男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第6層 告白よ。少年に届いているか

 

 先輩が提示してくれた引き取りの額はオーリの予想を上回るものだった。

 もっともおそらくは購買部に売るよりマシ程度、ちゃんと自前で販売ルートのある者ならさらに良い条件で売れたことだろうが。

 

 ───でも今の俺じゃあ文句も言えないし、教訓と自戒のセットで納得しておくべきなんだろうな

 

 先輩はついでに鑑定の料金もサービスしてくれると言ってくれた。下手にレベルの高いアイテムは鑑定料もそれなりになるので、これに関しては素直にありがたいかぎり。まったく懐具合の厳しい身として、持つべきものは融通の利く先輩である。

 

 受け取ったお金を懐に収め、さてこの後はどうしようか考えていると、横合いから声がかけられた。

 

「オーリ、ここにいたのかよ。探したぜ」

 

 そちらに首を巡らすと見知った顔がいた。

 男臭さから半歩ほど手前で留まる精悍な面構え、他の同級生とは一線を画す大きさと厚みを兼ね備えた頑丈そうな体躯。

 背中には竜属の翼が、腰のあたりからは鋭利な鱗に覆われた尻尾が伸びている───バハムーンという種族の少年だ。

 

 オーリは“ひょい”と片手を上げ、

 

「うーす、なんだい。一緒にご飯でもしにきたんか」

「ンなわけあるかい、なあにが悲しゅうて野郎とメシ食わにゃならんのよ」

 

 ゴツめの顔が失笑にゆるむ。

 笑うと存外に人懐っこそうなものが(おもて)に出るこの少年とは、彼の所属するパーティに助っ人として加わったことが縁で知り合った。それ以降もパーティの欠員やらで魔法使いの手が足らないときなどに度々、助力を頼まれ交流を深めた仲である。

 

 向かいに座る先輩の姿に気づいたバハムーンの少年はそちらにも軽く会釈をしてから、何かを探すように“きょろきょろ”と首を巡らせた。

 

「……いつもお前とつるんでるフェアリーくんはいねーんだな」

「あの子なら別ンとこでご飯食べてるよ。ご用があるなら呼んできたげる」

「うわあ、いや、待てまて。いいんだ、いないならそれで」

 

 むしろそっちのが好都合だよ。なぜか慌てたように止めに入り(一体どうしたってんだ?)、少年は向かい側の先輩にも断りを入れてからオーリの隣の席に腰を下ろした。デカくて分厚くて、いかにも重そうな体から想像もつかない静かな所作は、少年がまとう鍛錬と修羅場の数、そして身についたしつけと育ちの良さを容易に想像させた。

 

「ちょっくらお前に相談したいことがあってな、探してたんだわ。余計なのもいねーなら、ここでつかまえられたのは僥倖(ぎょうこう)てなもんだ」

「───うん? 一体なんぞ。断っとくけど、借金ならダメだぜ」

「アホ言うな。お前の懐の寒さなんてみんな知ってるから、誰もそんなん頼まないっつーの」

 

 そらそーやんな。しょうもない納得をするオーリへ、何度か空咳をしてバハムーンの少年は切り出した。

 

「あのなあ、実はちょっと前にな……女の子に告られちゃってさ」

「へぇ良かったじゃん。二度とツラ見せんでね」

 

 間髪入れずの僻み節に少年は顔をひきつらせた。

 

「フリでもいいから話を聞いてくれねーかなあ」

「やだよ、あっちいけ」

「聞けっての」

「いやじゃあ」

「……今度、メシ奢ってやっから聞けつーの」

「おっけー、なんでも言ったらんかい」

 

 あっさり手のひらを返す現金さにやや表情の苦みを増した少年の話によると、告ってきたのは彼のパーティで〈盗賊(シーフ)〉を務める女の子とのことである。

 パーティとして行動をともにし探索中に何度か助けてもらう内、少年のことが気になりいつしか恋心を抱くように……という流れだそうな。

 

