愛と呪いは小説より奇なり【改】   作:ランハナカマキリ

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Ep.7★雷と精霊と剣豪

私には血の繋がりのない子供が3人いる。

 

1人目は子供の頃から大人っぽくあまり手のかからない子。

2人目は今は亡き母親と同じ夢を持った可愛らしい子。

そして3人目は、一番手のかかる子だ。

 

彼は中学3年生の一学期にクラスメイト5名を病院送りにした。

 

彼は小学生から中学生まで何も言わないおとなしい子だった。あの子たちの母が亡くなった次の日からケロッとしていたし、同級生や先生とは必要最低限の会話しかしない。そしてたまに遅く帰ってくるような子だった。けど、洗濯物を一緒に畳んでくれたり、簡単な料理を作ろうとしてヒヤヒヤさせるような、そんな子だった。

 

中学生の時、その性格からいじめの対象になってしまったのだ。

教科書の盗難から始まったいじめ内容は年々悪化していったらしい。いじめは誰の目にも触れないような校舎裏で行われていたし、彼も言っていなかったので誰も気づくことができなかった。

 

そして問題のあった日の放課後、カツアゲを拒否されたクラスメイトの1人が彼の胸ぐらを掴んだ直後カッと目を開いて相手の目に指を突き、仰け反った相手の頭を何度も膝に叩きつけて教室の後ろから黒板に蹴り飛ばしたそうだ。そこから先は蹂躙だったらしい。人間じゃありえないような速さで彼をいじめたクラスメイトたちを叩きのめし、腕や脚を折り、男の大切な部位を破裂させた。その時のあの子の顔は•••何というか退屈そうな顔だったそうだ。教師たちが駆け付けたのは、机や教科書が教室に散らばり、虫の息となったクラスメイトたちの山の上に座るあの子。ボ〜ッとしていたそうだ。

 

私は生まれて初めて、あの子を大声で叱った。

 

なんであんなことしたのと言ったら

 

『3年間黙っていじめられてたんだから、殺さないだけお釣りが来るだろ』

 

『限度ぉ?価値のないゴミにそんなのいるか?』

 

と、言われた。覚えてはいないが、手を出してしまったらしい。あの子の頬に赤い紅葉のような平手打ちの痕ができていたことを、私は一生忘れることはできないだろう。

 

子供の頃は病室にいた印象が大きかったから、目の前のこの子があの子と同一人物なのか分からなかった。しかも聞き出していくと不良たちに嫌がらせをされた腹いせに町中の不良半グレチンピラをボコボコにしたらしい。私は怒るを通り越して倒れそうになった。

 

恐る恐る、他に何もやってないか聞いたら、最近話題の呪術師に推薦されてるってあの子は言った。

 

私は倒れた。

 

次に目を覚ました時には彼を勧誘した呪術師、九十九さんがソファに寝ている自分を見ていた。もちろん家ではなく九十九さんが個人所有している研究所の一室であり、あの子は頭にたんこぶをこしらえ九十九さんに拳骨グリグリをされていた。どうやら3年間感情を抑えるためにいじめや嫌がらせのことを黙っていたらしい。不貞腐れて謝る姿からは反省が感じられないため、九十九さんに本気で締め上げられて悶絶していた。その様子が今まで見たことがない、明るい顔をしていた。私はこの子のことを何も分かっていなかったのだと思っていると、九十九さんが頭を撫でてきた。

 

『正しい選択をするのに遅すぎることなんてないさ。母親ならちゃんと向き合いな』

 

もう一度、なんで暴力を振るったのかを聞いた。

 

『俺は、愛は分かるけど命の価値が分からーーいや、分かっていたつもりだったけど分からなくなった。もしその価値があやふやになったら、母さんたちも殴るようになるかもしれないから、怖いんだよ』

 

私は涙を浮かべながらあの子を抱きしめていた。

 

私には血の繋がりのない子供が3人いる。

 

3人目は、いちばん手のかかるーーとっても不器用で心優しい、私を母と呼んでくれる愛しい息子。

 

■■□■■

 

京都府立呪術高専は、山国御陵浄界の近く、丹波高地の山奥に位置している。

 

これは呪術の存在を世間から遮断し秘匿するためである。そして天元の結界術によって完全に外界から切り離されていた。しかし、2018年以降、呪術の存在が明るみに出てしまい、天元も五条悟によって消滅させられた。

 

翌年、2019年の後半に東京の新校舎ができたものの、呪術の正式公表、呪術規定の改訂に海外への呪術の説明と条例の制定、によって今まで通りに行動がしにくくなってしまった。

 

 

なので呪術師と一般社会との橋渡しを担う補助監督はとても重要な立ち位置となった。

 

