男子冒険者学校生の日常   作:puripoti

67 / 76
第67層 帰ってきたブレードカシナート

 休憩を終えたオーリ達はスレッドの残り半分の探索を再開した。

 

 通常編成に戻ったことで不意討ちの心配もなく、魔法禁止区域で大量のモンスターとかち合おうともセレスティアさんの斬り込みとバハムーンくんのブレスによる早期駆除ができることもあり、探索は前半の苦労は何だったのかと思えるほどに呆気なく終わった。

 

 早回しが出来たお陰か、宝箱もドロップアイテムもぼちぼち良い物にありつけた。

 

「銀だけでなく金素材(マテリアルゴールド)まで手に入るとは思わなんだ」

 

 女子二人の手の中で煌き輝く、握りこぶし大の貴金属を眺めながらオーリは満足そうに肩を揉んだ。

 その内の一匹、エルフちゃんは恵比寿様の親戚みたいな“ほくほく”顔で金塊に頬ずりをしている。

 

一攫千金(いっかくせんきん)とはこのことだね。早く戻ってお金に変えちゃおうよ」

「山賊に撃たれたハリー・ラックばりに金の夢を見てるとこへ水ぶっかけるようで悪いんだけどそりゃあ無理だ」

「なんでだよお」

 

 エルフちゃんの顔が七福神から山婆のそれに変わった。

 

「授業で習ったろ。この手の貴金属は冒険者間でのみ取り引きをするもんだ。それ以外じゃ流通からお値段決定までを元締めにガッチリ握られてっから、クチなりコネなりがあるでもない俺らが持ち込んだとこで買い叩かれるのがオチよ」

 

 建前上、冒険者が地下道で入手する貴金属類は市場へ流通しない。買い取られた品にしたところで、大半は火山にでも捨てるか必要な場面が来るまで死蔵されるかである。

 無論、腐っても金銀であるからしてちょっとした小遣い程度にはなるが、斬った張ったの見返りとしては割に合わぬ額とならざるをえない。

 

 なぜかくもぞんざいな扱いになるのかと言えば、ひとえに冒険者どもの入手する量が市場や相場、連動する経済全てを破壊しかねないからに尽きる。それを防ぐための措置として売買に関する制限が設けられているわけだ。

 

 とはいえ隙あらばアホな行為に手を染めるのが冒険者のみならぬ人のサガ。全員が律儀にルールを守るわけもなく、裏や闇ルートで流そうとする不心得者もいるにはいる。ただしそういう手合いほど脇も甘けりゃ用心も足りないときたもので、大半はアッサリと露見して小銭と引き換えに信用を失う結果にのみ終わるのだが。

 

「えぇー、じゃあ持ち腐れかよおー」

「ンな顔しなさんなよ。代わりといっちゃなんだが、こいつをタネにして新しい装備を合成できるんだ。それでガンガン狩りをすればよろしい」

 

 出来た装備が気に入らなきゃ売っ払うのもいいかもしれんねと言いながら、オーリはセレスティアさんから銀塊を受け取った。

 

 錬金術で装備品を合成する場合、まず基本材料となる〈がらくた〉にその破損コードを補うための〈合成素材〉が必要となるのだが、高レベルのアイテムともなれば補完のためのコードも複雑化するのでより高度な素材を複数、要求されることがままある。

 

「金はしらんがこの量の銀なら〈カシナートの剣〉を合成するのに足りるよ。きみらさえよけりゃ先輩のとこで合成してもらうのはどーね?」

 

 例に挙げた品だと大元の材料となる〈回転式泡立て器〉に鉄素材がいくらか、ついでに銀素材(MTシルバー)によって合成が可能となる。

 しかしオーリの説明を聞いたエルフちゃんは細く整えられた眉を微妙な形に寄せた。

 

「ああ、全裸徘徊打ち首オヤジソード(第30層参照)」

「天下の名剣に失礼なあだ名つけんなや」

 

 イヤな顔するオーリをいなしたエルフちゃん達は、すっかり手に馴染んだ得物の腹や柄を指で軽く叩いた。

 

「アレを使うくらいなら、わたしは今のままのでいいかなあ。これ(バルキリアス)、けっこー気に入ってんだよね」

「同じく。天使的には見た目にだってこだわりたい」

 

 両刃槍はともかく死霊のはらわたごっこにしか使えなさそうなキテレツ武器を使ってるやつがよう言うた。無言のまま唇を尖らせたオーリは残ったバハムーンくんに目をやるが、

 

