それゆけ! スーパーアロナ先生   作:融合好き

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実は時系列的にはミレニアムプライスすら終えていなかったりする。イベスト? 忙しいからちょっと…。


第十二話 ゲマトリア追放大作戦

 

 

 

 

トリニティ総合学園の中心にある噴水の近く。僅かに肌に当たる水滴の冷たさを味わいつつも、ギラつく太陽を手のひら越しに眺め、肌を焼く感覚とはこういうものかと一人納得する。

 

理屈としては知っている。紫外線を浴びることでメラノサイトの活動が活性化し、メラニンが作られ肌の色を濃くすることで、紫外線のダメージから皮膚を守る。よく出来ていると感心はすれど、しかし対策としては遅きに失すると言わざるを得ない。

 

百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、なるほどこの感覚は体感しなければ永遠に分からなかっただろう。良くも悪くも箱の中の環境は一定で、そこで太陽の恩恵を受けることはない。そういうものだと割り切るのは簡単だし、変に熱の影響を受けるようにすれば動作に支障が出る可能性があるので仕方ない部分もあるのだが、不思議とこの明かりは私に不快感を感じさせない。勿体無い、とまでは思わないが、ただ気温や湿度を快適に保つことだけが最適と言うわけじゃないことをまた一つ学ぶ。

 

「あれ、“先生”? おはよう……」

 

そうこうしているうちに、気付けば見覚えのある人物が私へ挨拶をしていることに気付く。

 

艶のある黒い羽に、桃色の髪が特徴的な正義実現委員会所属の少女、トリニティ総合学園一年生、下江コハル。今やアリウス分校の生徒をも取り込んで大勢力と化した“補習授業部”における初期メンバーの一人であり、その中でも特に“先生”から目を掛けられている生徒だ。

 

「ぉ──」

 

おはよう──という単語が言葉になる直前、発声が成立するか否かのところで、私はこのまま挨拶を返しても良いものなのかと悩む。

 

状況的には返答は自然。けれど下手に今の私が挨拶をすると余計な疑念を生み出しかねない。せっかく補習授業部が恙なく回っている今、無駄な騒動の種となる行動は避けたい。

 

(こんなこともあろうかと……)

 

しかし、私は抜け目などない完璧な存在。この手のケースにおいても当然の如く対策済みで、事前に“先生”の声を学習、反復させて昇華し、“シッテムの箱”の発声機能を応用したリアルタイムの会話にすら完全対応の高機能読み上げソフトを密かに起動し、発声に合わせて口を開く。

 

『おはようございます、コハルさん!』

「………なんか変なものでも食べたの?」

 

馬鹿な。どうして違和感を覚えたのだ。間違いなくこの声は“先生”のもので、発言内容についても違和感がどうこうという内容じゃないはずなのに。

 

「いや発音……喉の調子が悪いようなら、一緒に救護騎士団のトコに向かう? 案内くらいなら出来るけど……」

『いえ、別に──』

 

 

「お呼びしましたかぁ?!?!」

「──!」

「え?!」

 

コハルさんの提案を断ろうとしたその直後、突如として、としか呼べない唐突さで現れた救護騎士団の制服を着た少女が、こちらが反応する間も無く凄い勢いで目の前まで迫ってくる。

 

「喉の不調ですか? 腫瘍ですか? 炎症ですか?! いずれの場合も、このハナエにお任せあれ!! すぐさま悪いところなんて取っ払って、綺麗な身体になっちゃいましょう!!!」

『い、いえ、私は──』

「むむっ!! 確かにこの発音、まさしく喉の調子がおかしいとしか思えません! まるで服の下から発声しているかのようなくぐもった声、悪性の腫瘍が出来ている可能性が大! すぐに手術をしなくては!!」

「……!……!……!」

 

反論するも押し流され、抵抗も虚しく私はそのままどこかへ連れてかれてしまう。流石にこの展開は予想していなかったのか、コハルさんが申し訳なさそうにしていたのが酷く印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

