ダンジョン探索を生配信したら死ぬほどチヤホヤされるってマ?   作:『?』

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美少女にTS転生したのにチヤホヤされない!

 昼間だというのに、カーテンの締め切られた薄暗い部屋。テレビゲームの明滅する光と、配信中の文字が浮かぶPCモニターだけが空間を照らしており、微かに見える内装は、借りたままロクに家具など設置していない賃貸マンションの一室といった風体だ。

 そこに飲み干したペットボトルやら、コンビニ弁当。あるいは、少なくとも数カ月は敷きっぱなしになっている布団などが散らばっている様子は、あからさまにニートの汚部屋といった感じである。

 

「おい、うそじゃん…そんなのってアリかよ…」

 

 そんな最低クラスの住空間にひとり、座り込んでコントローラーを握る少女がいた。

 画面に映る「YOU DEAD」と悔しがる表情から、どうやら彼女はゲームオーバーとなったらしいことが分かる。

 

これが高山ですか…

なんで?????

流石に山生える

 

 

「ち、違うぞ!?高山ってのはだな、某玄人が曰く、相手を高所から投げ落とす、必中必殺のだな……」

 

 

だから玄人って誰だよ

言い訳見苦しいぞ!

(頭)冷えてるか〜?

 

 身振り手振りで自分の行動。やろうとしていた『高山』という技の詳細や、死因の理不尽さ。死んだことが如何に仕方のない事なのかを解説する少女だったが、しかしパソコンより流れてくるコメント。それを読み上げる音声は、ひどく辛辣なようで…というよりは、明らかに茶化している様子である。

 そんな会話をしている内にも、死亡時のロードは終了したらしい。長さ一メートル程の粗末な棍棒を両手に持った、ふんどし一丁の半ば朽ちかけているミイラ男…主人公の姿が、画面の中央に映る。

 配信画面の右下に映る少女がぐぬぬと唸っていた。そしてバッと顔を上げるなり…

 

「まあね、今のはちょっとした冗談だからな。座興はこれにてお仕舞い…次は竜騎兵を華麗に蹂躙するから、お前らはそこで黙って見ててくれ!」

 

 そう言って、コントローラーのスティックを倒した。

 操作を受けて走り出した亡者が、瓦礫の影から飛び出て…そして、死角に潜んでいたらしい巨漢に殴り飛ばされる。突き飛ばされた先には、崖。下には地面などなく、ただ奈落の底だけが広がっていた。

 

「あっ、まって!」

 

 悲鳴も敢え無く、ヴァァ!という情けない嗚咽を上げながら、崖から落下してゆく変態の図。

 その酷く滑稽な絵面に、叫ぶ少女の唖然とした表情が相まって、配信画面はとてもカオスな状態であった。

 

 YOU DEAD

 

 画面に大きく表示される赤い文字。暗転…

 それは少女。…いや、少女の配信を見る十数人のユーザーが、数十秒前に見たものと全く同じ画面だ。

 

えぇ…

わざとか?

出落ちゃ草ァ、ですかね……

 

「ま、まあ?今日寝てないからなー!前の配信終了から48時間経ってるけど、あのあとから全く寝てないからなー!!まったく疲れちゃうなぁ!?いやー、集中切れるわー!寝てないからなー!48時間経ってるか………

 


 

 さて、幾度となく死亡を積み重ねながらも、なんとか俺はそのステージのボス…竜騎兵を討伐することに成功した。

 ボスの先には、どこか遠くを見据えながら、両手を重ねて祈りを捧げているNPCがいたけれど…彼女とは特に会話などすることもなく、問答無用で崖から叩き落とす。

 ドロップアイテムだけ頂いたところで、配信時間が4時間半を突破した。

 

 そろそろ切りがいい頃合いだろう。

 ゲームの枠が終われば雑談枠が始まるのは、どんな世界でも…それこそ配信活動があまり活発ではない、この世界でも変わらない流れだ。

 ひとまずゲームを中断してタイトルに戻ると、ゲーム画面を映していた枠を消して、ウェブカメラの映像を大きく表示する。

 

ヴォエ!

ゴミ部屋をアップにするんじゃあない!!

これもうダンジョンの一角と言っても過言じゃないだろ…

探せばモルボルとか咲いてそう

 

「おいおい、失礼だろ?美少女様の部屋なんだ。もっと有り難がってくれって!」

 

容姿以外の全てが醜い

顔しか取り柄のない女は言うことが違うな?

