ダンジョン探索を生配信したら死ぬほどチヤホヤされるってマ?   作:『?』

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転生特典を持っててもゴブリンにやられる!

 チャット読み上げの機能と配信画面のセットアップをしたら、せっかくのノートPCも残念ながら用済みである。ひとまずイントロだけ済ませた俺は、これをリュックに片付けて、ダンジョン配信用のカメラを頭へと装着した。

 

 そんな準備をしたのも、もう一時間も前の話だ。

 

 あれからしばらくダンジョン探索をしていた訳だが、投稿されるチャットの文面は、未だに調子に乗ったガキを見るような、あるいは愚か者を見るような…そんな酷く煩わしい雰囲気で満たされている。

 

なぁ、今からでも帰らないか?

ダンジョンは子供の遊び場じゃないんだぞ

そもそもコメント読み上げを垂れ流してダンジョン探索はありえない

なんだかんだ言って俺、才波のゲーム実況が好きだったんだがな…

さっき通り過ぎた横穴にゴブリンおらんかった?

才波、ワイはリョナNGやで。

イヤホンとかヘッドホンとかなかったんか…

 

 このような空気感は、ある程度民度の良い配信でしか有り得ないものだろう。人の命を心配する視聴者なんてものは、おおむね善玉だ。特に人死を求めて閲覧する層が一定数存在する、ダンジョン攻略の配信においては。

 その事実自体は好ましいものだが、いざコメントを受け止める側に回ると、やはりもどかしく思えるものだ。こんな様子だと、俺も話すのが難しくて困る。

 端的に言って、調子が狂うのだ。

 慢心はある。油断もある。…だが俺は転生者だ。転生者たるもの、根拠や理由を持たない理不尽な特技の一つや二つ、持っているものだろう。

 少なくとも俺は、一階層の頭が悪い魔物相手には、負けることなどありえない特技を持っていた。

 

明らかに足音2つあるよな

才波後ろ!

ゴブリンか?

 

「はぁ…お前ら、心配しすぎだぞ?鬱陶しい童貞は嫌われるって、ママに教わらなかったのかよ…まったく常識ねぇぺぎゅ」

 

 いよいよ嘘まで吐き始めた視聴者を煽っている最中、突如として思考が途切れる。

 辛うじて感じることができたものは、ゴリゴリという生々しい破砕音と、尋常ではない頭痛と衝撃だった。

 致命傷を負った時特有の喪失感を最後に、何を感じることもできなくなる。

 

うそだろ?

血溜まりエグい

ゴブリンはなぁ、初心者の死因として順当だよな。

言ったのに

 

「ぐぎゃ!あきゃきゃ!!」

 

 ゴブリンの生意気な嘲笑が響き渡る。

 こうして俺の初めてのダンジョン配信は、ライバーの死亡という形で打ち切られることになった。

 残されたアーカイブには、配信機材の電源が切れるまで、薄汚い洞窟の地面。その暗闇に広がる血溜まりが映り続けたのである。

 

「ありがとう、すべての視聴者…本当にありがとう。そして、グッドラッグ。またどこかで!才波ミナミの次回作をご期待ください!」

 

なぜ生きている!?

申し訳無いがゴブリンの身体は汚いのでNG

ヴォエッ!何やってんだ!

才波の部屋より汚ねえ!!!

 

「おいおいお前ら、俺が死ぬって本気で思ってたのかぁ?」

 

そんなことより絵面をどうにかしてくれ!

 

 ゴブリン自身が腰蓑に備えていたロープを掠め取って、彼…あるいは彼女を亀甲縛りの刑に処す。

 この間1秒にも満たない早業だ。

 コレは、俺自身の卓越した手先の器用さを最大限発揮した結果であるのだが、無論それだけではない。いわゆる転生特典…それのおかげである。

 

 そして一連の逆転劇により、無様に縛られたゴブリンは、身動きも取れないままに仰向けに転がっていた。その様子を無駄に高性能なカメラで映し続ける配信画面は、端的に言って地獄絵図だ。

 肋骨の浮き上がった見窄らしい体格に、しかし腹部だけが風船のように膨れ上がった、造形的な醜さ極まる子鬼が、あられもない格好で悶える様子。それが毛穴まで映ってしまいそうな画質で、画角を占有する様子を見て、一体誰が得をするというのか。