「あら、コハルちゃん。おはようございます」

「あ、ハナコ。おはよう……アンタはなんか拾い食いとかしてないわよね?」

「こんな偶然の出会いにまで疑われても……それより先程運ばれて行ったのは、ひょっとして“先生”ですか?」

「そうよ。なんか体調というか、喉の調子が変だったみたい」

「あれ? ですが“先生”は先程列車で……いえ、きっと私の気のせいでしょう」

「………?」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

合歓垣フブキにとって、ヴァルキューレ公安局のトップである尾刃カンナ局長とは、えらく真面目で堅物という印象を受ける人物だった。

 

ただ、“厳格”というほどでもないようには思う。見た目の雰囲気や付けられた渾名に反して、話してみると意外と融通が効くというか、単に職務に忠実なだけでこちらの都合は割と配慮もしてくれる。

 

本人が叩き上げで成り上がったからだろう。どうも下の苦労が分かっているようで、普段の職務態度を見ても、彼女ばかりが貧乏くじを引いてるような印象を受ける。局長がその様子ではまた違った意味で問題があるのかもしれないが、そんな彼女の懸命な姿に心を打たれ、あるいは普段の頼れる態度を見て、彼女に心酔している保安局員は思った以上に多い。

 

かく言う私もその一人で、まあ私の場合は心酔とまでは行かないが、彼女のことは一人の人間として素直に尊敬している。なまじ私自身が物事に熱くなれない性格だからか、ああいう一生懸命な人間にはどうにも世話を焼きたくなる。

 

だから、というわけではないのだが、そんな私側の事情もあるからか、なんだかんだと私がカンナ局長と関わる機会は意外と多く、その度になんか目に掛けられてるというか、妙に期待されているなぁと感じることは割とある。

 

多分、色々な部分が変な感じにたまたま噛み合っているのだろう。彼女が元々生活安全局を志望していただとか、私が休息のコツをついうっかり教えてしまったりだとか、そんな私を見てついつい口出ししたくなったりだとか。まさしく奇縁としか呼べない謎の経緯の果て、仲睦まじいわけでもなく、険悪と言えるはずもない。かと言って友人関係かと聞かれると微妙に首を傾げるような、けれど幾つかの事情が重なればこうして二人で食事を摂るくらいの、そんな何とも言えない関係を私たちは築き上げていた。

 

「別にわざわざ連れて来なくても……私の机の上にでも置いてくれたらそれでいいのに」

「モノのついでだ。それと限定だのプレミアムだのと言われても私には違いがわからん」

「メニューや貼り紙に思いっきり書いてるじゃん……」

 

ヴァルキューレ公安局のトップ、尾刃カンナ局長。彼女に直々に連れられてやって来たマスタードーナツDU駅前店の前にて、私はどうしてこうなったのかと首を傾げる。いや、原因としては分かっているのだ。以前、非番の時にたまたま目の前でちょっとした銃撃戦が起きたから、まさか無視して帰るのも流石にアレかと思い市民を誘導して、そのまましれっとフェードアウトした、なんてことがほんのちょっと前にあった。

 

その程度のお礼しては大げさかもしれないが、カンナ局長はその手の恩義をやたらと大切にする。それで気が済むのなら、というか口頭の感謝だけでも十分な程度の話なのに、クソ真面目な彼女のこと、おそらく他意なんてものはないんだろう。

 

ただまあ、こんなことになるんだったら素直に金銭でもねだれば良かったか。謝礼と言われてほとんど反射的にドーナツと言ってしまった自分が少しだけ憎らしい。だけど流石に私と言えど上司を前に即直に給料アップは言い出し辛かった。尤も面倒なだけで損はないのだし、ドーナツ奢ってくれるというのは普通に有難いので細かい問題はスルーするのがベターだろう。

 

「いらっしゃいませ〜♫」

 

小気味良い音楽が鳴り響く空間。甘い香りが何とも食欲を掻き立てる。わざわざDUまで来てチェーン店であるマスタードーナツに寄るような機会はこれまでになかったが、管轄区域の外だからこそ馴染み深いチェーン店の存在には多大な安心感を覚える。

