男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

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第64層 未知に繋がる扉の直前にいる未知のままいさせてほしいやつら

 巷間における冒険者育成学校およびその学徒といえば、現在でこそ大志を抱いて集う若人たちと、彼ら彼女らに剣と魔法の精髄を授ける崇高な学び舎のごとく語られるわけであるが、それより前の衆生が抱くイメージというやつは実にひどいものであった。

 

 例えば学徒ならどいつもこいつも知性もなけりゃ理性もない、取り柄と云えば腕っぷしくらいな乱暴者で、髪型はピストル大名オマージュと思しきリーゼント、短ラン長ラン等々の原型を留めぬ改造制服に身を包み、隙あらば“不運”と“踊”っちまってたり、この“瞬間(トキ)”を“待”ってたり、『!?』を大量生産したりの疾風(かぜ)伝説な連中揃い。学園はそれらの輩が跋扈するスクール・ウォーズの投棄場といった認識であり、しかもそれがあながち間違いではなかったという(今でもオーリの実家のようなド田舎ではその偏見が根強い)。

 

 しかし冒険者学校における活動、ひいては学業が現役の冒険者に混じって行われる実地でのものが主となる以上、〈学徒〉の立ち位置も必然的に学生以上社会人未満のようなものにならざるをえないわけで。そこへ社会性皆無な腕力自慢のバカタレを放り込んだところで世間に対して何一つの益さえもたらさないどころか、冒険者という商売全体に対する不信の種となりかねない。

 

 言葉遣いも礼儀もなってない、服装もアレな人間が普通の商会やお店でやっていけるかと云えばまず無理だろう。馘首どころか門前払いRTAが精々だ。

 それだけに学園の側も折を見ては学徒連中への意識向上やイメージアップの場を設けようとするし、現役冒険者の側もまた自分らの印象を貶めかねないような輩の矯正もしくは排除にかかる。

 

「夏の始めくらいに俺らがクエストで相手した不良達おったやん、アレが絶滅危惧種にまで落ち込む理由もそれやんな」

 

 オーリはすぐ隣できなくさそうな顔して浮かぶ相方へと説明を続ける。

 

「学徒にしても冒険者を目指すようなのは良くも悪くも攻撃的だから、自分の進路を邪魔するようなのは速攻で敵認定。最悪だと地下道で闇討ちくらいはやるからね。学校や保護者の庇護を受けながら不良ごっこにうつつを抜かしたいなんてムシのいい話は通らんよ」

 

 大体、そこに文句があるならとっとと辞めりゃいいってだけだし。

 疲れたようにこめかみのあたりを揉むオーリの説明を聞いたフェアリーくんが、冷え冷えとした声を添えて顎をしゃくった。

 

「長ったらしい話をありがとさん。───だとしたらアレはなんだってんだよ」

 

 

『ンダコラテメー!? ヤンノカコラテメー!?』

『ザッケンナコラー! スッゾコラー!?』

『ヤベェヨヤベェヨ!』

 

 

 ガラス細工のように繊細な顎が示すその先では“不運”と“踊”っちまってそうだったり、この“瞬間”を“待”ってそうだったりなリーゼント頭にボンタン短ラン長ランの、実にBE-BOPな人々が『!?』を大量生産しながらこちらを取り囲んでわけのわからない奇声を上げて蠢いていた。

 

「んー、なんだろうね」

 

 相方の詰問に答えることもできず、今すぐにでも回れ右して帰りたい気持ちを抑えてオーリは天を仰いだ。

 

 雲ひとつなくひろがる蒼穹に、珍奇な連中の奇天烈な蛮声が溶けていく。

 

   ◇

 

 事の起こりは次なる地下道開放のため、必要なパスコードを受け取るべくオーリ達のパーティが〈ハウラー湖〉を訪れたことに端を発する。

 

 ハウラー湖は大陸の北に位置する超巨大な湖だ。

 

