蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブの裏方 作:アイリエッタ・ゼロス
「はぁ....」
「(朝からずっとため息ばかり....)」
放課後になり、私と花帆はスクールアイドルクラブの部室に来ていた。そして、仕事を
終えて乙宗先輩の淹れてくれた紅茶を飲んでいると、花帆はため息をつきながら顔を
伏せていた。この光景を、私は今日一日見続けていた。
「どうしたの? 何か心配事? もうライブは明日よ」
「そーですね....でも、あたしが出るわけじゃありませんし....」
「....だったら、出てみる?」
「「えっ!?」」
乙宗先輩の言葉に、私と花帆は乙宗先輩の顔を見た。乙宗先輩は私達の反応が面白かったのか
笑っていた。
「じょ、冗談ですよね?」
「そうね。でも、冗談かどうかはあなた達次第」
「それって....」
「これまで、たくさん手伝ってくれたわね。でも、そうしてくれたのはただの親切だけ?」
「それは....」
乙宗先輩の言葉に、私は上手く返せなかった。だが、花帆は少しだけ違った。
「そ、そうですよ! 梢センパイが困っていたから、だからあたしは、少しでも
役に立てたらって....!」
「本当に....?」
「え....?」
「本当に、それだけだった?」
花帆の言葉に、乙宗先輩はどこか心配したような表情でそう聞いた。それに対して花帆は
気まずそうな表情をした。
「っ....」
「私はね、あなたの胸の内に強い気持ちが眠っているように見えたわ。今にも飛び出したくて
うずうずしている、そんな気持ちが....新しい世界を見せてあげるって言ったわね。あなたに
そう言ったのは間違いじゃなかった。だけど、私にできるのはここまで。ここから先は、
あなた自身が踏み出さなければ、始まらない物語なの」
「あたし、が....」
「....」
花帆への言葉を、私は黙って聞いていた。
「あの、梢センパイ。あたしの、友達の話なんですけど!」
「えぇ」
「実は、まだ学校を辞めたいと思ってるらしくて....あたしはそれを止めたいのか止めたく
ないのか、よくわからないんです。その子は、新しい世界に飛び出したくて。でもそれは、
梢センパイに言ってもらったのとはちょっと違っているんですけど....だけど、もしかしたら
その子は、ただ逃げてるだけなんじゃないかって思ったりもするんです。楽しいことが
したかっただけなのに....梢センパイの見せてくれた景色も、本当に眩しくて....その先が
あるなら、あたしは....あたしは....あたしは、どうしたらいいですか、梢センパイ....」
「(花帆、そんなに悩んでたんだ....)」
私は花帆の言葉を聞いてそう思った。すると、乙宗先輩が口を開いた。
「二人とも。私の家系はみんな音楽をしているって言ったわよね。父も母も、祖父も祖母も」
「えぇ....」
「はい....」
「....だからね、最初スクールアイドルをやりたいって言ったときには、ずいぶんと
反対されちゃったの」
「えっ....?」
「そうなんですか? あんなに凄いのに!」
「ありがとう。でもね、今までたくさん習い事に通わせてもらったのに、私はその中からでは
なく、スクールアイドルを選んでしまった。あまつさえ、衣装作りのために指に傷を作って
針仕事をしているなんて知られたら、もしかしたら卒倒しちゃうかも」
乙宗先輩は少し苦笑いしながらそう言った。
「じゃあ、どうしたんですか?」
「やっぱりセンパイも、親の反対を押し切って!?」
「いいえ。ちゃんと親と話し合ったわ。自分のやりたいことを、正直に伝えたの。全部を
理解してもらえたとは思わないけれど....でも、好きな気持ちはきっと伝わったはずだから」
「自分のやりたいことを....」
「正直に....」
「もし親の反対を押し切ってスクールアイドルを続けていたら、それはきっとどこかで、親に
反発するための活動になっていたから。それが本当に私のやりたかったことだとは思えないの」
「っ....!」
すると、花帆の肩がビクッとなった。
「だからね、スクールアイドル活動だって、立派な芸術。音楽なんだって。そう分かって
もらえれば、いつかはきっと私を認めてくれるはずだから。それなら私は、好きなことをただ
ひたむきに続けていけばいい。そう思ったの」
「センパイは....センパイはスクールアイドル、楽しいですか?」
「えぇ、とっても。ねぇ、日野下さん。あなたのお友達が花咲くために必要なことって、本当は
どんなことなのかしら? 他の学校に移ること? それとも....」
「それは....あのっ!」
すると、突然花帆は立ち上がった。
「っ!」
「わっ」
「お話、聞いてもらってありがとうございます! ただ、あの、もうちょっとだけ、待って
もらってもいいですか! センパイのライブまでに全部、気持ちの整理をつけてきますから!