「あー……俺もちょっと遠慮したいかなあ……。いや、伝え聞く性能に文句があるわけじゃないんだが、なあ……」

 

 そういや最近の彼は防御専用の盾と打撃盾の二刀流だったな。イマイチ乗り気ではなさそうな声にオーリは頭を振るしかない。

 

「ワガママな連中め」

「オーリくんは扱う当事者じゃないからそんなことが言えるんだ。他人事だと思っちゃってさ」

「だが強力なのには違いないぜ。見てくれが多少、悪かろうがスペックに問題がないなら使うべきだ」

「じゃあさ、例えばだけどアレを渡されたとして、きみは喜んで使えるの?」

「何が嬉しゅうてあんなバカみてぇな得物を振り回さにゃならんのだ」

「ダメじゃん」

 

 仲間達のなじるような視線にオーリは何も言い返せなかった。

 

   ◇

 

 引き続きハウラー地下道のR1スレッドを探索し尽くしたオーリ達はポータルを使ってR2スレッドへ移動した。

 

 Lv1魔術〈開示(マピック)〉という、ターミナルに接続して現在位置および踏破状況を調べることができる魔法により、侵入したマップを確認したオーリは喜色をあらわにした。

 

「お、ここにきてツキが巡ってきたぞ。23番マップだ」

 

 隅から隅まで踏破したスレッドな上、ショートカットキーも解放済みなので東側へ数区画ほどを移動しただけでポータルに到着できる。

 そして次のスレッドはマップが固定されたC層なので、今日のところはポータルをくぐってマーキング(座標把握)だけしておけば、次の探索では長転移を使い道中を省ける寸法ってわけだ。

 

 早速、ポータルの設置された区画まで移動した一行はC層に侵入。ポータル近辺の区画を軽くうろつき回り、何度かの接敵を経て出現するエネミーの強さを測ってからトンボ返りでR2スレッドに戻った。

 

 ポータル脇のターミナルを起動し、学園までの直帰を入力したオーリは仲間達に言った。

 

「ひとまず、今日はこれで切り上げだ。みんなご苦労さん」

 

   ◇

 

 パルタクス学園に戻ったオーリ達は、相変わらず広場中に転がる邪魔な半死人を端っこに蹴っ飛ばしたり転がしたり、余った回復魔法を売りつけたりしてから装備を道具袋に仕舞い事務棟へと向った。

 晩ご飯までにはまだ時間があったのと今後の予定を決めるためのミーティングがてら、以前にも借りた空き教室を使って皆で駄弁って過ごそうというわけだ。

 

「う……さすがにもうこの時間帯だと冷えるな」

 

 広場から出て運動場を突っ切る途中、体を撫でる風の思いもよらぬ冷たさにフェアリーくんが身を震わせた。

 

「大丈夫かい、袖無し外套(ケープ)くらい羽織っといたがよかろ」

 

 オーリの労るような声へと(こいつにしては珍しい)、フェアリーくんは素直に頷いて道具袋から上着を取り出した。

 

「そうするよ。学徒とはいえ冒険者の端くれが風邪ひいたじゃあ格好もつかねえ」

「もうちょいしたら冷たい飲み物も売れんくなりそうだし、そろそろ屋台で温かい物でも扱おうかな? 魔法を使えばホットレモネード作るくらいは簡単だけど」

 

 レモンとお砂糖、炭酸水で作ったレモネード売りの屋台はこいつが休日にこなすバイトのひとつなのだ。

 単純な稼ぎとしてだけなら普通に探索でもしてたがいいのだが、休みであろうと何かしないでは落ち着かぬ生来の貧乏性ゆえである。

 

「いいな、それ。試作品ができたら味見してやるよ」

「でも飲み物だけじゃ稼ぎも品揃えも寂しいからなあ。なんぞ新しい品を用意したいもんだが、どこで仕入れたもんか」

「自分で作ればいいじゃん」

「俺ぁ人に振る舞えるようなお料理なんかできません」

 

 学園にも家庭科の授業はあるのだが、そこで学べるのは基礎の栄養学だのキャンプでの簡便な料理だの、遭難時における食料の切り詰め方だの食べられる野草の見分け方等であって、一般的な料理とは程遠い。

 

「それならいっそ俺らの料理研究会に入ってみないか」

 

 二人のやり取りにバハムーンくんが混じってきた。前にも述べたがこの少年、文芸部と彼女の付き添いによる料理研究会とのかけもちなのだ。

 他の同級生とは一線を画すガタイや精悍な風貌に反しかなりのインドア派であるらしく、探索や前衛職としての筋トレ以外だともっぱら部室や調理実習室で鍋包丁や原稿用紙との取っ組み合いに明け暮れるのが彼であった。

