読者参加型TRPG風小説 作:矢端トラム
「
洞窟の奥。
ちょっとした広間のようになった大部屋にて。
あなたが差し出した麦束をひと掴み頬張ったフェノゼリーの反応はそのようなものだった。
もしゃりと齧ってまず呆然。
我にかえってもうひと口。
そこで口腔を満たす味わいが幻でも夢でもないとわかったのだろう。
巨大な手が忙しなく口に麦を運び続け……まずはお近づきにと積んだ分、持ち込んだ麦の5割が消えるのはあっという間だった。
それから最後に冒頭の感想だ。
丸い体のほぼ中央を横一線に割る大口をがばぁと開けて、一本一本があなたの頭ほどもある綺麗な臼歯の列を見せつけながらの咆哮である。
あなたの知る伝承は正しかった。
贈り物が気に入られたかどうかなど心配の余地は全くない。
フェノゼリーの体毛がもう少し薄かったなら、キラキラと輝く瞳も見えただろう。
「ま、まだあるのだろう!? もっとだ! いや、全部よこ──」
そして当然、サイズからして満腹には足りなかったのだろう。
前屈みになり、覆い被さるような威圧から、あなたにおかわりを要求し。
「──いや、いや! それは大なる者の振る舞いではない……! すまぬ、思わず取り乱した……。忘れてくれ」
しかしすぐに慌てて撤回する。
我を忘れた事を恥じたか、巨大な毛玉がしぼんだ。
比喩ではなく、実際に全身の毛がぺたんと寝てひと回り小さくなっている。
ランタンのか細い灯りにゆらゆら照らされているのもあいまって、なんとも哀愁を誘う姿と見えなくもない。
フェノゼリーの感情は毛に出るらしい。
あなたはまたひとつこの種族に詳しくなった。
「…………なんともたまげた事だ。俺はてっきり、ニンゲンはともかく、ムギとやらの伝説は長老が話を盛りに盛ったものだとばかり。これはいつかホラ吹き爺呼ばわりしたのを謝らねばならんな」
ともかく、フェノゼリーはあなたの贈り物を大層気に入ったようだ。
また、あなたはこれまで礼節を守り、無礼を何ひとつ働く事なくこの場に辿り着いている。
結果、相手の機嫌はすこぶる良いようだ。
この分ならば、すぐにでも移住の勧誘を始めても良いかもしれない。
麦に対する食い付きを見るに、成功の目はある……というより、失敗の可能性がまるで見えない。
「さて、これだけの物を小さき者から貰ったのだ。大なる者として何も返さないわけにはいかん。確か、何やら頼み事があると言っていたな?」
フェノゼリー自身もこう言っている。
本題を切り出し、交渉を始めるには良いタイミングだ。
が、あなたはそれを選ばない。
「む、逗留? ここにか? それはまぁ、構わんが」
交渉の前に、望むのは交流だ。
あなたとフェノゼリーはまだ互いを深くは知らない。
おそらく相手を開拓村に連れ帰る事は簡単だ。
しかし現状のまま共に暮らし始めたとして、何事もなく日々を過ごせるかは未知数である。
人間とフェノゼリー。
両者の間に必ずあるだろう差異はいつか軋轢を生むはずだ。
それを完全に防ぐ事は不可能だろう。
だが事前に備えは出来る。
相手をより深く知る事によって。
「ふぅむ、しばし交流したい、か。ふふ、ははは! 奥ゆかしい事だ。いやなに、皆まで言うな。俺は見ての通り、ふ、デカいからな。気持ちはわかる。俺とて小玉の頃は親父殿と離れれば不安になったものよ。存分に頼れば良い。許すぞ」
よって、あなたはしばし洞窟に間借りする事とした。
生活を共にし交流を重ね、それから交渉をするべきだと。
……逗留を希望したあなたに対し、フェノゼリーは何やら幾らかの誤解をしたようではあるが。
「では折角だ。早速だがどうしても気になってな、ひとつ聞きたい。……このムギとやらはどういった
そういうわけで、あなたとフェノゼリーの交流は始まった。
最初は質問から。
ちょうど良いとあなたは思ったかもしれない。
その話題はまさに人間という生物の
あなたは口を開く。
語られるのは人の世に伝わる創世の神話だ。
天も地もない常闇に、ある時、
そんな一節から始まる聖典の文言が暗く静かな洞窟に朗々と響く。
内容は割愛しよう。
それは今重要な事ではない。
あなたもまた、創世の四神が現れるところまでは早足に進めたはずだ。
教会における初等教育では当たり前に行われる事でもある。
何しろ幼い子供というものはじっと長く話を聞いていられる生き物ではない。
今回の相手は立派な成体のようだが、興味があるのはまだ麦の謂れだけだ。
あなたが奉ずる神の詳細な来歴はまた、フェノゼリーが人にもっと多くの関心を向けた時にすれば良い。