 なんともテンプレートながら、それだけに好物とする奴らも多そうな青春絵巻へやっかみを隠しもせずオーリは混ぜっ返した。

 

「おうおう、絵に描いたようなボーイがガールとミーツってんな。豆腐の角っこにでも頭ぶつけちまえばいいんだ」

「ほへー、わたしも気になっちゃうのね。続きお願いなのね、相談は受け付けないけどね」

 

 いつの世も、いかなる場所でも、恋バナというのはヒトを惹きつけてやまぬのか、先輩までが興味津々で混ざってきた。

 バハムーンの少年は露骨にイヤそうな顔をしたが、相手が先輩(しかも比べ物にならない高レベル)とあっては無碍(むげ)にも出来ないようだった。

 

「んでもなー、相手の子がさあ……クラッズなんだよね」

 

 他人の色恋を肴にした馬鹿二匹が「ぐぅ」と呻いた。

 

 クラッズとは一頃前まではホビット、ところによってはグラスランナーだのと呼ばれる種族のことだ。

 成長してもヒューマンの子供程度にしか見えない体格のせいで、貧弱なことに定評のあるフェアリーにすら劣るとも勝らない非力と打たれ弱さではあるが、生来の俊敏さと器用さから優秀な盗賊技能持ちとなるものが多く学内の人気と需要は高い。

 

 またとにかく愛らしい見てくれから種族の垣根を越えて好かれやすいのも特徴であるが、前述の通り風体が風体なもんで、こいつらと異種族が恋仲になろうもんなら問答無用でペド公ショタ野郎の烙印を押される羽目になるというのもあり、こと恋愛絡みに関しては敬遠されがちな連中でもあった。

 

「……で、どーしたもんかなあ」

 

 かなり深刻な表情で訊いてくるバハムーンくんだが、それはこっちの台詞である。どないせえというのか、そんなもん。

 

「ンなこと聞かれてもさぁー、好きになれそうな相手ならとりあえず付き合ってみたら? たしかお前さん、女の子に告られるとかお付き合いとか無いんだろ。結果はともかくいい経験になると思うんだけど」

「でもよお……そしたら俺、ロリコン呼ばわりされちゃうんじゃね?」

「ちょっと言い難いんだけど十中八九、そうなっちゃうだろーねー」

「うぇえ……」

 

 頭を抱えるバハムーンの少年を、同情と羨望がまぜこぜになった目で眺めつつ先輩が言った。

 

 

「でもうらやましい話なのね、わたしらディアボロスは人付き合いや対人関係ひでーのね。見た目が怖いとかなら自覚もあるから仕方ないけど『なんか生理的にムリ』とかいう、言ってる本人もよくわかんない理由で一方的に嫌われちゃうのね」

「えぇ、なんすかそりゃあ……」

 

 本当だとしたらあまりにもあんまりすぎる。オーリが顔をしかめていると、げっそりと疲れた風情でバハムーンの少年が言った。

 

「いや、ウソじゃねーぞ。現に俺らの種族だってなんでかフェアリーとかに理由も判らず超絶クッソ嫌われたりするからな。同属の何人か、フェアリーの子に毎日ゴミを見る目されるもんだからさ、もうすっかり弱っちゃって『死にてー』とか『いなくなりてー』が口癖になっとるくらいよ」

「きみら見た目に反して結構デリケートだったんやな。これからはもちっと優しい目で見るわ」

「おう、あんま嬉しくねーけどそうしてくれや」

 

 なるほど、彼がフェアリーくんを呼んでくるなと言ってた理由とはこういうことか。クラッズに劣らずやたら可愛らしい連中の多いフェアリーたちに顔合わせるたびイヤな表情されたら、神経の太さにはそこそこ自信のあるオーリでもちょっとお辛いかもしれない。

 

