愛と呪いは小説より奇なり【改】   作:ランハナカマキリ

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Ep.1 舞台の幕は上がる

芸能界

 

お笑い芸人、俳優、アイドル。

テレビの向こう側で偶像として働く者たち。妬み、妬まれ、それでも輝こうとする星々がいる。

 

そういった中で成功する人物は人々を星の目で虜にする。

 

 

 

呪い

 

辛酸、後悔、恥辱。

人間の負の感情から生まれる負の感情。それが形を成したものを呪霊と呼び、禍々しきその力は人を死へと導く。

 

呪力を操り、呪いを祓う者たちを呪術師と呼ぶ。

 

2018年11月14日

羂索が仕組んだ呪術を与えられた者たちの殺し合い『死滅回游』愛知コロニーにて、57ポイントの特級呪霊『ウェン・カムイ』を同じくプレイヤーの『結衣丸』と共に撃退し、62ポイントを獲得した。

 

同年12月24日

遠距離から両面宿儺を狙撃するC班の補佐をし、伏黒恵の魂と両面宿儺の魂の繋ぎ目の破壊に協力した。羂索の保険によって発生した天元と宿儺の融合体との総力戦に参加し、融合体の足を止める働きをした。

 

これらの働きをしたのは当時10歳の少年。

そして2023年、彼の姿は東京郊外の一軒家にあった。

 

「何で京都校に?貴方の実家があるの東京でしょう?」

 

『うるせぇ、"アイツ"から離れてぇんだよ。つーかお前こそ何で東京なんだよ?お前の兄貴がいんの京都だろ』

 

「・・・多分、兄さんのいないところで力をつけて、いつか強くなった自分を見て欲しいから、ですね」

 

『成る程な・・・・頼むからウチに転校しないか?』

 

「いやです」

 

『ちっ、じゃあ交流会で会おうぜ・・・超親友(ベストフレンド)

 

「えぇ、楽しみにしてますよ、コハクーーいや、相棒」

 

■□■

 

東京都立呪術高等専門学校

 

日本に2校しかない呪術教育機関であり、呪術師のサポートを行う呪術の要。敷地内に数多の寺社・仏閣が建てられており、表向きは私立の宗教学校となっている。2018年に特級呪術師『九十九由基』と特級呪詛師『羂索』によって全壊したが、あれから5年、すっかり戦いの面影を残さないほど回復した。

 

もともと存在していた分校は、東京校の修復の際に一つにまとめることとなった。まぁ元々一つにまとめた方がいいのではないかと考えていたらしいが上層部(クソ老害)どもが力を分散させようとその計画を邪魔していたらしい。

 

その上層部も五条悟によって鏖殺。禪院家と加茂家は崩壊。現在呪術界のトップである楽願寺学長は京都校の学長の座を庵歌姫に譲った。

 

何はともあれ、呪術高専一年は5人いる。

 

家入明星、日本に4人しかいない特級呪術師の1人家入黎人の弟。()()()()()術式と、五条家の六眼の亜種『架眼』を持つ呪術界の麒麟児。1年生で唯一の特別一級術師である。

 

万城真崙、自身の呪力で相手を堕落させる『心堕呪法』の持ち主。同級生の栗林とは幼馴染であり、昔から『栗夫婦』と呼ばれている。監禁騒ぎの事件を起こしたことで高専からマークされた。

 

栗林隼人、呪具や術師にバフをかける『弧絽弧絽』という術式を持つ。押しの強すぎる幼馴染に誘われて呪術高専に来た。本人は神社の神主の家系だ。

 

ミサゴ、五条悟の作った完全自立呪骸。

 

入学初日、鳥打ち帽を被ってサングラスをかけた少年、明星が勉強机にもたれかかった。

 

視線の先には龍と虎に囲まれた『入学おめでとう』という黒板アートと、わいわい騒がしい同級生2名と1羽の姿があった。

 

「あ、もう1人の1年の話聞いたかよ、お前ら」

 