 

「せっかくだし局長も何か頼んだ方がいいんじゃない? 私のおすすめはオールドファッションだよ」

「……そうだな。たまにはこういうのも悪くない。注文はお前に任せる」

 

今回の目玉であるプレミアムチョコは確定として、限られた値段の中で吟味を重ねる。局長の反応からして定食屋で一食奢るような感覚だろうから、いくらか余分に頼んでも問題はないだろう。

 

「プレミアムチョコとオールドファッションを二つずつ。あと私にはフルーツティーもお願い」

「こちらでお食べになりますか?」

「ああ、ここで食べていく。私にはコーヒーを一つ頼む」

「かしこまりました。空いてる席にお座りください」

 

ここで重要なのは、いくら奢りとはいえ豪遊をせず、値段を1000円未満に抑えておくこと。別に豪遊して会計が一万を越えようとカンナ局長は払ってくれるだろうが、それで厚かましいと思われたらもっと面倒なことになる。所詮はぼた餅、あぶく銭。経験上、こんなとこで欲張っても結局は後で帳尻を合わせられるだけ。

 

何事も無難に、適当に。最低限のノルマさえしっかり熟せば、それ以上を求められることもそれ以下だと見下されることもない。警察なんて、波風立たないくらいが丁度いいのだ。誰が好き好んで自らを危険に晒すというのか。

 

「こんな店でコーヒーなんて頼むの? どうせならフロートでも飲めばいいのに……」

「メニューにあるのだから別に構わんだろう」

「まあ、確かに鉄板の組み合わせの一つだけど……でも、わざわざこんなチェーン店でコーヒーを頼む人なんて局長以外には多分──」

 

その時、ほんの僅かの時間、店内をふらふら彷徨ってた私の視線が、不意にある一点で強制的に固定される。

 

「それで、決行の際には“連邦生徒会長”としての立場で行うと?」

「そうですね。“先生”の権限は便利ではありますが、流石に自治区をいくつも跨ぐとなれば恣意行為と受け止められかねません。やはり正式に人を集うのであれば、多少手続きが煩雑でも私が防衛室に呼び掛ける形にした方が収まりが良いでしょう」

 

「………………」

 

なんかいる。

 

冷房の効いた店内であっても、夏だからと着崩した格好の子どもたちが多い中、それでも豪奢な制服をビシッと着こなす、やたら上品にコーヒーを啜る女性と、タブレットを操作しながらドーナツを頬張るややマナーに欠けた少女の二人組。

 

見紛うことなどありはしない。食事中だろうと常にタブレットを抱える空色の少女はもちろん、その少女に対面している桃色の髪を短く切り揃えた彼女についても、我々ヴァルキューレにとってはある意味で連邦生徒会長よりも重要な人物と言える。

 

かたや噂の若返りし王、学園都市キヴォトスにおける事実上の頂点であり、ここ最近の武功により、その肩書を単なる象徴としてでなく、実質的な意味合いとして全生徒に刻み込んだ少女、アロナ。

 

かたや犯罪者に対する苛烈な姿勢が連邦生徒会長という暴力装置と噛み合った結果、このキヴォトスの治安回復に多大な貢献をし、またヴァルキューレの権威の復権にも尽力した我々ヴァルキューレを統べる存在、連邦生徒会防衛室長、不知火カヤ。

 

(…………)

 

自分で言っておいてアレだけど、なんだろう連邦生徒会長という暴力装置って。連邦生徒会は本来もっと政治家のような存在のはず、じゃなくて、

 

(いや、どうして彼女たちがここに……?)

