男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第62層 パンドゥーラ様ならトミージャイアントくらい開発してそうだ

「まあたゾンビかい。

 ───聖術 Lv6 グループ 浄炎」

「めんどくせぇなあ。

 ───〈こっちくんな、湧いて出るな(ディスペル)〉」

 

 投げやり気味に叩き込まれる魔法とスキルにより、モンスターは塵も残さず消え失せた。

 もはや何度目になるかも定かでない接敵もしくは死霊のはらわたごっこを終え、後に残されたドロップアイテムを回収しながらオーリがぽつりとつぶやいた。

 

「前から気になってたんだけど、地下道に湧いて出る不死系エネミー、というよりゾンビってどこから湧くんだろう」

「どこでも何も作ったのはイカロ戦役時代の魔国って習ったじゃねえか。てか、こういうのはお前のが詳しいだろ」

 

 フェアリーくんが語ったように、ここで延々と相手させられてる不死系モンスターというやつ、実は古の〈イカロ戦役〉において開発された生物兵器の成れの果てだったりする。

 教科書によると、なんでも戦場に放置された兵隊さん(敵味方問わず)の死体に魔法や補助機械を埋め込んだりして再利用という、実にエコロジカルかつ倫理をかなぐり捨てた代物なんだとか。

 

 物が物だけに複雑な命令をこなしたりこそできないが大した手間もコストもかけずの大量製造が可能で、年季の入った連中(超腐ってるから超臭くて汚い)にいたっちゃ見てるだけで敵味方の士気を下げ、適切な処置を伴わない撃破なんぞしたが最後、広範囲に流行り病のビールスを含んだ臭い腐敗ガスと汚い屍肉と臭くて汚い汁が撒き散らされ区画一帯を使い物にならなくする。まさに最底辺の運用思想に基づくBC兵器であり、授業でこの話を聞いたオーリなどは考案したやつぁバタリアンの観すぎで頭おかしなったんちゃうかと疑ったものである。

 

 迷宮史学の参考資料集には戦役の末期に開発されたとかいう、多数の死体を継ぎ接ぎして形成した超巨大人造人間を機械式の脚やキャタピラに接続した(死体部分が重すぎるので腐肉の足では自走できない)邪悪の煮凝りみてぇな代物まで載っている始末。

 国を挙げてゾンバイオに出てきたアホ科学者じみたことをやらかす戦争の狂気と不毛とバカらしさを、これでもかと現した駄話と云うべきであった。

 

 これらろくでもないエピソードの数々により、口の悪い冒険者や学徒たちから『コープスマシン(死体機械)』のあだ名を頂戴した彼らは、現代においても台所で見つけたネズミくらいの親しみでもってボコ殴りにされている。

 

 相方の気のない返答にオーリは「そうでなくて」と、首を振った。

 

「こいつらが作られたのはもう何百年も昔の話だぜ。どんだけ保存が良くても土に還るのが妥当なもんだろ」

「気合と根性の入ったゾンビなんだろ。余計なこと考える暇あんなら手ぇ動かせ」

 

 フェアリーくんは真面目に取り合う気がないようだったがこれは仕方がない

 神経の図太さにもそこそこ強化がなされる冒険者の卵といえど、臭くて汚い動く腐肉のことなんて考えたくもないのが当たり前。こんなもん気にするやつのほうがおかしいのだ。

 

 肩をすくめたオーリは作業に戻り、黙々と手を動かしながら余計なことを考えた。

 

 戦役時代にどんだけのコープスマシンが生産されたのかは知らないが、さっきオーリが言ったように何百年も前の話だ。まして供給自体が戦役終了とともにストップされているのだから、それだけの時間があれば冒険者連中が始末し尽くすには充分のはずである。

 

 なのに連中は絶えることなく生え散らかすときた。これはどういうカラクリなんだろう。

 映画なら『ゾンビにかじられるとゾンビになる』という法則でネズミ講の被害より悪質なスピードで増えていくのだろうが、コープスマシンには当てはまらない。精々がバイ菌による病気になるか、そのまま食い殺される程度だ。

 

 ───銃と魔法ってラノベに出てきたトンチキ動物愛護団体の主張よろしく交尾で増えてるとか?

