男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第60層 The Great Majority

 クエストの手始めにオーリ達が向かったのは〈ホルデア登山道〉だった。

 前にも述べた通り、ここは授業を真面目に受けてレベルもしっかり上げた学徒にとってはちょいと物騒なお散歩コース程度の地下道であるが、それでもソロ探索などという暴挙をやらかすアホにとっては少しのミスが致命傷となる危険な場所には違いない。

 

 現にオーリの使った聖術Lv3〈所在(ディクティピック)〉───ターミナルの履歴に接続して地下道内で活動する人類の所在と状況を確認する魔法───による探査の結果、数名ほどの学徒が少し前から同じ座標で立ち往生しているのが判明してるのだし。

 

「全員、生きてはいるっぽい。ひょっとしたら休憩のためにキャンプでも張ってるのかもだけど、クエストなんだし確認だけはしておこう」

 

 当面の方針を聞いたエルフちゃんとバハムーンくんが渋い顔をした。

 

「でもここでいくら粘ってもあんまし稼げないよ。ちょっとお高いレストランでランチしたら足が出ちゃう。人助けのお仕事でこんな事言うのもアレだけどさあ、もうちょいガッポリいこーぜ」

「俺も同感だ。私事ですまんが今度の休みにデートの予定なもんでな、懐に余裕をもたせておきたいんだが」

 

 二人の傍らでは片眉を上げたセレスティアさんがニヤニヤと笑っている。この少女、人の難儀と色恋沙汰が好物なのだ。それに茶々を入れて引っ掻き回すのも大好きっぽいが。

 オーリも微笑ましさと失笑の半々くらいの形に唇を曲げた。

 

「わーってる。俺だって仕送りに将来の積み立てと、入り用はお互い様さ。さっくり周ったらとっとと次の地下道に行くとしよう」

 

 どのみち、今の時期にホルデア地下道でまごつくようなやつが滅多にいないのだし、軽い見回りくらいでよかろう。

 

 それらの説明で納得をした一同は巡回を開始した。

 周囲の警戒と人影等の探査は斥候のクラッズさんに任せ、マップの確認がてらオーリは当面の目標───つまり遭難者について語る。

 

「〈所在〉によると遭難者はC層に集中してる。確かあそこの中央部に〈警戒区域(ワーニングゾーン)〉があるから、そこで出没する高レベルモンスター目当てでしくったんだろーな」

 

 ていうか俺も何度か経験あるし。過去の自分の醜態を思い出したオーリは腹の中だけで嘆息した。

 多少のレベル差くらいでは数の暴力を覆すにはいたらない。モンスターを始末するのが少しでも手間取ればその隙をついた他の敵にボコられ、その傷で動きが鈍りさらに始末の速度が落ちる悪循環で死にかけた数なんぞ数えるのも億劫だ。

 

 途中、何度かの接敵によって邪魔をされながらも、侵入地点でもあるR1スレッドの粗方を巡回した一行はスレッド移動用のポータルを使ってC層に侵入した。

 

 ホルデア登山道C層はポータル出てから少し左へ行ったところに何個かの小部屋が連結するように配置された地点がある。

 そのうちのひとつに入ったオーリ達は小部屋の真ん中あたりの区画でうずくまる人影を発見した。

 

「どうやらお目当ての子だ」

 

 警戒しながら近寄ると、パルタクス学園の制服に身を包んだヒューマンの少年が地べたに転がっていた。

 オーリ達と同じ一年生らしきその少年は腹を押さえながら呻いている。外傷は見当たらないところを見るに毒でもくらったのだろうか? オーリの記憶によればここらのモンスターに状態異常に関する攻撃をしてくる器用なやつはいなかったはずだが。

 

 不思議に思いながらもオーリは解毒の魔法を使ってやった。

 

 …………

 

「いんやぁ、ありがてえなや! 来てくれて感謝するス。わざわざこんなとこまですまんことだったスねえ!」

「いいってことよ、無事で何より。でも次からはちゃんとパーティを組んで探索するか、いざってときの備えはしときなよ。命あっての物種じゃん」

 

 快復するや大仰なほどの喜びようで感謝の意を示す件の男子学徒へと苦笑いしつつ、オーリはユマ先輩から渡されていた〈帰還札〉というアイテムを取り出した。こいつには〈Lv7送還(ロールフェイト)〉相当の魔法がプリントされており、一回こっきりの使い捨てだが魔法が使えない者だろうが魔法禁止区域だろうが構わず地下道を脱出できるという便利な代物である。