 

別にDUを拠点にしてるのだから駅前に居ても不思議ではないのだが、甘い香りやファンシーな小物に溢れた店内にて、見た目だけならお菓子をねだる妹とそれを構う姉と言った仲睦まじい雰囲気で、何故かこの学園都市の頂点と荒事担当の最高責任者が朗らかに談笑しているという事実が既に怖い。どのような経緯や事情があるにせよ、もう既に嫌な予感しかしない。

 

「というか既に手続きはほぼ終えているので、断られると余計面倒なことに……おや?」

 

そして当然、指揮官として色々と極まっている今の連邦生徒会長が、私のそんな怪訝な表情──どのような形であれ、自らを狙う視線に気付かないはずもなく。

 

「貴女はヴァルキューレの──ええと、合歓垣さんでしたね。それに尾刃局長まで。どうしてDUまで……ああ、今回の列車ジャックで合流できたのはヴァルキューレ本校側からでしたか。流石にあちこちで起こりすぎて通過駅まで把握できていませんでしたね……」

 

まるで始発駅と終着駅は把握しているかの物言いで愚痴を語るのは、実は先程まで列車内においてヴァルキューレと合同でドタバタの逮捕劇を繰り広げていた、先にも述べた通りに最早キヴォトスの暴力装置と化している連邦生徒会長殿。

 

ぶっちゃけ彼女単体であれば全然この場にいても不思議じゃないというか、彼女は割と神出鬼没なのでそこらの廃墟から突然現れても全然驚かないのだが。いや流石にこの前ヴァルキューレの倉庫からヌッと現れた時は驚いたが、つまりはそれだけ突飛な行動を取る人物でもあるということ。

 

まあこれまでにも再三言われてるように、彼女は多分若返りの影響で理性の枷とかがやや外れてしまっているのだろう。それでも仕事はしっかり熟している辺り流石というか社畜根性が染み付いていると言うべきか。というか自己紹介をしたかどうかも曖昧なのに当たり前に名前を把握されているのは何でだ。やばいのに目ぇ付けられてんじゃん私。人気者は辛い。

 

それはさておき、反して不知火カヤ防衛室長と言えば、失踪騒動の際の首席行政官を代表とする一般的な連邦生徒会の役員に漏れず、良くも悪くも“お偉いさん”という認識しか持ち合わせていない。そういう立場の人間なので当然と言えば当然なのだが、彼女が現場に……というか、普通に市井に出歩いてること自体が結構な違和感を覚える。

 

「こ、これは防衛室長に連邦生徒会長!」

 

私に釣られて同じ光景を見て、ようやくフリーズから解放されたらしきカンナ局長が二人に向けてやたらと綺麗な最敬礼。私ですらそうするか悩んだし気持ちは十分に分かるけどここはチェーン店なので勘弁して欲しい。

 

流石の連邦生徒会長と言えども、私と似たような感想を抱いたのか、彼女は手に持ったままのドーナツを皿に置くと、このように提案した。

 

「えっと、良ければ少し愚痴を聞いてくれますか?」

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

…………………

 

 

 

…………

 

 

 

 

 

「そもそもですね。その認識からしておかしいんです。尾刃局長もそうですが、執務室に向かえばいつでも責任者が座ってるなどとは逆に不健全です。トップに一番必要なのは仕事を割り振るスキル。社長と言えば創作では朝はゴルフに出かけ午後に出勤して仕事もせず椅子に踏ん反り返って定時前に帰るイメージがありますが、トップが何もしなくても恙無く回るあれこそが理想の組織というものです。何でもかんでもトップを頼るようでは構造に欠陥があるとしか言えません。実際、サンクトゥムタワーはシステム的にそうせざるを得なかったのでしばらくは本当に苦労しました。会議に数日費やす時間があるなら書類の一枚でも片付けろと。ですが──」

「…………………」

 

何だろうこの時間は。

 

延々と持論を語る連邦生徒会長を前に、ちびちびドーナツを齧りながら相槌を打つ謎の時間。てっきり単なる相席の建前だと思っていた愚痴はどうも本気の言葉であったようで、まさか承諾した手前文句を言うわけにもいかず、本当に無言で大人しく座っている私。

 