「虎杖先輩の、()()()()だろ?」

 

「そうそれ!あのゴリラの娘って、絶対脳筋だわ!!」

 

実はここにいるメンツは入学前に顔合わせをしており、血気盛んな新入生相手に四年生が交流試合を企画して明星以外ボコボコにされた。特に容赦がなかったのは、高専所属体術教師の職に内定している”鬼神”虎杖悠仁。

 

「いや、流石にそれは決めつけな気もするが・・・」

 

「そうだな、案外可愛い子かもーー「あん?浮気かゴラァ?」ーースミマセンデシタ」

 

ガラガラッ

 

扉が開き、白い上着を肩に羽織り、白い教師用の制服に身を包んだ人物が現れる。

 

明星とミサゴは知っている。この人物こそ次期学長の有力候補であり、”現代の異能”と呼ばれ、4人しかいない特級術師の中で実力No.2。

 

「皆さんこんにちは!今日からみんなの担任になります、東京都立呪術高専一年担任の『乙骨憂太』と言います。みんな一年間よろしくお願いします・・・さて、みんな呪術師になることを目指してここに来たわけだけど・・・あれ?1人いない?」

 

その時、明星が窓から外を見ると校門の鳥居に赤いパーカーと黒い帽子とメガネを身につけた少女がいた。彼女はキョロキョロと周りを見て、一歩踏み出そうとすると、諦めて帰ろうとしていた。

 

(あの人何やってるんだ?)

 

「・・・先生、なんか校門にめっちゃ根暗そうな人がいるんですけど」

 

「えっ!?あー、みんなちょっと待ってて!!」

 

数分後、乙骨が少女を連れて戻ってきた。

 

「えっとマリアさん?一年の教室はここだからね。あと何で帰ろうとしてたの?」

 

「いや、私、人と話すの本当に無理なんです。お、怒らないでください、ひっ、ご、ごめんなさい!?」

 

「勝手に怯えられてる!?」

 

(あいつが、虎杖先輩の義娘?)

 

(何というか、思ってたのと違う・・・)

 

「はんっ、何だテメェ?人相手にひよってんなら帰れ」

 

「ひっ!?ご、ごめんなひゃい・・・」

 

「おい泣くなっ!?まるでアタシが虐めたみてぇだろ!?ほっとけないから舎弟にしてやる!!だから泣くな!!」

 

「ひゃい・・・」

 

目にも留まらぬ速さで舎弟にしやがった。俺じゃなきゃ見逃しちゃう・・・さすがは堕落魔

堕落魔関係なくないか?あと、本人の前で言わないことを勧める

 

「何か言ったかぁ?」

「「いえ、なんでもございません」」

 

隼人とミサゴは口を揃えて否定した。

 

「ほら泣かないで・・・自己紹介して?」

 

「え、えと、虎杖マリアです。好きなことはご飯をいっぱい食べることです・・・」

 

そして虎杖マリア、高専4年『虎杖悠仁』の義理の娘である。

 

「それじゃあマリアさんは明星くんの隣に座って。これから今後の日程と2年3年4年との歓迎会があるから、みんな待機しててね。僕は2、3年を迎えに行くから・・・」

 

■□□■

 

『いい?貴女はアイの生まれ変わりなのよ?アイ?アイ?』

 

テレビで自分とそっくりなアイドルがファンに刺されて死んだ日から、昔アイドルで自分を産んでクビになった母はおかしくなった。

 

『駄目よ!!!こんなのアイじゃない!!!!』

 

徹底的に踊らされ、徹底的に歌わされた。

 

『いい!!?貴女はアイになるために存在してるの!!ありのままの貴女なんか愛する価値なんて全くない!!!!!アイ、アイ!!アイぃぃ!!!!』

 

母はアイに負けたアイドル。産まれた自分がアイに似ていたから、自分より売れる、アイに似たアイドルを育て上げた。アイが虐待を受けて育ったことを知ると私を虐待し、アイが孤児院にいたことを知ると私を孤児院に放り込み、14歳の頃、上京してアイドルを目指せと命令され・・・断った。