だから、その、とにかく、がんばりますから!」
「え、えぇ。わかった、待ってるわ」
「はい! それじゃあまた明日! お疲れ様でした!」
そう言うと、花帆は走って部室を出て行った。
「(答え、見つかったんだね....)」
そう思いながら、私は部室を出て行った花帆の背中を見ていた。
「相変わらず元気な子ね....」
「えぇ....本当、太陽みたいな子ですよ」
そう話していると、部室にさやかが入ってきた。
「あの、乙宗先輩。今、凄い勢いで花帆さんが出ていったんですけど、何かあったんですか?」
「何かが起こるのは、これから、かしらねぇ....」
「?」
乙宗先輩の言葉にさやかは首を傾げた。
「(乙宗先輩、やっぱり....)」
「でも、良かったわ。もしかしたら、無駄にならずに済むかもしれないから」
そう言った乙宗先輩が開けたロッカーにあったのはライブ衣装だった。
「先輩、これって....!」
~~~~
さやかは少し乙宗先輩と話すと部室から出て行った。そして、部室には私と乙宗先輩だけに
なった。私はちょうどいいと思ったため気になっていたことを聞いた。
「乙宗先輩。一つ、聞いても良いですか?」
「何かしら?」
「花帆が言ってた学校を辞めたいって思っている友達....そんな友達は本当はいなくて、あれは
花帆自身って気づいていたんですか?」
「....どうしてそう思ったの?」
「乙宗先輩の、行動って言ったらいいんですかね....この数日間、色々とお手伝いをして
きましたけど、どうもお手伝いというよりもスクールアイドルとしてステージに立つために
必要な練習が多かった気がするんです。それに、乙宗先輩が私達の教室に来た時に花帆が
他校のパンフレットを見ているのを見ましたよね? その事を思い出した時に、乙宗先輩は
花帆が転入しようか悩んでいるのに気づいたんじゃないかって....」
「....よく見ているわね」
「まぁ、そうですね....」
そう言うと、乙宗先輩は一口紅茶を飲んだ。
「....月村さんの言う通りよ。何となくだけど、私は気づいていたわ」
そして、乙宗先輩はカップを置くとそう言った。
「そうでしたか....もう一つ、聞いても良いですか?」
「えぇ」
「....どうして、花帆を止めようと? いや、この言い方は変ですね....どうして花帆を
スクールアイドルに誘おうと思ったんですか?」
「運命、と言えば良いのかしらね....彼女が私と一緒に、スクールアイドルをやってくれる
ような気がしたの。ステージの上に立って、彼女を見た時に....いいえ、もしかしたら彼女と
初めて会った時に....」
「運命、ですか....」
「えぇ。でも、それはあなたもよ」
「えっ?」
乙宗先輩の言葉に、私は思わずそんな声が出てしまった。
「あなたからも、日野下さんと似たような気配を感じたの。でも、一緒にいるうちにあなたは
別のものにお熱みたいだったから」
「それは....」
「....ねぇ、良かったら私の質問に答えてもらえる?」
「....何でしょうか」
私は突然の質問に少し驚きながらそう言った。
「どうして、私のお手伝いをしてくれたの? さっき聞いた時、あなたは少し申し訳なさそうな
表情をしていたでしょ? だから理由が気になってね」
「それは....正直に包み隠さずに言うと、乙宗先輩にお願いを聞いてもらうための点数稼ぎと
言えばいいんですかね....」
私は一切包み隠さずそう言った。
「私にお願い?」
「はい....」
「一応、聞いても良いかしら?」
「その....私に、乙宗先輩を撮らせてください!」
「....えっ?」
私の言葉に乙宗先輩はきょとんとした。
「その、撮らせてって言うのは....」
「写真の事です。....あのステージを見た時、私の心は乙宗先輩に奪われてしまったんです。
それと同時に、あのステージで輝く乙宗先輩の事を撮りたいって思って....」
「そうだったのね....」
「はい。....あの、乙宗先輩。今言うのもどうかと思うんですけど....明日のステージ、私に
乙宗先輩の事を撮らせてください。打算で手伝っていた私ですけども....」
私は申し訳なさそうに乙宗先輩にそう言った。
「分かったわ。じゃあ、明日のライブで私の事を撮ってみて。あなたの思い通りの写真が
撮れるかは分からないけど....」
「っ! ありがとうございます!」
「....楽しみにしてるわね、月村さんが撮る写真」
「はい! 最高の写真を撮ってみせます!」
「なら、明日はよろしくね」
こうして、私は乙宗先輩に写真を撮る約束を取り付けることができた。