意外に思ったのは、カヤ防衛室長が割と興味深々に話を聞いていることだろうか。連邦生徒会長もそうだが、普段表に見せる彼女たちは割と気取っていたというか、いつでも真面目な印象だったので、こうしてあからさまに愚痴を語るのはかなりイメージに沿わない。

 

とはいえ彼女たちも人間なわけで、こうして騒動のついでに甘味を貪っていたり、あるいは陰では不満を垂れながら書類仕事をしていたり、はたまた休日にはブティックで買い物なりをしていたりもするだろう。むしろ超然とした雰囲気を纏う出鱈目な彼女も、こうして不満を抱くことがあるんだなぁと安心したくらいである。

 

「おっと失敬。ついつい語りすぎてしまいましたね。そろそろ本題と言いますか、いずれヴァルキューレにも話が通ると思いますので、ヴァルキューレ所属であるお二人には先に、特に局長の尾刃さんには話しておいた方が良いかと」

 

と思ってたら、なんだ。ちゃんと本題は本題であるのか。このまま愚痴だけ語って帰られたら割と本気でどうしようかと思ってた。そしてやっぱり私はついでか。まあ名前覚えられていただけでびっくりなのにここでも特別扱いされてたらいよいよ私は何を仕出かしたのか案件になってしまうしね。

 

「最近、キヴォトスにおいてあまりに活動が目に余る秘密結社が暗躍しています。生徒を使った人体実験を始め、古代兵器の盗用、神秘の悪用に果ては自治区の占領と、いくら暴力沙汰の溢れたこの街とて限度というものはあるのです」

「じ、人体実験、ですか……?」

 

流石の私と言えど、あまりに穏やかじゃないその言葉にはつい反応してしまう。秘密結社、古代兵器、神秘、占領と脳の処理が追い付かない単語ばかりだが、全部ロクでもないモノだろうことは想像に難くない。

 

「自治区の占領……というと、トリニティの例の事件でしょうか」

「そうですね。過去に迫害された学園の生徒を集めて決起させ、クーデターを目論んでいたようです……って、まあトリニティはヴァルキューレ本校とも近いですし流石に報告は届いていますか。とはいえ、あの手の事件を何度も起こされてはいよいよ連邦生徒会(こちら)も立つ瀬が無くなるので」

「フブキさんが気にしていらっしゃる人体実験に関しましても、会長が対応した案件については未遂で終えられたようですが、それは単にこちらが把握しきれていないというだけで、今回の事件を鑑みるに陰でどれほどの生徒が犠牲になっているかも定かでありません。こうして我々が甘味に舌鼓を打つ間にも、無辜の民が傷ついているかもしれない──これが不良同士の抗争などであれば“どうぞご勝手に”と煽るところではあるのですが」

 

単に口調が丁寧なだけで内容は愚痴に近い会長の言葉を、お手本のような丁寧語でカヤ防衛室長が論理的に補足する。すらすらと澱みなく、別に大声を出しているわけでもないのに驚くほど聞き取りやすいハキハキとしたその声は、普段から部下に言い聞かせてるんだろうなぁという一種の悲哀さえ感じられた。

 

「故に私は決行を決意しました。そう、“ゲマトリア追放大作戦”を」

 

いや追放て。

 

どういう流れでそんな物騒な話をこんなファンシーなお店でしてるんだよ。この手のお店に通って培われた博愛精神とかそういったものはどうした。

 

私がそんなことを思っていると、連邦生徒会長は当たり前のように私の心を読んで、

 

「……誰かを貶めることが得意じゃないと、責任者なんてやってられませんよ?」

 

なんて最低なことを澄んだ瞳で語るんだ、この女……!