 水平線が見えるくらいのデカさなせいで初見では海と勘違いする者とているこの湖、ターミナルの履歴によると元々は普通の陸地であった地域が、イカロ戦役最終盤において暴走した超古代文明の遺産による攻撃と、それが引き金となった大規模地殻変動によって一帯が陥没。そこへ水と一緒に攻撃の余波ともいうべき汚染物質(接触した生物を侵食し珍妙な代物に変える悪質なコード情報)が大量に流れ込み、地獄絵図のような水溜りが出来上がったのがはじまりだとか。

 

 成り立ちが成り立ちだけに長期に渡り危険地帯として周辺地域もろともで封鎖されていたのだが、それが近年になって汚染コードの完全な喪失と豊富な水産資源の存在が確認され、今では大陸における水や食料の供給元として重宝されている。

 

 ……もちろんかくもイカれた経緯から、どうして大陸の腹を満たす生態系が(しかもたった数百年で)育まれたのか疑問に思う者とているが、そんなもん知ろうが知るまいがお腹は膨れないので多くの人々は知らぬふりだ。

 

 そんな愉快な湖のほとり。

 中継地点に敷設されているポータル広場にて、オーリ達はここから先の地下道を管理する〈ランツレート学院〉からやって来るはずの人を待っていた。

 

 指定時刻の20分ほど前になったところでポータルから何組かのパーティと思しき影が出てきたので、オーリ達はひとまず声をかけてみることにしたのだが───。

 

「なんじゃ、こりゃあ」

 

 出てきたのは改造制服に身を包み釘バットに鉄パイプ、バールのようなもので武装した半世紀近く昔の少年漫画雑誌の連載陣だった。

 思いもよらぬ未知との遭遇に絶句するオーリ達の態度が気に入らなかったのか、どおくまんプロダクションな連中は彼らを取り囲んで一斉に喚き散らしてきた。

 

 

『ンダコラテメー!? ヤンノカコラテメー!?』

『ザッケンナコラー! スッゾコラー!?』

『ヤベェヨヤベェヨ!』

 

 

 なに言ってんだかサッパリ不明な、人類が口にする言語とも思えぬ鳴き声を浴びせられたエルフちゃんが辟易したような声を絞り出した。

 

「オーリくんなんとかして、やくめでしょ」

「なんで俺に任せるんだ」

「わたし達あーゆーの苦手なんだ」

「俺だって得意じゃねえよ」

 

 オーリは半眼となってエルフちゃんを睨みつけた。

 

 だがしかし他に任せられるメンツもいないのも確かなわけで。

 対人能力に少なからず難を抱えた連中が多いのもこのパーティの弱点なのだ。

 

 ともすれば不平不満の形をこしらえようとする顔面筋を押さえつけ、オーリはなるたけ愛想よく見えるようにして、ろくでなしBLUESの群れに向き合った。

 

「ええとですね……俺、じゃないボクらはですね、あなた方に少しお話を……」

 

 

『ンダコラテメー!? ヤンノカコラテメー!?』

『ザッケンナコラー! スッゾコラー!?』

『ヤベェヨヤベェヨ!』

 

 

「えー……ですからね、ボク達は皆さんに何かひどいことするつもりはなくて……」

 

 

『ンダコラテメー!? ヤンノカコラテメー!?』

『ザッケンナコラー! スッゾコラー!?』

『ヤベェヨヤベェヨ!』

 

 

「…………」

 

 

『ンダコラテメー!? ヤンノカコラテメー!?』

『ザッケンナコラー! スッゾコラー!?』

『ヤベェヨヤベェヨ!』

 

 

 こちらが何を言おうとも、男大空どもは謎の鳴き声で返すばかり。

 オーリは諦めの表情で首を振り仲間達に振り返った。

 

「もしかすると彼らは言語ではなく、あの声によって発せられる音波でもってコミュニケーションとってるのとちゃうか」

「海洋生物や虫じゃねえんだぞ」

 

 馬鹿みたいなことを言い出す相方の腰のあたりまで飛んだフェアリーくんが「正気にもどれや」と罵倒しながら蹴りを入れた。

 したたかに打ち据えられた腰をさすりながらオーリは自分らを囲む押忍!!空手部達を観察した。

 

「でもどうしよう、このまま無駄に時間を潰すのもヤだしなあ」

 