 

 大昔にはこれと似たような、転移の魔法を刻んだ兜だかヘルメットだかもあったそうだが、それなりにお高いそっちと違ってこれはお値段も菓子パンとジュースのセットくらいで学徒の懐にも優しい。まったくいいい時代になったものだ。

 

 帰還札を受け取った少年に、少し前から眉をひそめっぱなしだったフェアリーくんが訊ねた。

 

「ところでよー、あんた何だってこんなとこで転がってたんだ? モンスターにやられたとかでもないみたいだったけど」

「ああ、それっスか。ま、てぇしたこっちゃないんスけどね───」

 

 少年が語るところによれば、なんでも回復のために用意したおにぎりの中に傷んだものがあったらしく、それ食って腹壊してたんだそうな。いかに地下道が季節問わずで気温が一定とは云え、外界はまだまだ残暑が厳しいのだから足の早い食品はそうもなろう。

 

「カスみてぇな原因だな、訊くんじゃなかったぜ」

 

 フェアリーくんが舌打ちとともに吐き捨てた。

 

「おい、もしまた今回みたいな理由で遭難ぶっこきやがったら、そんときゃ助けるどころか手前の死体に*やくたたず ここにねむる*とでも落書きして放置すっからな」

「うっひゃあ、すんませんっした!」

 

 総毛立つほどの美貌の主が言い放つ氷雪のごとき罵倒に首をすくめた少年は、帰還札を起動させて逃げるように去っていった。

 

   ◇

 

 C層のあちこちを巡回し、そこに転がるバカタレ連中を救助、あるいは回復した一行は残りのL1スレッドに繋がるポータルへと向かった。

 

「ったく、あんなアホ連中でも助けにゃならないんだからたまったもんじゃねーな」

 

 月の光を集めて作った水晶細工のような美貌の主が忌々しさとともにぶーたれる。

 痛烈な物言いと思われそうだがフェアリーくんの言ももっともだった。なにせどいつもこいつも、最初に救助した少年と似たりよったりの理由で遭難していたのだ。彼の気性を考えれば愚痴の一つで済ませる寛大さをむしろ褒めてやりたいほどである。

 

 地下道の闇さえ見惚れる麗貌からは想像もつかぬ悪罵をさらに重ねようとする相方をなだめるようにオーリが言う。

 

「気持ちはわかるけどそう言いなさんな。あいつらもこれに懲りて次からはもちっと慎重になるだろーさ」

「そうかね、やっぱ多少は痛い目を見せとくべきじゃねえかな」

「ユマ先輩や保健委員の人達に悪評が立つのは避けたいとこだ。なにより、ああもどうしようもない連中さえ助けてくれる人達だったからこそ、俺みたくなボンクラでも今までやってこれたわけだし」

「パイセン達にしたところでいつまでもガッコにいてくれるわけでもねーんだがな。……確か次の委員長や役員への引き継ぎだってもう始まってるんだろ」

 

 ちなみにパルタクス学園における生徒会はじめとした各委員会の役員というものは前任者からの指名によって選ばれる。

 指名を受ける者も大体の場合、どこぞのご領主様お貴族様なりそこそこでかい商会の縁者といった『いいとこの子弟』で、これは将来、家を継ぐ等で人を使う立場になった時の予行演習としてこういったポストがあてがわれるらしいが……本当なのかは不明だ。

 

 またこれらの人らは基本的に冒険者だの地下道潜りだのというやくざ稼業とは一切関わらないのが常である。

 前にも述べたがこの学園には冒険者育成以外にも、彼らと取り引きをする商会はじめとした各機関の職員、地下道に関わる様々な研究者等を輩出するための高等教育を施する学部もあるので、よほどの酔狂者でもない限り彼らのほとんどはそちらのコースを選択する。

 

 学ぶだけなら他にいくらも選択肢はあろう良家のご子息方が、こんな下賤かつ手の施しようがないアホの掃き溜めにやって来ないでもいいじゃないと思われるだろうが、これは先の理由以外にも将来有望な冒険者の卵を見つけ伝手やコネを作ることにも理由が求められるのだとか。

 そんなもん子飼いのスカウトにでも任せりゃよさそうだが、契約と報酬だけで繋がるものと違い、直に接することによってのみ育まれる情やら仁義、それらへ訴えかけた無茶なお願いに他所へ漏らせない私的な依頼をしやすい間柄の構築というのもまた大事なことなのだ。

 