 

 さすがにそりゃあねーか。一瞬、浮かんだアホな考えを頭を振ることでオーリは追い出した。それを見た周りの連中は「こいつまた余計なこと考えてんな」と察したが口には出さなかった。

 

 

 そもそもの話、殺っても潰しても湧いて出るのはコープスマシンに限らず地下道の珍生物(モンスター)全般に云えることなのだが、そこに思い至ることがついぞなかったのがこいつの限界というわけだ。

 

 

 

 結局、この日は先に助けた学徒以外にも数匹ほどのバカタレを助けたところで巡回を切り上げた。

 

   ◇

 

 こんな調子でオーリ達が保健委員会のクエストを受けてから一月と少しが経った。

 

 彼らはその過程で様々なアホを助けたり新しく覚えた回復魔法の実験台にしたり、蘇生したり灰にしたり足元を見たり見殺しにしたり見なかったことにしたりやっぱし助けたりその後でボコボコにしてから放置したり、休みや地下道に行かない日はポータル広場に転がるアホどもを治したり蹴り転がしたり各種スキル・魔法の勉強や講習、辻回復と鑑定屋に精を出したり、クラッズさんの伝手で料理研究会が出す屋台とお弁当売りのアルバイトなどをこなしたりして過ごした。

 

 探索の場となった地下道がどれも踏破して久しいものばかりだったせいで、目新しいアイテムこそ手に入らずじまいだったが、巡回をできるだけ多めにしたおかげで各々のレベルも4つばかり上がったし、それ以上にバハムーンくんがLv5帯までの聖術を、セレスティアさんがLv4帯の魔法を習得したことによりパーティの底上げもできたので、オーリ達は相談の後、あらためて新しい地下道の探索申請を出してみることにした。

 

 あと時間も余ったこともあり、オーリは美容室で髪を整えるついでにベージュブラウンのヘアカラーを入れてもらうことにした。

 元の色が重めかつ地味な顔立ちも相まって野暮ったい印象を強めていただけにその変化は大したもので、オーリはすぐに新しい髪色を気に入ることができた。

 

 とはいえ衆生の反応はまちまちで、パーティの面々や翌日にお披露目したクラスの女子からはご好評をいただけたが、同じくクラスメイトの男子連中からは「なんだ、髪なんか染めて不良かよ」だの「ついにグレちまったのか」だのといった具合に散々なものであったという。つくづく価値観が昭和で止まってるやつらだ。

 

「髪染めで不良なら、白髪染めしてるおっちゃんおばちゃんは熱血硬派くにおくんのキャラかよ」

 

 オーリは少しだけふてくされた。

 

   ◇

 

 いつもの放課後。

 

 クラスメイト達が教科書・ノートの入ったカバンや武具・防具を詰めた道具袋を手にして地下道へと赴く中、廊下で待ち合わせたパーティのメンツと合流したオーリは新しい地下道への探索許可が下りるかの相談をしに職員室へ顔を出した。

 

「あんたらも予想以上に頑張るねえ。もう一月くらいかかると思ってたんだが」

 

 ガキどもから話を聞いたユーノ先生は、感心してんだか呆れてんだかもわからぬ口調でコーヒーをふるまってくれた。

 紙コップを受け取ったオーリは肩をすくめた。

 

「なにをおっしゃる。これから先を考えりゃ、いつまでも近場でちんたら稼いでばかりいられませんて。……おいしいですね、これ」

「あんたらにだけなら安物で済ませるんだけどね、アタシも飲むからにはちゃんとしたもんを出すさ。精々、味わっていただくこった」

「なるほど。次に来るときは先生がお茶淹れてそうなときにします」

「だったら茶請けくらい用意してきな」

 

 せこいことを言う教え子へと先生は鼻を鳴らす。

 

「それは置いとくとしても、レベルアップと保健委員会での実績があるし今回の申請はちゃんと通ったよ。───本当によくやった」

 