 

 なお部で発行してる同人誌に、彼が寄稿した自由律俳句集『殺人モグラえれじい』は中々の好評を博したとのことらしい。

 

「お前まだ部活やサークルに入ってないんだろ。いくら冒険者の卵でもせっかくの学校生活が地下道巡りとバイトだけで埋まるのはもったいないぜ」

 

 ずいぶんと熱心に勧めるのを不思議に思ったオーリがそのことを訊ねると、バハムーンくんは目を泳がせ、

 

「いやその……彼女の付き添いで入部したはいいけど、他に男子の部員がいないもんだから肩身が狭くてさ……」

「ほんにあんたは図体の割にシャイよな」

「図体は関係ないだろ、ほっといてくれ。───それより、どうよ? 悪い話じゃないと思うんだが」

「おーう、まあいいぜ。女の子に囲まれてお料理習えるってんなら願ったりかなったりだ」

 

 色良い返事をもらったバハムーンくんは破顔した。そんなに居心地が悪かったのだろうか。

 

「じゃあ決まりだな。ちょうど事務棟に行くんだし、ついでに入部申請もしちまおうや」

 

 せやな、と頷くオーリの袖を何者かが引っ張った。

 振り返るとなんだか面白くなさそうなエルフちゃんと目が合った。

 

「きみはウチの部に入ってわたしを甲子園に連れてってくれるんじゃないのかよー」

「言った記憶がねえし、あだち充先生のファンに怒られちまうぞ。それにオメーはバスケ部員じゃろがい」

「バスケもあんだよ甲子園が。しらねーのかよー」

「水島新司先生にも祟られて千本ノックの呪いを受けちまえばいいんだ」

 

   ◇

 

 事務棟へ向かう道中、中庭を抜けようとしたところで妙なものを見かけたオーリ達は立ち止まった。

 

「……あー? 何してんだ、あいつ」

 

 訝しむオーリの視線の先ではフェルパーの少年が一人、中庭の片隅に座り込んで熱心に何かをこしらえていた。

 

 彼はオーリのクラスメイトだった。

 地元ではそこそこ歴史ある商家の生まれらしきかの少年、新学期に入ってから少ししたところで〈錬金術師(上級職)〉に転科しただけあり、冒険者(の卵)としての腕も頭も決して悪くないのだが、ときたま思い出したかのように突拍子もない発明やら愚にもつかない商売を考案してはその都度、痛い目に遭うのを繰り返す変人として知られている。

 

 少し前にも彼が開発した『カシナートの剣真改』(人間サイズのクソデカ大根おろし器)の失敗は記憶に新しい。

 そんな自称・未来の大商人兼発明王へと、よせばいいのにオーリは足を運んだ。

 

「よう。探索にも行かず何してんだお前さん」

「誰かと思えば、オーリかよ。忙しいんだから邪魔すんなよなあ」

「別に邪魔なんてしねーよ、関わりたくもないし。───それよりまたぞろ妙なもんを作ってんね。なんだい、そりゃあ」

 

 少年が手にする、竹製の長い棒へ靴が乗っかるくらいの大きさの横木をくっつけた謎物品を不思議そうにオーリは指差す。

 彼の横っちょには完成品だろうか、いくつもの同じ品が転がっていた。

 

 少年は得意げに鼻を鳴らし、

 

「おーう、よくぞ聞いてくれたな。こいつぁ『タケウマ』つーてな、俺っちの故郷の遊び道具なんよ」

 

 棒の上部を握って横木に足を乗せ、バランスを取りながら歩いて遊ぶんだそうな。

 

「ふーん。そんなもん大量に作ってどうすんのさ。まさか郷愁にかられてとか言い出さんよな」

「バカ言うな。これはれっきとしたビジネス、しかもこれから先の冒険者界隈に衝撃をもたらすであろう画期的な商売のネタさ」

「うん?」

 

 またバカみてぇなことを言い出したぞ、こいつ。しかめる手前にまでひそめられたオーリの眉を気にすることなく少年は話を続ける。

 

「お前らさ、探索中のマップに即死水域や漏電床があったら今までどーしてたよ」

「そりゃ浮遊の魔法(レビフェイト)を使うに決まっとろーが」

「だろうな。だがそこに魔法禁止区域があったらどうする?」

「今ンとこ出くわしちゃおらんが、まあ、そん時はアイテム頼みになるだろうな」

 

