイングメッセージを書いてるバカタレを(そんなもん書く余裕あるならとっとと保健室にいけ)ちょっと強めに蹴っ飛ばしたオーリは生徒手帳のメモ欄に書いたクエストの内容を確認しながら言った。

 

「まずはホルデア地下道だね。そこのC層で何人か遭難しちまってるから、まずはそいつら助けて他のスレッドや地下道を順次、巡ってこうや」

「何『組』じゃなくて『人』ってことは、そいつらもおまえを真似てソロで無茶やらかしたアホってわけか」

 

 死ぬまでか死ぬ寸前まで放っときゃいいんじゃねーの。横からメモを覗き込むフェアリーくんが麗貌を歪め、ここにいないアホどもへ悪罵のトゲを叩きつけるのをオーリがたしなめる。

 

「気持ちはわからんでもないけど、今回はクエスト出した保健委員会の手前、そこそこ急いで助けてやらにゃな。……ま、目に余るようなアホタレだったら多少はふっかけてやるつもりだけど」

「そーかい、ならアホなのを祈るとすっか。そうすりゃ稼ぎが増える」

「俺が言えた義理でもないが、お手柔らかに頼むよ」

 

 どこまでも手厳しい相方に肩をすくめ、オーリはポータルを起動させた。

 

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