 

『アンタなんか産んだのが間違いだった!!!こんなのアイじゃない!!次に産んだ子をアイにする!!お前みたいな能無し、恥知らず、失敗作なんかいらない!!!』

 

徹底的に心も体も叩きのめされ、人買いに売られそうになった。

 

『コイツ昔のアイドルに似てるね〜?いい商品になりそうだなぁ!!』

 

『・・・』

 

『高く買い取りますよ〜?にしても無抵抗なガキだなぁ?ま、扱いやすくて楽ーーー『あ、兄貴ィィ!!!こ、高専のガキが『"捌"』ぁぁぁあ!!??』ーーひぃ!?』

 

隣の部屋から入ってきた男が、"切り取り線"のような模様が体中に現れ、言葉の通り切り刻まれた。ダイス状に切り刻まれた肉塊を蹴り飛ばしながら、珊瑚色と黒色の髪の少年が部屋に入ってきた。

 

『旧加茂家に人身売買を仲介していた組織・・・その娘は売り物か?呪術規定・・・何条だっけ?まぁいいか。覚悟、できてるよな?』

 

 

 

 

『あ〜順平?うん、仕事終わったんだけど・・・売られそうになってた女の子いるんだよ。どうしたらいい?いや、本人が自覚してないけど見えるし持ってる側だし・・・分かった、高専に連れてく』

 

 

 

『・・・自分の親が死んだのに、泣かないんだな。まぁ、その親に売られたら涙も出ないか』

 

『・・・・・・・うん』

 

 

『お前、名前は?』

 

『・・・・ない』

 

 

 

『ないのか・・・そうだな〜〜、お前誕生日は?』

 

『12月の、24日』

 

 

 

 

『ん〜〜イエスって名前は似合わないし・・・よし、お前の名前は今日からマリアだ!!』

 

 

席に座ったマリアは、ずっとキョロキョロしたりオドオドしてまるで小さな小動物のようにビクビクしていた。その様子をただジト目で見ていた明星は口を開いた。

 

「初めまして?」

 

「は、初めまして、えっと、よ、よろしくお願いします」

 

「・・・家入明星です。よろしくお願いします・・・マリアさん、でしたか?」

 

「あ、はい・・・悠仁さんの言ってた通り優しそうな人ですね・・・」

 

「それにしても、虎杖先輩に養子がいるなんて入学の時に初めて知りました。どういった経緯で?」

 

「•••えっと、詳しくは言えませんけど、人買い業者に売られたところを悠仁さんに助けられて、んでそのままーー」

 

その時、風が吹き彼女の被ったパーカーと帽子とメガネが吹き飛んで、隠していた顔が顕になった。黒く長い髪、透き通った肌、そして赤と黒の混じった瞳。混乱で顔を引き攣らせていることを除けば、昔見たアイドルと瓜二つだった。

 

「ーーーきれ「ごめんなさい私は"アイ"じゃありませんそれは言えませんごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」

 

「え!?あ、いえ、何か嫌な思いにしてしまったのなら本当に申し訳ーー「おい、何俺の娘泣かせてんだ?」ーーちょっと待ってください虎杖先輩誤解です誤解でーーーあああああああああああああ!!?」

 

2023年4月、家入明星、呪術高専入学。

 

■△■

 

1000年前、九州の高千穂に1人の男がいた。総髪の男の体からは紫色の電気が湧き出していたが、男の目に生気はなかった。

 

「・・・・ケホッ」

 

『久しいね。雷電』

 

「・・・・お前また幼女になったか。趣味が悪い」

 

『酷いな〜』

 

「ゲホッ・・・・羂索を取り逃した。奴は俺の父親の体を奪った上に、今度は俺の娘の体を奪った。今までに得た技を全て使って、奴を屠りたかった・・・この命を捨ててでも!!ゲホッ!!」

 

