読者参加型TRPG風小説   作:矢端トラム

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クエスト『谷底の ???の グリズリー』(5/5)

 

グリズリーが勢いを減じさせる様子は全くない。

接敵まで残る時間はあとわずかだ。

 

迫る敵手を前に、あなたは腰を落として足場を踏み固めた。

移動はしない。

全身に怪我を負い動きの鈍った相手である。

正面からの殴り合いでも勝利の目は十分にあるはずだとあなたは判断した。

ここで相手を迎え撃ち、討伐すると決定する。

 

 

 

戦闘準備
秘蹟使用『守護』

MP『17-3=14』

この戦闘中、全てのダメージを『精神SB』だけ軽減する

 

 

 

あなたの口から聖句が紡がれる。

日々守り続けた戒律の一節は、あなたの肉体を人の形に保たんと働く光の帯となって顕現した。

蛇のように蠢き巻き付くそれを、あなたは抵抗なく受け入れる。

 

そこまでを終えても敵はまだ遠い。

余程脚を大きく痛めているのか、手負いの獣は獣らしい俊敏性をまるで失っていた。

 

これならば、さらにもう一手が打てる。

あなたは弓を修めておらず、所持してもいないが、投げるに適した石ならば足元に山のようにある。

それを投げ付けてグリズリーの出鼻を挫く……そんな手も、あっただろう。

 

だが、あなたはそれを選ばなかった。

代わりに、聖句を唱え終えた口をもう一度開く。

 

 

 

判定内容言語学
判定方法2D6+知識SB

9以上で成功/やや難

判定結果2D6+4=7(失敗)

 

 

 

それは賭けだった。

あなたは谷に響くような大声で叫ぶ。

ここに来た目的。

成さねばならない使命。

共闘のための呼び掛けを。

 

あなたはノッカーの、魔種の言語を知らない。

必然、あなたが語る言葉は人間のそれだ。

谷底に住まう一族に通じるかは……分の悪い賭けだろう。

仮に話者が群れにいたとしても、この殺戮の後だ。

たまたまその個体が生き残っているとは期待すべきではない。

 

だがもし、と。

あなたは積み上げられた岩の下、押し込められたノッカーの死体を見る。

もし生き残りが復讐を果たさんとするならば、この場を選ぶ可能性は低くないはずだとあなたは断じた。

 

必ず戻るだろう餌場に罠を張り。

腹を満たして気を緩ませるだろう一瞬に狙いを絞って。

どこかに潜伏している可能性はおそらくある、と。

 

そして声が聞こえる範囲に居るならば、敵を同じくする者として、例え言葉が分からなくとも届くものはあるのではないか。

あなたは、そう賭けた。

 

 

 

2度、3度とあなたは呼び掛けを繰り返す。

可能な限り聞き取りやすいようにゆっくりと、理解しやすいように平易な内容で。

 

……だが、返答はない。

 

言葉を理解できていないのか。

共闘に応じる気がないのか。

それとも、あなたの予想は外れていてこの場には誰もいないのか。

 

そのどれであるかすら、あなたには判別の手段がなかった。

 

 

 

「ヴ、グゥウァア!」

 

タイムリミットだ。

呼び掛けに手応えはない。

どうやら助力は得られず、あなたはひとり、グリズリーの脅威に立ち向かわねばならない。

 

もちろん、それは初めから最も高い可能性として理解していただろう。

当たり前の事が当たり前に起きただけだと、あなたは納得した。

メイスを握る手はわずかも緩むことはない。

 

 

 

戦闘開始/1ターン目

 

判定内容行動順の決定
判定方法2D6+敏捷SB

比べ合い/数値が大きい方が先制

判定結果2D6+3=10(あなた)

2D6+0=6(グリズリー)

 

 

 

先手を取ったのはあなただった。

 

大きく飛び掛かり、巨体をもって獲物を押し潰さんとするグリズリーが、後ろ脚に満身の力を籠める半秒前。

あなたはその呼吸を読み、足元の岩を弾けさせながら素早く踏み入ってみせた。

 

 

 

判定内容あなたの攻撃
判定方法2D6+器用SB(命中力)

2D6+筋力SB(攻撃力)

判定結果2D6+2=13(命中力)

2D6+2=10(攻撃力)

 

 

 

「ヴォ、ッ!?」

 