 数を揃えられてない現状じゃあ、ないものねだりだけどさ。そのように語ると少年は我が意を得たりとばかりに口の端を上げた。

 

「だけどそういうアイテムは滅多なことじゃお目にかかれないし、お店に並んでいたとこで有用な効果に比例して高値をふっかけられるから手が届きにくい。───そうだよな?」

「まあ……そうだろうね」

 

 オーリは言葉を濁す。とはいえこいつのパーティは自前で飛べるやつがいるのと、これまでの商い等の成果があるのであと2つを確保すればいいから気楽なものだが。

 

「そこで愚鈍なお前らとはひと味もふた味も違う、俺っちの天才的頭脳がひらめいたってワケ。要は水やトラップ地帯に触れさえしなけりゃいいんだから、このタケウマ使って即止水域はじめとした危険地帯を乗り越えりゃいいんだってな」

「……あー?」

 

 思いもよらぬトンチキな話を聞かされたオーリ達は、砂抜きされてない貝料理でも口にしたような顔になった。

 

「この頼りない道具、とも言えないオモチャで地下道うろつき回ろうってのか」

「おうともさ。今までは独占状態にあぐらをかいた一部既得権益層による搾取がまかり通っていたが、もうそんな時代じゃあない。俺の画期的ひらめきと発明が世界を変えるのだ。……これは冒険者業界における流通と価格破壊の革命的先駆けになるぞぉ」

 

 ぐふふ、と気色の悪い含み笑いをする少年へと、オーリの疲れたような声が飛ぶ。

 

「お前、モンスターに脳ミソかじられたか妙なもんでも拾い食いしたんちゃうか」

「ふん、必死こいてレベルを上げようとも所詮はそれがお前の限界さ。大元が粗末な脳ミソじゃあ、いくら経験値を積もうが俺様の画期的アイデアを理解できやしないのだ」

「粗末なんちゃらに関しては否定しないけどさあ、それはやめとけって。悪いことは言わないから稼ぎたいなら素直に地下道に行くか、さもなきゃ合成屋でもしてなさいよ」

 

 こんなのでも一応はクラスメイトなこともあり忠告をするオーリだったが、生憎とそれは届かないようだった。少年は嘆かわしいとばかりに頭を振り、

 

「ふっ、お前の気持ちはわかるぜ……。自分では到底、思い付きもできない素晴らしいアイデアへの嫉妬だろ。だが俺は海より深淵で空より澄み切った懐でもって許そう。なにせお前らがクエストでちまちま稼ぐ間に、俺はこの天才にしか成し得ぬ商売を足がかりとして新たなるステージに行ってしまうのだから……さらばだ、凡人諸君」

 

「こりゃあ重症だな。つける薬はどこ行きゃ処方してもらえんだ」

 

 嘲弄と自画自賛のカクテルに悪酔いしながら、タケウマ作りに勤しむ少年をどのようにしたものかで頭を抱えるオーリの腕を、フェアリーくんが少し強めに肘でつついた。

 

「なあ大丈夫かこれ。気絶するまでぶん殴ってから保健室に放り込んどいたがよくねーか」

「俺もそうしたいんだけどね、保健委員の人達も忙しいんだから余計な仕事を持ち込みたくないんだよね」

 

 急性の歯痛でも患ったような少年達へ、取らぬ狸の皮算用に笑いの止まらぬバカタレの嘲笑があびせられた。

 

「くくく、凡愚どものやっかみが耳に心地よいわ。ま、俺がしこたま儲けたら超分厚い札束でその貧相な頬っぺたをビンタしてやっからな。精々、今のうちに悔しさで歯ぎしりする準備をしておくといいぜ!」

 

 

 …………

 

 

 数日後───

 

 新しい地下道の探索が一段落して余裕が出てきたこともあり、オーリ達はいくらかのクエストを受けることにした。

 

 その内のひとつ、保健委員会からの依頼による遭難者の救助および死体回収を任された彼らは、大気循環スレッド(浅水域と即止水域がマップの大半を占めるスレッド)の一角で回収対象のバカタレを発見した。

 

「さてとこのバカどうしてくれようか」

 

 タケウマとやらと一緒に汚い昆布のごとく水場を漂う土左衛門を、オーリは忌々しげに足で小突いた。




 6月ちょい前に黄泉華の続編とな。これきっかけにチームラ作品で二次創作やる人が増えねえかなあ。ととモノ。二次でもいいけどさあ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。