「ああ、なるほど! どこか見覚えがあると思っていたが、そうか、
揺れる
剣のごとき鋼の山に横たわるもの。
峻厳の化身にして、同時に麦と果実の恵みを司る豊穣の女神。
そして、創世においては広大にすぎる無垢なる大地に産まれ落ちた人の子に、まず第一に手を差し伸べた慈母。
その慈愛の実りこそが麦であり。
平原を拓き、麦を植え、守り育てて生きる者が人間だ。
あなたはそう締めくくり、フェノゼリーは最後までをしっかりと傾聴した。
フェノゼリーは自身を忘我に追いやった味わいの正体を知り、改めてあなたに感謝を伝える。
「それにしても、それはそれでまた驚かされたな。よもや他種族の恩寵を口に入れる時が来るなど想像の外であった。ほれ、姉妹神ので言えばだ。ソールのそれは輝けども石であるし、ティブランに至っては……な?」
あなたもまた、それは確かにと頷いただろう。
……ゴブリンは雑食だが、腐肉食を特に好む生態も持つ、とだけ記しておこう。
あなたも、そして人間に近しい味覚らしいフェノゼリーも、食べたいなどとは思うまい。
ともあれ、フェノゼリーはまず人間の信仰を知った。
結果、返る言葉の最後は以下のようなものであった。
「しかし、そうか。……うむ。君の神は──」
短い脚をたたみ、それでもまだずっと大きな体から。
背筋を伸ばしても到底及ばない小ささのあなたへ向けて。
「──慈悲深いのだな。とても、とても」
| 判定内容 | 感情の察知 |
| 判定方法 | 2D6+精神SB 9以上で成功/やや難 |
| 判定結果 | 2D6+4=10(成功) |
そこに籠められた感情は、おそらくヒトのそれとは少し形を異にするのだろう。
だがあえて近しいものを探すのなら、それは。
話は一旦そこで区切られた。
無音だったはずの洞窟の奥から、何やら音がし始めたためである。
キイキイと、おそらくは鳴き声だろうか。
それはあなたの居る広間のすぐ近くまで来て、ランタンの光が届かない境界線の向こうで止まったようだ。
「む。おお、おお、起きたかお前たち。今日も元気で良い事だ。──すまんな、ちとこの子らに飯を食わさねばならん」
フェノゼリーはあなたに断ると、狩りの成果である大猪に手をかけた。
手ひどく頭を打ち、生きたまま意識を消し飛ばしておいたそれの頭と胴をそれぞれ握り。
首を捻り切った。
途端、小さな鳴き声たちは大きく膨らんだ。
そしてそれは幾重もの羽音に変わり。
「おうおう、慌てるな慌てるな。血はたっぷりとあるからな。……おっと、そっちはダメだ。客人だからな。お前たち、粗相はいかんぞ」
あっという間に広間を埋め尽くした。
コウモリの群れである。
視界中を飛び回るそれらは一体何匹いるのか数える事などとても出来ない。
ただ、乱雑な飛行はすぐに収まった。
群れの半数ほどが猪に集り、血を吸い始めたためである。
今死んだばかりの猪は温かな血をどくどくとこぼしている。
それを糧とするものにはご馳走なのだろう。
我先にとより良い場所を取り合っている。
……が、それだけでもない事にあなたは気付いた。
半数は猪に向かった。
では残り半数はというと、フェノゼリーに群がっているのである。
そちらからも血を吸うのかと思いきや、どうやら違うようだ。
あなたの掌ほどの小さな体の小さな翼を広げ、その爪でしがみつき、フェノゼリーの剛毛を咥えては全身で引っ張るようにして伸ばし、細かいゴミを落としている。
毛繕いだ。
フェノゼリーの体をいくつかのブロックに分け、それぞれを分担する小隊に分かれて効率的に作業を進めているようだ。
「ふふ、賢い子らだろう? あわれなほどに小さくか弱い者たちだが、俺の毛を整える手管は中々のものだぞ。君もやってもらうか?」
賢いというのは確かにそのようだ。
社交性に富むとされるだけはある。
思い返せば、見知らぬ生き物であるあなたを探って飛んでいた一群も、フェノゼリーの声であなたから離れていた。
知能は想像以上に高いのかもしれない。
ただ、毛繕いのお誘いは断っただろう。
コウモリの知識をもつあなたは、彼らが時に病を運ぶと知っている。
秘蹟による回復はおそらく効くだろうが、進んで罹患したいものでもない。
さて。
そんな風にしてあなたの洞窟暮らしは始まった。
フェノゼリーが1体。
コウモリが推定200少々。
いくらかのイモリと、その糧となる虫たち。
あとは洞窟の外になるが、岩場のスライム。
これがこの一家の構成員であり、今は人間が1人加わった形だ。
