このアホとバカタレが右往左往する世界における『神様』といえば、やはり生命そのものを創造し惑星エンパイアにばら撒き今日の世界を形作った
というよりも現代で彼女らの存在を知ってるやつなんざ、
『“みかど”も“こじき”も死ねば土』とは現大陸とはまた別のところで生まれた詩人がものした一節ではあるが、それは神様という存在にも当てはまるというわけだ。神様がいようがいまいが、誰も知らなきゃ打ち捨てられるか忘れられるしかなく。
では彼らに『信仰心』がないのかといえば、一概にそうとも言い切れない。
少なくともオーリ達、現生人類が棲息する大陸においてはよほどのひねくれ者か性根の曲がった輩でもないかぎり、近所のよくわからないお地蔵様やらお稲荷様やら道祖神様やらそれっぽい石ころやらを拝むくらいには信心を持っているし、もう少し気の利いた連中なら好きな宗教に入信したりでっちあげたりでめいめいに祀られた神様なり教えなりを信じて敬っている。
例えばパルタクス学園に限れば、あちこちに不気味なオリジナル地蔵様を違法設置しては風紀委員にボコされ埋められてる邪宗門、エイの見た目したサメの神様を祀ってる教団(ほとんど無害なのでこっちは見逃されている)などが有名だ。
人と地域ごとに千差万別の信仰もあれば、教えが形となった(あるいは象徴としての)宗教もある。
それらが正しく熱意熱心をもって純粋な信心となり───カッパの屁よりも価値のない代物へ注がれているだけの話なのだ。
実在どころか現代においてなおいや高きところにて君臨する神をないがしろにし、その一方でありもしない『神』の名のもとに宗教を興し崇め奉る。矛盾というべきか、はたまたバチあたりとでもいうべきであろうか。
しかしそれを決めるのとて所詮は人の狭量な観念が生んだ泡沫である。当の神様にしてみりゃどうでもよいことなのかもしれぬ。
かつてパルタクス学園のある教師がアホ学徒の一匹へ語ったように、本来の〈神〉とは存在も認識も、およそ人が考えつくような概念の全てから逸脱し隔絶した、文字通りの“人知及ばぬ領域”に到達したなんかを指すのであって、その考えや感情(類するものがあればだが。あるのか?)を人のそれで測ることこそがおこがましきバチあたりにほかならぬとは思わないか。
…………。
身も蓋もない話をするなら、
目にも入らぬ世界の裏側を惨めったらしく這いずる心底どうでもいい虫や木っ端が何を崇めようと忌避しようと、
そんなもん気に留めるやつはいねえのだ。
◇
オーリ達がアーカイブからダウンロードしたのは、過去に存在していたある宗教組織の興亡とその顛末についての記録だった。
現代における宗教といえば、冠婚葬祭の時期にありがてぇ寺やありがてぇ教会に足運ぶか、ありがてぇ坊様に来てもらうかして、ありがてぇ祝詞読経説法説教してもらう程度のありがてぇ扱いであるが、聖術が今ほど一般的でなかった時代における宗教ないしその端末組織である教会や寺院とは、病や怪我に苦しむ衆生を癒す医療施設の他、出生時の祝福や洗礼を通じた戸籍管理から暮らしに関する相談に死者の埋葬など、文字通りに揺りかごから墓場までカバーする地域コミュニティの元締めとでも云うべき存在であった。
ゆえに〈教会〉は広く深く人と世の生活と習慣とに食い込み、また人類の生息地域や数の拡大にともない増える仕事に対応すべく組織も手足を拡充、時にその権威権勢は為政者のそれさえ上回り、最盛期には立法司法行政すら含む様々な業務を請け負うようになったとかなんとか(現在の統治機構においても当時から培われたノウハウを流用しているところは多い)。
これに拍車をかけたのが他ならぬ〈迷宮〉の出現およびその有用性への認識、そして冒険者の存在である。
迷宮から得られる資源の獲得は、なにも冒険者だけの専売特許というわけではない。
古き時代においても迷宮資源の採掘は重要な財源であったし、それが民草の賦役として数えていたところも珍しくはない。
当然、教会も自分の抱える戦力───主に僧侶等の回復要員の他、後に〈
なにせ現代においては多少のイメージアップが成功したとはいえ、大昔の冒険者といえば家を継ぐこともできなきゃなんぞ商売をする才覚もない三男坊とか庶子、下手をすりゃ出生時の祝福にかかる費用さえ捻出できない貧乏人のガキとかいうお先もなにもあったもんじゃねえ連中である。多少の足元を見ようがそれで路頭に迷おうが文句など出ようもないし、出たところで黙殺すればいいのだからボロい商いだ。