怒り任せに力を込め、強く手を握ると彼の腕が蒸発した。体内の呪力が肉体を電気分解したのだ。これが代償、圧倒的な力と引き換えに自身の死をもたらす。

 

術式を発動させ一撃を喰らわせた瞬間、仇は逃げ出していた。

 

『あと数分で肉体が消えるでしょ。貴方の術式と呪力特性、肉体が電気分解されるまであと僅かってとこかな』

 

「お前の術式、人の魂を細工することができるらしいな・・・」

 

残った腕と脚が消えた。

 

「頼みが、ある。俺の魂は消滅してもいい、だがこの肉体に刻まれた呪力と術式と、俺が編み出した技術・・・・ゲホッ!!」

 

体内の血が蒸発し血管が破裂した。

 

「いつの世か、ゲホッ!!これらに適した、恵まれた者に与えてほしい、俺と同じ目に遭わぬように・・・・」

 

内臓が破裂し血を吐いた

 

「ゲホッ!!ゲホッ!!・・・・俺の生涯に意味を与えてくれ」

 

『・・・・・・・・いいよ、友達だから━━雷電?』

 

雷電は、湿った風と共に消えていた。

 

 

 

そして1000年後・・・

 

同じく九州の高千穂。

 

この世界では嘘は身を守るための盾となり相手を倒すための矛となる。

 

「先生!!この子息してません!!」

 

「い、急いで心臓マッサージを!!」

 

宮崎の産婦人科のある病院。

 

分娩室から飛び出してきた医師たちは、手に抱えた通常よりも小さい子供を新生児集中治療室に運んでいた。母親は未成年の16歳。当初は赤ん坊2人という通常より難しい状態が予想されていた。

 

『ーーーちょっと待て!!もう1人いるぞ!!』

 

まさかの3つ子だった。

 

双子の出産という前提で機能していたシミュレーションや対策が崩れかけていた。しかも3つ子で産まれた男の子は通常よりも体が小さく、息もしていなかった。最初は動いていた心臓も、今はもう動いていなかった。

 

「くそっ、AED持ってこい!!」

 

医師がAEDを用意し、赤ん坊の蘇生を試みたその時。

 

 

 

ズッシャァァァァァン!!!!

 

 

 

病院に雷が落ち、新生児集中治療室は停電した。

 

「な、何だ!?どうなってる!?」

 

「雷で停電しました!!すぐにーー「ふぇぇ・・・」

 

その子は雷が落ちた直後に息を吹き返した。

 

呪いの世界では、輪廻を廻る魂が思いもよらぬ奇跡をもたらす。

 

 

だが、その奇跡は必ず因果に飲み込まれる。

 

舞台の幕が上がり、消えゆくはずだった話の役者が再び演じ始める。

 

『2つの空っぽの肉体。1つは家族に愛されなかった女の子の魂を、2つ目は殺された彼女の主治医の魂を。そしてちゃんと魂が入っていたが力のないこの子には雷電の願いを・・・・さぁ、どんな未来を演じてくれるかな?』

 

愛に呪い呪われた、"雷龍"の話を。

 

『あ、でも星野アイがあの子の術式奪っちゃったんだよな〜しかも呪力全然ないから宝の持ち腐れって感じ・・・・』

 

『んじゃ星野アイ死んだら術式があの子に渡るようにしよっと。そういう天与呪縛にしとけばいいか。全く、魂の調整も術式の継承もめんどくさいのにな〜』

 

■□■

 

星野孤白猟(コハク)は星野家の次男として生を受けた。

 

彼は産まれて2年後に突然充血し、鼻血が吹き出して倒れた。すぐに病院に行き医師から"てんかん"による脳内血管の破裂という前例のない状態だと宣告された。

 

てんかんとは、神経細胞の電気的な興奮が過剰に発生する部位が生じ、脳のはたらきに異常が引き起こされることによって発病する病である。それがコハクの脳には至る所にあり、通常の電気信号は約200μAに対し約倍以上の電気信号が流れていた。

