古代の神秘と叡智が眠りし迷宮を、知恵と勇気を武器にして踏破する冒険者達あらため血と暴力の荒野をひた走るがごときToughなboy達との邂逅、ついでに袋叩きの翌日。
気分転換とキー情報の更新を終えたオーリ達は新たに解放された〈ハウラー地下道〉の攻略を開始した。
ホルデア山脈を経由してパトル地下道に入り、そこからオーリの長転移によるショートカットでさくっとハウラー湖の中継地点まで到着。
そこからポータルを乗り換えようとしたところで、またもや嗚呼!!花の応援団な連中が絡んできたが、前回のアイラ嬢がやってた“治療法”を参考にしたオーリが間髪いれずに叩き込んだLv7核撃でもって事なきを得た。
ポータルの敷設された広場に転がるバカタレども(なぜか既視感のある景色だ)を眺め回したオーリは口元をへの字に曲げる。
「魔法一発分、損しちゃった」
「どうせ今日は様子見でお茶濁すんだし、それにおまえは魔力回復あるんだからいーじゃん」
「まあ、そうなんだけどさあ。なーんか納得いかねえー」
相方の慰めに頷きを返してオーリはポータルを起動した。
◇
今回から探索するハウラー地下道はハウラー湖とザスキア氷河までを繋ぐ地下道だ。
全スレッド数は5。出現するエネミーもこれまでの探索でしっかりとレベルを上げ、装備を整えたパーティにとってはさしたる脅威とはならないが、内部の構造や仕掛けられたトラップの厄介さはこれまでの比ではない。
地下道に侵入したオーリは早速、補助魔法をかけた。魔術から超術に到るまで、扱うだけならこいつはおよそ全ての魔法を修めている。
先の転移もだが、パーティにおける補助や通常接敵での攻撃・回復の魔法はオーリの担当である。レベルや熟練による補正だけならフェアリーくんに任せたがいいのだが、彼には厄介な相手に出くわした時の火力や万が一の事態が起きた際には持ち前の超高速詠唱による立て直しの役割が求められるので、余計なところで魔力を浪費させるわけにはいかない。
準備ができたところでオーリ達は探索を開始した。
水先案内人のクラッズさんを先頭に、いつもの隊列でゆっくりと地下道を進んでいく。
のだが───
「ぬ」
ポータルが設置された近辺を接敵もこなしながら隅々まで調べ、水路のように伸びた水場が隣接する長い通路状の区画に出たところで、オーリは苦手な野菜を口にしたクソガキのような顔をした。
先ほどまで数区画先まで見えていた視界は狭まり、補助魔法によって得られた羽のような身の軽さも引っ剥がされてしまう。
オーリは左隣に浮かぶ相方と視線を交わした。
「これって……」
「ああ、
読んで字のごとく魔法が使えなくなり、事前にかけていた魔法の効果まで消去されるという魔法使いにとっての鬼門。
嫌な予感がしたので何区画か移動した後でもう一度、魔法を試したのだがうんともすんとも言わずじまいときた。
「どうやらこの道すべてが同じような禁止区域らしい。そっちの水場はどうだろ」
オーリの目配せに応えたクラッズさんは道具袋から長さ10フィートの棒を取り出して水の中に突っ込んだ。
棒はずぶりと手元近くまで沈みなお手応えをみせない。どうやら
オーリは水場の区画に入り、数歩ほどを歩いたところで明かりの魔法を唱えた。チョイ前に入手した〈天使のカフス〉のお陰で浮遊の魔法なしでも無問題だ。
「聖術 Lv3 パーティ
魔法は問題なく起動し、先ほどと同じく数区画先まで見通せるようになった。
オーリはパーティの面々に断りを入れ、水場がどこまで続くかの確認をするために歩き出す。効果がモンスターにも及ぶのか、即死水域の上では接敵するということがないので単独行でも問題はない。
即死水域はスレッドの東西をほぼ端から端までまっすぐに突っ切っているらしかった。
“水路”を北に進んだ向こうにはまた通路状に並ぶ区画があり、そこに侵入すると魔法は消えてしまった。
「ふーむ……このスレッドの特徴がわかってきたぞ」
パーティと合流したオーリはあらためて東西を通路状に横切る地面部分を探索し、その後、書き込んだマップに目を通した。