グリズリーはそれで体勢を崩された。

一撃で殺してやると、憤怒に駆られていたのが仇となる。

脚に下された脳からの命令は行き場を失い、あなたの動きに咄嗟に対応できずにたたらを踏む。

 

 

 

判定内容グリズリーの防御
判定方法2D6+耐久SB

命中力以上なら成功

判定結果2D6+5=12(失敗)

 

判定内容ダメージ計算
攻撃力10
補正なし
最終ダメージ10

 

 

 

ただでさえ崩れた姿勢。

そこからさらに、あなたの振るうメイスを避けようと無理に体を捻ったのが最悪の悪手だった。

 

グリズリーの脚が、ガクンとずれた。

不安定にすぎる積み重なった岩の足場が無理な挙動に耐えきれずに崩れたのだ。

 

四つ脚の獣ゆえに、転倒まではしない。

だが、一瞬の硬直は確かに生まれた。

そして、そんなあからさまな隙を見逃すあなたではない。

 

 

 

大気を割り裂く轟音を引き連れて、鉄塊が振るわれる。

肩に担いだメイスを斜め上方から放り投げるような振り下ろしの一撃は、狙い違わずグリズリーの顔面を直撃した。

 

黒い血痕にまみれた河原に、新たな鮮血が舞う。

グリズリーの頭部に残っていた傷跡、そこに張りかけていた薄皮が衝撃に引き裂かれ、ちぎれた肉片と溜まった膿を撒き散らす。

 

「ッ、ゴ、ォ……アッ、!?」

 

巨体がふらりとよろける。

当然のことだ。

今の一撃は間違いなくグリズリーの分厚い頭骨を貫通し、内部にまで威力を浸透させた。

 

およそ完璧と言って良い手応えだった。

同じ打撃をもう一度同じ箇所に叩き付けたなら、それだけで戦闘にケリをつけられると確信できるほど。

 

 

 

が、それはつまり。

 

「ガ、アァァァッッッ!!」

 

それほどの痛打を直撃させられてなお、命にまでは届いていない事を意味していた。

憤怒が迸り、憎悪が炸裂する。

身を苛む苦痛に狂い澱んだ瞳が至近距離からあなたを捉えた。

 

崩れた姿勢にまるで頓着せず。

眼前の生き物さえ殺せるならばそれで良いと、剛腕があなたへ振るわれる。

 

 

 

判定内容グリズリーの攻撃
判定方法2D6+器用SB(命中力)

2D10+筋力SB(攻撃力)

判定結果2D6+0=7(命中力)

2D10+8=28(攻撃力)

 

 

 

が、それは苦し紛れのような一撃だった。

あなたは自ら爪の前に身を晒し、盾を振るって叩き付ける。

受け流しだ。

グリズリー自身の剛力を利用して力の流れを変えられた剛腕は、あなたの体を捉える事なく地面を砕く。

 

ならば次、攻撃をいなして作った隙にもう一度とメイスを握り直したその瞬間だ。

 

あなたの背筋をゾクリと予感が走った。

足に送られた攻撃のための命令を瞬時に撤回し、咄嗟に飛び退く。

その眼前をノッカーの黒い血に染まった爪が通り過ぎた。

ローブの裾が切り裂かれ、端切れが散るほどのギリギリでの回避。

 

それはまさに狂気に犯された乱撃だった。

隙が生まれようが、地に身を転がそうがどうでもよい。

ただ殺す。

殺して、殺して、殺し尽くす。

流血に染まったグリズリーの鮮紅の双眸はそれだけに支配されていた。

 

メイスを叩き込める隙はあれど、反撃などできるわけもない。

それを選んだ瞬間、あなたとグリズリーは同時に頭蓋を砕かれて共倒れに終わるだろう。

 

振るわれる腕と爪、突き立てられる牙をあなたは凌いでいく。

いなし、避け、受け流し、叩き落とし。

そして、しかし。

やがて限界が訪れた。

 

 

 

呼吸が止まり、鼓動が加速し、極限まで五感が引き延ばされた世界で、あなたはそれを見た。

もう幾度目かもわからない連撃の、おそらく最後の一撃。

グリズリーの全力、捨て身のそれは対処不能だった。

 

この足場では避けられない。

流すにもいなすにも、熊の力に対抗し続けた腕ではもう足りない。

甘んじて受ける以外に、あなたの取りうる択はなかった。

 

 

 

判定内容あなたの防御
判定方法2D6+耐久SB

命中力以上なら成功

判定結果2D6+4=13(成功)

