読者参加型TRPG風小説 作:矢端トラム
洞窟の広間に、ドサリと荷の山が置かれた。
あなたが持ち込んだ食料の、その全てである。
ただし、はじめに持ち込んだ分ではない。
あなたはこの案件に腰を据えて挑むと決定した。
現状のままフェノゼリーを連れていくには問題があると、あなたは判断したのだ。
1日や2日では到底足りない。
フェノゼリーが人間を理解し、あなたがフェノゼリーを理解するまで、幾日でも共に過ごし対話を行うべきだと。
そのためにあなたは一度村に戻り、荷車に載せられるだけの食料を積み込んで再び洞窟へと戻ってきた。
フェノゼリーがなかなかやって来ない事に村長はやきもきした様子だったが、それはいっそ些細なことである。
「おお、ムギがこんなに……! はは、一息に食い尽くしてしまわんよう耐えるのは大変かもしれんな。相変わらず、香りだけでもたまらなくさせてくれる!」
この逗留延長に喜んだのはフェノゼリーであった。
積まれに積まれた麦の山の前で巨体を揺らし、全身の毛をぶわと浮き立たせている。
消沈すれば縮む毛は、興奮すると膨らむらしい。
彼が機嫌良くあるのがわかるのか、体のところどころにぶら下がったコウモリたちもキイキイ鳴いていた。
「しかし君も律儀な事だ。ここに居たいのなら対価などなしに、好きなだけ居てくれて構わんというのに」
そして愉快そうに、あなたの行為は礼儀正しすぎると笑う。
もっとワガママに迷惑をかけても構わない。
子供とはそういうものだと。
あなたはそれが気に入らなかったのだろうか。
それとも、この強大な生き物の隣に立ちたいと思ったのだろうか。
あるいは、単なる計算からこの思考を変えないまま村で暮らさせては問題が起きると思ったのか。
そのどれであるか、またはどれでもないかはあなただけが知る事だ。
だが、どうあれやる事はひとつだ。
あなたはフェノゼリーへと要望する。
「……? 全て? むぅ、俺の聞き違いでなければ、君は今全てと言ったのか?」
問われ返して、あなたは頷いた。
フェノゼリーの生活。
その全てに同行させて欲しいと。
洞窟での暮らしの中、フェノゼリーはあなたに多くをさせようとはしなかった。
せいぜいが食事の支度と広間の片付け程度。
獣の血やコウモリの糞の清掃からもあなたを遠ざけた。
ただ守られていれば良い。
他には何もしなくて良い。
いや、何もせず安らかに過ごす
あなたはまず、これを是正にかかった。
これでは相互の理解など今以上に深まる事はない。
幸いにも交渉材料は文字通り山ほどあった。
あなたが持ち込んだ荷車には、村長が心配から大量に追加した袋も載せられていた。
今年の晩夏に収穫したばかりの麦を粉に挽いたものだ。
味良く香り良く、そして神官たるあなたは調理法を完璧に心得ている。
麦狂いのフェノゼリーを魅了するだろうレシピにも十分な心当たりがあるはずだ。
「む、うぅ……! そ、そうだな、そこまで言うのなら……。まぁ、なんだ、小さき者の声を聞くのも、大なる者の責務だろう。うむ」
そしてそれは成功した。
たっぷりのバターを練り込んだ薄焼きパンの、毎夜の提供。
それと引き換えにフェノゼリーの了承を取り付け、あなたは試みの第一歩を踏み出すに至る。
その翌朝。
あなたは洞窟の入口に立ち、フェノゼリーを見上げていた。
「……やはり残る気はないか? ないか……そうか。仕方あるまい。すでに昨夜了承したのだしな。ではまずは、山を歩くぞ」
当然、彼について回るためだ。
フェノゼリーはのしのしと歩き始める。
本当に大丈夫かと、時折あなたを見下ろしながらだ。
対してあなたは行動をもって返答する。
言うまでもないが、あなたは冒険者である。
岩山は急峻な斜面続きだったが、大量の荷でも背負っているならまだしも、この程度で音を上げるわけもない。
「…………ふむ」
フェノゼリーはそんなあなたを見て、丸い体の下半分、腹と思われるあたりを巨大な手で撫でて言う。
「俺の縄張りは広い。ゆっくりと歩いていては見回りが終わらんからな。少しペースを上げるぞ。つらいと思ったら言うと良い。君ひとりぐらいを背負うのは何の負担にもならん」
