蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブの裏方 作:アイリエッタ・ゼロス
「何やってんのバ花帆....」
次の日、私は教室で頭を抱えている花帆に向かってそう言った。クラスメイトから
聞いた話だが、このバ花帆は今日の朝に生徒会長に随分と無茶なお願いをして生徒会室から
追い出されたらしい。
「流石に無茶だよ花帆ちゃん....」
「楽しいはずなのに~....」
「楽しいだけでどうにかなるなら人生苦労しないっての....」
「そりゃそうだ」
私の言葉にクラスメイトのえなはそう言った。
「まぁまぁ、蓮ノ空にも楽しい事はあるから....」
「楽しい事って....?」
「勉強」
「宿題」
「自主学習、かなぁ....」
「全部一緒じゃん!?」
「みんな勤勉だね....」
「菫は勉強そんなに?」
「そうだね。まぁ、やらなきゃいけない事はちゃんとやるけど」
「うわーん! 放課後に買い食いとか学校帰りにカラオケとか友達とウィンドウショッピング
とか、そうゆうのがしたかったのに~!」
花帆はそう言いながら机に突っ伏した。
「せめて近くにそういうのがあったら嬉しいけど....」
「山の中だからねぇ....」
「もう私は諦めたよ....何も期待せず心を殺して生きることにするから....」
「仙人か....」
「そう! それだよ!」
「....どれ? 仙人?」
花帆が急に顔を上げてそんなことを言ったので私はそう聞いた。
「じゃなくて! 近くにそういう所があればいいんだよ!」
「そういう所って....」
「ショッピングモールだよ! この学校周辺に誘致すれば....!」
「無理に決まってるでしょ....ここ山だからまず開拓しないと駄目だし....それに、仮に
建設始めたとしても私達が在学してる間には完成は無理」
「うっ....! い、言われてみれば確かに....」
「うわぁ、バッサリ切り捨てられた....」
しいなは若干引きながらそう言った。
「はぁ....あたし、こんな学校に通いたかったなぁ....」
そう言うと、花帆は机の上に置いてある他校のパンフレットを見ていた。すると....
「素敵な学校ね」
「っ!? 乙宗先輩!」
いつの間にか背後に乙宗先輩が立っていた。
「こ、梢センパイ! ど、どうしたんですか!?」
「こんにちは月村さん、日野下さん。早速、先日言っていたお手伝いの件なのだけれど、
今日はどうかしら?」
「だ、大丈夫です」
「私も大丈夫です」
「それはよかったわ。それじゃあ少し、月村さんと日野下さんをお借りするわね」
乙宗先輩はえな達にそう言った。
「は、はい!」
「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
「みんな、またね!」
私と花帆はそう言って乙宗先輩と一緒に教室を出た。
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歩いて着いた場所は乙宗先輩と初めて出会った倉庫の前だった。
「二人とも、お友達との会話を邪魔しちゃってごめんなさいね」
「大丈夫ですよ」
「はい! 何というか....現実逃避してたのを付き合ってもらってただけなんで....」
「あら、何か嫌なことがあったの?」
「それは....」
私は花帆の方を見たが花帆は首を横に振っていた。
「(言わないでって事ね....)」
「そ、その....実はクラスの子が一人、もしかしたら学校を辞めたいと思ってて....あ、
いや思ってるみたいで!」
「(いや、それ花帆でしょ....)」
私は思わずツッコもうとしたが、どうにか言葉を飲み込んだ。
「まぁ、そうなの。どうしてそんな風に思うのかしら?」
「えっと....どうも入ってみたら思ってるのと全然違ってるみたいで。それで、他の学校の
パンフレットを取り寄せているみたいで....」
「確かに、年頃の女の子が三年間過ごすにはなかなか窮屈な環境をしているものねぇ。
クラスメイトさんの気持ちも少し分かるわ」
「で、ですよね」
「(先輩、これに関しては花帆の自業自得です....)」
「その子はどんな学校で過ごしたかったのかしら?」
「どんな学校か、っていうか....多分、どういう風に過ごしたかったのか、だと思うんです。
もっと毎日が華やかで、キラキラしてて、楽しそうな友達に囲まれて、楽しそうに
過ごしてて....」
「その子にとって、蓮ノ空はそうじゃなかったのね....」
乙宗先輩は少し考え込むと、何か思いついたのか顔を上げた。
「ねぇ、だったらこういうのはどうかしら? 日野下さんがその子のために、この学校を
楽しくしてみせるっていうのは」
「えっ....この学校を!? む、無理ですよそんなこと!?」
「あら、どうして? 自分の好きっていう気持ちは、思ったより周りの人に伝わるものなのよ」
「確かに、一理ありますね....」
「好きっていう気持ち、ですか....」
「えぇ。....さて、そろそろお仕事を始めましょうか」
乙宗先輩のその言葉で、私達は手伝いを始めた。
~~~~
「資材はその辺りに積み上げてもらって大丈夫よ」
「分かりました」
私達は倉庫から運んできた資材をスクールアイドルクラブの部室に置いた。
「これは何に使うんですか?」
「次のライブのステージを少しずつ準備しているの」
「えぇ!? スクールアイドルってそんなことまでするんですか!?」
「それはもちろん。歌って踊るだけじゃなくて、その周りの事だって全部するのよ。例えば、
新入生勧誘とかね。ライブを見に来てくれる子は多いんだけど、いざ一歩を踏み出して
くれる子は、案外いないのよねぇ....あなたの友達の村野さやかさんはよく飛び込んできて
くれたわ。あとは綴理とうまくやれるかどうか、だけれど....」
「あの、乙宗先輩....裏方の人とかっていないんですか?」
