ダンジョン探索を生配信したら死ぬほどチヤホヤされるってマ? 作:『?』
この世界のダンジョンには、よくあるロープレのように、レアモンスターと呼ばれる強敵が彷徨っている。レアなんていうと縁起が良さそうに聞こえるが、実際はとんでもない厄ネタだ。
ひとつの階層に一匹だけ出現する彼らは、目安としてだいたい5階層下の一般モンスターと同格か、あるいはそれより多少高い程度の戦闘力を持っていると言われている。
これがどんなもんかと言うと、その階層の適正レベル程度では逆立ちしても敵わない…ほとんどが奴らに軽くド突かれただけでも、挽き肉に成り果てるようなレベルである。
世が世なら、不意に飛び出してきたレアモンスターと衝突して異世界転生とか、そういうのが流行ってただろうとすら思えるほど理不尽な相手…それがレアモンスターと呼ばれる存在であった。
「おっ、あれ…ゴブリンじゃないな。もしかしてレアモンスターじゃねー???」
そんな理不尽に、自ら進んで立ち向かう…否。吹き飛ばされに向かう無謀な少女がひとり。
声と立ち振舞いこそ堂々として立派であったが、その後姿は風前の灯よりも儚く見える。
やめとけやめとけ! オークとかうせやろ!?まだ討伐されてなかったんか!! これコメントの音やばくね?気付かれとるやん。 こっち来てるが!?!? なんで逃げないんですか?????? |
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「あいつオークっていうのか!まぁ、まぁ…あんな見るからにゲスい風貌の魔物、ヤることなんて分かりきってるだろ!ここは俺の美少女フェイスを見せつけて、油断したとこ、ろ…を……」
不意に才波ミナミを襲ったのは、身の毛もよだつ様なとてつもない悪寒。前世の最後。あるいは、今生においては数度ほど体験してきた悍ましい感覚が、鮮烈に全身を貫いたのだ。
それは、死の予感。
「…っ!!」
半ば脊髄反射めいて屈み込めば、ブオンという風を切る音と共に、何かが頭上を駆け抜けていった。
「ぴぎっ!」
名状しがたい鳴き声がすぐ目の前に。…ひとまず飛び退き、敵に背を向けて走る。
警戒やら目視やら、そんなことをしている場合ではない。まずは間合いから逃れなければ、何をする間もなく死ぬことになるだろう。
うまい! よく避けられたな、今の… やるやん才波! |
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遮二無二距離を取り、ある程度離れた頃合いで振り向けば、そこには人型の猪めいた怪物。新宿ダンジョン一階層のレアモンスター…オークが、俺を攻撃するために振るったものであろう棍棒を、不思議そうに眺めている姿があった。
想定より大分俊敏らしい。話すことに夢中になっている間に、すぐ側まで来ていたようだ。
「ぶ、豚のくせに驚かせやがって…まずはアイサツするのが礼儀だろ!」
魔物に挨拶を求める狂人の鑑にして探索者の屑 ※ブロックされたユーザーのコメントです※ どうして振り返るのか… そのまま逃げろって!!! |
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チャットの読み上げを聞き流しつつ、ぶひぶひと呼吸する相手を正面に捉える。片時も目を離さないよう警戒しつつ、少しずつ後ずさりをしていた。無論、逃げる訳ではない。
敵に程近い場所は、すなわち即死圏内だ。まぐれはそう何度も起こらない。回避できる自信がない以上、まともに戦うなら安全圏から隙を付くことが絶対的条件となるだろう。
それと同時に着込んでいた装備やら何やらを外し、リュックを下ろして壁際に投げ、作戦の手順を進める。
「おい視聴者!見てろよ、この戦いには必勝法がある!!」
十分に距離を取れたと判断するなり、勝利の確信を持って、視聴者に煽りを入れた。
外した衣服は袖を腰に巻き付け、邪魔にならないようにしている。緊張感から吹き出した額の冷や汗を拭い、あとはもう仁王立ちだ。
悠長・オブ・ジ・アビス 上着なんて脱いでる暇ないやろ! なに…この、なに? 必勝法宣言は負けフラグってそれ一番言われてるから… |
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チャットの反応は芳しくなかったが、少なくともオークの注意を引くことには成功したらしい。俺の声に反応してぴぎと鳴き声を漏らしたオークが、間抜けな顔で棍棒を眺めるのを止め、こちらを見下ろす。
「見てろよぉ…?」
必勝法ってなんだよ 自信満々な才波は負けるときの才波なんだ。俺は詳しいんだ。 これゲーム実況で何度も見た前振りや… |
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そして彼は、その場から一歩たりとも踏み出さないまま、高く棍棒を振り上げた。
それは、ただ振り下ろしただけでは俺の居る位置には届かないだろう。いくらオークが馬鹿でも、そんなことは分かっているはず。…では一体、何を目的とした振り上げなのか?
