読者参加型TRPG風小説 作:矢端トラム
「……ダメ、ですか?」
ひとしきり言い募った後、少年は勢いを失って眉を下げた。
年上の相手に対し意見するのは生意気だったろうかと、そんな風に思っているだろう事がありありとわかる。
どうやら感情が素直に顔に出る性質のようだ。
そんな彼に対し、あなたは理屈を説いた。
まず第一に、余計な体力の消耗は得策ではない。
隣町への道のりの中、想定外に強力な獣などに襲撃された場合、少年にも全力で走ってもらわなければならないかもしれないのだ。
その際に、体力がありませんでは洒落にならない。
「でも、少しくらいペース上げても、俺全然走れます!」
確かにそうだろう。
あなたが見た限り、少年の自己分析は当たっている。
が、ごく単純な話。
ゆっくりと進んでほとんど疲れていない状態と、早足で進んで少し疲れた状態。
このふたつを比べた時、より速く、より長く走ることのできるのはどちらか。
答えは考えるまでもない。
「う……それは、その通りです」
村を護る聖火の結界の外ではそのわずかな差が生死を分ける事もあるのだ。
少年の命を守る義務を負った者として、安易な選択をすべきではないだろう。
第二に。
あなたは少年に尋ねた。
そんなに急ぐ必要は、果たしてあるだろうか。
「え……? そ、それはもちろんです。だって、シルフィウムがないと薬が作れないんですから、早く持って帰らないと」
そう答える少年に、しかしあなたは首を横に振った。
薬は、全く作れないわけではない。
手間が増え、薬効が弱まるだけで。
そして、それが大きな問題になるような状況でもないはずだ。
でなければ、薬師のゆったりと落ち着いた様子は不自然である。
本当に緊急ならば、出発まで1日を置くことなく、急いで向かってくれと依頼するべきだ。
加えて言えば、依頼内容にも時間の制限などは一切含まれていない。
「あれ? え、あっ、確かに……」
自分の失態に端を発した事であるために、少年は焦り、視野を狭めていたのだろう。
あなたに指摘されてようやく気付いた様子で目をパチクリさせている。
隣町への到着が遅れ、その日の内に交渉が行えなかったとして。
そうなれば翌日は出発を諦めて交渉だけに当て、もう一泊してから村へ戻れば良いだけだ。
無理に急いだところで、あなたも少年も何も得しない。
溜まるのは余分な疲労ばかり、という結果になるだろう。
| 判定内容 | 説得 |
| 判定方法 | 2D6+精神SB 比べ合い/数値が大きい方が勝利 立場の優位によりあなたに『+3』補正 |
| 判定結果 | 2D6+7=18(あなた) 2D6+0=6(少年)
あなた勝利(クリティカル) |
「あの…………はい。なんか、その、全部神官様のおっしゃる通りでした……」
あなたの言葉に、少年はしおしおと萎んだ。
自分の空回った思考も自覚したようである。
幼い顔は赤く染まり、なんとも恥ずかしそうであった。
元々気を落としていた少年が、さらに気落ちする。
それは余り良くない事だ。
精神面の落ち込みは体調に影響し、旅程の疲労を大きなものにしかねない。
放置せず、気を紛らわせてやるべきである。
そう判断したあなたは、俯く少年へと話題を振った。
内容は、さて。
あなたと少年の接点はほぼゼロだ。
これまで村の者とは日常的なごく普通の交流しかしていないあなたにとって、彼の情報は少なく、どのような事を趣味としているかなどは知る由もない。
が、あなたにはこれまで神官として、教会での奉仕活動を通して得た経験がある。
子供達を観察し導く手腕に関しては
特に苦労なく、
「え? そういう調薬、ですか?」
聞き返す少年に、あなたは頷いた。
少年は、失敗を長く引きずるほどに真面目で、師に与えた損失を努力で取り返そうとするほどに責任感が強い。
おそらく、薬師見習いとしての日々の修業にもよく取り組んでいるだろう。
薬師の態度や言葉からして、少年は明らかに大事に育てられているという点もあなたの推察を補強する。
一般論として、教え導く者にとって最も可愛いのは、懸命に学ぶ者である。
「えっと、はい、沢山あります。それこそ、シルフィウムもそうで……ゆっくりじっくり、弱い火で温めないといけません。待つのが億劫だからって強めちゃうとダメなんです。
良く学ぶ者の多くは、得た学びを自らの芯とする。
誇らしいもの、輝かしいものとして己の内に積んでいく。
そしてそういったものは、時に他者に披露する事に喜びを伴う。
幼いうちは特にだ。
急いではいけない事。
それは旅程だけでなく薬師としての仕事にもあるのではないか。
そうあなたに問われた少年は、自らの経験を語り始めた。
初めはゆるゆると、しかしすぐに饒舌に。
「──つまり、なんていうか、強い下剤になっちゃうんです。薬師の一番身近な実験体は自分自身だって先生が言うから、出来たのは俺が自分で舐めたんですけど……本当に酷い目にあいました」