そして、短い足を畳んで地面に手をついた。
あなたは不思議に思ったかもしれない。
歩くと言っているのに何をしているのだろうかと。
その答えはすぐに示される。
地面の岩を掴んだ大きな手が、巨体を前方に引っ張りあげた。
同時に、畳まれた足が地を蹴り、手が離される時は当然に岩山を殴りつけ、さらなる加速を生んでいく。
二腕ニ足による四足歩行だ。
その身に宿った剛力が急斜面をものともせずフェノゼリーを押し上げていく。
それはまるで、狼が平地を駆けているかのような速度だった。
| 判定内容 | 走行 |
| 判定方法 | 2D6+敏捷SB 9以上で成功/やや難 |
| 判定結果 | 2D6+3=8(失敗) |
あなたはそれを追う。
懸命に地を蹴立て、その背から離れてなるものかと。
だが、叶わない。
斜度と岩山の足場があなたから速度を奪う。
どれだけ足を回して駆けようと、フェノゼリーの茶色い体は少しずつ小さくなっていった。
結局、あなたがフェノゼリーに追いつけたのは、頂上での事だった。
もう走る必要がなくなったがための事。
それも、のぼる途中で幾度もあなたを振り返り、距離が開きすぎると立ち止まりさえしながらの道中であった。
「無理をせず、息を整えると良い。先は長いぞ。この山と、隣の山。それにもうひとつ隣までを見回る予定だ。……あまり意地を張るものではない。時に空に手を延ばすのも小さき者の可愛げだが、それで体を損ないまでしては愚行というものだぞ」
フェノゼリーは身を縮め、あなたを覗き込む。
| 判定内容 | 疲労抵抗 |
| 判定方法 | 2D6+耐久SB 9以上で成功/やや難 |
| 判定結果 | 2D6+4=12(成功) |
「──む?」
が、すぐに怪訝な声を上げた。
あなたの息がさほど乱れていないためである。
「…………。驚いたな。余裕があるのか?」
頂上で休息を始めてからまだわずか。
にもかかわらずあなたはすでに体力を十分に回復していた。
いや、正確には、そもそも大きな消耗は起こっていない。
フェノゼリーと同等の速度で駆ける事が出来なかっただけで、持久力の面ではなんら問題はなかったのである。
「俺も少しばかり
あなたはもちろん頷いた。
試みは始まったばかりなのだ。
こんな所で躓いてはいられまい。
短い休息を終えて、あなた達は次の山へ向かった。
そちらでもまたフェノゼリーは先を行き、あなたは離されて後方を駆ける。
だがその差は、一度目よりはずっと小さいものだった。
また別の日。
フェノゼリーはあなたを伴って平地の森を訪れた。
山から流れ出た小川が注ぐ、小さな森である。
内部には生命が溢れていた。
木々は秋の色に染まりながらも力強くそびえ、恵みにより支えられた小動物たちが闊歩している。
リスなどは特に多いようだ。
ちらと木陰に目を向ければ、拾った木の実をコリコリ齧り頬に詰め込んでいる姿が見つけられる。
「ここと、他にいつつほどの森で俺は飯を食っている。今日は……ああ、この辺りがちょうどいいな」
そんな森の中で、フェノゼリーは唐突にボキリと木の枝を折った。
長さはあなたの身の丈ほどだろうか。
葉も樹皮もついたままのそれを、彼は大口を開けて飲み込む。
静かな木々の間に、しばし枝を噛み砕く豪快な音が響き渡った。
「美味いには美味いのだが、麦の味を覚えた今となっては物足りなく感じるのが困りものだ。ははは、我ながら贅沢になったものよ」
フェノゼリーは続いて同じように何本かを食した。
その途中、棲家に近い枝を折られて驚いたリスが飛び出し、フェノゼリーへ飛び掛かる場面もあった。
「お、おお、おお、すまんすまん。そんなところに居たのか。気付かんかった……」
どうやらここの小動物はすっかりフェノゼリーに慣れているらしい。
巨体を怖がることもなく、ふさふさの尻尾で額らしき箇所を何度も叩いて抗議している。
おそらくリスもまた、フェノゼリーの庇護の対象なのだろう。
肉食の獣が森に近付かないようにしているに違いない。
それを横目にあなたは川に手を浸した。
食事の時間だというならば合わせよう。