全裸でダンジョン送りにされるか、才波と付き合うかを選ぶなら、ちょっと悩んで前者にする程度には有り得ない

 

「お前らなぁ、俺は知ってるんだぞ?お前らみたいなオタク君は、実際に俺みたいな美少女と対面すれば、吃りまくりの雑魚童貞になるんだってな!」

 

なんだとお…

そうかな…そうかも……

 

「まぁ、そんなことは置いといてだ、俺はなぁ…悩みがあるんだ」

 

 配信活動を始めて、はや1年。まだ新人の域は出ないだろうが、それでも短くはない期間やってきたものだ。

 一枠あたり三時間以上の配信を、少なくとも週五回。この美少女フェイスを晒しながら続けてきた。

 可愛い女の子は、すなわち正義だ。それがゲーム配信などした暁には、ほぼ間違いなくネットの人気者になるとすら思われた。

……しかし現実はどうだ?

 もうずっと配信を閲覧している顔触れは変わっておらず、十数人の固定層が付いているだけの…いわゆる閉じたコミュニティと化している。

 そんな相当に終わってる状況で、視聴者をいたずらに煽り続ける日々に、どれほどの価値があるだろう。

 新規がいないコンテンツに未来はない。視聴者が伸び悩んでいるという現実は、配信者を続けるならば致命傷にもなりかねない問題だ。

 

「なんでだろうな?なんで俺は、チヤホヤされてないんだと思う?こんな美少女なのに。もっと俺のことを崇め褒め称え、敬う信者がいてもいい気がするんだよ」

 

なんの冗談ですか?

こいつ、何を言ってるんだ…????

すべてが問題…というか、むしろ問題外だろ

どうしてチヤホヤされたい人間が、硬派な死にゲーなんてやってるんですか…?

 

「はあ…お前らわかってねぇなあ。美少女がオタクくんの好きそうなゲームやってるんだぞ?才波ちゃんなら俺の趣味をわかってくれるってトキメクもんじゃないか!」

 

サムネにゴミ部屋が映り込んでる時点でトキメキはないかな…

一理ある。お前じゃなかったらな!!

(才波…お前、現実が……)

 

「はぁ、雑魚雑魚…お前らに俺の高尚な性癖は理解できなかったか!かー!悔しいなー!!残念だなー!!!!」

 

そういうとこやぞ。

うるせぇ!!

煽りカス定期

 

 ため息を付いて、項垂れる。

 そうして露骨に落ち込んだ様子を見せつけるが、流れてくるコメントは慰めの言葉ではなく、インガオホーだのなんだの…

 まったくコレだからとぼやきつつ、マウスから手を離して、床に目をやった。飲みかけのエナジードリンク缶が、モニターの淡い光に照らされて、爪痕のような緑のロゴが目立っている。

 それを手にとって、ぐいと一気に飲み干した。

 

缶ジュースを啜るのはやめろ

詰まったトイレの音がする

うるせぇ!!!!

あ^〜耳が孕むぅ〜〜

 

「ぷはっ、はぁ〜…でだよ、お前らさぁ。俺が激バズりする素敵なネタ考えてくれないかなぁ…」

 

あまりにふてぶてしい。

自分で考えて、どうぞ。

う〜ん、このメスガキ…

 

「ん?メスガキのほうが良かったか?ン゙!ヴゥン!…あぁ、あ〜…よしっ…」

 

 咳払いをして、深呼吸をする。

 それから姿勢を整えて、ちょっとした発声練習を行った。ここで自分の声が調子良く働いてくれることを確信した私は、カメラをじっと見つめる。

 意識するのは上目遣い。今の衣装は着古したTシャツだが、これもやりようによっては魅力的に見せられる。

 角度を整え、チャームポイントが暗がりに覗く、良いアングルを検証…発見する。

 ズバリ、魅せるは『弛んだ首元から覗く鎖骨』だ。

 

「おにいちゃんのざぁこ…♡ざこどうてい…♡あたまわるわる〜!才波のためにぃ、面白いネタ絞り出しちゃえ!」

 

おっさんみたいな咳払いから繰り出される完璧なメスガキ…俺でなきゃ見逃しちゃうね

どエッチだ…

これで背景がマトモなら完璧だったのに…

 

「それでさぁ〜、君らさあ。早くネタ提供してくれないかなぁ、君たちが仕事してくれないと、俺も困っちゃうんだよね。あんまり強くは言わないけどさぁ…」

 

うわぁ、急に汚くなるな!

