読者参加型TRPG風小説 作:矢端トラム
ここはやはり誘き出しにすべきだ。
あなたはそう判断した。
探索で判明したレッドキャップの性質、気性を考えるに、それこそが確実な討伐方法だろうと。
そして、囮とするのはあなた自身だ。
より安全を期するならば一度村に戻り鶏あたりを差し出してもらう手もある。
が、ここは辺境のさらに端、人間の領域から外れた開拓村である。
減った家畜の補充に必要な時間や手間、費用は他の地域と比べ大きなものとなる。
たかが1羽、されど1羽。
あなたの中でのリスクとリターンの釣り合いは、村の財産を守る側に傾いたようだ。
また、今から村に戻り交渉を済ませた頃には日が傾いているだろう。
討伐は翌日に持ち越しとなる。
わずか1晩で何かが起こる可能性は低いが、より早期の討伐が望ましいのは言うまでもない。
己を釣り餌とするなら今すぐに始められる。
そういった考えもあなたにはあったのかもしれない。
ともかく、やろうと決めてあなたは再び草原を歩き始めた。
膝までの高さの草を蹴りながら、大きな音を立てて進む。
どのような音であるかはあなた次第だ。
手にした武具、メイスとバックラーの金属部分を打ち合わせても良い。
獣を真似て吠え声を響かせても良い。
はたまた神に仕える日々の中ですっかり喉に馴染んだ聖歌を高らかに歌い上げるのも自由だ。
肝心なのは、己の存在を主張することだけだ。
お前の求めている血と臓物を身の内に詰め込んだ獲物がここにいるぞと、レッドキャップの耳に届けばそれで良い。
| 判定 | 不要 条件達成により確定エンカウント |
そしてそれは、あなたの予想通り正解であったようだ。
あなたの出す音の中に雑音が混じる。
咆哮だ。
歪み、掠れ、金属同士を擦り合わせたような不快を誘う音色は、どこか遠くからあなたの耳へと届けられる。
釣れた、とあなたは確信し、音の出所へと向き直った。
それだけで、その姿は実に容易に発見できる。
草原の奥。
より草の深い区域から、あなたへと猛然と駆けてくるものがある。
皺まみれの老爺のような姿。
殺戮の遊戯を待ちわびて涎をこぼしながら高く釣り上がる口。
獲物の返り血に塗れ赤黒く、死臭に染まりきった体。
種の名の由来となった帽子はいかなる力によってか、鮮血の赤を保っている。
そして、肩に担がれた巨大な斧。
母体の胎を破って産まれる時に既に手にしているという、肉と骨で構成されたその凶器は、ゆっくりとした拍動に合わせて柄に張り巡らされた血管を震わせていた。
レッドキャップである。
その体躯はやはり大きい。
一般的な戦士と同等と思われる背丈に、全身を覆う筋肉量も相当なものだ。
あなたの標的たる個体で間違いない。
レッドキャップらしい知恵のなさか。
あるいは体格ゆえに身を隠す事を諦めたか、それとも己の力に酔い慢心しているのか。
明らかに武装しているとわかるはずのあなたに対しても奇襲を仕掛ける気はないようだ。
ただただまっすぐに、あなたの腹に斧を叩き付ける瞬間を夢想するような醜悪な笑みを浮かべて草原を駆け抜け襲い掛からんとしている。
あなたにとっては最も都合の良い状況だろう。
正面からのぶつかり合いで、神官がレッドキャップに遅れを取るなどありえない事だ。
あなたはこれより始まる戦いに備えて、ローブの胸元、首から提げた聖印を握りしめた。
| 戦闘準備 |
| 秘蹟使用『守護』 MP『17-3=14』 この戦闘中、全てのダメージを『精神SB』だけ軽減する |
| TIPS/秘蹟の使用 |
| 『混乱』『忘却』『朦朧』 いずれかの状態異常を受けていない限り、 秘蹟の使用は判定を必要とせず必ず成功する |
| TIPS/戦闘準備フェイズ |
| 戦闘開始までに猶予がある状態で、 既に態勢を整え終えていると発生する。 戦いに備え技能行使、道具使用など準備ができる。 状況が許せば遠隔武器での攻撃も可能。 |
"麦を刈り、果実を拾うが良い。
これはイィル=マガよりお前たちに与えられたものである。"
あなたの口から朗々と聖典に記された言葉が流れ出る。
神官としての修行の日々で数えきれないほどに口にした文言だ。
あなたにとっては今さら記憶を辿る必要さえない。
匙でスープをすくうような容易さで、自然のままに唱えられる。
"羊を率い、糸を紡ぐが良い。
これはリオルルフよりお前たちに与えられたものである。"
それは一千年の昔、創世の折に神々が人に伝えたとされる言葉だった。
人の魂をもって顕れ、人の肉に宿り、人の心を育てたならば。
