読者参加型TRPG風小説 作:矢端トラム
徐々に興奮の度合いを増し、威嚇から攻撃に移ろうとするグリズリー。
その瞳をじっと見つめたまま、あなたはゆっくりと後退し始めた。
戦わない。
いや、戦ってはならない。
それがあなたの判断だ。
判断材料はいくつかある。
まずはじめに、ここは谷底ではないというのが一点。
実際に試して体感した通り、谷底から崖上への登攀はそう簡単な事ではない。
巨体の熊よりも身軽なあなたをしてそうなのだ。
谷をくまなく探索できたわけではないため、どこかに道がないとは言い切れないが、眼前の個体がそうほいほいと2箇所を移動できているとは考えがたい。
次に、現場の荒れ具合と相手の状態が噛み合わない。
怒りや憎悪に囚われ、爪や手が岩を叩こうが構わずに腕を振り回したかのようなあの様は、正気の個体が残す痕跡とは到底思えない。
対して今対峙している相手は、自身の縄張りで見知らぬ生き物を見つけた獣として終始真っ当な反応しか見せていない。
とてもではないが、狂乱しているなどとは言えないだろう。
みっつめに、今述べた通りあなたに対して『見知らぬ生き物』を相手にするように対応しているという事。
谷底に残る痕跡、そしてあなたが聞いている目撃情報は、討伐対象のグリズリーがノッカーを殺し貪ったという事実を示している。
そして、ノッカーは人型の生き物だ。
もちろん人間とノッカーは多少の外見的差異はあるが、熊から見ればそれはハトとカラスの違いのようなものだろう。
ノッカーと戦った経験のあるものが、完全に未知の相手と対するようにあなたの前に立つのはおかしいと言わざるを得ない。
また、飢えとは無縁に見える体もあなたの考えを後押しする。
グリズリーは雑食だ。
必ずしも肉を食わなければならない生き物ではない。
いくらでも森の恵みを口に出来る環境にいるものが、反撃される危険を犯してまでノッカーの群れを襲うだろうか。
そんな行動はむしろ、飢えに苛まれて追い詰められたものの有り様と考えるのが自然であろうに。
結論としては。
あなたが今森林で遭遇してしまった個体は、依頼の討伐対象とは全く別の個体である可能性が極めて高い。
いや、最早別個体だと断言しても良いだろう。
あなたにこれと戦う意味はない。
この後に本来の相手と対せねばならない以上、無用な消耗はハッキリと害悪でさえある。
よってあなたは、グリズリーを刺激しないようにこの場からの撤退を決めた。
相手を害する意思も、縄張りを荒らすつもりもない。
静かに立ち去るから矛をおさめてくれと、言葉の通じない獣に視線で語りかけながら一歩ずつ距離を取る。
あなたの様子を見て、グリズリーは威嚇のために持ち上げた体をゆっくりと地面に下ろした。
後ろ脚で立ち上がった状態から四つ脚を全てついた状態へ。
同じ高さに下がった目で、あなたが去ろうとするのを監視するように見つめている。
「グゥ……ヴゥフ」
だが、残念ながらそれだけでは相手の気は収まらなかったようだ。
グリズリーの姿勢が変わる。
飛び掛かり、あなたを地面に押し倒す前段階の動作だ。
あなたは、抵抗の様子を見せずに後退した。
あるいはそれが、あなたを弱いものと認識させたのか。
次の瞬間、グリズリーは縄張りに踏み入った代償を払わせんとあなたに突進した。
| 判定内容 | 恐怖への抵抗 |
| 判定方法 | 2D6+精神SB 8以上で成功/やや難 |
| 判定結果 | 2D6+4=11(成功) |
それを、あなたはむしろ真っ向から睨み返した。
後退の足を止め、メイスを構え、その気ならばこちらも用意があると示してみせる。
もしかすれば、グリズリーの流儀に合わせて太く低い咆哮のひとつも上げてみせたかもしれない。
「ッ、ブフゥ」
相手の突進は、それで止まった。
互いの距離を半分ほどまで縮めたところでグリズリーは立ち止まり、再び困惑の気配を漂わせてあなたを見る。
人間を初めて見たのだろうグリズリーには、どうやら判断をつけきれないようだ。
この生き物は自分と比べて小さい。
そして今戦いもせずに逃げようとした。
ならば弱いのだろう。
縄張りに入った落とし前をつけさせてやるべきか。
襲い掛かろうとした思考の動きは恐らくそのようなもの。
だがそこで、あなたは『弱い生き物』では行えない反応を返した。
当然、グリズリーはまた考える。
本当にこれは弱いのか?