 

「ほんと、見れば見るほど汚ねぇ面してんな!」

 

「ぐぎぎ…っ!」

 

 しゃがみこんで、ゴブリンを正面から覗き込む。

 噛まされた縄をギリギリと噛み締め、薄紫のよだれを垂れ流す御尊顔がクローズアップされ、配信画面はより酷いことになった。

 

「おっ?おっ?動けないねぇ!!」

 

 迫真の煽りが浴びせられると、ゴブリンは怒りからか屈辱からか、一層激しく藻掻き、反り返りながら白目すら剥き始める。

 才波はその痩けた頬を、幾度となくペチペチと叩く。少女の華奢な手がそれに触れるたび、ダンジョンに名状しがたいうめき声が響き渡った。

 

 そのあまりに汚い光景に、コメント欄は阿鼻叫喚の様相を呈していた。 

 

 元より熱の入ったリピーター十数名しか見ていない配信だった訳だが、ライバーの死を思わせる展開。そこに汚物を執拗に映すという奇行が重なって、とうとう同時接続数は5名を切る。

 

あああああ!!もうやだああああああ!!!

お前なんなんだよ!!

ちょっといけるかも…

↑!?!?!?wwww

 

「ふぅ、気も晴れたし、そろそろ倒すかね」

 

 息をついて立ち上がると、自ずとカメラもゴブリンから離れる。未だに汚物は映り続けているが、それで画角が埋まるよりかはずっとマシだろう。

 

最初からやれって!!

あっ、もう少しだけ…

視聴者の性癖壊れちゃ^〜う!

 

 ゴブリンの顔面に向かって、サッカーの要領で足を後ろへ引き上げて、思い切りシュートしてやれば、元より醜い小鬼の顔面は無惨に陥没して…やがて身体ごと塵となって消えた。

 

 そこに残されたのはゴブリンを亀甲縛りにしていた、若干湿った縄だけである。

 この縄は元々ゴブリンの私物だ。モンスターが所持しているアイテムは、持ち主たるモンスターが死ぬか、あるいは一定以上離れると、塵となって崩れ落ちる。

 その現象が起こらなかったということは、この縄はドロップアイテム。すなわち冒険者にもたらされる、ファンタジーの産物ということであろう。

 きっとこの縄も物理法則を無視する効果が何かあるのだ…が、しかしあまりにも汚いので、そこに捨て置くことにした。

 視聴者たちも、多少はもったいないという感情もあったようだが、それでも概ね同意見であったらしい。

 地面に打ち捨てられた荒縄に対して、拾うことを指示するコメントは無かった。

 


 

 

 さて、紆余曲折はあったが、ゴブリン事変を乗り越えてしばらくする頃には、なんとか同接数も元の値に戻ってきた。

 徐々に活気を取り戻しつつあるチャット欄をスマホで眺めつつ、ますます奥の方へと探索を進めていく。

 

おれ、気付いちゃったんだ。才波は心配するだけ無駄だって…

慢心して不意打ちされ、やけになって奇行に走る…いつも通りだな!

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歩きスマホでダンジョン探索は流石に無理筋が過ぎる

 

 ダンジョンに反響するチャット読み上げを聞けば、それがただ活気が取り戻した訳では無いということも、自ずと理解できるだろう。程々の速度で流れてゆくそれらは、先程のそれとは異なる雰囲気のものが多い。

 どうやら普段の調子を取り戻したようなのだ。

 きっと彼らも俺がただのニート美少女ではないのだと認めてくれたのだろう。

 

生きてると聞いて戻ってきますた

 

「おっ、また一人、配信者の実力も測れない雑魚視聴者が戻ってきたな!名前は…ナガネコ、ね。確かお前、5ヶ月くらい前にやったBloodborne配信がお初だったよな、あれから何度も見に来てくれたからな、ちゃんと認知してるんだぜ?」

 

あ〜あ、戻ってきちまったか…

視聴者をひとりひとり記憶してるってマ?

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この人にもやるのか…

一体何が始まるんです?