このようにあれと、人に命じた一節である。
"魚を掬い、その身を食むが良い。
これはニムストゥルよりお前たちに与えられたものである。"
人の形を持ったものはこのように生きよ。
そういった教え。
神々による人のためのしるべ、原初の律だ。
"灯を掲げ、地を拓くが良い。
これは我がヴァロウの名に於いて、お前たちに与えるものである。"
そしてその中から、あなた達神官は演繹によって新たな法を導き出した。
すなわち。
聖句を一節紡ぐたびに、あなたの周囲に聖性を感じさせる白い光の帯が現れた。
それは蛇のように鎌首をもたげると、ゆらりと揺れてあなたの体に絡み付く。
腕に、脚に、胴に、頭に、首に。
その光こそが、あなたが行使を許された秘蹟の力である。
かくあれかし。
神が定めた律に従い、あなたは聖典に記された『正しい人間の生』を全うして生きてきた。
ならばあなたの魂は、肉体は、人の形を失うことはありえない。
一千年の祈り。
数万、数十万の信徒たちの信仰は折り重ねられ、堅い守護の形となった。
秘蹟の光はあなたの体に溶け、体表を薄く覆う。
戦場においては時に、鋼の鎧よりも恐れられる神秘の護りである。
| 戦闘開始/1ターン目 |
| 判定内容 | 行動順の決定 |
| 判定方法 | 2D6+敏捷SB 比べ合い/数値が大きい方が先制 |
| 判定結果 | 2D6+3=10(あなた) 2D6+3=13(レッドキャップ) |
その威光はしかし、レッドキャップを怯ませる事はなかった。
そも、この生き物には信仰を理解するような思考能力は備わっていない。
怪物の頭を埋め尽くすのは本能の叫びだけ。
「ギィ、ヒ、ヒィアァァァ!!」
怖気を誘う咆哮と共に、レッドキャップの大斧が振るわれる。
瞬く間に草原を走破した勢いをわずかも減じる事なく刃に乗せて、肉体をふたつに裂かれ臓物を撒き散らす獲物の無様を夢想して。
| 判定内容 | レッドキャップの攻撃 |
| 判定方法 | 2D6+器用SB(命中力) 1D10+筋力SB(攻撃力) |
| 判定結果 | 2D6+1=6(命中力) 1D10+5=13(攻撃力) |
しかし、それは──
| 判定内容 | あなたの防御 |
| 判定方法 | 2D6+耐久SB 命中力以上なら成功 |
| 判定結果 | 2D6+4=8(成功) |
| 判定内容 | ダメージ計算 |
| 攻撃力 | 13 |
| 補正 | 防御/-6(50%軽減) 装備/-4(バックラー) 技能/-4(守護) 技能/-4(アンシリーコート) |
| 最終ダメージ | 0 |
| レッドキャップの技能判明 |
| 『アンシリーコート』 神が定めた『正しい形』から外れた者の証。 戦闘能力が向上し、先天的に武装を獲得する。 代償として秘蹟に対する致命的な脆弱性を得る。
技能保有者にとって不利となる秘蹟の効果が倍化。 秘蹟による治癒効果を受けた時、回復量と等しいダメージを受け、状態異常『神威』に陥る。 |
| TIPS/攻撃に対する対応 |
| 以下のふたつのうちから、能力や行動指針に基づいて自動的に選択される。 ただし、魔術と秘蹟による攻撃は特殊な技能を持たない限り回避も防御も出来ない。
『回避』 敏捷ステータスを用いて判定。 成功するとダメージを受けない。 同じターンに回避を繰り返すと成功率が下がる。
『防御』 耐久ステータスを用いて判定。 成功するとダメージを半減させる。 |
「ギ、ィ?」
──あなたに毛ほどの痛痒も与えられなかった。
レッドキャップの持つ大斧は、大きく、鋭く、重い武装だ。
人の頭にまともに叩きつけたならば、頭蓋を砕くどころか首を縦に分割し、肋骨に達してようやく止まる……それほどの威力を誇るはずだ。
だというのに、斧は容易く弾かれた。
あなたが木製のバックラーを刃に当てて軽く受け流しただけで、秘蹟の護りに捉えられて力なく落ち、虚しく草地の表面をえぐる。
あなたは今や、神々の敷いた法に守られている。
人の形を崩す力、つまりあなたに負傷を強いる武器はその役割を十全には果たせない。
ましてそれが、定められた『正しい形』から外れた、神の加護なき力ならばなおさらである。
歪んだ命は、秘蹟の前には跪く他にないのだ。
レッドキャップはそのような法など知りもしない。
恐らく生涯において初めてなのだろう、自慢の斧が何の快楽も生み出してくれなかった事に戸惑いの声を上げて。
| 判定内容 | あなたの攻撃 |
| 判定方法 | 必中(秘蹟の行使) 1D6+精神SB(攻撃力) |