そんな考えで、手元に自ずから集まった小魚たちを掬い上げる。
「……ほう、なるほどそれが。輝く
リスをなんとか落ち着かせ、仕置きから解放されたフェノゼリーがそれを覗き込んだ。
あなたはいつかの語りの後、イィル=マガ以外の神々についても聞かせていた。
それをしっかり覚えていたらしい。
輝く翠のニムストゥル。
波間に踊りうねるもの。
気ままなる水の化身にして、遍く魚と海獣の母たる女神。
あなたが見せたのは、その女神の恩寵だ。
ニムストゥルの剥がれた鱗が落ちた水底の泥から生まれたとされる魚たち。
あなたをはじめとした人間は、これを掬い、身を食む権利を与えられている。
魚の住む水に手を浸せば、魚が自らそこに乗る、という形で。
「むぅ、ダメか。やはり恩寵なのだな、それは」
フェノゼリーがあなたを真似るも、魚は器用に指の間をすり抜けるばかりだ。
そのままするする逃げてあなたの元へ集まり、もっと食べるかと言った風に水中から顔をうかがっている。
「……慈悲深い事だ。全くもって」
始終を見ていたフェノゼリーはいつかと同じようにそう呟く。
そこに籠められた感情も
高みからあなたを見下ろす、哀れみに満ちた声色だった。
あなたはそれを、一度棚に上げる。
哀れみの意味を問うべきは今ではない。
今やるべきは差し当たって、魚に串を打ち、枯れ葉に火を灯して焼く事だろう。
さらにまた別の日。
フェノゼリーはあなたを、岩山ではなく緑の生い茂る小山へと連れ立った。
狩りのためである。
「この辺りには獣が多くてな。良い狩場なのだ」
彼は山の景色を見渡しながらそう言った。
特に多いのは鹿であるという。
山の恵に抱かれてよく育ち、今頃、つまり秋は丸々太って脂も乗っている。
大きさでいうならばあなたよりひと回りふた回り大きな個体も少なくない。
「さて、ではまず探すところからだな。痕跡の追い方は心得ているか?」
| 判定内容 | 動物知識 |
| 判定方法 | 2D6+知識SB 6以上で成功/普通 |
| 判定結果 | 2D6+4=11(成功) |
あなたはもちろんその程度は修得しているだろう。
冒険者の基本技能と言って良い。
が、それとは別に。
この時期に鹿を探すならば、歩き回るよりも遥かに良い方法をあなたは知っていた。
「ん、それは……?」
懐からあなたが取り出したのは、小さな笛である。
鹿笛と呼ばれるものだ。
狩猟に用いる道具のひとつで、鹿の鳴き声に良く似た音を出す事が出来る。
一度村に戻った際、狩りに同行する事を想定して村の狩人から借り受けてきたのだ。
ついでに、扱いやすいショートボウも。
| アイテム獲得 |
| 『ショートボウ』
遠隔武器 近接戦闘では使用不能 反撃を受けない状況では1ターンに2回攻撃可能
『1D6+器用SB』の物理ダメージ 対象との距離によって命中低下(中)
借り物のため、クエスト終了後に返却される |
笛を見せてあなたは提案する。
探して追い立てるのではなく、笛の音でおびき寄せての待ち伏せだ。
秋は鹿の繁殖期である。
この時期の雄鹿は縄張りに敏感で、笛の音で容易く誘引できるのだ。
そうして現れたところを狙い撃てば、労少なく狩りを成功させられる。
「なるほど、良さそうな手だ。うむ、折角の君の提案なのだ。まずはそれでやってみるか」
そういうわけで、作戦は決まった。
あなた達は弓を射るに良さそうな場所を見つけ、それぞれ潜んだ。
あなたは斜面の下側に。
フェノゼリーは斜面の上側に。
笛に釣られた鹿をあなたが見事撃てたのなら良し。
失敗したとしても後詰めとしてフェノゼリーが別方向から追撃を見舞わせる形だ。
そうして、狩りが始まる。
| 判定内容 | 演奏 |
| 判定方法 | 2D6+器用SB 7以上で成功/普通 |
| 判定結果 | 2D6+2=9(成功) |
山に笛の音がこだまする。
適切な量の吐息を、適切な速度であなたは笛に送り込む。
結果発せられたそれは、まさに雄鹿の鳴き声そのものだった。
離れた位置の木陰、地面に穴を掘って身を埋め、巨体を窮屈に隠しているフェノゼリーが驚いた気配をあなたも感じ取ったはずだ。
そのまましばし。