 

 心做しかざわつくチャットスペース。配信されている主観カメラの中央には、配信者本人のものである、ヒビの入ったスマホ画面があった。

 そこには件のユーザー。名前をナガネコという視聴者のアカウントに対して、配信者権限で何やら操作をする様子が映り込んでいる。

 

「それじゃ、お前のアカウント名、これからずっこけチソチソ丸な!変更するまでお前のチャット、ブロックしてやるからよろしく!!!!!」

 

 その操作の正体は、無慈悲なブロックであった。

 ユーザーアイコンが読み込みを表すマークに変わり、やがて検閲される。その操作から一泊置いて、配信アプリの上にポップしたウィンドウには『ユーザーをブロックしました。』との表示がなされていた。

 

「ざまぁみそづけ〜!!」

 

あのさぁ…

クソほど煽り散らかしてて笑う

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※ブロックされたユーザーのコメントです※

※ブロックされたユーザーのコメントです※

読み上げちゃん、ブロックされたユーザーのコメントです連呼し始めて草。

今まで4人はクソネームに変更して戻ってきたわけだが、さて…

 

 ブロックといっても配信プラットフォームによるものではなく、俺がコメントや配信画面の表示させるために使用しているアプリの拡張機能によるものだ。実際、コメント自体ができなくなるわけじゃない。

 それでも画面に表示されなくなって、読み上げも行われない…すなわち配信者に認知されることがなくなるというのは、それだけで配信の楽しみ半減といったところだろう。

 ただブロック対象の判断基準が曖昧なようで、この機能、たまに誤削除が発生する。

 

これ関係無いコメント削除されてない?

推定有罪システム

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あれ、この流れ…もしかして俺も消される?

 

「そんなに消されたいのかぁ?そういう君は…ふ〜ん、狂い火ニキね?確かこの前の配信がお初だったよな、地下墓の攻略めちゃくちゃ手伝ってくれたから、よ〜く覚えてるよ」

 

あっ…(察し)

ちょっ、ちょっと待って!たすけて!!やだ!!小生やだ!!!

新規にもぉ!?

まずい!

 

「…じゃあお前は男根シャブリリにするまでブロックな!」

 

※ブロックされたユーザーのコメントです※

 

「ははっ、雑魚雑魚。お前ら如きが俺を舐めるからこうなるんだぞ〜????…おっと。」

 

 視聴者への分からせを嗜んでいる最中、曲がり角の死角からモンスターに襲撃される。一度目は無様を晒したが、二度目はない。

 大振りな振り下ろしを、身体を横に逸して回避しつつ、襲撃者を視認する。すると、なんと相手は見覚えのある顔…ゴブリンではないか!

 こんなやつに二度も遅れを取るなど、一生の恥と言っても過言ではないだろう。

 

 ぐるぐると唸るゴブリンが、空振って地面に打ち付けた棍棒を持ち上げる隙に一撃。踵下ろしを食らわせた。

 当然彼の頭蓋は粉々に粉砕され、結果、塵となって崩れ落ちる。

 

「はぁ〜雑魚雑魚!やっぱゴブリンはこうでなくちゃな?」

 

スマートな討伐+1145141919810

才波、思ったより強いな…

嫌じゃ嫌じゃ!ワシは才波がちゃんとかっこいいところなんて見たくないんじゃ!!

レベルいくつなん?

 

「多少キレそう。ちなみにレベルは5だぞ。」

 

 典型的ファンタジーな世界観のダンジョンだが、ここに一度でも侵入した人間もその世界観に巻き込まれ、レベルという概念を取得する。そしてレベルが上がる毎に、探索者…つまり俺達の能力は、大幅に増大してゆくのだ。

 その能力の上がり幅というのも極端なもので、何の変哲もない一般人がレベル1から2になると、それだけでアスリートもかくやというほどの能力を得、レベル3にもなれば中型バイク程度なら踏ん張りもせずに持ち上げられるようになる。

 完全にゲームといった様相を呈しており、いっそチープにすら思えてくる設定である。ちなみにレベルアップした時は、どこかで聞いたようなファンファーレが、脳内に響き渡る仕様だ。

 

 そんな世界観に相応しい設定として、ダンジョン毎に推奨レベルなるものも存在する。

 推奨レベルとは「そのレベルに達していれば、まず死ぬことはないだろう」といったライン。これはダンジョンを攻略している人々が、WikiやらSNSに発信した集合知を元に設定されたものだ。

 

なんて?

うせやろ…

んで、本当のところは?