すごい嫌いな職場の先輩に似てて草

そんなにウケたいならダンジョン攻略配信でもすればいいのに

あっ…

まずい

 

「ダンジョン攻略配信なぁ…」

 

 この世界にはダンジョンと呼ばれる洞窟が存在する。

 20世紀初頭に、世界中に出現したという謎の穴。物理法則を無視して広がる空間は、最も狭いものでも20平方キロメートルはあるそうで、それが無限に下へと伸びる階層構造となっている。

 そこにはファンタジーの世界から飛び出してきたようなモンスターが巣食っていて、ファンタジーの世界そのものといったマジックアイテムが存在して、一度でもダンジョンに入るとファンタジーの世界の住人と言わんばかりの超人的な力を手にするという。

 

 そんなダンジョンの攻略を生配信する連中が、この世界には一定数いるのだ。

 ネット文化が前世ほど盛んではないこの世界では、ライバーといえば、もっぱらそれである。

 むしろライバーを名乗って、ゲーム配信をしている俺が少数派。マイナーというか、タイトル詐欺と言っても過言ではない状態であった。

 

悩むくらいならやめとけ

普通に生配信中に死ぬからなぁ…

そもそも未成年ってダンジョン入れるの?

 

「…いや、ダンジョンには入れるぞ。ダンジョン許可証も手元にあるし、有効期限も切れてない。でもなぁ、うぅん…」

 

そうなん!?普通にアウトだと思ってたわ!!

…というか才波、もしかしてダンジョン経験あるのか?

 

「あるぞ。でもパッパとマッマに連れられて行ったことしかないんだよなぁ…それにちょっと引っ掛かるものもあってだな」

 

 子供のダンジョン入場は、その危険性にも関わらず、意外にも規制がゆるい。具体的には、2時間以上の保護者同伴によるダンジョン入場経験と、各書類への印鑑。その2つがあれば、後は簡単な検査と御役所仕事を潜るだけで許可証が貰える。

 許可証さえあれば普通の大人と同じようにダンジョンへの出入りができる訳だ。

 

 この規制のゆるさについては、問題視こそされているが、実際それが取り沙汰されたことはほとんどないのが現状である。

 そもそも子供を死地に送ることを許可する親などそうそういないし、許可証の存在自体がマイナーだった。

 

 加えて言うなら、ダンジョンに入れば痛い目を見る。無謀とは子どもの常だが、痛い目を見て心折られるのも常なのだ。実際ダンジョンへの入場許可証を持っている子供の数に比べて、継続的なダンジョン探索をする子供の数は非常に少ないのである。

 

 それにも関わらず、俺に許可証を与えた俺の両親は一体何を考えていたのか。あるいは何を期待していたのか…

 今となっては知るすべなどありはしない。

 

まぁ、両親の付き添いはあるわな。

そもそも才波の親は何を考えて子供をダンジョンなんかに連れて行ったんだ…

引っ掛かるもの?

何が引っ掛かるんだ?

 

「そうだよな、あの二人が何を考えてたのか、俺にも分からんよ。それで、んと……」

 

 一息置いて、コメントを見返す。

 幸か不幸か、視聴者の少ないが故にコメントの流れも遅く、聞き逃した内容を漁るのは容易だった。

 それを認めるのは些か癪に感じるけれど。

 

「それで引っかかることな。それなんだが、なんかなぁ、ダンジョン配信は媚びてるみたいで…そこはかとなく嫌なんだよな」

 

えぇ…

逆張りガイジかな。それって逆張りガイジだね。

うーん、この…

そもそもダンジョン配信すること自体危険だからな。理由はどうあれ、止めるならそれでいいと思うわ

でもダンジョン配信したら死ぬほどチヤホヤされるぞ

あっ

やめろ

それ言うな

まずい

 

 俺はその瞬間、投下されたコメントの一つに、強烈に釘付けにされたのであった。

 

「死ぬほど、チヤホヤ……!?」

 


 

 数日後、リスナーのコメントに唆された俺は、近場のダンジョンに突入していた。

 出入り口から多少離れた行き止まり。その岩肌をバックにしてポーズを決める。こんなこともあろうかと、ノートPCはカメラの高性能なモデルを選んでいた。

 

「よぉ、オタクども!才波ミナミだ!」

 

おいおいおい、死んだわこいつ…

ダンジョンはゲームじゃない定期

まだ遅くないから帰ったほうが良いぞ

 

 古参リスナーの心配の声は聞かぬふりをする。

 これでも一応、かなり準備はしてきたのだ。今更戻るとあの苦労の意味がなくなってしまう。

 外出にふさわしい服など持っていないから、いつもの弛んだTシャツが装備だが、これにはちゃんとした理由があった。

 

「やってきたぜ、新宿ダンジョン!俺があっさり攻略してやるから、みんな待っててくれよな?」




主人公ちゃんは毎日9時間以上の睡眠と、1時間以上の寝起きにスマホを弄って時間を浪費するアレを実行しているエリートニートなので、寝てないなどという事実は全く存在しません。
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