吹いては待ち、また吹いては待ちを繰り返す。
4度目を終え、5度目を吹くか。
あなたがそう考えた時だ。
ガサガサと薮を揺らして動物が現れる。
明るい茶色の毛皮の四つ脚。
頭部には立派な角が左右に大きく広がっている。
紛れもなく雄鹿であった。
| 判定内容 | 隠密 |
| 判定方法 | 2D6+感覚SB(雄鹿) 2D6+敏捷SB(あなた) 比べ合い/大きい方が勝利 |
| 判定結果 | 2D6+3=8(雄鹿) 2D6+3=10(あなた) |
鹿はそのまま歩み出てくる。
自分の縄張り、しかも繁殖期に現れたよそ者の雄鹿。
そのような存在を許す気はないのだろう。
それがあなたによる欺瞞だとはまるで気付いていないようだ。
足取りは力強く、外敵を追い散らす気概が興奮して乱暴に上下する首の動きに現れている。
逃げる様子もなく、むしろ不届きものはどこだとやってくる様は、まさにあなた達にとっては格好の好機だった。
気配を殺して身を潜め、あなたは静かに弓を引き絞る。
| 判定内容 | 射撃 |
| 判定方法 | 2D6+器用SB(命中力) 近距離補正『-1』 1D6+器用SB(攻撃力) |
| 判定結果 | 2D6+1=10(命中力) 1D6+2=7(攻撃力) |
| 判定内容 | 雄鹿の回避 |
| 判定結果 | 奇襲により回避不能 クリティカルヒット |
| 判定内容 | ダメージ計算 |
| 攻撃力 | 7 |
| 補正 | 致命/+7 |
| 最終ダメージ | 14 |
弦が弾かれる音に鹿が身を固くする。
耳を立てて顔を高く上げ、警戒するが……残念ながらもう遅い。
その次の瞬間には、あなたの放った矢は鹿の首を貫いていた。
ピィッと、短い断末魔をこぼして鹿がくず折れる。
完璧な射撃だった。
抜いた箇所は頚椎。
問答無用に意識を奪い、そして致命傷となる急所である。
見届けて、あなたは立ち上がった。
第2射は必要ない。
「…………。なんと。これほど簡単に狩ってみせるとは」
もちろん、後詰めもだ。
自慢の毛に土をつけたままのフェノゼリーがあなたの元へやってくる。
鹿は倒れ伏し動かなくなっていた。
心臓や脳を破壊したわけではないのでまだ息があるが、もう長くはない。
後は洞窟に運び、コウモリ達に与えれば狩りは終わりとなる。
「は、ははは! 参った参った! これでは毎度土にまみれて獲物を追っていた俺はなんだったのか! これは、君を少し小さく見過ぎていたか?」
何かを誤魔化すように笑ったフェノゼリーはあなたを賞賛し、鹿をわし掴むと帰路を先導した。
その背中。
大きく広いはずのフェノゼリーのそれは、ペタリと寝た毛のためか、普段よりも少し小さくあなたの目に映っていた。
そのようにして、あなたは過ごした。
縄張りを見回り、寝食を共にし、狩りに同行して。
先の空虚な間借りとは違う、隣にある者としてだ。
変化はそう待たずに訪れた。
わずか数日のうちに、フェノゼリーの口数が減り始めた。
饒舌だった様が徐々に鳴りをひそめ、2週を過ぎた今では沈黙の方が目立つ。
食べる度に大声で唸っていた薄焼きパンも彼の声を引き出すには足りないようだった。
「……なぁ、君」
だから、あなたは頃合だと判断し。
ほぼ同時に口を開いたフェノゼリーの誘いを好機と捉えた。
「少し、話をしないか」
「──もう良いのではないか? 君は確かに、俺が思うほどに小さき者ではなかったようだ。その知恵と力を軽んじ、あるべき場所よりも遥か下に置いたのは俺の心得違いと認めよう。だが……それでもだ」
すっかり過ごし慣れた洞窟の広間。
あなたが休みやすいようにと、いつかフェノゼリーが指先で削って作った椅子に腰掛け、あなたは聞く。
「俺は大きく、君は小さい。……わかるだろう?」
ランタンのか細い光に照らされているからか。
丸い体の中央に開く口は、常よりも重苦しく動いているようにあなたには見えた。
「覆せぬものは、あるのだ。……もうやめよう。我らは偉大なる竜のヒゲ、その化身である。並び立てる者は、同じく竜の化身のみよ。……俺の隣に立とうとするな。それは、余りにも──」