語られるのは失敗談である。
それも相当に恥ずかしいものだ。
しかし、彼の中では笑い話であるらしい。
今回の失敗の件のように気を落ち込ませる事なく言葉を続けられている。
少年の話はさらに続く。
今度は、街道から見える位置に実っていた野いちごを見て。
「あ、野いちごだ……あれもダメです、ゆっくりやらないと。果物全般そうなんですけど、煮詰めると跳ねるじゃないですか。アレで何回やけどしたか……。しかもそれで慌てちゃうとすぐ焦げるし」
少年の顔はだんだんと明るいものになっていく。
どうやらあなたの考えは正しかった。
更に言葉を、彼の積んだ学びを口にさせるため、あなたは製薬に興味のある聞き役に徹する。
もしあなたが知識欲の豊富な人間であるなら、それは半ば本音であったかもしれない。
「野いちごの薬効ですか? 熱を下げてくれるんです! 小さい子でも飲みやすいから先生も良く作るんですよ。だから採取も何度もしてて、工房の庭でも育ててるし、へへ、実はたまに余ったらジャムにして食べさせてくれたりもして。先生って薬だけじゃなくて料理も──」
精神の状態は体調に大きく影響する。
マイナスはもちろん、プラスもだ。
少年の足取りは跳ねるように軽く、まるで疲れを感じさせないままに道行きは消化されていった。
| 判定内容 | ランダムエンカウント |
| 判定方法 | 2D6+幸運SB 6以上で成功/普通 |
| 判定結果 | 2D6+2=7(成功) |
| 判定内容 | 周囲の観察 |
| 判定方法 | 2D6+感覚SB 7以上で成功/普通 |
| 判定結果 | 2D6+3=9(成功) |
「今どのくらいのとこまで来たんでしょうか?」
街道から数歩外れた位置、開拓村と隣町を結ぶ街道における目印として知られた岩に腰掛けて、少年が聞く。
答えとしてはおよそ半分といったところだ。
日の高さは中天少し前。
ゆっくりと歩いたにしては良いペースで、休憩も余裕をもって行えている。
「……本当に、落ち着きって大事なんですね」
しみじみ。
少年は呟いて、荷から食料を取り出していた。
どうやら薄焼きパンをくるりと丸めたもののようだ。
羊の乳から作ったチーズがたっぷり包まれ、育ち盛りには嬉しいボリューム。
熱してトロトロにさせれば絶品だろうが、そのままでもなかなかいけるやつである。
オマケに、先ほど見つけた野いちごもいくらか手に入れている。
熱を冷ますらしい薬効は、炎天下を歩いてほてった体にちょうどいいだろう。
その隣であなたも食事を取りながら、周囲を観察した。
やはり、何もない。
獣も魔種もまるで気配がなく、危険が迫る予感が全く感じられない。
それもそのはずだと、あなたは街道周りの草原、その一点を見つめて納得した。
遠く、麦粒ほどの大きさだが冒険者の姿がある。
どうやら長弓を背負った2人組のようだ。
あなたも知る相手だろう。
隣町の冒険者の宿に所属する双子の弓使いだ。
街道周辺の間引き依頼に参加した折、あなたも顔を合わせた事がある。
仕事か、それとも修練を兼ねた狩りか。
どちらにせよ彼らが居る以上、鼻の利く獣は逃げ、利かぬ獣は狩られているに違いない。
危険など迫りようもなかった。
「……なんか、平和ですね。あっ、いや、気を抜くわけじゃないですけど!」
少年が思わずこぼした通り。
実にいつもの、なんの変哲もない街道である。
つまり、あなた達冒険者が武力によって拓き、武力によって維持してきた平穏がそこには広がっていた。
そうして。
往路には結局、事件らしい事件は何も起こらなかった。
順当そのものである。
予定の旅程を予定の速度で歩んだあなたは、予定の時間に隣町へと辿り着いた。
時刻は夕暮れ少し前。
これならば間に合うはずだと、あなたと少年はこの町の薬師を訪ねる。
「し、失礼します、ごめんくださーい」
やや緊張した様子で少年が扉を開け、声をかけた。
工房の奥から返答があり、少年が先に、続いてあなたが入っていく。
これは薬師からの指示だ。
シルフィウムを譲り受ける交渉は少年の担当である。
これも経験、学びの一環という事だろう。
よく整理された工房だった。
入ってすぐは患者の診察を行う場として利用されているらしく、椅子や寝台が置かれている。
そのどちらも綺麗に埃が払われ、シーツも清潔そのものだ。
また、薬品棚にも整然と薬が並んでいる。
あなたが整理整頓に一家言ある人物であるなら、容器や棚の形状から落下防止や取り違え防止にも気を使っているとわかっただろう。
このような光景は開拓村でも見た。
依頼主である薬師の工房によく似ていると、あなたは思っただろう。
ただ、工房の奥から現れた人物だけは、村の薬師とは似ても似つかなかった。
「あん? 見ない顔だな」
のしのしと、そんな擬音が似合う歩き方でやってきたのは大男であった。