私はふと疑問に思ったことを聞いた、
「いないわ。だから、私達自身がやっているの」
「そうなんですね....」
「それを聞くと、さやかちゃんすごいですね....」
「何だか、一歩先を行かれた気分?」
「そ、そういうわけじゃないと、思いますけど....」
「ふふっ、ごめんなさいね、変なことを言ってしまって。というわけで....来週の新入生
歓迎ライブはいつもより気合を入れてるの。せっかく二人がお手伝いしてくれているんだもの。
大大、大成功してみせないとね」
乙宗先輩は笑顔でそう言った。
「そんな、あたしなんて全然....その、新しいことを始まるまでの途中、みたいな感じですから」
「そう。でも嬉しいわ。良いところを見せなくっちゃね。二人にも、学校を辞めたがって
いるっていうその子にも」
「乙宗先輩....私達に出来る事があったら何でも言ってくださいね」
「あの、あたし、一生懸命手伝いますね!」
「とっても助かるわ。まるで、スクールアイドルクラブのマネージャーさんみたいね」
「マネージャー、か....」
「じゃあそれで!」
「うふふ。それじゃあ、またしばらくよろしくね。日野下さん、月村さん」
「はい!」
「はい」
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「いや~、寮の窓に鉄格子がハマっててどうしようかと思ったけど、大浴場だけは
気持ちいねぇ~....」
「大浴場に慣れるの早....」
「そうですねぇ....わたしもまだちょっと慣れませんけど....」
手伝いが終わった後、私は花帆とさやかと一緒に湯船に浸かっていた。
「それで、お二人はスクールアイドルクラブのマネージャー、ですか?」
「まぁ今のところお試しって感じだけど....」
「うん。来週までだけどね。おっきなライブがあるみたいだから。さやかちゃんの方は
スクールアイドルクラブ、どう?」
「やりがいがありますよ。今は毎日、とても良い刺激を貰っているんです」
「それなら入部して正解だったね」
「良かったねさやかちゃん!」
「はい。ただ....」
そう言うと、さやかの表情は一瞬曇った。
「ただ?」
「わたし、本当はどこの部活にも所属する気はなかったんです」
「そうなの?」
「はい。....わたし、もともとフィギュアスケートをやっていたんです」
「フィギュアって、あのツルツルの上を滑って踊るやつ?」
「氷ね....」
「えぇ。何ですけど....」
さやかはそう言うと下を向いた。
「....良かったら、聞かせてほしいな。さやかちゃんのこと」
「あまり面白い話じゃないですよ....?」
「友達の話だもん。どんな話でも楽しいよ。....あ、いや! 楽しいってのは笑ったり
するわけじゃなくて!」
「わかってますよ花帆さん。....花帆さんと話してると、すぐペースに巻き込まれ
ちゃいますね」
「それが花帆の良いところだけどね」
「そうかなぁ?」
「そうですよ」
さやかはそう言って一度目をつぶった。そして少しして目を開けると話し始めた。
「わたし、フィギュアをやっていたんですけど、そこで壁にぶつかったんです。どうすれば
上手くなれるのか、分からなくなって....」
「上手く....」
「はい。審査員の方からは表現力が足りないって言われまして....自分でも色々と考えて
みたんですが、ちっとも掴めなくて....それで蓮ノ空に来たんです。芸術分野で名を馳せた
蓮ノ空女学院なら、何か新しい手掛かりがあるんじゃないかって。....そしたら、本当に
あったんです」
「それって、もしかして夕霧先輩?」
私がそう聞くとさやかの目は輝いた。
「はい! 夕霧先輩の歌とダンスはわたしの想像をはるかに超える凄さで....だから、
わたしはスクールアイドルクラブへの入部を決めたんです。もっと理想に近づいて....
昨日より、ほんの少しでも高く跳んだ自分になりたくて....」
「そうだったんだ....」
「凄いね、さやかは」
「お二人に会ったおかげですよ。そういえば花帆さん、この学校で花咲きたいって前に
言っていましたよね?」
「あ....うん、そうなんだ。だからあたし....」
「それって、スクールアイドルじゃダメですか....?」
すると、さやかは唐突にそんなことを言った。
「え....?」
「花帆さんは、スクールアイドルになったらきっと楽しい毎日が待っているって思いませんか?」
「あたしは、でも....スクールアイドルなんてやったことないし....」
「そんなの、スクールアイドルをやっている人の最初は全員そうだよ。さやかだってそうだし」
「そうですね。人前で歌うなんて、想像しただけで緊張します。でも、花帆さんなら
そういうのも似合うと思うんです。わたしの勝手な意見ですけど....」
「あはは....ありがとね、さやかちゃん」
「....そろそろ出ようか。のぼせそうだし」
「そ、そうだね!」
私がそう言うと、花帆は立ち上がった。
「あの、さやかちゃん! 誘ってくれてありがとうね」
「い、いえ!」
そう言うと、私達は大浴場から出た。
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「....どうするの?」
さやかと別れて部屋に戻っている途中、私は花帆にそう聞いた。
「....正直、転入しようかなって思ってる。あたしが夢見た学生生活じゃないから....」
「....そ。まぁ、私は止めもしないし賛成もしない。花帆が自分で決める事だよ。....せめて、
自分が後悔しない方を選びなよ」
「....うん」
「....転入手続きまでまだ時間があるんだから、ゆっくり考えな。本当にどうしようもないって
なったら、相談ぐらいは乗るよ」
「....ありがとね、菫ちゃん」
そう言って、私達はそれぞれ自分の部屋に帰った。