 私立極道高校たちは相変わらずキテレツな鳴き声を上げているが、すぐさま危害を加えるつもりだけは無いようで、こちらを囲んだまま距離を保っている。

 

 ふとそこで、オーリは妙なことに気がついた。こんだけの騒ぎになってるにも関わらず、周りの道行く人々が全くの無反応。どころか遠目にする野次馬一匹いないときた。

 厄介事に巻き込まれたくない衆生の反応としては至極あたりまえではあるが、それにしても誰も彼もが微塵の興味もなさそうな、むしろ飽き飽きしたような気配さえ漂わせて通り過ぎていくのはどういうことか。

 

 オーリはさらに周囲を見渡そうとし───

 

 

『ンダコラテメー!? ヤンノカコラテメー!?』

『ザッケンナコラー! スッゾコラー!?』

『ヤベェヨヤベェヨ!』

 

 

「あー、うるっせぇ。お前ら人類の言語で話せ。さもなきゃ今日から俺は!!のコスプレして駄菓子屋に置かれてるベラボーマン遊んでろ」

「1プレイ30円とかいう料金設定が謎すぎるやつか」

 

 途方に暮れた顔したバハムーンくんが相槌を打つ。すぐ隣では案の定というかクラッズさんが野生に還って彼氏の体にしがみついている。

 

 その姿を見たオーリの頭に天啓がひらめいた。

 

「そうだ、彼女に交渉を任せるわけにゃいかんかね」

「おい、いきなりなに言い出す」

 

 ひらめいた気がしただけだった。

 急に飛び出てきたバカの思い付きにバハムーンくんが血相を変える。そらまあ大事な彼女を梅澤春人系な輩の渦中に放り出すなど、彼にしてみりゃ言語道断もいいとこだろう。

 食ってかかるバハムーンくんをなだめるため、オーリは自分の考えを口にした。

 

「ひょっとしたら連中も彼女と同じく野生に還っちまってるのかもしれん。ならばこっちも野生の力をもって対抗するのだ」

「意味わからん。おい、寝不足ならとっとと帰るか宿で一休みしとけよ」

 

 口にこそ出さなかったがバハムーンくんはねずみ男よろしく、おめえ気でも狂ったんかと言わんばかりだったそうな。

 

「ま、冗談は置いとくとして、〈盗賊〉学科の情報処理能力を使えば連中の言語を解析できるかもしれないだろ。済まんけど任せられんかね」

 

 オーリが申し訳なさそうに頭を下げると、少し考える素振りを見せてからクラッズさんは頷き、いまだやかましい野望の王国の群れへと近づいて身振り手振りも混じえてなにがしかを伝えた。

 すると先ほどからひっきりなしに響く「ナンジャコラワレー!」やら「ヤンノカコラワレー!」といった鳴き声の合間に「ウニャーッ!」だの「フギャーッ!」だのという声が聞こえるようになった。

 

 なにかマズい事態が起きたらすぐに乱入できるよう身構えつつ、その光景を眺めていたフェアリーくんが麗貌に縦皺を刻んでつぶやく。

 

「銀河系一、聞きたくねえ会話」

「あんなもん俺だって聞きたくないよ」

 

 しばらくしてからクラッズさんはオーリ達の元に戻ってきたが、結果はかんばしくなかったようで彼女は静かに首を横に振った。

 

「ダメだね。どうやらあいつらの間では意思疎通が出来てるっぽいけど、解析の取っ掛かりになる単語やイントネーションのサンプルが少なすぎて何言ってんだかまではサッパリ」

 

 どうにもならないとばかりに肩を竦めるクラッズさんだった。

 見た目の印象を裏切らずかなり高いピッチの、それでいてどこか艶っぽさも備えた不思議な声による報告を聞いたオーリは口元に手を当てて息を吐いた。

 

「そっかぁ。ま、あんまし期待もできなかったからしゃあねんだが───って、あんた普通にしゃべれるんじゃねーか!」

 

 食ってかかるオーリから逃れるようにしてクラッズさんは彼氏の影に引っ込み、その様子を見たエルフちゃんが訝しげに訊いてきた。

 