「補助監督の『三輪霞』です!!よろしくお願いします!!」

 

「俺は任務があるから、今回は引率出来ないのでくれぐれも三輪先輩に迷惑かけんなよ・・・・特にコハクとコレオ、お前らに言ってんだからな?」

「「・・・・ちっ」」

 

汀からニヤニヤと笑われた2人は、お互いを見つめ舌打ちした。

 

「ぷぷぷっ、子供っぽいな〜」

「「あぁ!?」」

 

((絶対分かってねーな/絶対分かってないですね))

 

車に乗り込む彼ら1年ズを見ながら、黎人と三輪は揃ってため息を吐いた。

 

 

 

 

 

『お前は俺だ。コハク』

 

3年前、母さんに自分が呪術師の仕事をしていることを伝えた日の夜。母と一緒に帰ろうとしたら、浴衣を着崩し右肩を露出させた、青緑色の髪を下ろした青年。鹿紫雲一に声をかけられた。

 

『•••どう言う意味だよ、()()()()

 

『俺はお前と同じ頃、お前と同じで命の価値が分からなくなった。周りの人間•••親、友人、恋人が脆い土塊に感じるようになった。だから黙って家を飛び出し、答えを知るために旅に出て、現代に黄泉返った。』

 

『命の価値を知った時にはかつての周りの人間は冷たい墓石になってた。お前は俺と同じ轍を踏むなよ』

 

『•••たりめぇだろ』

 

 

「・・・ん?」

 

空気に含まれる湿気によるベタ付きで目が醒める。隣に座っていた汀が自分の顔を覗き込んでいた。ちなみにコレオは助手席に座っていた。

 

「お、起きた」

 

「星野くん。あと5分くらいで着きますよ〜」

 

急速に意識が浮上し、目元を擦って重たい瞼を開く。コハクはじっとしていると気絶するように眠りにつく。電気の呪力に浸され続けたことによる影響ではないかと師匠である九十九は考察している。これだから遠出は苦手なんだ。

 

「今回の任務地は結構前まで使われてたドラマの撮影地なんですよ。ほらあの原作崩壊させまくったあの駄作の〜」

 

「あー、星野くんのお兄さんが出てたやつ」

 

コレオがコハクの地雷の名を指摘しイラッとさせる。

 

「ちっ•••あの金の無駄遣い作品か」

 

「あれは酷かったですよね。謎のオリジナルキャラにヘンテコなオリジナル展開、顔だけの大根役者・・・『ヒトリニサセネーヨ』とか特に酷かったですよ。学生の頃、家入くんが原作送ってくれたんですけど学年全員で泣きましたよ。なんであんなドラマにしたんですかね〜」

 

三輪がとほほと呟きながらハンドルを握る。その様子を横から見ていたコレオが口を開いた。

 

「多分だけど、俳優だけじゃなくて製作陣にも問題があったんじゃない?」

 

「あぁ•••そういうことですか」

 

「ん?どゆこと?」

 

話についていけていない汀に、コハクが説明する。

 

「・・・・多分、俳優を起用したディレクターまたは監督が面食いだったんだろ。見た感じ大体の俳優がモデルだし、顔を売り出すのに知名度の高い漫画のドラマはちょうど良かったんだろうな。それに大体の漫画の実写化は、原作とは違うオリジナルのストーリー展開になるしな。撮るほうも撮るほうだが、観る方も観る方だろ」

 

事実、合ってるのである。

 

「そうそう、フリルお姉ちゃんは『イケメンの無駄使いが見れる』って和気藹々としてた」

 

「へ〜不知火フリルさんって面白そうな人ですね」

 

「ふふん。私の自慢のお姉ちゃんで〜す!!あ、万が一にもフリルお姉ちゃんに手ェ出したり欲情したらアンタらの■■を■■■して■■に•••」

 

「「うっっっわっっ••••••」」

 

コハクと汀はリアルに引いた。

 

呪霊は今は使われていない廃倉庫の前にいる。

 

「では、帳を下ろしますね・・・・闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

コハクの目に、暗黒に染まっていく空が映った。

 

(ここは市街地に近いからな・・・・帳は必要不可欠ってことか)

 

「それじゃあ、ご武運を」

 

帳が降りきると、3人の目の前の建物から夥しい数の人の手首が現れる。

その血の気のない手首からはところどころから骨や肉が見えている。

 

そして、奥から外を覗く高位呪霊の群れがひしめき合っていた。

 

「•••言っとくが邪魔すんなよ」

コハクは青電の呪力を迸らせ、すぐにでも飛び出せるように前傾姿勢をとる。

 

「汀くん。このバカのお守りお願いね」

コレオは紙でできた人形(ひとかた)を取り出し呪力を込め、式神を呼び出す。

 