| 判定内容 | 感情の察知 |
| 判定方法 | 2D6+精神SB 7以上で成功/普通 |
| 判定結果 | 2D6+4=14(成功) クリティカル |
哀れで痛ましいかと、あなたは問い返した。
「──っ。……そうだ。哀れでならない。見ていられない。俺は、苦しいのだ」
フェノゼリーは体の前面を手で覆った。
体毛がザワザワとゆらめく。
強烈にうねり暴れる感情を制御しきれないのか。
「君を賞賛しよう。良く、鍛え上げられている。小さき身に見合わぬ力に、輝かんばかりの知恵と精神。だからこそ俺は耐えられん。ああ、こんな……こんな事を言う俺を、どうか許してくれ」
その声にはやがて力が籠もり始めた。
指先が分厚い毛の中に沈み、そして。
耐えかねたように、暴発する。
「──
それは致命の一言だったろう。
「君に、人間に与えられるべきは慈悲による恵みなどでは断じてない! 何故、何故力を与えなかった……! 何故君のような魂に、大なる者としての肉を与えなかった! 大なる者として小さき者を見てきた俺にはわかる! 君は、そこまで己を鍛えるにどれだけ苦しんだ!? 苦しんで苦しんで、投げ出したかったろうに耐え抜いて……!!」
異郷の民による神の否定。
決定的な断裂を生むに足る、最悪の一撃だ。
続く言葉に乗せられた神々への呪いもまた、同様に。
「なのに──俺には及ばない! ……こんな理不尽があるものか。もうやめよ。もういいだろう。小さき君よ。小さき者には小さき者の、身の丈というものがあるのだ。……守られて、生きなさい。俺が、そのようにしよう。この身はきっと、そのためにあったのだ」
だが。
理由はと問われれば。
彼の感情になど
そして、信仰の過ちを正すは、
| 判定内容 | 説得 |
| 判定方法 | 2D6+精神SB(フェノゼリー) 2D6+精神SB(あなた) 比べ合い/大きい方が勝利 クリティカル補正/あなたに『+3』 |
| 判定結果 | 2D6+3=11(フェノゼリー) 2D6+7=13(あなた) |
神は誤りなど犯していない。
あなたはこの異教の民に、まずはそう断じた。
「何を……まだ言うのか。どうして分からん。分からないはずがないだろう! 君と俺の間にある差は余りにも大きい。何もかもは、君に力を与えなかった神の過ちだ」
それは違う。
違うのだと、あなたは知っている。
神はあなた達人間に力を与えたくなかったわけではない。
与え忘れたわけでも断じてない。
聖典は語る。
創世の四神の長。
はじまりにヒトを見つけたもの。
紅き双角のヴァロウは──ヒトを信じたのだ。
「なに……?」
創世の終わりにて、大地と海と空を作り終えた火神は、草原を歩む生き物を見つけた。
人間の祖である。
それは小さくか細く、力無く。
さしたる時を置かずに滅ぶだろうとヴァロウは考え、共に創世を成した神々と相談する。
この哀れな生き物に、恩寵を与えてはどうかと。
イィル=マガは慈悲を抱いて応じ、ヒトの周りを麦で満たし、果実を落とす木々を与えた。
リオルルフは興味を以って応じ、ヒトの朋友たれと羊を贈った。
ニムストゥルは気儘に依って応じ、眷族たる魚をヒトの糧食として放った。
そして最後に、ヴァロウは力を与えようとして、それを見た。
ヒトは弱い。
獣よりも遅く、鈍く、脆く。
容易く命を刈り取られる生き物であり。
しかし、それだけではなかったと。
原初の世界において、ヒトを護るものは少なかった。
都市を覆うような壁など無い。
村を囲むような柵さえ無い。
盾も鎧も無く、剣も槍も弓も無い。
数多の同胞を犠牲に草原を拓き、わずかずつ道具を揃え、武具を生み。
そうして生存圏を広げた先にまた集落を作り。
ただ弱いだけの──哀れな生き物ではないのだと、その生をもって証明してみせた。
"灯を掲げ、地を拓くが良い。これは我がヴァロウの名に於いて、お前たちに与えるものである"
故に、神々の長は
"お前たちには──他に何も要らぬ。小さくか弱き、なれど強者たらんとある者よ。大地を征け。果てを目指せ。我らが敷いたこの天地はお前たちに与えられたものではないが、お前たちこそが手にするに相応しいと認めよう"