 

判定内容ダメージ計算
攻撃力28
補正防御/-14(50%)

秘蹟/-4(守護)

最終ダメージ10

 

HP
36-10=26

 

 

 

それでもあなたは可能な限りの最善を選び取った。

 

地面から足を離し、自ら跳ぶ。

直後、胴に密着させた盾に恐るべき衝撃が叩き付けられる。

 

まるで癇癪を起こした幼な子に放り投げられた人形のようだった。

あなたは大きく宙を舞い、岩場に激しく落下して全身を打ちつけた。

勢いのままさらに跳ね転がる度に全身を苦痛が舐め尽くしていく。

 

常人ならばまず助からないだけの威力だ。

打たれた段階で即死は免れず、残りの工程は遺体を二目と見られぬほどに損壊させただろう。

 

だが、それでもあなたは素早く立ち上がった。

速度が減じ、制御が叶うほどになった瞬間即座に盾を岩に打ち付けて止まり、反動で身を起こす。

盾はそこで役目を終えた。

把持のためのベルトだけを残し、木と金属のカケラがバラバラと崩れて落ちる。

 

身軽になって良いと、あなたが口の軽い性質ならば嘯いたかもしれない。

 

 

「フゥーッ、ヴァフ、ヴフゥ……!」

 

メイスを片手持ちから両手持ちへ。

戦闘はまだ始まったばかりだ。

乱撃で息を荒くするグリズリーは、吹き飛んで距離のあいたあなたを殺意を漲らせて睥睨している。

 

その懐を目指して、あなたは再び臆さずに踏み込んでいく。

 

 

 

戦闘継続/2ターン目

 

 

 

──その時だ。

 

コォン、と。

あなたの耳に高い音が届いた。

 

それは後方から。

あなたの背後、およそ3歩の地面より響いている。

 

その音の正体を、あなたは知っていた(知識判定成功済)

 

 

 

踏み込もうとしていたあなたの足が逆回しに動く。

向かう先は決まっている。

違わず3歩を下がったあなたは、音が発された地点にて腰を低く落として待った。

 

グリズリーはそれを追う。

逃げるなど許さない。

お前はここで死ねと、巨木のような後肢でもって立ち上がりあなたを押し潰しにかかる。

 

 

 

それを。

突如として岩場から突き出した石筍が迎え撃った。

 

 

 

鉱山で働く者に曰く。

山を掘っている時に、壁の向こうから音が聞こえたならば従え、という。

 

低く詰まるような音ならば警告だ。

掘り進めてはならない。

落盤か、出水か、それとも毒か。

いずれにしても死を呼ぶ災いが近いと示している。

 

高く澄んだ音ならば導きだ。

必ず掘り進めねばならない。

従えば、求めた財に続く道が開ける。

 

それこそがノッカーの──『壁を叩く者』と人との間における最も古い、始まりの伝承だ。

 

 

 

イベント発生
『ノッカーの助力-B/条件達成』

・ノッカーの射程範囲内

・共闘の呼び掛けを行った

 

・言語学失敗により発生遅延

 

判定内容ノッカーの援護(NpcLv1)
判定方法2D3(攻撃力)
判定結果2D3=2(攻撃力)

 

判定内容ダメージ計算
攻撃力2
補正なし
最終ダメージ2

 

 

 

「ゴァ、ッ!?」

 

グリズリーに回避の術はなかった。

すでにあなたへと飛び掛かっている体を止めるなど出来るはずもなく、勢いのままに自ら石筍の先端へ胸を打ち付ける。

 

石筍はそれで崩壊し、河原の岩に混じっていく。

どうやら強度はさほどなく、痛打となるにはほど遠い。

 

 

 

ただしそれは、この場にあなたがいなかったならの話だ。

 

援護の結果を確認する前に、どころか。

石筍の発生の瞬間にあなたはもう動いていた。

賭けではない。

例え言葉も意思も交わしていない相手とだろうとも。

この程度の共闘を成立させられない未熟者など、まさか冒険者を名乗る者の内にあるわけがない。

 

 

 

判定内容あなたの攻撃
判定方法2D6+器用SB(命中力)

2D6+筋力SB(攻撃力)

判定結果2D6+2=9(命中力)

2D6+2=10(攻撃力)

 

 

 

したたかに胸を打たれた衝撃にグリズリーが身を固めると同時、あなたのメイスが後肢を穿った。

膝から下を掬い上げるような一撃に、巨体が一瞬浮いて、そして落ちる。

 