 普段からは想像もつかない優しい声と表情で褒めてくれるユーノ先生だった。ひょっとしたらこのコーヒーもご褒美だったのだろうか。

 今度、用があるときは売れ残りのビスケットくらい持ってくるかなどと考えながらオーリは黙って紙コップを傾けた。

 

 コップの中身が半分ほどになったところで、ユーノ先生が切り出した。

 

「で、あんたらも知っての通り新しい地下道に行くためにゃ、各地のポータルを管理する学校に認証キーを発行してもらう必要があるんだが……」

 

 大昔と違って現代の〈地下道〉はそこそこ程度には厳しく管理されている。

 これは冒険者でもないのにお散歩気分で地下道に入っては内部でお散歩してるモンスターにおやつ気分でかじられるバカタレと、それ以上に勝手に入った不心得者が悪さしたりするのを防ぐためである。

 

 コーヒーを“ちびちび”とやりつつオーリは頷く。

 

「あい。いつも通り事務棟で更新措置を受けりゃいいんですね」

 

 正確にはオリエンテーションのときに付与されたビーコン───ちなみに注射式───にセーブされている情報を上書きしてもらうのだが。

 

 これは冒険者にとってのIDみたいなもんで、記載された各冒険者の情報は地下道内部のターミナル及びそれらを総括する超古代文明のサーバーに繋がっている。

 なんでそんな怪しげな代物を注入する必要があるのかと云えば、現代の冒険者稼業はこれを通じて古代文明の技術の恩恵を直接・間接問わずに受けるからだ。例えば学徒や冒険者たちに支給された〈道具袋〉が登録された所有者以外に使えないのも、職業・学科(ブラッドコード)をはじめとした地下道由来の技術を扱えるのもこれの存在あったればこそなわけで。

 

 ある意味じゃ、五臓六腑を巡るわずか数十mgの異物こそが〈冒険者〉の本体と言えなくもない。

 

 オーリの返答に先生は首を横に振った。

 

「それなんだがね。進入許可のパスキーを管理してるランツレート学院からさ『しばらくキー情報を届けることができないから件の学徒───つまりあんた達───を指定の中継地点まで寄越してくれ』っていうお達しが来たんだわ」

「あー? なんですか、そりゃあ」

「向こうさんが言うには、ターミナルの移送機能に不具合が発生してるとかでね。地下道の侵入パス情報の転送が弾かれちまうんだとさ」

 

 弾かれるのはなぜかそれに関するものだけで、他は通常通りに機能してるんだそうな。

 思いもよらぬ話にオーリ達はコーヒーの苦さがマシマシになったような気分だ。

 

「ますます意味がわかりませんよ。ターミナルだって古代文明の遺産ですぜ。エラーを起こすなんてありえないし、今までだってそんな事例を聞いたことがない」

「それを言うなら私だって同じよ。こんなの学徒の頃から現役冒険者の時代まで含めても初めてなんだから」

「直すとかは……出来ないんですよね」

「当たり前だろ。叩けば直るおばあちゃんちのテレビじゃねえんだぞ」

 

 もし可能とするなら、それは人類が古代文明の遺産すべてを解析し尽くした時くらいである。

 

 先生は残りのコーヒーを“ぐい”と飲み干して一息つき、

 

「ま、冒険者やってりゃ不測の事態なんて数えるのも億劫なほど生えてくるもんだし、いちいち考えてたらキリもないわ。今回のこれも学校間交流の一環とでも考えるんだね」

 

 そう言って机の上のメモ用紙を千切ってオーリに渡した。

 

「ハイこれ、受け渡し地点と時間よ。アンタのことだから大丈夫だとは思うけど、くれぐれも失礼がないようにね」

 

 

 その後、いくらかの世間話を交わしてからオーリ達はお礼を言って職員室を後にした。

 




 より正確には2巻の『青い炎』だけどそっちは某ミステリーのタイトルのが有名だし





 なお『この世界』の職業・学科(ブラッドコード)黎明期では体内に埋め込んだ電極へ特殊な謎電気を流して珍妙な不思議パワーを汲み出すとかいう技術もあったんだとさ
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