| 判定結果 | 1D6+4=7(攻撃力) MP『14-5=9』 |
| 判定内容 | ダメージ計算 |
| 攻撃力 | 7 |
| 補正 | 技能/+7(アンシリーコート) |
| 最終ダメージ | 14 |
| 追加効果 | 状態異常『神威』 |
| TIPS/状態異常『神威』 |
| 3ターンの行動不能 最大HP半減 全てのステータスボーナスが0になる 全技能封印 先天武装の喪失
この状態異常は回復できない |
"かくあれかし"
あなたが発したわずか一言の前に、耳をつんざくような悲鳴を上げて崩れ落ちた。
「ア──ァ゛アア、ッギ、イ゛ィィ゛アアアアッッッ!?」
レッドキャップの体が
全身がまるで水に変えられたように泡立ち、弾ける度にどす黒い水蒸気めいた煙を吐き出しては縮んでいく。
本来、この生き物はゴブリンとして生まれるべきと定められていた。
それが果たしてどこで間違えたのか、母の胎の内にて魂が歪み狂い、レッドキャップとして腹を破るに至った。
黒い煙はその原因となったなにがしかなのだろう。
神の威光、肉の体を『正しき形』に引き戻す秘蹟の力によって排除され、レッドキャップはゴブリンへと強制的に変異を遂げようとしている。
肉が沸き弾けて破れ、骨が砕けて形を変え、あらゆる臓腑が溶けては混ざりまた別れていく。
生じる苦痛は、およそ人間が想像しうるものではないだろう。
| 戦闘継続/2ターン目 |
| 判定内容 | レッドキャップは苦しんでいる |
| 判定結果 | 『神威』により行動不能 |
杖のように身を支えていた斧さえも泡と消えた。
レッドキャップに許された行動はたったひとつ。
まるで神に許しを乞うように、縮み続ける体をよじりながら地の上に倒れ伏す事だけだ。
| 判定内容 | あなたの攻撃 |
| 判定方法 | 2D6+器用SB(命中力) 2D6+筋力SB(攻撃力) |
| 判定結果 | 2D6+2=12(命中力) 2D6+2=4(攻撃力) |
| 判定内容 | ダメージ計算 |
| 攻撃力 | 4 |
| 補正 | 致命/+4(クリティカルヒット) |
| 最終ダメージ | 8 |
| TIPS/クリティカルヒット |
| 攻撃力が2倍になる。 以下いずれかの場合に発生する。
・命中力が回避/防御の2倍以上 ・攻撃対象が行動不能状態 ・奇襲成功 |
慈悲は、鉄塊の形をもって与えられた。
激痛に苛まれ苦鳴を漏らすレッドキャップへと、あなたのメイスが振り下ろされる。
それは狙い違わず頭蓋を砕き、赤い帽子を真新しい鮮血で染め上げた。
レッドキャップの体は一度、大きく跳ねて。
それから数度の痙攣を繰り返した後に、全ての動きを止める。
確実に命を奪った確信が、メイスを握るあなたの手に伝っていた。
| 戦闘終了 |
全く危なげなく戦闘は終わった。
神官と『歪んだ命』との戦いというのはこういうものだ。
彼らが秘蹟に逆らえない以上、そも対等な殺し合いなどにはなりようがない。
初依頼の相手がレッドキャップだった事は、あなたにとって幸運だろう。
ゴブリンの群れや、牙に毒を蓄えた大ムカデ、そういったものを相手にするよりも遥かに負担なく達成できる、実に簡単な仕事であった。
あなたは残心を解き、ひとつ息を吐く。
それから考えた。
まだやるべき事は残っているだろうか?
レッドキャップは今討伐を完了した。
他に考慮する必要があるとすれば、レッドキャップが財貨や物資などを蓄えている可能性だろうか。
しかし、このレッドキャップは未だ人を襲っていない個体だ。
人間が利用可能な何かを溜め込んでいるとは考えにくい。
また、襲った獣の肉や毛皮も無いだろう。
あなたが見つけた死骸の状態を思えば、何ひとつ残っていないという予想は実に易い。
そしてあなたはレッドキャップの巣の位置など見当もつかない。
というより、この個体の性質からして、そんなものは無いと当たりをつけてさえいる。
これ以上の探索はどう考えても不要だ。
歩き回ったところで無駄足に終わるのが明らかに見えていた。
それよりもさっさと開拓村に戻り、脅威が除かれた事を報告すべきだろう。
結論を出したあなたは、討伐の証明としてレッドキャップの首を落とし、事前に準備していた袋に入れてから、踵を返した。
日は少しずつ傾きはじめているが、まだ明るいうちに村に辿り着けるはずだ。
どうやら今夜のあなたは、依頼完遂の達成感を抱いて、ベッドの上でゆっくりと休めるようである。
| クエスト終了 |