明確な、これ以上ない好機。

地に転がるグリズリーの頭部は、今やあなたの前に曝け出された。

 

振り下ろされるは初撃と同等。

すでにひび割れているだろう頭蓋を完全に破砕するに足る豪撃だった。

 

 

 

判定内容グリズリーの防御
判定方法2D6+耐久SB

命中力以上なら成功

判定結果2D6+5=14(成功)

 

判定内容ダメージ計算
攻撃力10
補正防御/-5(50%)
最終ダメージ5

 

 

 

対し、グリズリーは()()()()()

避けず、退かず。

自身の命を狙う槌へと、自ら頭を叩き付ける。

 

それは獣の頂点に立つ捕食者の、強靭な本能によるものか。

それとも、乱撃に対しあなたが見せた技をこの短時間で学んでみせたのか。

 

グリズリーの眼球が弾け飛ぶ。

水晶体混じりの血液が吹き出し、眼窩の骨は砕けて周辺の組織をズタズタに引き裂いた。

 

だが、それはあなたの狙いではない。

砕くべきは頭骨、引き裂くべきは脳だった。

インパクトのタイミングをずらされた衝撃は徹りきらず、命にはわずかに届かない。

 

 

 

「────ッッッ!!!」

 

そして、渾身の打撃を逸らされたあなたの腹へ牙が迫る。

あらゆる余裕を失って、咆哮など上げる余力もなく。

それでもあなたを殺しうるだけの鋭さをもって。

 

 

 

判定内容グリズリーの攻撃
判定方法2D6+器用SB(命中力)

2D10+筋力SB(攻撃力)

判定結果2D6+0=8(命中力)

2D10+8=17(攻撃力)

 

 

 

あなたが取った対応は、敵手と似ていた。

 

メイスから片手を離し、拳を握る。

そしてそれを──殴り抜くようにグリズリーの口腔内に叩き付ける。

 

 

 

判定内容あなたの防御
判定方法2D6+耐久SB

命中力以上なら成功

判定結果2D6+4=10(成功)

 

判定内容ダメージ計算
攻撃力17
補正防御/-8(50%)

秘蹟/-4(守護)

最終ダメージ5

 

HP
26-5=21

 

 

 

致命的な一撃はそれで回避される。

片腕を犠牲に、グリズリーの牙は胴に届く前に閉ざされた。

 

必然、牙があなたの腕を穿った。

ローブなど容易く貫通し、皮膚を突き破り、しかし。

骨にまでは達しない。

 

「ッ!?」

 

グリズリーが、残った片目を驚愕に見開いた。

彼の生においておそらくは初めての事だったのだろう。

完全に牙に捉えた獲物を、まさか食いちぎる事が出来ないなど想像の範疇になかったはずだ。

 

それどころか。

腕の表面を覆う光が一際輝き、食い込んだ牙を押し返し始めるなど。

 

 

 

混乱はわずか一瞬のこと。

ならばと、今度はグリズリーの腕が動く。

抱き締めるように捕え、さらに深く大きな力に晒してしまえば良いと。

 

だが、速いのはあなただ。

グリズリーが混乱から立ち直るまでの時間で、あなたはとうに必要な行動を終えている。

 

敵の胴を蹴り、腕を引き抜きながら後方へ跳ぶ。

噛みつかれたままの肉が裂け、傷は大きく広がったが許容範囲だろう。

少なくともこの巨獣を相手にするにあたって、安い代償である事は疑いなかった。

 

 

 

戦闘継続/3ターン目

 

 

 

そのまま下がり、あなたは戦闘を仕切り直した。

血まみれとなった腕を再びメイスに添え、まだ力が籠められる事を確認する。

 

「──ッフゥ、ブフ、グウ、ウゥ、フゥ、ッ」

 

それを、黙って見逃すほかなかったグリズリーの呼吸はひどく荒い。

頭部への2度の痛打はそれだけのものだった。

砕かれた片目から止めどなく流れ出す大量の血は、明らかにその生命が危険域にあると示している。

 

本能が全力で警鐘を鳴らしているに違いない。

今すぐに逃げろ。

眼前の脅威に背を向けて、死の危険を遠ざけろと、壊れかけの頭蓋の内側に大きく響いているはずだ。

 

 

 

だが、それを。

 

「ガ、アアァァアッッッ!!」

 