「はいはい、わかってますよ」

汀は自身にはやや大きい刀を引き抜き、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

一方外で待っている三輪は•••

「ピーマン食べたらスーパーマン〜」

車の中で昔の子供番組の歌を口ずさんでいた。

 

△▼

 

曇天の空、曇っていた空から雨が降り始めるのは時間の問題だった。

ドラマの出来の悪さに対する負の感情が呼び水となり、撮影地に大量の呪霊が集まっている。とはいえ、彼らの命を脅かすような事態にはならなかった。

 

「ほいっ、ほいっ、ほらよっと!!」

 

汀が大量の手首の群れを揶揄うように走り、跳び、逃げ続けていた。遊んでいるわけでも怯えているわけでわない。彼が持っている刀は特級呪具『焔孤』。握っている本人の鼓動の高鳴りが、この呪具を更に熱く、魂を斬る力を与える。逃げ回ることで体を動かし、汀の心拍数を高めて焔孤の真価を発揮させようとしていたのだ。

 

「これで〜•••死ね」

 

シン・陰流 右切上『夕立』

群れに向かって急加速し、通りすがりに汀から見て左下から右上に向かって一閃。

汀が片膝立ちのまま納刀すると、手首の群れはボロボロと崩壊していった。

 

「ふぅ•••••さて不知火さんは大丈夫かな?」

 

汀はちょこちょこと歩きながら、コレオの"祓い"を見物しに行った。コレオと相対しているのは巨大な球体、無数の手の集合体だった。コレオが指に挟んだ人形から黒い瘴気が溢れ出す。

 

「『玄武』」

現れたのは車ほどの巨大な亀。

甲羅に刻まれた星の紋章から周囲を取り囲むように結界が展開される。

 

(伏黒さんと先生の式神とは違って、呪符を使う系のスタンダードな式神使いかな。多分だけど、あの式神の能力はーーー)

 

ーーあらゆる障害を遮断し拒絶する結界の生成。

 

結界のドームに無数の張り手がビシッと張り付く•••だがコレオと玄武には届かない。

そしてポケットから新たな人形を取り出し呪力を込める。

 

「『騰蛇』」

全身を赤く猛々しく燃える羽毛に覆われた蛇のような蜥蜴。呪霊の手を焼き払い、球体の中央にある核を喰らい潰す。

 

(ヘ〜凄いじゃん•••でも)

 

呪霊の親玉である大入道を翻弄ーーいや蹂躙するコハクの姿が、他の術師を霞ませる。

 

『うぶぅーーーおぼぉぉぉぉぉ!!!!』

 

「はっ!!いいねぇ!!いいなぁ!!おいぃ!!!」

 

(うわっっっ返り血浴びて喜んでるよ。間違いないあれはバトルジャンキーだな••••つーか、()()()()()()()()()()()()()()?僕の目でも残像しか見えない。人間の域超えてない?)

 

コハクの怒涛のラッシュ。

彼の動きは常人には速すぎて、青い電撃の残光しか見えてない。その代わりに加速していく動きに合わせて、呪霊の体が大きく変動していく。

 

「これで終いだぁ!!!」

 

『うごっ!!!』

 

一秒間に6回のアッパー。

 

()()()()()()()()()()()()()()、大きく仰け反った大入道の顔面をコハクの拳が突き破る。

 

「ーーーーったまんねぇ•••」

散血が雨のようにコンクリートの床に降り注ぐ中、コハクは曇天を見上げながら笑う。

 

「うわっキッショ」

「あ?」

 

その様子を見ていたコレオの一言に、正気に戻ったコハクの琴線が弾ける。

 

「あらやる気?無理しないほうがいいんじゃない?」

「聞こえねぇな。遺言か?」

 

「•••やれやれ」

 

▽▲

 

2日後の夜。

 

『いやぁ〜凄かったねぇ。若者の成長力を侮っては駄目だねぇ•••』

 

とある山奥、打ち捨てられた宗教団体の総本山。

 

『特級術師含める高専勢力•••手を出したらすぐに祓われる•••』

 

 

 

 

 

『まぁ、人間を全滅できる切り札はあるけどねぇ』

 

『期待してるよぉ?()()()()()

 

 

遠くない未来、この国は強大な呪霊による騒動に巻き込まれることとなる。

 

 

そして今現在、星野コハクも窮地に立たされていた。

 

「ご清聴ありがとうございました〜いや〜歌うのって気持ちいいですぅ!!あ、コメントありが••••後ろ?何がーー」

 

「••••よぉ、しらぬーーいやMIZUちゃん」

 

ヤバい。何がどうなのかは分からないが、ヤバい。

 

「あー俺はノックしたぞ、一応」

 

「ーーーーーー殺す」

 

 

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