「いきなり大声だして、どうかしたのオーリくん」

「……別に、ちょっとストレスを発散したくなっただけさ」

「あっそ。ンなことより、こいつらどーするよ。わたしの乙女精神注入棒で強めにぶっ叩いて即席治療でもしてみる?」

 

 エルフちゃんが少し前に拾った重戦鎚(ヘビィフレイル)(修正値+7)を取り出すのをオーリは止めに入る。

 

「そりゃダメだろ。暴力沙汰でお縄になっちまってもしらんぞ」

 

 しかし自分達の目的を考えたら、いつまでもこんなとこで立ち往生しているわけにもいかない。

 どーしたもんかとオーリが無い知恵を絞っているところに、聞き慣れぬ声がかけられた。

 

 

「もし、貴方がたはパスキーの受け渡しにいらしたパルタクス学園の学徒さんですか?」

 

 

 雑然と混沌を煮詰めたような場の雰囲気にそぐわぬ穏やかな声に振り返ると、いつの間にそこへいたのだろうか見知らぬ女の子がいた。

 

 青地のブレザーに赤を基調としたチェック柄のスカートというランツレート学院の制服をまとい、歳の頃ならオーリ達より2つ3つほど上で、落ち着いたダークブラウンの髪は軽めのレイヤーボブ。

 温和な顔立ちにはこちらの肩肘を解きほぐすものが備わっていたが、どこ見てんだかイマイチわかりにくい目のせいだろうか不安な印象を残す少女だった。

 

 少女は対峙するアホどもの間に割って入るような形で近寄り、オーリ達に“ぺこり”と一礼した。礼儀作法に明るくない者の目にさえそれとわかる上品な仕草だった。

 

「はじめまして。私はアイラと申しま……」

 

 

『ンダコラテメー!? ヤンノカコラテメー!?』

『ザッケンナコラー! スッゾコラー!?』

『ヤベェヨヤベェヨ!』

 

 

 今だやかましいチンパンサウンドによって名乗りを邪魔された少女───アイラというらしい───は、かすかなため息のようなものを吐き出した。

 

「はい、貴方達は少し大人しくしててください。

 ───魔術 Lv7 全域 核撃(ティルトレイ)

 

 フェアリーくんさえ瞠目するほどの速度で撃ち出された無数の魔法の矢が、情け容赦なく周囲で威嚇しているヤンキー烈風隊の群れを薙ぎ払った。

 

「ではあらためて───私はランツレート学院で生徒会長を務めるアイラと申します。我が校の学徒達が迷惑をかけたようで申し訳ありません」

「アレってやっぱしあんたンとこの学徒だったんかい」

 

 絶望的な顔を見合わせるオーリ達はひとまず無視したアイラ嬢は、おそらく道具袋を入れているらしき腰のポッケから、身の丈に迫るほどにでかい象牙色の戦棍を取り出し、それをすぐ近くで殺虫剤くらった虫みたいな有り様になってるLet'sダチ公へと振り下ろした。

 

「えい」

 

 聞いたものが脱力するような声とともに、直撃をくらった身体が足から腹へと響く重低音とともに地面へめり込む。さらに少女は他の連中にも戦棍を情け容赦なく打ち下ろしていった。

 

 あまりの光景にオーリはたまらず悲鳴を上げた。

 

「うわー!? アンタ何してんだ! 人殺しだぞ、これ!」

「失礼な。誰が人殺しですか」

「あんただよ、アンタのことだよ! 今はっきりと殺っちまったじゃねーか! いくら蘇生ができるつっても犯罪なんだぞ、わかってんのか!?」

「ああ、何を勘違いしたのかと思えばそんなことですか。ご安心なさい、これは彼らの治療の一環なのです」

 

 アイラ嬢は戦棍を仕舞いつつ説明をしてくれた。

 

「我が校の学徒は優秀な人材揃いなのですが、地下道や探索に適応しすぎた悪影響なのか言語機能に著しい減退を見せる者もまた多い」

「それは冒険者、というより人類としてどうなんだ」

「なので先ほど私が行った一連の行動も、彼らを元に戻すために必要なショック療法なわけですね。この地域の方々も慣れたもので、彼らが絡んできたらただちに頭に一撃叩き込んでらっしゃいますし」