つるりと禿げ上がった頭に、対照的なたっぷりのヒゲ。
目つきはギロリと鋭く、あなた達を訝しむように眺め回している。
「まあいい。坊主、どこか悪いのか?」
「い、いえ、俺……じゃない、僕は、開拓村の薬師の弟子で、えっと」
「なんだ、遣いか?」
「あ、は、はい、そうです。詳しいことは、こちらを読んでいただければ……」
相手の迫力に萎縮した少年が、おずおずと薬師から預かった手紙を渡す。
対し大男は封蝋に押された印を見て、確かに、と自然体で頷くと中身を検めた。
「……なるほど。まぁいいだろう。融通してやってもいい。が、タダでは譲ってやれんぞ。坊主の師匠とやらがどうかは知らんが、俺は商売でやってるんでな」
手紙を丁寧に畳んだ男が、少年をジロリと見て言う。
少年は身を固くして頷くばかりだ。
無理もない。
少年の数倍生きているだろう年齢、威圧感たっぷりの体格と容姿、ダメ押しで声もガラガラと掠れ、子供にとって恐怖を煽られる要素しかない。
ただまぁ、内容は問題ない。
それはむしろ当然の事で、少年は村の薬師から資金を預かってきている。
そんな様子の少年を放って、男は
パチパチと珠を弾き、そして示す。
「ま、ひと束あたりこんなもんだな」
「……え? あ、あの、これ」
「なんだ? 譲ってもらう立場でまさか文句でもつけようってか?」
「そういうわけじゃ……い、いや、でも」
それを見た少年の反応は激しかった。
顔をハッキリ青くし、おろおろと狼狽えている。
| 判定内容 | 相場知識 |
| 判定方法 | 2D6+知識SB 7以上で成功/普通 |
| 判定結果 | 2D6+4=15(成功) クリティカル! |
同じく示された金額を覗き込んだあなたは理解した。
明らかにぼったくりである。
なんとシルフィウムの相場の5倍の額だ。
特殊な事情、例えば近隣のシルフィウムに病気が流行り、数が減っているなどするならばまだわからなくもない。
が、
ここ数年、そのような話は聞いたことがない。
それどころか逆だ。
パレルヴァ周辺では年々シルフィウムが増えており、むしろ減少に転じさせるために多めの採取が推奨されている。
何しろ麦畑の中に雑草として混ざってくる事も多い種なのだ。
なくなれば困るが、多ければそれはそれで大変なのである。
そういうわけで、シルフィウムの値は下がっている。
男の提示した金額はそれと全く釣り合っていない。
| 判定内容 | 人物の観察 |
| 判定方法 | 2D6+感覚SB 9以上で成功/やや難 |
| 判定結果 | 2D6+3=6(失敗) |
どういうつもりかと、あなたは男を見た。
……が、その内心はわからない。
男の表情は冷たく平らで、感情らしい感情をそこに乗せてはいない。
「…………」
あなたの視線に気付いたか。
じっとあなたの目を見つめ返してきはしたが、それが意味するところもあなたには上手く読み取れなかった。
「あ、あの、交渉を……交渉を、したいのですが」
「ふん? いいぞ、なんぞ材料でもあるなら言ってみろ」
「う……えぇと、その……」
少年はなんとか値を下げようと交渉に挑むつもりのようだ。
このままでは必要量に全く届かない数しか買えないのだから当然だろう。
この場面で、自分はどうすべきか。
あなたは考えた。
| 名前 | (あなたが自由に決めて良い) |
| 職業 | 神官 |
| HP | 36/36 |
| MP | 17/17 |
| 筋力 | 8 | SB=2 |
| 耐久 | 14 | SB=4 |
| 敏捷 | 9 | SB=3 |
| 器用 | 7 | SB=2 |
| 感覚 | 10 | SB=3 |
| 知識 | 12 | SB=4 |
| 精神 | 13 | SB=4 |
| 幸運 | 8 | SB=2 |
| 装備 | 性能 |
| メイス | 『2D6+筋力SB』の物理ダメージ |
| バックラー | 防御成功時、 物理ダメージを『耐久SB』追加軽減 |
| 特殊技能 | 詳細 |
| 重撃 | 攻撃命中時、『朦朧』判定 クリティカル時、『朦朧』確定付与 |
| 信仰 | 秘蹟の使用権を得る |
| 治癒 | 初歩の秘蹟、消費MP5。 肉体をあるべき姿に戻す。 『1D6+精神SB』のHP回復。 |
| 守護 | 初歩の秘蹟、消費MP3。 肉体があるべき姿を保つ力を強める。 『精神SB』だけ全ダメージを軽減。 効果時間は1戦闘。 |
| 賦活 | 初級の秘蹟、消費MP5。 肉体と魂をあるべき姿に引き戻す。 状態異常を回復。 |
| アイテム | 詳細 |
| チェインメイル | 1度だけ死亡を回避 |
あなたの行動は?
-
口を挟まず見守る
-
見守るが、危うくなれば口を挟む
-
少年の代わりに交渉する
-
どういうつもりかと男を問い詰める
-
少年の背を支えて勇気付ける
-
少年の後ろでメイスを構えて見守る