「マジかよ、うそだろっ!?」
やばいと確信。狙いを推測しようと思考を回した次の瞬間には、既に目の前に迫っている極太の丸太。
答えは『
自らの武器を、何の躊躇いもなく投げたのだ。
「クソっ!」
飛んでくる脅威…回避が間に合うか怪しい速度だ。それでも諦めるには早いと、身体を投げるようにして横に飛ぶ。
ゴリという削れる音と衝撃を肩に受けながらも、なんとか全身丸ごとミンチになる未来を回避できたようだ。
「痛ぇなぁ!?」
結局必勝法ってなんなんだよ うわグロ やばいって!!! ※ブロックされたユーザーのコメントです※ ガチで死ぬやつじゃん |
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その代償として、右腕を失った…具体的には二の腕の半ばから先が千切れるようにして吹っ飛んだ訳だが、これで済んだだけ僥倖である。
むしろこれはチャンスですらあった。
今、オークは武器を失ったのだ。見るからに頭の悪そうなモンスターである。きっと奴は、武器を捨てた戦闘にすぐさま移れるほどの対応力は持たないだろう。それにリーチが無い分、近接戦闘を仕掛けやすい。
「肉を切らせて…ってな!」
激しい熱を孕んだ右腕を努めて無視し、無事な左手の平を胸元に当てる。
そして詠唱…
「――燃えよ我が命、今この手に!!」
俺は蘇生以外にもこういう手合、格上に通用する切り札を持っている。
確かに死んでも生き返る能力は強力であろう。正しくチートと呼ぶべき、異常な力だ。しかも、死ぬと強くなる。
死を前提に戦えるのは素晴らしいことだ。後先考えずに行動するのは気持ちがいい。…しかしこの能力を使って、ただゾンビアタックをする様では、非常に地味で見栄えしない。端的に言って、つまらないのだ。
やはり浪漫は必要だ。
転生特典だけでは持ち得なかった、尖った超火力。こういうものを使ってこそ、戦闘が魅力的なものになる。
「剣よ!!」
詠唱と共に胸から引き抜くのは魔法の武器。
それは迸る稲妻を直接握り締めたような外観をしており、剣というより光り輝く杖といった風体である。
本来は身体への負担を考慮して、ゆっくり引き抜く魔法だが、蘇ることができる俺にその心配は必要ない。一気にズルリと生み出す。
その結果、心臓が締め付けられるような痛みと、急激な疲労感。そして脱力を経験することになった。…しかし身を削り、生み出す浪漫。どうせ死なないのなら、その苦痛すらむしろ心地良い。
ファッ!?!? 魔法持ってたんか… マジか!! ※ブロックされたユーザーのコメントです※ ライトセーバーktkr! 武器系か、これならワンチャン…! |
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それは数多く存在する魔法の中でも、最も俺と相性の良いもの。
『無属性魔法・光の剣』…魂の一欠と若干の魔力を捧ぐことで、高い火力の武器を作り出すものだ。
魂とは多くの魔法やスキルの発動で消費することになる魔力とは異なり、一度失えば二度と復活しない。生命の根幹を削ることは、実際身体にも大きな負担を強いることになる。
疲労感や心臓の痛みは、それの影響だろう。
千切れた腕からの出血も相まって、仮にオークに勝てても死は免れない所まで来ていた。
もっとも、俺には関係のないことなのだけれど。
「おらぁあ!!」
獣のように吠えると同時、相手の位置も捉えないままに駆け出す。
強く握りしめた魔法を振り上げ、顔を持ち上げる。世界はひどくぼやけ、黒ずみ、瞳はまるで役立たずのようだ。理由は考えるまでもなく、衰弱だろう。それでも一向に構わない。
見て確認が出来ないならば、山勘で測って斬るだけだ。
相手は動いていないはず。オークはきっと、避けられるくらい冷静なら、そんなことせずに殴るだろう。つまりヤツが動いていれば俺は死ぬ。これは俺が生きている限り、オークの位置は明瞭であることの証明だ。
当てれば刃を通せる程度の火力はある。技術など考えずに、ただ当てることだけを考えればいいのである。
そうして、おそらくそこにいるであろう豚男に向かって魔法の剣を振り下ろして…
「ぴぎっ!」
あかん! 突っ込みすぎだ! まずい |
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……しかし、俺の意識が保ったのはそこまでだった。
ぼちゅという水気を含んだ潰れる音と痛み。一瞬にしてそれが全身を満たし、何が起こったかもわからないままに死んだのである。
うせやん… ※ブロックされたユーザーのコメントです※ だから逃げろとあれほど マジで死んだの?あんなギャグみたいなテンションで? 画面真っ暗だけど何が起こってん カメラ落ちたな 顔面に受けてあの音はまずい… これ避けられたスピードだったろ オーク叫んでる音聞こえるけど、才波の攻撃はあたったのか? ※ブロックされたユーザーのコメントです※ 多分あたってる。あの軌道なら胸のど真ん中に刺さってるはずだろ |
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「死体だと思った?ねえねえ、視聴者!死体だと思った???残念!才波ちゃんでした!!!」
復活して心身と魂の傷を回復させた才波は、目を覚ますなり地面に仰向け、大の字を描いて寝転がったまま、視聴者煽りに勤しんでいる様子であった。
なぜ生きている!?!? 放送事故(死亡)かと思ったら放送事故(気絶)だった 確かに途中から寝言聞こえてたけどさあ… むしろ1回くらい死んで反省すべきだったのでは? 死んだらおしまいなんだよなぁ… |