洞窟はそれなりに長く大きなものだった。
入口からはまっすぐな通路が伸び、あなたがフェノゼリーに神話を語った広間に続く。
そこからは三方に分岐する。
正面奥、右手奥、左手奥の方向だ。
ちょうど食事用のフォークを想像すると分かりやすい。
フォークとの違いは、その先端が内側に収束して繋がっている事だ。
「……この子らは見ての通り小さいからな。余り外に出したくないのだが、動かずに居ても体に良くあるまい。ある程度飛び回れるようにしておいたのだ」
フェノゼリーが言うにはそういう意図であるらしい。
実際、彼は羊を追い立てて移動させるように、コウモリを引き連れて洞窟をぐるぐる回ることがあった。
無論、あなたも毎回同行している。
親にまとわりつく子供のようだと、楽しげに洞窟を舞うコウモリを見てあなたは感じたかもしれない。
そして、それが洞窟で過ごした数日の、あなたにとってのほぼ全てだった。
フェノゼリーはあなたに多くをさせようとはしなかった。
コウモリの散歩の他は、共に食事をし、互いにこれまでに見聞きした風景やそれぞれの暮らしについて語り合う。
その程度であった。
そしてこれは、フェノゼリーが何もせず過ごしているというわけではない。
彼は勤勉に日々を働いていた。
よりコウモリが飛び回れるように洞窟を拡張し、2日に1度は狩りに出て何かしらの獣を捕えて帰る。
もちろん自身の食料も自分で確保していた。
若い木の枝や草花、それから果実が中心である。
時々食いたくなるのだと、土がついたままの木の根をゴリゴリと齧っていた事もあった。
意外にも、あなたに対して麦の催促はなかった。
「…………食いたい。食いたいが、それは大なる者の行いではない」
との事だ。
ただそれはそれとして、あなたが家賃との名目で差し出した分は大喜びで食べていた。
他の作物や魚の干物、チーズなども美味いとは言ったが麦ほどではない。
やはり、フェノゼリーには麦を与えよという事らしい。
そうして暮らす内、あなたは当然気付くだろう。
この生き物は、あなたを対等の存在と見なしていない。
小さく。
か細く。
力無き。
毛並みは良けれど──幼く弱いものと、ハッキリ認識している。
そのために、あなたに何もさせないのだ。
何も出来ない子供は、ただ背に庇われていれば良いと。
「そういえば、そちらの神の話を聞かせてもらったのだ。こちらも同じく我らが太祖について教えるが道理であろうな」
それはとある夜の語り合いにおいて、特に示された。
毛むくじゃらの大口が語る。
フェノゼリーの祀る神。
暗く長きカゲという名の存在について。
それは大地の奥深く、世において最も深い谷の底から、世において最も高い山と同じだけを掘り進んでも辿り着けない場所に棲むという。
暗褐色の鱗をまとい、世界の果てをぐるりと包んでなお余る体をとぐろに巻いて眠る大いなる竜であると、彼らは伝えている。
この竜はある日、自身の上にあった大地に世界が生まれた事に気付いた。
それまでに無かった物である。
カゲは当然興味を持ち、頭を
「ふたつの山脈が割れ、みっつの平原が
そうしてカゲは気付いた。
どうやら自分が下手に動けば世界とやらは割れてしまう。
困った事だと。
動けないのは別に良い。
偉大なるものが荷を負うのは当然であり、小さき物を守るは義務でさえある。
だが、好奇心は隠せない。
永劫を生きる定めの自身でも知らぬ世界なるものはどうしても目にしたい。
「そこで太祖は考えられた。自分で動けぬなら、遣いを出して代わりに見聞きさせれば良いとな。……そうして世に生まれたのが我らだ」
その末裔が己だと、あなたの前のフェノゼリーは言う。
名の通りどこまでが毛でどこからが肉かもわからない、そんな腕を誇らしげに広げて。
「そして、我らを作る折に太祖は恩寵を下された。ふ。それが何かわかるか?」
| 判定内容 | 推察 |
| 判定方法 | 2D6+知識SB 7以上で成功/普通 |
| 判定結果 | 2D6+4=12(成功) |
あなたはそれを知らない。
文献にもなかった事だ。
が、推察は出来る。
そも、魔種とは何か。
創世の四神が定めた世の理、人のための律に反する存在だとはすでに語られた。
これがつまりどういう事かと言えば。
人の世においてはかくあるべし、そう決定された物理の法に逆らう術をもつものを指す。
命無きはずの岩を育て、腐らぬはずのものを腐らせ、翼なきものが空を舞う。