「へー、そうなんだ」

 

 これだけの騒ぎを起こしておきながら周囲の人々が無関心な理由に納得がいった。いや、とても納得できるようなもんじゃないけど納得することにした。

 つまりここらの住人にとって、先の全盛期刃森尊どもがオーリ達へ絡んだことも、魔法やら鈍器でボコ殴りにされるのも、アクビが出るくらい当たり前の日常として定着しきってるわけだ。イヤな日常もあったもんだが。

 

「……でも死んじゃったらどーするんですか」

「我が校の学徒にこれくらいで死ぬ軟弱者はいません。それが証拠に───ほら、ごらんなさい」

 

 アイラ会長がそう言ったところで足元でぶっ倒れていた連中が立ち上がった。

 

「うーん、ここは一体……おや、誰かと思えばアイラ会長。お久しぶりですね」

「はい、お久しぶりです。もっとも私は貴方が誰なのかも存じませんが」

「ははは、相変わらず手厳しい。うん? お隣にいるのはもしやパルタクス学園の方ですか。はじめまして」

「左様です。一応、私達にとっての後輩ということになるのですかね」

 

 そのやり取りを見ていたオーリが不審と不信のカクテルめいた顔と声とでアイラ会長に訊ねた。

 

「誰ですか、これ」

「誰も何も、先ほどまで貴方たちが相手してた世紀末や、ダイナミックプロな人々ですが。言ったでしょう、さっきの攻撃は彼らを元に戻すためのものだと」

「……口調はともかく、いつの間にか風体や服装まで変わっちゃってますぜ」

 

 オーリの指摘した通り、先ほどまでのトゲトゲ肩パッドや改造制服はどこへやら。元・番長連合達は今やピシっと糊の効いたシワひとつない制服姿に、髪型もメリハリのある七三分けやナチュラルマッシュという、いかにも快活な学徒然としたものへ変わっていた(さっきの魔法やボコ殴りのせいでちょっとホコリは被ってるが)。

 

「だらしない人がキチンとしたお仕事に就くことで私生活までキチンとなる現象ってあるじゃないですか。アレと同じようなもんです」

「そんなんで納得すると思ってんすか」

「納得してください、できなくとも私の知ったことではないのですが」

 

 オーリの疑問を澄まし顔で流したアイラ会長が、人類の在るべき姿を取り戻した学徒達に二言三言、なにがしかを伝えると、彼らは会長とオーリ達に軽い礼をとってから揃ってポータルへと消えていった。

 

 狐につままれたような気分でそれを見送るオーリに、懐から何かを取り出してアイラ会長が話しかけた。

 

「さて、面倒な回り道になりましたが、本来の目的を済ませてしまいましょうか。こちらがパスキーです、お受け取りください」

 

   ◇

 

 貰うもんも貰ったので、オーリ達はこの場を後にすることにした。

 

 するとアイラ会長が不思議そうに訊ねてきた。

 

「おや、もうお帰りですか」

「……ええ、会長さんのお時間をとらせるわけにもいきませんし」

「デリカシーの欠片も備わっていなさそうな見た目の割に殊勝なことですね。しかし私のことは気にせずともいいのですよ」

「そういうわけにもいかんでしょう」

 

 俺もうこれ以上、あんたらに関わりたくないんで。喉まで出かかった余計な一言をギリギリのところで抑え込み、ポータルに向かおうとしたオーリの左手首をアイラ会長が“ぎゅう”と握った。か細い手指からは想像もつかない、万力のような強さで。

 

「……えーっと、何か御用でしょうか」

 

 会長さんは応えず“じー”と、やはりどこ見てるのかも解らぬ目でこちらを見つめるばかり。

 

「じー」

「いや、声に出されても」

 

 思わず突っ込みを入れるオーリを無視してアイラ会長は言う。

 

「私はまだ時間があるのですが」

 

 どないせえちゅーんじゃ。オーリは仲間達に助けを求めた。

 

「ねえ、どーしよ」

 