「それにあの子って、見た目だけならぶっちぎりに美少年だもんな。そんなんにヤな顔されるのはかなりキツいよね」

「いんや、あの野郎の場合はちょっと違うんよ。誰も彼もにひでえ態度しかしねーんだ。むしろなんでお前はあんなのとイヤな顔ひとつしないでつるんでられるのか不思議でなんねえよ」

「うーん……そらまあ多少は口が悪いかもだけど、結構いいとこあるんだぜ」

「ホントかよ、信じらんねえ」

 

 バハムーンの少年が首をひねるのを見て、あの子も嫌われたもんだなあとオーリは嘆息した。

 口ではなんだかんだ言おうとも今日みたいに折を見ては手助けもしてくれるし、なんなら親しい相手(ただしオーリ以外に存在してた覚えはない)には鑑定さえ無償で引き受けてくれるような気遣いをしてくれるのだが。やはり普段の行いがマズいのだろうか、自分からも忠告すべきなのだろうか?

 

 陰鬱になりかけた気分を追い払うように小さく頭を振ってオーリは訊ねた。

 

「俺の付き合いはともかく、お前さんのことだよ。結局お前自体はどーしたいのよどーすんのよ、断って女の子泣かすの? 付き合ってペド野郎呼ばわりされんの?」

「あー、ちくしょう。考えたくねえことを蒸し返しやがる……あと、もうちっと言葉を選べ」

 

 バハムーンの少年は半ダースほどの苦虫を噛み潰したようなツラで天を仰いだ。

 そして数秒の後、

 

「───まあ、ここに来るまでにほとんど決まってたんだけどな。OKしてみるよ。あと実はこっちが本題なんだけどさ……そこらで妙なことを言うやつがいたら、フォローも頼まれちゃくれねーか」

「あいよぉ、乗りかかった船だしそん時にはなんとかやってみるわ。まあ……上手くいくことを祈ってるぜ。ついでに奢ってくれる約束も期待しとるぜ」

「おーう、一番安くてマズいもんをご馳走してやる」

「くたばれ」

 

 大仰(おおぎょう)に顔をしかめてみせるオーリがよほどおかしかったのか、あるいは肩の荷が下りたからか、バハムーンの少年は破顔して立ち上がりその場を去った。

 

   ◇

 

 物理的に存在感あるやつがいなくなると一気に寂しく感じるものだ。

 

「地元にいたときは考えたこともなかったけど、種族の相性って大変なんだぁ……」

 

 小さくなっていく知人の背中を少しだけうらやましそうに見送るオーリがしみじみつぶやくと、先輩は意外そうに方眉を上げてみせた。さりげないとこでも器用なヒトである。

 

 

「妙なこと言うのね。キミだって今まで他種族とのご近所付き合いくらいあったんじゃないのね」

「ウチの実家は超絶ド田舎でして、ヒューマン以外の種族なんてたまにやってくる行商人さんくらいしか拝めなかったです。だもんで、ここに来るまでそういった相性とか目にする機会も無かったです」

「はえー、キミが初対面のときにも大して気にした風もなしにわたしと話ができてたわけってそういうところもあったのね」

 

 先輩は一人うなずいてから、常になく真剣な眼差しでオーリのことを見つめた。

 

「でも先入観なしにヒトと向き合えるっていうのは、中々に得がたい───それ以上にステキな素養なのね。大事に鍛えれば良いことあるかもね」

「……そうでしょうか」

 

 予想外のことで自分の才を認められるというのは、どんなものであれ面映(おもは)ゆい。どう返したらよいかもわからず視線を泳がす少年に、優しい目を向けて先輩は言った。

 

「さあね。てきとーに思いついただけで何か根拠があるでもないけど、別に間違ってたとこでわたしゃ困らんのね」

 

「ウチの学校はこんなんばっかだ」

 

 上げてから下げんな。ものすごくイヤな顔をしてオーリは席を立った。

 貰うもんは貰ったんだし、とっととご飯済ませて寝ちまうことにしよう。

 

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