 もっとも、生き馬どころか暴れるモンスターの目ン玉を毎日のように抉るのがこの界隈。都合よく使われるだけの輩なんてもんは早い段階で淘汰されるか自ら潰れるかなので、大体の場合において伝手を作れるのは雇い主の要求する技量に相応した、扱いにくい連中ばかりなのが困ったもんだが。

 

 とはいえ世の中、昔からの決まり事とか慣習とかに対してそれがなぜそうなのか考えもせずに反発したがるやつもいるもので。

 

 ポータルの設置された区画が近づいてきたところで、ふとオーリは少し前に学内で見かけた連中のことを口にした。

 

「そういや夏休みが終わってちょっとの頃に、各委員長とかの選出基準と方法を変えるように生徒会と先生に陳情してたトンチキおったな。あいつらどこ行ったんだろ?」

「しらね。ガッコを辞めてねーなら宗旨替えでもしたんじゃね。どうせ勉強に詰まったアホの現実逃避だろ、そんなん構うようなのも同程度のアホタレくらいさ」

 

 思い出したくもないとばかりに吐き捨てるフェアリーくんだった。

 

 オーリが語ったように新学期が始まったあたり、生徒会や各委員会の役員交代に伴う引き継ぎ業務やマニュアルの見直し等でドタバタしてた頃に、『学内の自治は冒険者の現実を知らぬ有力者子弟ではなく圧倒的多数である我々、一般学徒から選ばれ委ねられるべき』とかいう主張をがなり立てるバカタレ達がいたのだ。

 

 彼らの主張とそれに伴う活動を学園と自治委員会は黙殺、学徒の大半も無視した。

 これは自分さえ良ければいいとかいう、この年頃にありがちな他人事や無関心によるものではなく、あくまでも冒険者を目指すという初心を貫くためのものである。そんなのに構ってる暇が無いというのも大きかったが。

 

 なにせ彼ら彼女らにとって必要なのは、地下道を踏破するための力と知識を得るための勉強なわけで(というよりそれが出来なきゃ死んじまうわけだし)。

 毎日毎日、必死こいてレベルアップやスキル取得に汗するその合間を縫い部活や遊びに勤しんでいるというのに、人生に何一つ寄与もしやしねえ余計事をやってる場合でなし。そんなもんを押し付けてくるやつは自分の足を引っ張ろうとする迷惑野郎以上ではないのだ。学業へ真面目に取り組むやつほどこういった傾向が強くなる。

 

 結局、極めて少数の同調者以外に支持をまったく得られぬま、バカタレ連中の活動は尻すぼみとなり、一月も保たずに自然消滅したのである。

 

「変則的な部活の一環とでも思えば無駄にはならんのとちゃうか」

「アホ、無駄以外のなにもんでもねーだろが。ぼくらみたいなのが偉い人の真似事なんざやったとこで何の足しになるってんだ、ああ?」

 

 相方の言う事は正しいとオーリも思う。

 腕っぷし自慢な冒険者は冒険と探索に精を出すのが仕事、頭のいい人は頭を使ってあれこれ考えるのが仕事、偉い人はアホや賢人含めた多くの人に仕事を振って使うのが仕事。

 役割と棲み分けが出来ているのに、自分の仕事を放っぽらかしてまで他人の領分に首や足を突っ込むとか多方面への妨害行為でしかなかろう。

 

 特に生徒会長ともなると各委員会から教職員はじめ、学園に繋がる多方面の機関や商会との連絡や折衝といった学内自治に関わるものだけに、そんなもんを斬った張ったに殺す潰すしか取り柄のない冒険者志望のガキにやらすなど論外もいいところだ。

 

 もちろん前任者からの指名ってことは、そいつの人を見る目いかんによってはとんでもないハズレ人材が就任してしまうこともままあるわけだが。

 

「ま、そうなったらなったで、特に困ることもねーんだけどな」

 

 ポータルに到着したオーリは気楽な口調で言う。

 事情をよく知らない者が耳にしたら当事者意識の欠如にもとられるセリフだが、これにしたところで別にこいつだけのものでもない、学園に所属する連中に共通した意識である。

 

 別に学内政治なんてどうでもいいなどと思ってるのではなく、自分達に都合が悪かったり妙なことをやらかすアホならとっとと辞めさせて首をすげ替えちまえばいいという考えゆえである。

 念の為に付け加えておくと、この世界には選挙とかいうシステムも概念もないのでリコールとかいうものもない。文字通り『すげ替えりゃいい』という意味だ。

 