 

「…レベル、5だぞ。ちゃんと申請書にもそう書いてある」

 

 さて、気になる新宿ダンジョン。その一階層に設定された推奨レベルは、なんと2である。

 レベルが2まで上がっていれば、余裕で攻略できるという触れ込みであった。

 

なんでそんなレベル上がってて、ゴブリンに殴られてしまうん?

才波ミナミ…お前、ダンジョンに向いてないよ。

あれ、新宿って難関ダンジョンやっけ?

強いって言ったけど、アレ訂正するわ…

 

「くっ…お前ら、ここぞとばかりに煽りやがって…」

 

煽ってるとかじゃないが…

ほんとにレベル5なのか?あのザマで?

やっぱ、今からでも帰らん?

 

 ちなみにレベルによる身体能力向上は、元の身体能力に乗算するような形式であるらしい。…つまり、俺のように華奢な女の子は、レベルの恩恵が少ない訳だ。

 つまり俺が悪いのではない。このダンジョンの仕様が悪いということだ。

 

「まぁ、いいさ!流石にまた負けるとかありえないからな!」

 

フラグかな?

まぁ、ゴブリンは一層の強敵って、それ一番言われてるから…多少はね?

一層ってゴブリン以外のモンスターほとんど出なくね?

※ブロックされたユーザーのコメントです※

おいおいおい、あいつおいおいおい…

 

「フラグじゃないぞ?流石になぁ…またしてやられたら自害モノだからな!」

 

 そう、ゴブリンは弱いのだ。

 ダンジョンを闊歩するモンスターの界隈では、おそらく一、二を争う弱者…そして、ゴブリンに敗れるということは、つまりダンジョンの中でも、最弱クラスの生物であることを証明することに他ならない。

 

 まぁ、傷は癒やした。

 動きに支障はない。

 

 問題は『ゴブリン如きに敗北しかけた』ということだ。

 最終的に勝ったとしても、後頭部を強打された事実が無くなるわけでもなければ、屈辱が消えるわけでもない。

 人間とは恨む生き物なのだから。

 

「まぁ、見てろって…びっくりするから!俺はダンジョン探索のプロなんだって!」

 

 洞窟の狭い通路を歩きながら豪語する。その高慢な言い草が、ただ高慢なだけではないのだと証明する機会は、きっとすぐに見つかるだろう。

 なにせ、ここはダンジョン。モンスターのあふれかえる、夢と絶望で満たされた地下迷宮なのだ!

 


 

 あれからしばらく時間が経って、転生特典…それによるバフも切れてくる頃合い。あれからモンスターと遭遇することはなく、結果としてこの配信は、ただ雑談しながらお散歩を垂れ流す枠となりつつあった。

 

そもそも義務教育修了してないような子供が、深夜にダンジョンに入っているのは異常なのでは?(ボブ訝)

それを言っちゃあ、おしめぇよ!

そもそもの話をするなら、マトモな子供はゴミ部屋に住んでないだろ…

 

「おいおい、ライン超えたぞ今のは!ガキなんてのは、片付けサボって部屋散らかすのがテンプレだろ?」

 

それはそう

俺はそんなことなかったけどな

確かにワイも人のこと言えんガキやったけど…

それはオスガキだけ定期

例えそうでもああはならんやろ

 

「なっとるやろがい!…大体なぁ?お前らは俺のことよく知らないのに、そうやって説教ばかりしてるから童貞なんだぞ?」

 

童貞は関係ないだるぉぉ!?

おい才波!後ろ!!

煽ってる場合じゃねえ!?

あれ、この展開…どこかで見たような?

 

「だからそうやって適当なこと言って話題逸らそうとするあたりがモテなコ゜ッ…!?」

 

あっ…

才波はモンスターにはモテるみたいだな…

知ってた。

い つ も の

才波さん、どうして油断してしまうん?

流石に死んだか?




転生特典「不死鳥」
致命傷を負ったとき、これを持つものに生きる意思があれば、死因への耐性を獲得して蘇る超常。
毒を喰らえば耐性を得、溺れれば水中で息を吸えるようになり、老いれば若返り、傷つけられれば強靭な肉体を得る。
基本的に耐性は永続するが、強く望めば一時的な強化に収めることも不可能ではない。

少なくとも、才波はそうしている。
もしかすると彼女はマゾなのかもしれない。
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