追い払うために戦って、自分は無傷で済むだろうか?
とてもそうは思えないほどの気迫を、相手は放ってはいまいか?
この状況で、それでも襲い掛かると決断できる獣は多くない。
無理に戦わずともいくらでも腹を満たされる環境にいる個体ならばなおさらだ。
ましてあなたは、この場から立ち去ろうともしている。
「…………」
あなたが再び後退を始めると、グリズリーは静かにそれを見送った。
今度はもう、何もしようとはせずに。
そのままあなたは下がり続け、相手の姿は麦粒のように小さくなっていく。
そして、いよいよ視界から消えるかという頃合で、グリズリーがのっそりと森へ戻っていくのがかすかに見えた。
どうやら縄張りの範囲は無事に抜けられた。
グリズリーに外敵と認識されるのは避けられたらしい。
様子から見て、もうあなたを追う意思はないと考えて良さそうだ。
もっともまた足を進めて再度森に踏み入れば話は別だろうが。
さて、落ち着いたところであなたは周囲を見渡した。
自分がどこまで後退したかを知るためだ。
その情報はすぐに得られた。
崖下に見覚えのある形の岩があるのだ。
登攀に失敗した時、あなたが跳躍して飛び降りた岩である。
ちょうど探索を始めた最初の位置まで戻ってきていたようだ。
崖上からの谷底の観察。
そして、遭遇した別個体のグリズリーからの逃走。
それらを経て、時間が経過していた。
日はもう随分と傾き、空は赤く染まり始めている。
まだ探索を継続する事はもちろん可能だ。
あなたの体力は十分に残り、何の怪我も負っていない。
日が沈み切るまではいくらか猶予もある。
なんなら荷の中にはランタンもあった。
夜間の行動も、やってやれないことはない。
……だが、あなたはすでに狂乱の痕跡を確認している。
夜の闇の中で、夜目が利くだろう野の獣を、しかも正気を失っている可能性の高い個体を相手にするなどそれこそ正気の沙汰ではない。
今日はひとまず探索を中断し、休息するべきだ。
あなたはそう判断して野営に取り掛かる。
| 判定内容 | 罠の設置 |
| 判定方法 | 2D6+器用SB この判定は成功も失敗もしない 罠が使用される際の品質を決定する |
| 判定結果 | 2D6+2=9(なかなか良) |
簡易的な寝床を作り、周囲に紐を張り巡らせる。
紐の先にくくりつけられているのは鳴子だ。
何者かがあなたに近付いてきた場合、足を引っ掛けて音を立てる仕組みである。
こういった事はあなたの専門ではないが、それでも今回はなかなか上手く設置できたようだ。
もちろん、だからと完全に気を抜いて寝こけるなどするわけもないが、幾分安心できる寝床にはなるだろう。
そして、そういった点から生まれる心の余裕は馬鹿にできないものだ。
これ以上は、今日するべき事はない。
森の中から何かが現れないかを警戒しながら、徐々に黒く染まっていく空を眺めて、あなたは時を過ごす。
| 判定内容 | ランダムエンカウント |
| 判定方法 | 2D6+幸運SB 6以上で成功/普通 |
| 判定結果 | 2D6+2=8(成功) |
静かな夜であった。
生き物の気配はあるが、どこか遠い。
グリズリーと同じく、見知らぬ相手であるあなたを警戒して遠巻きにしているのだろう。
熊の縄張りが近い以上、あなたを害する事のできる体躯の獣はすでに駆逐されている、などという事情もあるのかもしれない。
| 判定内容 | ????? |
| 判定方法 | 2D6+感覚SB 12以上で成功/困難 |
| 判定結果 | 2D6+3=9(失敗) |
ともかく、あなたは快適な野営を過ごした。
水を沸かし、保存食である堅焼きのビスケットをふやかしながらゆっくりと食む。
本来であればわびしい食事だろうが、今回は森の恵みである木の実が彩を添えてくれている。
もしあなたが消耗していれば、この時間は心身を暖かく癒してくれた事だろう。
| 判定内容 | 休息による回復 |
| 判定方法 | 2D6(HP) 2D6(MP) 1D6(HP&MP/地形) |
| 判定結果 | 3D6=11(HP) 3D6=13(MP) |