 例えば顔だけ出させてもらってるゼミの先輩から又聞きした、何代か前の生徒会長がそれだ。

 

 どこかのお貴族様の次男だか三男坊とかいう触れ込みだったその御仁、常日頃から産まれの良さを鼻にかけ『俺よりすぐれた学徒などいねえ!』などと言い放ち周囲を見下す人物だったらしく周りからの評判も最悪で、そんなのが派閥力学の事情か他に人がいなかったからなのか生徒会長として選ばれちまったからさあ大変。

 就任するや自らを生帝(生徒会の帝王)と称し、以降は次々と暴虐の極みのごとき政策を打ち出したのだそうな。

 

「例えば自分が歩く際に居合わせた学徒は全員土下座で見送るべしとか、やらないやつは炎魔法で消毒とか」

「時代劇に出てくる参勤交代テンプレじゃねえんだぞ」

「挙げ句に自分の偉大さを示すための超巨大墓陵───生帝十字陵つったか?───を作らせろ、人手が足りなきゃ近所のガキどもさらってこいとか抜かしたりもしたそうな」

「病院に突っ込んどけよ、もう。怪我治す方じゃなくて人間失格のラストにぶちこまれたやつ」

 

 しかし、かくも邪智暴虐なる生徒会長の悪政も長くは続かなかった。

 

 

 具体的には就任して3時間ちょいで終わった。

 

 

「三日天下でさえねえのかよ。なにがあった」

「就任したその日のうちに事故で死んじゃったんだ。原因は魔法や飛び道具の授業中に起きた同時多発誤射」

 

 どれもこれも生帝(笑)めがけて、まるで吸い込まれるように着弾したという。

 

「でも蘇生はしてもらったんだろ」

「なぜか蘇生する度に間髪入れずの誤射(リスキル)が繰り返されたのな。魔法や弓矢以外にもたまたま生徒会室がコースに含まれてた運動部(鎧甲冑等フル装備)のランニングに巻き込まれて轢殺(れきさつ)とかもあったらしいけど、不幸な事故だから特に追求もされなかったんだって」

「そいつらはそいつらで男を学ぶ塾にでも放り込んどけ」

 

 ジャージや体操着姿のアホどもによる、直進行軍(ちょくしんこうぐん)の様を思い描いたフェアリーくんの典雅な美貌が歯痛にでも襲われたように歪んだ。

 

「で、生命点の限界まで死にまくったところで他の役員から翻意を促されたんだが、やっぱしというか退かぬ媚びぬ省みぬで聞く耳なんて持ちゃしねえ。それどころか失った生命点を回復させるためにLv7活性(ヤーロン)使えるやつ呼んでこいとか言い出す始末」

 

 もちろん普通に拒否られたわけだが。

 この学園にあっても〈活性〉の遣い手、つまり高いレベルでの超術を習得した学徒は珍しい。それゆえ需要に対する供給が追いつかず価値はうなぎのぼりなのだ。それを自業自得気味なアホのために使うなんてとんでもない。

 

 当然というかこの反応に生帝(笑)は激怒した。お前ら全員消毒か蝋人形にしてやろうか! と気炎を上げた。

 

 直後に数十発もの誤射が飛んできて即死。

 間の悪いことに担ぎ込まれた先の保険室内で突発的に開催された、運動部員総出の反復横跳び大会により死体がのしイカやミンチよりひでぇ有り様になっちまったという。

 

「で、そのままロストしてAnotherよろしく〈いないもの〉扱いされたとさ、めでたしめでたし」

「徹頭徹尾、めでてぇ部分がねえよ。てゆーかさあ、そいつもいいとこのボンなわけだし親からクレームが来たろ。タダで済ませるとは思えないんだが?」

「うん。それで形ばかりの調査も入ったらしいんだけどさ、学徒連中はどいつもこいつも非協力的だし派遣されて来た人らの調査もおざなりだしで、結局はなし崩しの形で迷宮入りしてお茶を濁すことになったとさ」

 

 調査に来た連中も捜査をゴリ押そうもんなら今度は自分達が誤射のえじきになってしまうとあっては、職務に精励する気持ちなんぞ真夏日のアイスキャンデーより速く溶けちまったことだろうし。

 

 学徒にとって生徒会長だの委員長だのなんてもんは、自分達ではよくわからなくて手に負えない面倒なことを率先してやってくれる、ありがたくも便利な人達以上ではなく、万一それが自分らに害をなすというなら首でもなんでもさくっと刎ねて入れ替えちまえばいい程度の扱いであった。

 

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