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なんだかんだ言って、鍛えられた視聴者たちである。
普段からアホみたいなキャラであることも相まって、全くシリアスな雰囲気は生まれていない。
確かに才波ミナミが死んだ事を確信していたが、途中から配信に寝言が入り始め…そこからは先ほどと同様の流れとなっていた。
むしろ驚きと動揺で満ち満ちたチャットが溢れ返っていた1回目に対して、今はギャグや呆れの混じったチャットが多数を占めているので、反響は薄くなっていると言っても過言ではない。
流石に今のは死んだと思ったんだけど、なんかスキルとか持ってん? むしろ持ってなきゃおかしいだろ オークは適正レベルでも十分死ねる火力してるからなぁ… 曲がりなりにもレベル5だからな、雑魚だけど 防御系かな、「鉄盾」か「無敵」あたり? てか右手生えてね? トカゲみたいで草 |
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「こんな美少女捕まえてトカゲってなんなんだよ!…そんでスキルはなぁ、一応持ってるけど…」
すっげぇ渋い声色、はっきりわかんだね このリアクション…さてはユニークじゃな? |
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「そんなに知りたいか?」
スキル。それはこの世界における普遍的な、そして非常に重要な概念である。
具体的には、ダンジョンでレベルアップをした際、本人の素質。あるいは探索の方針や戦い方などに基づき発現する特殊能力のことだ。
これも例によって、ゲームのように
前者は何かを呼び出したり、魔法めいた現象を引き起こすものが多い一方、後者は基礎能力の向上や特殊体質の獲得などが可能となるといった特徴があるそう。
他にもレア度やらティアーやら分類されているそうだが、俺はあまり攻略Wikiを確認していない都合、そのあたりのことは詳しく知らない。
「まぁ、お前らみたいなクソザコに教える筋合いはないわな!!!」
そう吐き捨てるなり、足を持ち上げ、反動を付けてバッと立ち上がる。
(クソザコは)おまえじゃい!! よくもまあ、あんな惨敗を喫して自信満々に煽れるな… っていうか必勝法ってなんだったんだよ ※ブロックされたユーザーのコメントです※ たし蟹 そういえば説明なかったな? |
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大破した身体は回復したし、諸共めちゃくちゃになった服も綺麗さっぱり復活していた。壁際に投げたリュックも土を被ってこそいるがほとんど無事である。
それを拾い上げ、背負い直しながら、視聴者の質問に回答した。
「必勝法?そんなの色仕掛けに決まってるだろ!」
なんて???? 色仕掛けか…色仕掛け!? 正気ではない、常識もない 馬鹿かな? |
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作戦の全貌はシンプルかつ効果的なものだ。
俺が服を脱ぐ。美少女過ぎる俺に、たまらずオークが反応を示す。俺がオークに押し倒される。隙を付いて魔法発動。ゴウランガ、一撃必殺!才波ちゃん大勝利!!
もっとも運が悪かったようで、この素晴らしい作戦は失敗してしまった訳だが…
それを順を追って説明するも、視聴者は全く理解できない様子である。
「はぁ〜…お前ら知らねぇのかよ?オークってのはな、女子供を攫って犯す生き物なんだぞ?」
なんでそんな当然の事実みたいに語れるの? エロゲかな 義務教育をゲームで終えた女 そもそもモンスターに性欲なんてあるのか…? 性欲以前にモノがないんだよなぁ |
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「は?うそじゃん…オークってチンポ無いの?」
美少女名乗るくらいなら言葉を濁せよ! モンスターは生殖活動をしないから性器もないってWikiにも書いてあるんだよなぁ… 常識ねぇのかよ…(ブーメラン) |
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「ダンジョンのモンスターはスケベってエロ同人に書いてあったのに!オークの面汚しがよぉ…」
落胆を隠し切れない声であった。
少女の口から飛び出たとは思えない、下品極まるぼやきがダンジョンに吸い込まれて消えてゆく。追って漏れた溜め息の方は、台詞と比べれば、幾分可愛げのあるものに思えるだろう。
エロ同人…?才波は未成年のはず、妙だな…… あっ 18禁って言葉を知ってるかぁ?? |
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「えっいや、それは…くっ、お、俺…二十歳なんですけど!ふくし…の大学?に通ってるんですけど!!」
嘘乙 ※ブロックされたユーザーのコメントです※ いかんでしょ |
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同人誌「絶望█ませ強制█頂魔物█!!アカリ、上級冒険者を引退してオークの肉██になります♡♡♡」
実在の冒険者をモデルに作成された同人誌であり、才波が新宿ダンジョン攻略にあたって読み耽った教科書。
作中に存在する描写は、冒険者のキャラから魔物の生態まで、ほぼ完全に崩壊している。
元ネタの冒険者が非常に人気であることや、そうでありながら徹底的な尊厳破壊を繰り返す描写などが相まって、一部層からの圧倒的な支持を得た。
…なお、作者が名誉毀損で訴えられたため、現在は実質的な発禁状態である。