グリズリーは憎悪でもって掻き消した。

 

震える四肢はみたび地を蹴った。

己に痛みを与えたものを殺せるならば。

その後にこの身がどうなろうと知ったことかと、怒りが生存本能を超越する。

 

 

 

その狂気は再びの乱撃としてあなたに襲い掛かった。

もはやそこに思考も狙いも存在しない。

命の最期の一片がこぼれ落ちるまで繰り返される牙と爪の暴風があなたを飲み込まんとする。

 

盾を失った今、それは到底凌ぎ切れるものではない。

どれほど素早く身をかわそうと、どれほど強くメイスを振るおうと、限界は前回よりもよほど早く訪れた。

 

 

 

奇しくもあなたの初撃と同じ、斜め上方からの振り下ろしの爪。

それは凌げる。

メイスの威力をもって軌道を逸らせば、あなたの表皮を削ぐだけで済ませられる。

 

だが問題はその後だ。

剛腕を逸らすだけの力を籠めた行動は、一瞬の硬直を生む。

そうなれば、もう準備を半ば終えている残りの片腕があなたを襲う。

 

避けるすべはない。

出来るのは先と同じ次善の防御と、護りの秘蹟に祈りを捧げる事だけだ。

 

 

 

ただしそれは、直前の応酬と同じく。

ここにあなたしかいない場合の話である。

 

 

 

振り下ろされる剛腕を前に、あなたは腰を落とした。

そして叫ぶ。

届くと信じて発した意を言葉にするならば、『合わせろ』だ。

 

ゴォン、と。

低く詰まる音が背後の高い位置から返るのを聞くまでもなく、あなたは生み出しうる全ての力をメイスに注いだ。

 

 

 

振り下ろされるグリズリーの右腕と、あなたが振り上げた槌が()()()()衝突した。

 

逸らすのではなく、受け止める。

それがあなたに与えた衝撃は想像を絶する痛みをもたらした。

あなたに倍する体躯、優に10倍以上の重量が許容限界を超えた負荷を生む。

骨が軋みヒビが走り、筋肉が断裂し、各所の血管が悲鳴を上げて弾け飛ぶ。

 

だがそれを代償に──あなたは一時、敵手の動きを完全にとどめてみせた。

 

 

 

判定内容ノッカーの援護(NpcLv1)
判定方法2D3(攻撃力)
判定結果2D3=4(攻撃力)

 

判定内容ダメージ計算
攻撃力4
補正なし
最終ダメージ4

 

 

 

意は通じた。

あなたが稼ぎ出した一瞬。

グリズリーが再び動き出し、あなたの体を引き裂くその前に。

 

あなたの後方の崖から射出された岩の弾丸がグリズリーの頭部を撃った。

 

「──ォ、ア、ッ」

 

鋭く突き出した弾丸の先端は、砕かれた眼窩を確かに穿っていた。

どうしようもなく意識を揺らす致命打に巨体が揺れる。

あなたを捉えるはずだった左腕の追撃は、まるで見当違いの空を虚しく裂いた。

 

 

 

そうして、その身が倒れた先。

残された一滴の生命を振り絞って未だにあなたを睨むグリズリーへと、あなたは鉄塊を振り上げた。

 

もしもあなたが殺し合いの最中に笑顔を浮かべられる人間であったなら、きっとその口の端は釣り上がっていた事だろう。

実に気が利いている。

ちょうどそれが欲しかった、と。

 

倒れ伏したグリズリーが頭を預けていたのは。

先に逝った者たちが流した黒い血に染められた、平らで、広く、そして安定した大岩(断頭台)だった。

 

 

 

判定内容あなたの攻撃
判定方法2D6+器用SB(命中力)

2D6+筋力SB(攻撃力)

判定結果2D6+2=11(命中力)

2D6+2=11(攻撃力)

 

判定内容グリズリーの防御
判定方法2D6+耐久SB

命中力以上なら成功

判定結果2D6+5=9(失敗)

 

判定内容ダメージ計算
攻撃力11
補正なし
最終ダメージ11

 

 

 

逃げ場の無い力が、ついに砕け散った頭蓋の内を撹拌する。

 

「──……」

 

断末魔を漏らす事さえ出来ず。

頭の中身、その全てを失って、グリズリーは沈黙した。

 

 

 

戦闘終了

 

 

 

あなたは大きく、大きく息を吐き、メイスを下ろした。

 