 

それはまあ確かにそうなんだろうけど、上に立つ人間が言っていい台詞ではない。彼女は続けて「もちろん得意かどうかと好きかどうかは別の話ですが」などと補足するものの、全くフォローになっていない。というか暗に自分は得意だってことを認めている。やはり若返った状態でも連邦生徒会長の座に平然と居座れるだけのことはある。

 

「最近の事例だとSRT特殊学園の存続に関する話がそうでしたか。傍目には冷酷な判断に思えるかもしれませんが、採算が取れないと判れば切り捨てる非情さもトップの素質です。

怨嗟上等、嫌われてナンボ。逆に私が追放されて組織が上手く回るのであれば本望というやつです。なので実は割と慕われてる現状に戸惑っているのが私なのです……」

 

何故か不服そうな会長。いや、木っ端戦力で常勝無敗なら讃えられるのも当然では? とは思うものの、どうやらそういう意図の言葉ではない様子。意外と面倒臭い人だなこの人。慕われてるならそれでいいじゃん。

 

「……して、追放とはどのようになさるので?」

 

このままでは埒が明かないと判断したのか、いよいよ以ってカンナ局長が鋭く切り込む。もう少しだけ早くやってくれたらさっきの会話を聞かずに済んだのに、というのは贅沢だろうか。少なくとも会長はさっきの会話そのものに未練などなかったのか、あっさりと話を最初に戻して、

 

「まあ物理的に排除するのが一番ですかね……今は“ホド”を使って何かしら企んでいるようですが、こちらも先日の騒動を通して“複製(ミメシス)”という技術をある程度会得したので、戦力の増強としては申し分無いですね」

「……ミメシス?」

 

ホドはまあ、文脈から多分固有名詞だからいいとして、唐突に出てきたヨコ文字の単語に思わずツッコミを入れると、その質問も会長はお見通しだったようで、

 

「簡単に言うと“仮初の肉体を創り出す技術”……でしょうか。過去の出来事を災害などの“事象”に見立て、それを有り合わせで擬似的に再現する──そんな感じの技術といいますか、もはや単なる現象と呼ぶべきなのか……」

「………無知を晒すようで恐縮ですが、そのミメシスとやらを利用して、一体どのようなことが出来るのですか?」

 

いや局長、流石にこれは無知だとかそういう次元の話じゃないと思う。しかし当然、私も何かを言えるほど理解出来ているはずもなく沈黙を貫くと、会長はいつの間にか最後の一つになっていたドーナツを手に取ると、さらっととんでもないことを告げる。

 

「分身が出来ます」

「は?」

「私が。物理的に。分身出来るようになります。具体的には二人に」

「………。………えーと」

 

何の冗談? じゃなくて、それは一体どう言った原理でそうなるのか。というかどうしてそんなにピンポイント過ぎる技術になったのだろうか。ではなく、え。マジで言ってるの? 冗談じゃなく?

 

()()()()()()()()()()()()ではありますが、現状だと私と()()()()しか扱えない技術ですね。経過は概ね良好ですので、今はどれだけ()()()()()()()()()()()を検証している段階です」

「………え。マジで?」

 

出鱈目なことを紡ぐ少女と、しかしそれに何かを言うこともなくニコニコと笑う防衛室長を見て、流石に堪え切れず言葉が漏れ出る。それまでもちょっと怪しかったが、辛うじて失礼にならない程度に取り繕っていた敬語すら吹き飛ぶ衝撃。

 

混乱する私を見つめながら、カヤ室長はほんの僅かな動揺を示すこともなく平然と語る。

 

「“戦いは数である”……いやはや、まさしく至言ですね。どうにもここまでの立場となると、個人の武勇はイマイチ信用出来なくて困ってしまいます」

 

むしろ楽しげに、愉快そうに。そう言い放つ彼女の姿を見て、やはり権力者というのはロクなものじゃないなと、改めて私は実感するのだった。






“複製”がどんな技術なのか全然分からないけど、ゲマトリアが使えるんだからプラナちゃんが使えないわけがない(過度な期待) ただし原作でこんなことが出来るのかは知らない。

油断したなぁ!! 複製とはこういう技術だ!!!(ゴリ押し)

本作は基本独自設定の嵐です。

追記

今更コロナになった……いやマジで死ぬほど辛い。「仕事休めるし書き溜めできるな!」とか思ってた自分をぶん殴りたい……だいぶ更新遅れるかもしれないのでご了承願います。
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