 

『原因がわからないままだと、これを言うのは酷ですが・・・このままでは恐らくコハクくんは長生きできません。4歳〜5歳が山場です。覚悟してください』

 

その日から入院生活が始まった。

 

定期的に脳をCTスキャンし、吐き気や目眩、視覚や聴覚の異常を抑えるための治療を受けた。彼の母は多忙なため偶にしか会いに来れず、代わりに兄と姉と母が勤めているアイドルグループの社長夫人がよく会いに来た。

 

でも彼は孤独だった。

 

彼の周りには、他の人に見えない怪物たちがいた。母にも兄姉にも見えなくて、幻覚か妄想に思われた。寂しかったし、悔しかった。

 

ようやく病状が安定して、母たちが待つ新居に帰り、一緒にご飯を食べて、風呂に入り、布団に入って寝る。

 

そして母が初めてのドームライブを迎える日。

 

母は刺し殺されて死んだ。

 

□■□

 

コハクには何が起こっているのか分からなかった。

 

何故母は後ろで血を流している。

 

「こ、こはく、にげ、て・・・」

 

何故この男は自分に刃物を突き立てている。

 

「お、お前がアイの隠し子だな!?殺してやる!!!」

 

傷ついた母を守ろうと男の前に立ちはだかったコハクに、男の虚しい怒りが向けられた。男が振るったナイフ、その一振りを片腕で受ける。赤い血がスパッと跳ねるが、コハクは無我夢中で空いている男の手に齧り付いた。

 

「いっっーー死ねクソガキ!!」

 

ザクッと、男の包丁がコハクの右目に突き刺さった。

 

「ぁぁぁ!!?ぅうぅ!?」

 

「死ねっ!!しねっ!!シネェェ!!」

 

あまりの激痛に倒れ込んだコハク。彼の腹に男の蹴りが入り、コハクは宙を舞って靴棚にぶつかる・・・寸前で母が彼の体を受け止めた。

 

「こ、はく、しっかりして?」

 

「・・・おか、あさん」

 

「むっ、報いだぞ!?ファンを、俺たちを蔑ろにするから!!」

 

私なんてもともと無責任で。純粋じゃないしずるくて汚いし・・・人を愛するってよく分からないから。私は代わりにみんなが喜んでくれるようなきれいな嘘をついてきた・・・

 

いつかそれが本当になることを願って・・・今だって、君のこと愛したいって思ってる。リョースケ、くんだよね?よく握手会来てくれてた

 

あれ?違った?ごめん私人の名前覚えるの苦手なんだ・・・お土産でくれた星の砂うれしかったな。今もリビングに飾ってあるんだよ

 

再び目を覚ましたのは母が事切れる寸前だった。

 

「アクア、ルビー、コハク・・・・愛してる」

 

「ママッ!!死んじゃいや!!!」

 

扉の向こう側で叫ぶ姉、こっちには目もくれず母の出血箇所を抑える兄。

 

目から光が消えた母を一瞥し、コハクは家の外を出た。

 

 

「ーーーアイ、そんな、アイ!!!」

 

騒ぎを聞きつけたアクアマリンには、男の影に隠れ気絶していたコハクが見えていなかった。

 

そして倒れ込んだ母しか見なかった。

 

母が事切れた後に、振り返ると閉められた筈の玄関が開いていた。

 

 

 

 

 

遠くで雷が鳴った気がした。

 

ーーーーーーーーーー

 

男は、リョースケは川に架けられた橋の下で蹲って震えていた。

 

初めて人を殺した。殺した時は怒りに支配されていたが、今は恐怖と後悔に支配されていた。自分に聞かされた話の内容と、現実が食い違っていた。

 

「ちくしょう!!何が忘れてるだ!ちゃんと、ちゃんと覚えてたじゃねぇかよ!!!」

 

「おい」

 

右に振り向くと、そこには自分が傷つけた少年がいた。

 

「て、テメェ・・・・何しにきやがったんだよ!?あっち行け!!」

 