終わってみれば、あなたにはまだ余力がある。

肉が裂け骨がひび割れた()()、あなた達冒険者にとっては軽傷である。

日常茶飯事と言っても良い。

ましてあなたは神官であり、負った傷の全てを今この場で完治させる事も可能なのだからなおさらだ。

 

だが、それは結果論だ。

ひとつ行動を誤り、天の運(ダイス)に見放されれば、骸を晒していたのはあなただったかもしれない。

それだけの、恐るべき相手であった。

 

 

 

そうして生存を噛み締め、負傷の度合いを細かく確かめていたあなたの耳に、ガラガラと音が届く。

積まれた岩を崩すような……というより、それそのものの音だ。

 

音の方向へ振り向いたあなたは、見た。

崖の際。

岩の下に詰め込まれたノッカーの死体の山が蠢き、奥から生きた個体が這い出してくる様を。

 

なるほど、良い隠れ場所であったろう。

グリズリーの嗅覚による発見を逃れ、そして復讐のために食事の隙を狙うにはこれ以上の選択肢はあるまい。

 

……同胞の黒い血に全身を濡らした生き残りを見て。

痛ましいと目を伏せたか。

合理的と頷いたか。

それとも頬を引き攣らせたか。

あなたがどう感じたかは、這い出したノッカーの視線があなたではなくグリズリーへと向けられている以上、あなただけが知る事だ。

 

 

 

ノッカーは、頭部の潰れたグリズリーの前に歩み出ると、その前でしばし佇んだ。

ただ立ち尽くし、じっと骸を見つめている。

その背中は静謐なれど、内心がどれほど荒れ狂っているかは……硬く、表皮の岩が砕けて落ちるほどに握られた拳を見れば明らかだ。

 

とうさま……かあ、さま……

 

かすかに漏れた声の意味は、あなたには分からない。

その知識をあなたは持たない。

だがその音色から、おそらくは同胞を悼むものだとわかった。

 

まだ幼い個体なのだろう。

通常のノッカーと比してなお小さい体は、親の膝にすがって甘えるのが似合いなようにあなたには見えた。

 

 

 

それでも、ノッカーの幼体は顔を伏せたままではいなかった。

 

彼、あるいは彼女はやがてあなたへ振り向くと、蒼い水晶の瞳をゆっくりと閉じ、それから身を折って地面を叩いた。

コォン、と。

あなたの足元から高く澄んだ音が鳴る。

ノッカーの文化における、感謝の意思表示だ。

 

それから立ち上がると、今度は首から提げられていた装飾品を外す。

形状からしておそらくはタリスマン、お守りか何かだろう。

 

それを川水に浸し、よくよく洗ってから、あなたへと差し出した。

 

 

 

精緻な意匠の品である。

手間と時間をかけて削られたのだろう翡翠の台座の中央に、良く磨かれたアイオライトがはめ込まれている。

 

これを、あなたに

 

ノッカーの幼体は、タリスマンを差し出したままあなたへと語り掛けてきた。

言葉はやはりわからないが、意味するところは明白だろう。

群れの仇敵の討伐、その代価としてあなたへ贈りたいようだ。

 

とうさまはいつも言ってた。我ら石の民はその身に永劫を刻むものなれば、蒼きソールの涙に誓って、受けた行いをいつまでも忘れず、必ず報いなければならないって

 

ノッカーの掌の中、アイオライトは昼の陽射しを受けて眩く輝いている。

その色は、幼体の瞳のそれに良く似ていた。

 

ぼくが受けた恩義には足りないけど……これの他に、あなたに渡せる価値あるものは……もう、何もないから

 

 

 

あなたはこれを、受け取っても良いし受け取らなくとも良い。

 

ノッカーの間であればともかく、人間の社会において翡翠とアイオライトの価値はそう高くない。

都市の市場に持ち込んで売ったとして、少々珍しい工芸品の域を超える値はつかないだろう。

秘蹟や魔術のような力も感じられない。

 

故に、この選択は大きな意味を持たない。

どうしようがあなたが此度の冒険で得る経験にも報酬にも影響を及ぼさない。

 

あなたがこういった時にどのように応じる者なのか。

それを、あなた自身に示すだけの選択だ。

 

 

 

ノッカーの幼体は、じっとあなたを見つめている。

灰色の兜のようにも見える岩の髪の向こうから、蒼い瞳を揺らす事なく。

 

あなたの行動は?

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