その有り得ざる力こそが魔種の魔種たる由縁であり、異境の神によって与えられた恩寵、人の世を侵す魔の律を宿した証左である。
ならば、フェノゼリーのそれは明らかだ。
「ふ、はは! その通り!」
フェノゼリーの腕が動く。
掌が開かれ、それは地面、硬い岩に触れた。
そして……指が閉じるに合わせて、岩が指の形に削り取られていく。
そんな事はあり得ない。
いかにフェノゼリーが巨躯を誇ろうとも、指の力だけで岩盤が削れてなるものか。
そのような事を、あなたの神が敷いた法は許していない。
だが現実に起こっている。
魔の律そのものだ。
宿っているのは、もちろん。
「太祖は我らを、顎に生えた毛より作ったという。故に、この身には神が宿られている。その力の一端と言えども、我らは常に太祖と共にあるのだ」
| 技能判明/フェノゼリー |
| 『神授の剛体』 最大HPが100%増加 クリティカルヒット無効 あらゆるダメージを常に『耐久SB』軽減 状態異常『疲労』を完全に無効化 回避と防御を行わない |
| 技能判明/フェノゼリー |
| 『つかむ』 命中率の低い攻撃 か弱い者を相手にする際に必ず使用 命中した時、次ターン終了時に対象に『筋力SB』の固定ダメージを与え、『つかむ』状態を継続 固定ダメージ発生前にダメージを受けた場合、効果解除 |
「我らの恩寵は形を持たない。だが、他のあらゆる恩寵よりも遥かに確かに、ここにある」
……どうやら相手に隠す気はもはやない。
絶対的な優越をもって、彼はあなたを見下ろしている。
「よくよく目に焼き付けていくと良い。強者、大なる者とはつまり、我らを指す言葉だ。ここにありたいと願った君は実に正しい。小さく幼いものを庇護するは、大なるものの務めである。……君は他の子らと比べて多少は大きいが、まぁ誤差であろうよ。ははは!」
あなたはすでに確信した。
フェノゼリーを村に招く事は、実に容易い。
庇護を必要とする者が幾人も居ると囁き、報酬として麦を与えると告げれば、彼は喜んで村のために働くだろう。
コウモリ達も連れての移動を要望するかもしれないが、予想される働きと比較すれば棲み家を用意する程度はどうとでもなる。
村長などは喜んで村外れに飼育小屋を建てるに違いない。
羊や村人から血を吸わないよう命じる事も、洞窟での暮らしを見れば可能だとわかる。
そうして、よく働くはずだ。
村に唯一の
あなた達を守られるべき存在だと見下ろしながらだ。
| 特殊条件判明 |
| 洞窟の 親分肌の フェノゼリー |
| 全ステータスが1D3強化 配下の生物が配置される |
つまり、あなたはこの依頼を完遂したと言って良く。
故に、この先の選択に大きな意味は無い。
フェノゼリーはどうあれ村に移住するだろう。
あなたは冒険者だ。
達成できる依頼を放棄するなどありえる話ではない。
ただその前に、もしあなたにやりたい事があるのなら。
それを実行に移す程度の自由はあるはずだ。
| 名前 | (あなたが自由に決めて良い) |
| 職業 | 神官 |
| HP | 36/36 |
| MP | 17/17 |
| 筋力 | 8 | SB=2 |
| 耐久 | 14 | SB=4 |
| 敏捷 | 9 | SB=3 |
| 器用 | 7 | SB=2 |
| 感覚 | 11 | SB=3 |
| 知識 | 13 | SB=4 |
| 精神 | 14 | SB=4 |
| 幸運 | 8 | SB=2 |
| 装備 | 性能 |
| メイス | 『2D6+筋力SB』の物理ダメージ |
| バックラー | 防御成功時、 物理ダメージを『耐久SB』追加軽減 |
| 特殊技能 | 詳細 |
| 重撃 | 攻撃命中時、『朦朧』判定 クリティカル時、『朦朧』確定付与 |
| 信仰 | 秘蹟の使用権を得る |
| 治癒 | 初歩の秘蹟、消費MP5。 肉体をあるべき姿に戻す。 『1D6+精神SB』のHP回復。 |
| 守護 | 初歩の秘蹟、消費MP3。 肉体があるべき姿を保つ力を強める。 『精神SB』だけ全ダメージを軽減。 効果時間は1戦闘。 |
| 賦活 | 初級の秘蹟、消費MP5。 肉体と魂をあるべき姿に引き戻す。 状態異常を回復。 |
| アイテム | 詳細 |
| チェインメイル | 1度だけ死亡を回避 |
あなたの行動は?
-
何もせず村への移住を要請する
-
模擬戦を挑む
-
狩りの成果で勝負を挑む
-
村へ連れて行き冒険者4人で戦う
-
さらに時間をかけて相互理解を目指す