とはいえ本来なら世俗や欲得とは切り離されてしかるべき組織、いやさ人が身の丈に合わぬ権勢を手にしたところで良い結果を産むとはならぬもので。
組織の肥大に伴い設立の理念も当初のものから大幅に逸脱の末、宗教の本来的部分(衆生の救済、教え、悟りに到る修行等々)を無視して世における権限や利権を無秩序に囲い込み変質していくのはごく自然の成り行きであったとさえ云える。
冒険者を志す少年少女達が受け取ったのは、今は名前さえ記録から消されたとある宗教組織が崩壊したきっかけと、そこから始まる一連の出来事について詳細に再現した仮想体験とでもいうべきものであった。
◇
その日、ある冒険者達のパーティからたまたま死人が出て、たまたま蘇生に失敗して
ほんでもって灰状態から蘇生するためのお銭が、たまたまそのパーティの財布に入っていなかった。
ここまでは当時の冒険者にとってアクビが出るほどによくある話でしかなかった。つまり、たまたまその日にろくでもないことがたまたま重なった、ただそれだけのことだ。
しかし珍奇な事件というものはどれだけ納得がいかないものであろうとも、そこに到るまで“溜まりに溜まったアレコレ”が一気に吹き出た結果なわけで。
その日に起こった話とて、それまでのツケを関係者が一括払いするべき日が、たまたまその日であったというだけなのだ。
見るも無惨な姿に変わった仲間を前に、悲嘆に暮れる冒険者達が坊主に縋り付く。
───お坊様、金は後で必ず払うので、今だけは、どうか、どうか我らに慈悲をくれまいか
応えは冷たく横に振られた首である。あまりの無慈悲。神も仏もあったものではないその態度と、仲間を永遠に喪った悲しみに打ちのめされ冒険者達はいつまで経ってもその場を動けずにいた。
そんな彼ら彼女らを鬱陶しく思ったのか、はたまた次の業務に差し障りがあると判断したのか、いつもの決め台詞が浴びせかけられる。
『けちな背教者め、出ていけ!』
先にも述べた通りこの時代の教会は冒険者と市井の人々にとって単純な宗教のみならず、医療や行政等の垣根を越えた総合統治機関である。
つまり当時は多くの人々がこいつらに命を(目先の生命ばかりか市井に暮らすための生存権をも)握られているのも同然なわけであり、それゆえ多少の横暴にも目をつぶらざるをえなかった。
だから“いつもなら”それで引き下がったろうし、先の暴言もそれを見越していたからなわけで。
しかし今回ばかりは間が悪かった。
これまた先にも述べた通り当時の冒険者というのは出生からして教会に見放された連中が多い。それゆえ日頃から坊主教会への鬱憤が溜まりまくり、信心とも敬虔とも無縁となりやさぐれる輩の数も相当なものである。
そんな連中がただでさえ機嫌の悪いところへ心なき物言いをされ、堪忍袋が緒が音すら立てる勢いでブチ切れた。
“がばり”と顔上げ坊主の胸ぐら掴みあげ、
『おいこらてめぇこの野郎てめぇ、人の弱みにつけ込むドグサレの分際でなんてことを言いやがる。そっちこそ払うもん払ったからにはとっとと俺ぃらの仲間を返しやがれ、さもなきゃ銭返しやがれインチキクソ坊主!』
一気呵成に吐き出される罵倒と恨み節。しかし坊主もさる者、それくらいで怯んだり恐れ入るがごとき殊勝さなんぞフリカケの代わりにもなりやしねぇとばかりに言い返す。
『
『なに言ってやがんでぇ、そりゃあこちとらのセリフだ大バカ野郎の
『この神おわします聖域にてその暴言! ええい、もはや生かしておくことさえありえぬわ! 天罰天罰、天罰じゃあ!』
『なにが天罰だこんちくしょうめ。こちとら手前ら“うらなり”共の屁よりも軽いお神輿なんぞ、比べるもおこがましいモンスター相手の斬った張ったが商いだ! 神様天罰坊主が怖くて、おまんま食ってられるかい!』
罵倒とともに鉄拳一撃、生臭坊主が吹っ飛とんだ。
神様はしらないが少なくとも坊主は恐れぬ暴挙に寺院が騒然となり、周りの冒険者や通りすがりの人々も集まって止めに入る───どころか集まってきた端からくされ坊主へ群がりボコ殴りとヤクザ蹴りの嵐を繰り出した。
『そうだ、そうだ! こいつらの言う通りだ!』
『坊主とは名ばかりの拝金クソ野郎が!』
『手前らが聖職者ならボッタクリ商店の丁稚が天使様を名乗れらあ! 坊主どころか人の風上にも置けやしねえ銭ゲバが!』
『俺っちの仲間も手前らが見殺しやがったせいで消えちまったんだぞ!』
『人生にゃリセット効かないのも知らねぇのか!』