 オーリと似たような顔をしたエルフちゃんが肩をすくめた。

 

「流れ的にお茶にでも誘って話でもしてあげたらいんじゃね」

「言うてもなんの話すりゃいいのさ。今日の天気?」

 

 2人の会話にアイラ会長が割って入る。つくづく我を通したがるというか強引な女である。

 

「どのようなものでも構いませんよ。ただ人の声が聞きたいだけなので、つまらなくても我慢はします。そも今日初めて会っただけの貴方達に、期待も失望もできたものではないでしょうに」

「……さいですか。でしたらお茶でもご一緒にいかがです」

「おや、仮にも歳上相手にナンパとはやりますね。無害そうな顔と雰囲気は釣り針だったのですか」

「…………」

 

 アイラ会長は不思議そうな面持ちで小首を傾げた。フリではなく本当にわかっていないらしい。

 

「どうかしましたか。ほねっこと騙されて木の根っこでもかじらされた、頭の足りない犬みたいな顔をなさってますが」

「……お気になさらず。元からこんなですから」

「そうですか。珍妙な顔に産まれると難儀ですね。それなりの美少女として生を受けたらしい私にはよく解らない話ですが強く生きてください」

「もしかして俺……なんぞ嫌われたり失礼な物言いでもしちゃいましたか?」

 

 少なからず凹みながらオーリが訊くと、アイラ会長は首を静かに横へと振った。

 

「そういうわけではありません。貴方が生まれつき変な顔であるように、私も生まれつき嘘をつけずこんな口調でしか話せないってだけです」

「やっぱ冒険者学校っておかしなやつかバカタレしかいないんですね」

 

 おかしなバカタレの一匹が瞑目して嘆いた。

 

   ◇

 

 その後、オーリ達はアイラ会長を誘い近くのオープンカフェでおしゃべりをした。

 とは云ってもオーリ達が一方的に話をして、アイラ嬢は相槌を打つでもなく人形のように微動だにせぬまま、ただひたすら聞きに徹するだけという形であったが。

 

 小一時間ばかりしたところで奇妙なおしゃべりに満足したのか、アイラ会長は伝票を手にして立ち上がった。

 

「特に良いわけでもないですが罵るほど悪くはなかったですよ。どれだけしょうもないものであったとしても、人類の言葉で話すのは良いものですね」

「言葉のキャッチボールもなく、ただひたすら一方がしゃべるだけというのを会話とか話すと言っていいものか」

 

 疲れたようにコーヒーカップを手にするオーリへと、会長は初めに顔を合わせたときのように優雅な一礼をした。

 

「そろそろ私は失礼させていただきます。我が校にいらしたときはぜひとも私のところか生徒会室にお立ち寄りください」

「はい、ありがとうございます。───絶対に近寄らねえからな」

 

   ◇

 

 オーリ達の分も会計を済ませ、カフェーを後にするアイラ会長を見送ったオーリはなんとも言いにくい顔でフェアリーくんと顔を見合わせた。

 

「変な人だったね」

「なに言ってやがる。ここで出会った連中が軒並み変だったろ」

「そりゃあね。でもあんな珍妙な連中に囲まれて生徒会長をする毎日なんて過ごしてたら、ストレス青天井でおかしゅうなるのもしゃあないのかも」

「もう終わったことだし、これ以上は関わらねえんだからどうでもいいさ。それよりこの後はどーするよ。パスキーも手に入ったし、予定通り新しい地下道の様子見に行くんか」

 

 オーリはやや惜しそうに首を横へと振った。

 

「そうしたいのは山々だけど、変なのを相手にして無駄に疲れるわ時間を取られるわでケチが付いた。今日のところは大人しく帰るとしよう」




 クソガキの懐にも優しいベラボーマンと源平討魔伝にゃお世話になったもんよ
 帰省したついでに覗いてみたら駄菓子屋もろともで撤去されてたけどな




 あとランツレート学院の連中は野生に戻ることで脳ミソのリソースをコードライザーとしての部分に回せる。その結果として精神面に引っ張られる形で風体の入れ替わり現象(Code-Realize)が起こせるらしいよ
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