「通路状の区画はすべて魔法禁止区域、水路状の区画は即死水域だが魔法は使えて、この2つが交互に並んでいるのが基本の構造。で、先に進むためには〈浮遊〉の魔法を使う必要があるのだけれど……その魔法を使える場所はない」
スレッドの両端には
これは地形ではなく空間そのものに作用して侵入者を終点まで強制移動させるという、転移区画の亜種みたいなものなので、エスカレーターを逆走するよいこのクソガキよろしく移動に逆らっても無駄である。
移動区画の終点は魔法禁止区域の手前に設定されているので、乗っかったら魔法をキャンセルされるのに変わりはない。
ここまでの話を聞いたエルフちゃんが柳眉を寄せた。
「それじゃ手詰まりってこと? ここは後回しにするしかないのかな」
「うんにゃ。それはない」
地下道てのは不思議なもんで、仕掛けられたトラップや地形は陰険性悪なものばかりなくせに、“定められた手順を踏めば必ず先に進める”ように出来てはいるのだ。
「だからこのスレッドも、どこかしらに通る方法はあるはずなんだ」
自分に言い聞かせるようにつぶやいたオーリは書き記したマップを指でなぞり、何か引っかかる部分がないかを探した。
すると通路の形で構成されたマップの一部、真ん中のあたりに壁で区切られた『部屋状の区画』が存在しているのがわかった。
「ここに行ってみよう」
少しして到着した『部屋』は東西に扉のある出入り口があり、北側は壁のない開けっ放しで、オーリ達が侵入したポータルが設置されている側に向けて壁のある凹型をしていた。
オーリは再び魔法を唱える。
「───聖術 Lv1 パーティ
言いながらオーリはマップに新しい情報を書き加えた。
「よしよし、わかったぞ。つまりこの通常区画で魔法を使って水場を越えて、次の通路でまた同じような魔法が使える区画を見つけて……。これを繰り返しながら奥に進むんだ」
その度にいちいち魔法をかけ直す必要があるわけだが、これで先に進むための道が見えてきた。
話を聞いたエルフちゃんが「うわ、めんどくさっ」と口にした。気持ちはわかる。しかもこいつらのように魔法のストックに余裕があるパーティはともかく、普通の編成ではどうしても途中でLv2帯の魔力が尽きて引き返す羽目になっちまうだろうし。
「スレッドの
言葉を切ったオーリはバハムーンくんへ顔を向けた。
「すまんけど、あんたと彼女さんはここで待機してくれんかね。魔法抜きに水域巡りが出来るメンツで安全を確保したい」
アイテムと自前で飛べるのが合計4人、構成も前衛と後衛でそれぞれ2人ずつでバランスもいいのだし、仮に接敵しちまっても苦戦はしないだろう。
それを聞いたバハムーンくんが訝しそうに聞き返してくる。
「なんでまた。何度も魔法をかけ直すのが面倒とか言うんじゃないだろうな」
「そういう部分がないでもないが……ただそれ以上に怖いのが、即死水域に魔法禁止区域が混じってないかってことなんよ」
対処もなしに侵入したら死亡確定の複合型陰険区画。今のところ出くわしたことはないが、今日がその日でないと誰が保証してくれる。
「考えすぎじゃねえのか。多少、攻略の難度は上がったかもだが、ここだって地下道の数考えりゃ序盤もいいとこだ」
「かもしれない。でも少しの油断で容赦なく命を刈られるのが地下道さ。無駄な用心だけなら後で臆病を笑えばいいけれど、怪我した死んだはちょっと笑えないよ」
最後に残った虎の子の
彼らの懐の温もりは同級生連中に比してかなりお高いものではあるが、それでも死の冷たさにさえ抗するとまではいかないのだ。
話を聞いたバハムーンくんは「わかった」と頷き、その場にどっかと腰を下ろした。あぐらをかく丸太のような足のスペースに、すかさずクラッズさんが潜り込み丸くなる。
「じゃあ俺達はここで大人しく留守番してるよ。お前ら、気を付けてな」
「おーう。ま、半分まで行って危険が無いのさえ確認できりゃすぐに引き返すわけだしそこまで待たせんよ」
「俺としては多少、待たされても文句は言わんぜ。こんな場所で彼女と二人きりてのも悪いもんじゃあないし」
「さよけ」
いい空気になったあたりで戻れるようにすっかな。地図に現在地の書き込みをしたオーリ達は、バハムーンくんの見送りを受けて変則的探索に移った。