『大体なぁ、俺らの産まれながら余されもん扱いだってオメーらが銭がねえ家のガキは祝福しねえと抜かすせいじゃねえか!』
『みんなどんだけ迷惑こいてると思ってやがる!』
『クソァ! 思い出したらムカッ腹立ってきた!』
『いい機会だ、今までさんざか足元を見てくれたお礼をしてやるよ!』
───覚悟しろよこの野郎! 皆の心が一つになって坊主を名乗るろくでなしの袋叩き大会が開催の運びとなった。
『あっ逃げるんじゃねえ!』 『往生際の悪い!』
『大人しくボコされちまえ!』 『ひん剥いちまえ!』 『簀巻きにしちまえ!』
『川に流しちまえ!』 『山に埋めちまえ!』 『即身仏にしちまえ!』
這々の体で逃げようとする坊主を囲んで棒で叩くどころか、近くにあった棒的なものを片っ端から穴という穴にねじり込み、散々に殴って蹴って捻って投げて。
教会の人々もこの凄惨なボコ殴りを指を咥えて見ていたわけではなく、これら不埒者共に鉄槌を下すべくお付きの戦士達に止めさせようとしたのだが、毎日が
さらには頭へ血がのぼった冒険者達により、教会そのものが直進行軍のえじきとなった飛行帽の家ばりに跡形もなく粉砕されたという。
しかも騒ぎはここだけの話に留まらず方方へ飛び火。
ただでさえ評判最悪な教会への、今まで燻っていた不満が燎原の火よりも激しく燃え盛り、大陸のあちこちで教会やそこに奉職する坊主連中への抗議、弾劾、暴動、打ち壊し、ツケ請求、ガマの油売り、南京玉すだれ、ええじゃないかの大騒ぎが勃発した。
そうしてついには当時の教会総本山にさえ大陸各地から集った冒険者やら暇人やら野次馬やらドサクサ紛れの火事場ドロ説教強盗が押しかけるに至り、教会側も虎の子の秘密兵器こと、DX超合金カドルトくんZ(がらんどうの内部いっぱいに、大量の強制堕胎した胎児を羊水ごと詰めたゴミみてぇな神様ロボット。動力はぶっ込んだ水子の怨念パワー)さえ出動させるも、迎え撃ったアホほどの高レベル冒険者総出のレイドバトルでもって10分保たずに撃沈。引きずり出された教会のお偉いさんは片っ端から荒野の1ドル金貨のラストで市民からボコされる悪徳市長の末路を辿ったそうな。
…………。
こうして権力の大半を喪失し事実上の解体とあいなった件の宗教組織であったが、その後はさしたる混乱もなくあっさりと鞘に収まったものである。
なにせかの教会組織を目の上のたんこぶと思っていたのは市井の人々のみならず、彼らに権威権益を脅かされていた様々な勢力にとっても同様であり。
隙あらばその勢力を削ぎ自身のものとして取り込むべく手ぐすねを引いていた彼らにとって、今回の一件は寝耳に水ではあったがそれ以上の好機でもあったわけだ。教会がたんまり溜め込んでいた様々な資本やノウハウは根こそぎにされ、余さず彼らの懐に収まった。
医療や宗教方面のあれやこれやに関しても同様だ。
〈迷宮〉の存在が周知されてから幾星霜。この時代にもなると求道や人々の救済を疎かにする教会の在り方を嫌った者達や、異端認定やら派閥争いに負けた者などが多数、聖術はじめとした教会秘伝の薬学などを持ち出し野に下ったりしていたので、先の混乱を逃れたそれらの連中が新たな宗派やこじんまりした教会を設立し、人々や各地域に密着した宗教の礎になっていったのだ。
今は昔、もはや誰も彼もが忘れ去った歴史の一コマである。
◇
「……ろくでもない一コマがあったもんだな」
〈ターミナル〉の接続を切ったオーリが、梅干しとレモンを一緒にかじったようなツラでつぶやいた。口にこそ出さなかったが、他の面々も似たような面持ちである。
そらかくもバカらしい歴史(しかも超古代文明による誇張も歪曲もない客観的視点の記録)を疑似体験的に流し込まれれば誰だってこうもなろう。
彼らより一足早く立ち直っていたフェアリーくんが面白くもなさそうに訊ねた。
「で、どーするよ。こんなアホみたいな代物でも、当時の状況を寸分の間違いなく記録したもんだから資料としての価値は高いぜ。レポートにでも載っけとく?」
「んー……気は進まないけど、そーすっか。やりたくなかろうが成績にオマケできることはやっとかにゃだもんなあ」
オーリはタクティカルベルトに引っ掛けてあるポーチから厚めのメモ帳を取り出し、何度かターミナルに接続し直しながら先の記録を書き記していった。
遊んでた当時の私怨とか入ってねーよ。そういう歴史だよ、歴史
例の神様(笑)に関しちゃ小説のWizⅣを読むとよいよ。ウンザリするけど