世にある命の中で、世界を踏破しきる者が現れるなら。
人間こそがそれであると。
「──……」
つまり。
フェノゼリーの言は全くの的外れだ。
あなたはこの大いなる竜の化身に及ばないだろう。
戦いとなれば一切の痛痒を与えられず、一方的に叩き潰されて終わる……そんな可能性が最も高い。
だが、それは今この時の話だ。
あなたは成長する。
数多の苦難を乗り越え、肉体と精神と技術と道具を磨き、時には同胞との絆を糧にして、高みへ登り続けるだろう。
そうしていずれ、この恐るべき神の末裔をも上回るに違いない。
果てに至るまで歩みを止めない事こそが、ヒトのヒトたる由縁であるがために。
「…………恐ろしい、生き物なのだなぁ、君たちは」
深く、長い。
洞窟中を満たすような溜め息の後に、フェノゼリーはやっとそう呟いた。
「全く分からん。ニンゲンなるものが理解できん。地の果てまでを征く? なんだそれは。出来るわけがない。我ら竜の化身にすら叶っていないのだぞ? だのに、狂った個人の行いならまだしも──君らは種全体として、そんな事をしているというのか?」
全くその通りであると、あなたは頷いた。
あなた個人の考えとして、火神がヒトに期待した使命をどう思っているかは別として。
人間とはそういう生き物なのだと、その先駆けたる冒険者を生業とするあなたが保証した。
「やはり理解できん……。だが、ひとつ納得した。それならば庇護はいらんと言うはずだ。余計な真似をしたな。謝罪しよう。……君の神を、侮辱したことも」
頭を、つまりは全身を前傾させて謝るフェノゼリーにあなたは要求した。
これまで先送りにしてきた頼み事。
村への移住についてだ。
「いや、それは……必要なのか? 話を聞くに、君らニンゲンに庇護が要るとは思えんのだが」
それはそうだろう。
何しろ神ですらそう言ったのだ。
こうなる前ならば通じただろう言い分はもはや通らない。
なので、あなたはこう言った。
人間を手伝ってはくれないかと。
一方的な庇護ではなく、対等な協力者として。
類稀なる剛力と神授の肉体をもって開拓村の発展を助けて欲しい。
代価はもちろん麦の提供と、そしてもうひとつ。
人間がいつか必ず拓くだろう果てへの道に、同行する権利だ。
フェノゼリーの神、偉大なる地の底の竜は世界を見て来いと言ったのだ。
ならば人間への協力こそがその最大の近道である事は、ヒトの聖典に照らせば自明である。
「……は」
これに対し、フェノゼリーはしばし呆然とした後に。
「ははははは! なんと、なんたる身の程知らずか! ええい腹立たしい! 言うに事欠いて俺と君が対等であると!? なんとも、これは……くはっ、腹が立ちすぎて逆に愉快極まりない! はは、おのれニンゲンめ、ふわははは!」
呵々大笑して身を仰け反らせた。
がぱりと開いた大口からはごうごうと空気が吐き出される。
突然に生まれた乱気流の中を、慌てたようにコウモリが飛び回っていた。
「だが、良し! まだ理解はしきれておらんが、ニンゲンとはそういうものなのだな! 身の程知らずの業突く張り! 己の丈も幅も知らぬ傲慢なるケダモノめ! そのようなものはこれまで怒りをもって叩き潰してきたものだが……今回ばかりはその意に応じてやるとしよう! 俺はもう、君を小さき者とは認めない」
洞窟を揺らした叫びはやがて収まり。
フェノゼリーはニヤリと歯を見せて笑う。
「お前の神にならい、俺も信じてやろう。いつか俺に並ぶ者よ。かつて小さく、そして大なる高みへと歩む、道半ばの者よ。その望みに応じよう。我が父とこの身の毛並、そして太祖のヒゲに誓って、これより俺はお前の協力者である」
巨大な掌の先、太く大きすぎる指が差し出される。
それを、あなたは胸を張って握ってみせた。
いかに彼我に差があろうとも、対等であると示すために。
雄大なる竜のヒゲ、その化身はそんな様を見て。
もう一度、今度は吐息であなたを吹き飛ばすほどに笑うのだった。
| クエスト終了 |
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