| TIPS/休憩と野営 |
| クエスト中、休息によってHPとMPを回復できる。 休憩の回復量は1D3。 野営の回復量は2D6。 状況や地形、技能や秘蹟により回復量は増減する。 |
そうして、やがて夜が明けた。
木々の向こうから日が差し込み、谷と森を照らし始めている。
そろそろ活動を再開するに良い頃合だろう。
昨晩と同じメニューの朝食を済ませて、あなたは野営道具を片付けて立ち上がった。
改めて、あなたは崖下を覗く。
どうやら変わった様子はない。
あなたがここから見た限り、昨日の記憶と全く合致しているように思える。
河原に転がるノッカーの腕の位置もそのままだ。
野営の最中もおかしな物音や気配は感じていない。
討伐対象のグリズリーは、どうやら一晩を過ごしてもここには現れなかったようだ。
発見するためにはやはり上流側に進まねばならないのかもしれない。
だが、とあなたは視線を上流側の森に移した。
このまま崖上を進むなら再びあのグリズリーと出くわすだろう。
そして、2度目の狼藉は見逃してもらえるとも思えない。
この選択をするならば、相応の覚悟が必要だ。
無難なのは昨日上がってきた道から谷底に下り、川沿いを行く事だろう。
もちろんそれはあの狂乱の現場に直接繋がる道である。
突如として討伐対象と鉢合わせる可能性もあるだろうが、正面から打ち倒す自信があるならそれはむしろ望む所であるはずだ。
他には、対岸に渡るという手もある。
谷を挟んだ向こうは、今あなたがいるのと同じく森となっている。
そちらからならば昨日のグリズリーの縄張りを回避しつつ上流へと向かえる。
問題は、対岸も何らかの獣が縄張りとしているだろうという事だ。
グリズリーとの戦闘は上手く避けられたが、次も同じ結果となる保証はない。
それぞれ危険のある選択肢だ。
どれを選ぶのが一番マシか、あなたは考えねばならない。
……もし危険を選べないというならば、この場にとどまるしかない。
討伐対象が少なくとも1度は現れた形跡があるのだ。
目は薄いかもしれないが再度の来訪もないわけではないだろう。
日数をかけ、罠を揃えて時を待つのも、あなたの自由だ。
| 名前 | (あなたが自由に決めて良い) |
| 職業 | 神官 |
| HP | 36/36 |
| MP | 17/17 |
| 筋力 | 7 | SB=2 |
| 耐久 | 13 | SB=4 |
| 敏捷 | 9 | SB=3 |
| 器用 | 6 | SB=2 |
| 感覚 | 10 | SB=3 |
| 知識 | 12 | SB=4 |
| 精神 | 13 | SB=4 |
| 幸運 | 8 | SB=2 |
| 装備 | 性能 |
| メイス | 『2D6+筋力SB』の物理ダメージ |
| バックラー | 防御成功時、 物理ダメージを『耐久SB』追加軽減 |
| 特殊技能 | 詳細 |
| 信仰 | 秘蹟の使用権を得る |
| 治癒 | 初歩の秘蹟、消費MP5。 肉体をあるべき姿に戻す。 『1D6+精神SB』のHP回復。 |
| 守護 | 初歩の秘蹟、消費MP3。 肉体があるべき姿を保つ力を強める。 『精神SB』だけ全ダメージを軽減。 効果時間は1戦闘。 |
| 賦活 | 初級の秘蹟、消費MP5。 肉体と魂をあるべき姿に引き戻す。 状態異常を回復。 |
| アイテム | 詳細 |
| におい袋 | 1度だけ100%逃走成功 |
| チェインメイル | 1度だけ死亡を回避 |
あなたの行動は?
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グリズリーの縄張り、崖上の森を進む
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谷底に降りて上流を目指す
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対岸に渡り、未知の森を進む
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この場にとどまる