「ーー死ね」

 

その瞬間、小さい少年の手から()の電流が迸る。リョースケの肩に命中したソレは、まるで人形の腕を外すかのように彼の腕を焼き切った。

 

「あ"ぁ"!!!い、痛いぃぃ!!た、助けーー」

 

「あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!!」

 

少年は怒りに任せて目の前の男を殴った。

 

殴る、殴られる、躱す、殴る、殴る、蹴られる、躱す、殴る、蹴る、骨を折る、脱臼させる、股を潰す、眼をつぶす、顎を砕く。

 

気づけば返り血と自分の血がごちゃ混ぜになって、流血が止まって血が固まった右目の傷が痛くなった。男は虫の息となって地面に倒れていた。歯は全て砕け、顔のあちらこちらから焼け焦げた肉の匂いが漂っていた。

 

コハクは血に塗れた状態でトボトボと歩き出した。

 

母は死んだ。

 

右目はもう見えない。

 

なのに何故だろう・・・・

 

普通なら嘆き悲しむべきなのに・・・・

 

復讐を果たせたことを喜ぶべきなのに・・・・

 

それが正しいはずなのに・・・・

 

「・・・・・・・つまんな」

 

怒りに身を任せた復讐は、至極つまらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

いや、母を殺されたことに怒っていたのではない。

 

奴は()の目を刺して逃げた。

 

つまり俺なんかどうでもよかった、もう刺したんだから動けないだろうと思ったのだろう。

 

巫山戯るな

 

どうせなら心臓を刺せ。腹の大動脈を切れ。外に投げ出して頭を砕け。

 

勝負を放棄するな

 

相手が死ぬまで殺せ

 

勝ったと、殺したと思って慢心していたのか?それがまだ立てた俺への最大の侮辱だ。

 

正直言って、彼にとっては母も星野アイも愛しているがどうでもいい。

 

"殺し"という勝負、"勝負"という名の娯楽。

魂に刻まれた強さへの渇望。

 

それに比べて"推し"など"親子愛"など、二の次だ。

 

人の運命は残酷で、唐突に好転する。

 

今になって思えば彼の運命が好転しだしたのはあの時だったかもしれない。

 

「ナイスファイト!ボーイ!!」

 

橋の上、バイクの横に立つ金髪の美女。そして巻きつくように飛ぶ古代の虫のような生物。

 

「・・・・誰あんた」

 

「どんな女がタイプかな?」

 

師に出会い、戦いに命を燃やす機会を得たあの時から。

 

■□■

 

京都府立呪術高専

 

異質な呪力を放つ星の目、片目を黒髪で隠し、後髪を団子にした少年。目の前のいる、仮面をつけ季節外れのマフラーを巻き、仮面の下にある2つの異なる瞳を持った男がこう投げかける。

 

「ようこそ呪術高専へ・・・・改めて言うが、ここに来たら元の世界には戻れない。お前はそれでも後悔はないか?」

 

「後悔?そんなもの、とっくにねーよ。守りたいものも、倒すものも、俺は俺で勝手に決める」

 

「一応聞くけど、なぜ命を賭けられる?」

 

「まぁ、俺は戦闘狂だが、"愛"は、自分の命張った姿でこそ美しいと思う」

 

「俺の母は今際の際で自分の身を張って俺ら3人を守った。周りを嘘で固めて世間の何もかも騙し続けた。だからあの姿が俺の"推し"、俺の"愛"はあの姿にある。それ以外の時の母親を見ても何も感じない。命かけてないとダメなんだ、きっと」

 

「だから俺は命を張りたい。それが誰かを愛する前提条件。愛のない喧嘩なんぞ虚しいだけだからな」

 

少年の体から迸る青い雷光。

 

それを見つめて、『家入黎人』はニヤリと笑った。

 

「・・・・・九十九さんの言った通りだな。やっぱイカれてた」

 

2023年4月、星野コハク、呪術高専入学。






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